ある心の風景/梶井基次郎=破天荒作家のある心の風景、健康と母に感謝!

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

ある心の風景-梶井基次郎-イメージ

今回は『ある心の風景/梶井基次郎』です。

梶井基次郎さんの『ある心の風景』は
文字数8000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約21分。

風光明媚な京都の町。
美しい観光地でも地元の人には日常の風景。
退廃的な生活を送り、
肺病に苦しんだ破天荒作家の目に映る心の風景とは?
狐人的読書感想は、健康と母に感謝!

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

1.
深夜、自室の窓からたかしが見る、京都の町並みは荒廃していた。そんな風景に見入っているうちに、どこまでが自分の想念で、どこからが深夜の町か、わからなくなってくる。荒廃した町の景色、それが喬の心の風景だった。

2.
喬は寝付けずにいた。憂鬱な思いに苦しんでいた。女から悪い病気をうつされていた。喬はずっと以前に夢を見た。足に歯形がついて腫れていた。女のせいだと気付いたが、喬はそれを母のせいにして責めた。腫れは胸から腹にかけて広がり、母はそれを治療した。フロックコートを着たようになった。こうした鬱屈は女を買ったことが原因であり、喬は自己嫌悪に陥っていた。

3.
喬はその夜のことをたびたび思い出した。女を待つ退屈しのぎに、くるわの火の見に上がって見た京都の夜景は、喬の心を解放した。女の肌は熱かった。たしかに熱かった。しかし終わってみれば女の腕は女の腕でしかない。ただそれだけだった。

4.
ある日の午後、喬は丸太町の橋のたもとから加茂かわらへ下りて行った。護岸工事の小石、秋日の強い匂い、夏草の茂った中洲なかす彼方かなた、人と車、風にそよぐ高いこずえ……。「ること、それはもうなにかなのだ。自分の魂の一部分あるいは全部がそれに乗り移ることなのだ」喬は「街では自分は苦しい」と思った。

5.
喬は深夜まであてどなく街を彷徨うことがあった。人通りの絶えた四条通。新京極に折れると、昼間雑踏に埋もれていた人々が姿を現す。新京極を抜けると、あたりは静寂に包まれている。喬の腰の朝鮮鈴が、美しく枯れた音を鳴らして、喬の心をふるわせた。病気の治癒を予感させる、小さな希望が、深夜の空気を清らかにふるわせた。

6.
窓から見る風景はいつもの夜と変わらない。しかしある夜、喬は一つの燐光を見出す。

「私の病んでいる生き物。私は暗闇のなかにやがて消えてしまう。しかしお前は睡らないでひとりおきているように思える。そとの虫のように……青い燐光をもやしながら……」

狐人的読書感想

ある心の風景-梶井基次郎-狐人的読書感想-イメージ

さていかがでしたでしょうか。
荒んでるなぁ梶井基次郎さん……、といった感じですが。

喬(梶井基次郎さん)の心の風景――京都といえば、清水寺、伏見稲荷大社、金閣寺(有名処ばっかり……)、出町ふたば、茶寮都路里さりょうつじり中村藤吉なかむらとうきち(甘味処ばっかり……)、と、やはり雅な都のイメージですが、見る人の心の在り方によって見る風景が一変する、といった点には、誰でも共感できるところがありますよね。

ちなみに梶井基次郎さんは、その生涯のうちに20編ほどの短編小説を残されていますが、京都を舞台にした作品は『檸檬』と『ある心の風景』の2作品なのだそうです。

(『檸檬』の読書感想はこちら)

京都は日本を、いえ、いまや世界を代表する歴史都市なので、狐人的にも創作のモチーフとして興味を惹かれる街であります。

そんな京都の風景を、ここまで鬱屈なものに変えてしまう病というものに思いを馳せてしまいました。まあ、時代背景や、「住んでいる人にとっては観光地も日常の風景」的な心理、単純な場所による印象の違い、などもあるのかもしれませんが。

(「住んでいる人にとっては観光地も日常の風景」的な読書感想はこちら)

一生ものの病を患うというのは、健康な者からしてみれば、やはり計り知れない不安や恐怖、ストレスがあるのだと思います。作中の喬もそれがもとで、うつ病や統合失調症を併発しているような印象を受けました。

自分が健康であること、それは普通のことで、だから日ごろなかなかそのありがたみを感じる機会は少ないように思うのですが、『ある心の風景』を読んで改めてそれを実感しました。

人は(僕は)もっと、自分が健康であること、自分が健康であるよう気を遣ってくれる人たちに、感謝の念を持って生活し、健康であることに努めなければならないのかもしれません。

