桜の森の満開の下/坂口安吾=時空の特異点でエア花見をお楽しみください。

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狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

桜の森の満開の下-坂口安吾-イメージ

今回は『桜の森の満開の下/坂口安吾』です。

坂口安吾さんの『桜の森の満開の下』は、
文字数17300字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約46分。

花見なんてないさ花見なんて嘘さ、
寝惚けた人が見間違えたのさ、
だけどちょっとだけどちょっと僕だってこわいな。

…………。

こんな桜に浮かれた狐人的あいさつはともかく、
凄い小説です。
本当に読んでほしい傑作。

桜の森の満開の下、そこは時空の特異点、
可愛いヒロインに振り回される主人公のお話?

桜の森の満開の下でエア花見をお楽しみください。

狐人的あらすじ

春になり、桜の花が咲けば、人々はその下に集って花見を楽しむ。しかしそんなものは江戸時代から始まった風習で、桜の森の花の下は恐ろしいばかりの場所だ。

昔、鈴鹿峠に一人の山賊が住みついていた。どんな非道も厭わなかったが、そんな山賊でも桜の森の花の下にだけは漠然としたおそれを感じていた。

ある日、山賊は八人目の女房を街道からさらってきた。が、どうもこれまでとは勝手が違うことに気づき、山賊は困惑していた。いつもなら、女の亭主は身ぐるみ剥いで、どこへなりと逃がしてやるのに、このときばかりはやりすぎて、その命を奪ってしまった。

女は美しすぎた。山賊が「今日からお前は俺の女房だ」と告げると女はただ頷いて、山賊を恐れる様子もなかった。それどころか、歩けないからオブっておくれ、走っておくれ、といちいち注文をつけてくる。山賊は女の美しさゆえに逆らわず、強がりながらも這う這うの体で、住み家までの険しい山道を急いだ。

ようやく住み家に帰り着くと、七人の女房が山賊を出迎えた。それを見た女は、一人一人指さしながら、山賊にそれら女房を斬れと指図する。山賊は言われたとおりに一人一人、女房たちを切り倒してしまう。

それからも女はわがまま放題に振舞った。用意された御馳走は喉を通らないと退け、都の華美な装飾品や着物、胡床こしょう肱掛ひじかけなどを求めた。そればかりか、やがて女は、都に連れて行っておくれ、と望むようになる。山賊は女を都に連れていくことを決める。

都で暮らすようになった女の楽しみは首遊びだった。それは、山賊に命じて持ってこさせる生首を使った、ごっこ遊びだった。

「ほれ、ホッペタを食べてやりなさい。ああおいしい。姫君の喉もたべてやりましょう。ハイ、目の玉もかじりましょう。すすってやりましょうね。ハイ、ペロペロ。アラ、おいしいね。もう、たまらないのよ、ねえ、ほら、ウンとかじりついてやれ」

そんな日々がしばらく続くも、山賊は都の暮らしに馴染めず、やがて山へ帰ることを決意する。それを聞いた女は、始めそれを翻意させようとするも、山賊の決意が固いことを悟ると、山賊と一緒に山へ帰ると言う。そして山賊と一緒にいたいのだと、初めてのやさしさを示す。女にはいずれ山賊を都に連れ戻す確信があった。

山賊は嬉しさのあまり夢心地になった。出会ったときと同じようにオンブをせがまれ山坂を行く山賊は、幸せな気持ちで満たされていた。懐かしい思い出話に花が咲いた。それゆえに桜の森の花盛りを、山賊はおそれなかった。

満開の花の下へくると、女は顔の大きな老婆に変わった。鬼と化した女は背中から山賊の首を絞めた。山賊は懸命に抵抗し、逆襲を果たす。しかし山賊が我に返ったとき、力なく倒れているのは鬼ではなく女だった。

山賊は泣いた。この山に住み着いてから初めて流す涙だった。山賊はもうそれをおそれる必要はなかった。山賊にはもう帰る場所がなかったからだ。女は桜の花びらとなり、それをかきわけようとする山賊の身体も、もはや消えていた。

桜の森の満開の下には、花びらと、冷たい虚空がはりつめているばかりだった。

狐人的読書感想

ニュースによれば今年(2017年)は桜の開花が例年よりも遅かったようです。

とはいえ。

今週は関東地方を中心に満開となるところも多いようで、この週末もお花見を楽しむ人々が、桜の森の満開の下に集まりそうな今日この頃、そんなタイムリーないまの季節、『桜の森の満開の下/坂口安吾』はいかがでしたでしょうか?