しかしながら、病あるいは病的なものがあったればこそ、生み出される作品というものがある、といったようなことも、同時に思わされた作品でした。

上のことを思わされる逸話として、梶井基次郎さんは三条大橋の上で胸を叩きながら、「肺病になりたい。肺病にならんと、ええ文学はでけへんぞ」と叫んだ、といったこともあったそうです。その後、本当に肺病(肋膜炎や肺尖カタル、肺結核)を患ってしまうのはなんだか皮肉なことのようにも思われますが。

ちなみに喬のかかった病気は、実際に梶井基次郎さんのかかった病気ではなかったそうで、とある友人(小説家浅見淵さんの弟の浅見篤さん)から聞いた話をモチーフにしているそうです。女から得て来た病気を、バラされてしまった浅見篤さんって……(笑?)。

病気と併せてもう一つ、この『ある心の風景』という作品に多大な影響を与えているもの、それは梶井基次郎さんの学生時代の放蕩ぶりです。作中、廓の件は実体験がもとになっていて、その他にも酒と借金、甘栗屋の釜に牛肉を投げ込んだり(もったいなし、なんで!?)、中華そば屋の屋台をひっくり返したりしたらしく、……まあ若気の至りとはいえ、現代の学生さんにはなかなか見られない乱暴っぷり(ニュースなどを見ていると、また違う意味で乱暴っぷりを発揮する学生さんは、現代でもいるようですが……)。

こういった破天荒とでもいうべき人格から優れた芸術作品が生み出される、といった話はよく聞くもののように思います。ロックミュージシャンなんかを彷彿とさせるように感じましたが、いかがでしょうか?

――とはいえ、これはさすがにやりすぎた、と反省した梶井基次郎さんは、京都での退廃的な生活、そのすべてを両親に打ち明け、泣いて詫びたといいます。その際、お父さんは同調して一緒に泣いてくれたそうですが、お母さんはドン引きだったのだとか。

そうしてお母さんを悲しませてしまった気持ち、救いを求める心情といったものが、『ある心の風景』では第2章の喬の夢に表れている、といってよいのではないでしょうか。

先日のとある読書感想で、母の子に対する愛というのは、恋愛など他の愛情に比しても特別で、至高のものなのかもしれない、といったようなことを思わされたばかりですが、ここに同じ感想を抱きました。

(「母の愛」を思う先日のとある読書感想はこちら)

夢の中で喬(梶井基次郎さん)が母親に癒しを求めたのには、どれだけ落ちぶれても、誰に見捨てられても、唯一母親だけは自分を見捨てないでいてくれる、といったような期待が込められているのでは……、そう考えてみると、お母さんに対する感謝の念が湧いてくるようにも思いますが、こちらもやはり健康同様、常日ごろから意識していない気持ちな気がします。

普段、当たり前にあるもののありがたみというものは、なかなか実感しにくいものに思い、『ある心の風景』は(少なくとも僕にとっては)それを喚起させてくれる小説でした。

もう一つ、この作品は著者の持つ鋭敏な感覚を感じられる小説でもあります。

これも有名な話らしいですが、梶井基次郎さんは感覚が鋭かったそうです。闇夜の中で一丁(約109m!?)離れた場所に咲く花の香りもわかったとか。別室の話し声、手紙が投函された音が良く聞こえ、さらに弟の下駄の音でその機嫌がわかったとか。汁物に入ったほんの僅かな砂糖の味も感じられたとか。いろいろな伝説があります。

第4章、第5章の描写には、とくにそうした感覚の鋭さを感じさせるものが多く、思わず(生意気ながら)唸らされてしまいます。これまで読んできた梶井基次郎さん作品に共通していえるのは、こうした非常に鋭い感覚的描写はとてもまねできないということを(不遜ながら)思わされてしまうということです。この感覚的描写の、ここまで顕著な才能は、他に類を見ない、という気がいまの僕にはしているのですが(読書量が少ないがための感想かもしれませんが)。

最後、第6章の「燐光」からは太宰治さんの『フォスフォレッスセンス』を連想しました。ただ単純に「フォスフォレッスセンス=燐光」という言葉の意味からだけくる連想ですが。

(「あ、自分も」と共感してくれる人いないかなあ、といった余談でした)

読書感想まとめ

ある心の風景-梶井基次郎-読書感想まとめ-イメージ

普段当たり前にあるものにはなかなか感謝していないもの。
健康と母の愛情に感謝!

梶井基次郎さんの破天荒ぶりにドン引き。
梶井基次郎さんの鋭い感覚的描写に脱帽。

フォスフォレッスセンス!

狐人的読書メモ

(「燐光=フォスフォレッスセンス」同様、じつはもう一つ、「心の風景」と聞いて思い浮かべた小説がある)

おすすめ。

・『ある心の風景/梶井基次郎』の概要

1926年(大正15年)8月1日『青空』にて初出。「視ること、それはもうなにかなのだ。自分の魂の一部分あるいは全部がそれに乗り移ることなのだ」というモノローグが有名な作品。

以上、『ある心の風景/梶井基次郎』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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