タイトルから梶井基次郎さんの『桜の樹の下には』を思い浮かべる方も結構多いかもしれませんが。こちらはホラーの傾向が強く、全体的に陰鬱な雰囲気が色濃く、お花見のテンション下がりそうなので、正直お花見の季節にはおすすめしづらいところがあるのですが、坂口安吾さんの『桜の森の満開の下』は、たしかに怖い物語ではあるのですが、さほど恐怖を感じさせることもなく、暗い気持ちになることもなく、幻想的な桜の景色が目の前に広がってくるような、桜の季節だからこそおすすめしたい小説です(この物語が説話形式であることがそれを可能にしているように思えます)。

(桜の季節におすすめしづらい読書感想をあえておすすめ)

凄いよかった!から前書きが続くよ、どこまでも……

桜の森の満開の下-坂口安吾-狐人的読書感想-イメージ

とかなんとか。
おすすめしたりしなかったりしてみましたが。

語りたいことはたくさんありますが(これからたくさん書きますが)、言いたいことは一言。

凄いよかった!

僕は文豪小説を読み始めてまだ日が浅く、なので新鮮な驚きとともに凄いと思える小説にもたびたび出合うのですが、ここまでの感銘を受けたのは以下の作品を読んで以来かもしれません。

(凄いよかった小説の読書感想はこちら)

調べてみると、文芸評論家の方なども評していることのようですが、「まさに天才にしか書けない傑作」と断ずるに些かの躊躇も持たぬ! ――といった感じ。

坂口安吾さんはまだ(まだまだ)これで6冊目ですが、ひょっとするとこれ以上の作品には出合えないかもしれないし、まさかこれ以上の作品が……、と思うと期待が膨らむわけなのですが、はたして。

ただこの作品、発表当初は全然評価されていなかったのだとか。雑誌『新潮』からは掲載を断られた(掲載を断られた!?)といった逸話には驚きを禁じ得ませんでした。

なんかこういう話を聞くたびに、ひょっとして世に出ぬ傑作の多いかもしれないことを思わされるわけなのですが。やはり何事も「運」の要素が最重要か、みたいな。

しかしながらこれは、当時GHQによる言論統制の検閲を恐れた結果だ、という見方もあって、それならば……、と、頷かされるお話でした。

可愛いヒロインに振り回される主人公のお話

[まとめ買い] 「涼宮ハルヒ」シリーズ(角川スニーカー文庫)

さて、本題に入るまでが長くなりすぎましたが、ここからが本題です。

『桜の森の満開の下』の物語を一言で言い表すならば「可愛いヒロインに振り回される主人公」のお話(?)、とでもなるのでしょうか? こう言うとラノベっぽくなってしまいますが。

こういってみると、いまでは結構ありふれた、オーソドックスなストーリーという気がしてきます。『涼宮ハルヒシリーズ』なんかを思い浮かべてしまいますがどうでしょう?

そういえば、去年(2016年)『猟奇的な彼女』の続編が公開されて、韓国ネット界では賛否両論の話題になったとか。なんとなく『猟奇的な彼女』というタイトルは、『桜の森の満開の下』の内容にピッタリだと思うのは、僕だけ?

ちなみに、この『猟奇的な彼女』は、韓国において、インターネットが普及する前のパソコン通信で連載されたネット小説だったらしく、現代日本のネット小説ブームの走りともいえる作品かもしれません。

話が横道に逸れてしまいましたが、『桜の森の満開の下』の時代設定は、作中に「白拍子しらびょうし」という歌舞の舞手を示す言葉が出てきたところから、平安末期から鎌倉時代にかけて、ということになりそうです。舞台となる鈴鹿峠は、現在の三重県と滋賀県の境に位置する峠です。

山賊と猟奇的な彼女の人格が掴み切れない件について

桜の森の満開の下-坂口安吾-狐人的読書感想-イメージ

著作者:tokyogeometry

主要登場人物は、山賊の男と美しすぎる女(猟奇的な彼女)、ということでよいでしょう。

この二人の人格に、おそろしいような違和感を覚えるのは、きっと僕だけではないと思います。ただ、この違和感の正体を、僕は一読では掴み切れませんでした。

とくに首遊びをする女は異常だし、山賊も人として大切な何かが欠落しているように思うのですが、幸せな気持ちになったり泣いたりしているので、希薄で酷薄ではあるかもしれませんが、感情がまったくないわけではないのですよねえ、……感情はあるのに人間らしさがないというか動物的というか。

現代の倫理観からしてみれば、山賊も女も異常ですが、山賊の非道さは生きるための手段であって、それを罪だとは認識していない嫌いがあります。女の残酷な行いも、まさに猟奇的ではありますが、子供が戯れに虫の足や羽をむしるような、どこか他愛のなさが感じられます。

なので、山賊、女ともに、人間的に未成熟な人物だと、僕は判断したわけなのですが、どうなのでしょうねえ……、ただの異常者と断じてよいのかもしれませんが。

痛みを知り人は成長する――とはいいますが、自分が痛いのは嫌だから他人にも痛いことはしない、みたいな論法は、誰にも理解しやすいもののように思うのですが、しかしそういった事件はなくならないわけで。

自己の正義を信奉し、あえて世界に痛みを……、みたいな主義主張は理解しがたいものの、わからなくもない気がします。痛みを理解した上で、個人の嗜好によって痛みを与えたり与えられたり……、というのも、「う~ん」ではありますがまあ頷くしかありません。しかし、相手の気持ちがわからないからどんなことでもできる、というのは、感情の欠落でなければ、人として未成熟ということにならないでしょうか?

とか言いながらも、山賊と女の在り方は人間の本質を示しているようにも思えてきて、……何が言いたいのか自分でもわからなくなってきましたが。つまりいまだに二人の人格を掴み切れていないわけです。

彼女の首遊びのモチーフかもしれないヘロディアの娘

桜の森の満開の下-坂口安吾-狐人的読書感想-イメージ

『ヨハネの首を持つサロメ』
カルロ・ドルチ

ともあれ、異常なキャラクター性であったり、猟奇的な行いであったり、グロテスクなものというのは、古今東西を問わず、人の心を惹きつけるものです(そういえば―?―アニメ『進撃の巨人 Season 2』始まりましたね!)。

かくいう僕も、恐ろしく思いつつも、女の首遊びのシーンには、どうしようもなく魅了されてしまいました。

上の絵はサロメを題材にした絵画の一つです。

サロメはヘロディアの娘とも呼ばれます。1世紀頃に実在した古代パレスチナの女性です。かのイエス・キリストさんに洗礼を与えたという洗礼者ヨハネさん、そのヨハネさんの首を所望した人物として有名なのだそうで、その異常性のためか、古くから多くの芸術作品のモチーフとなってきました。

日本では、大正時代の初期にサロメブームともいえるものがあったそうです。森鴎外さんや泉鏡花さん、谷崎潤一郎さんもこのサロメに影響を受けて、作品を残されています。年代的に直接このブームに触れることはなかったと考えられますが、作中女の首遊びの着想を、坂口安吾さんがサロメに得ていた可能性はあるのだとか。古今東西、グロテスクなものが人心を惹きつけてきた裏付けともとれるお話で、興味深く思いました。

「桜の森の満開の下」は「時空の特異点」である

桜の森の満開の下-坂口安吾-狐人的読書感想-イメージ

登場人物のキャラクター、首遊びのモチーフと、ずらずら綴ってきましたが、狐人的にもう一つ興味を覚えたのは、タイトルにもなっている「桜の森の満開の下」という場所そのものです。……場所というか、空間という言い方のほうがしっくりくるのですが。

ラストで、花びらと、冷たい虚空がはりつめているばかりとなった「桜の森の満開の下」は、儚く、美しく、幻想的で印象に残る風景です。虚空には仏教用語で「すべてのものの存在する場所としての空間」といった意味があり、まさに物語中の「桜の森の満開の下」という空間を表すのにぴったりの言葉です。

山賊はこの「桜の森の満開の下」という空間におそれと不安を感じていました。そして、来年になったらその原因を突き止めようと考えるうちに、十何年も経っています。ここだけとって見ると、山賊は仙人なのか、という気がしましたが、時間という概念がないのか、ということに気づかされました。

山賊のおそれる「桜の森の満開の下」とは時間の概念です。

山賊は、女にもこれに似た不安を覚えていますが、これも時間を感じさせる存在だったからだと考えられます。さらに、山賊が都の生活で嫌っていたものとして「鐘つき堂の鐘の音」があります。これはいうまでもなく時間を知らせるものです。

ラスト、「桜の森の満開の下」で、女は老婆に変わりました。「桜の森の満開の下」は「すべてのものの存在する場所としての空間」なので、そこには過去、現在、未来――すべての時間が併存していました。

山賊は「桜の森の満開の下」で女の未来の姿を見て時間の概念を知り、もう帰るところがない状態、すなわち時間の概念を知る前には戻れなくなります。

そして生物の未来に必ず訪れるもの……、女に続き、山賊自身の身体も消えて、あとに花びらと、冷たい虚空がはりつめて、ただ本を読む僕がそこにいるばかり。

余韻と孤独を感じさせる傑作です。

おすすめです。ぜひご一読あれ!

読書感想まとめ

凄いよかった!
とにかく読んでほしい!
本当に言いたいことはそれだけです。
(これだけ長々書いておきながら……)

狐人的読書メモ

森見登美彦さんの『【新釈】走れメロス 他四篇』のなかに『桜の森の満開の下』があるらしく、ぜひ読んでみたく思った。あと「青い文学シリーズ」というアニメがあったのをこの度初めて知り、ぜひ見てみたく思った。あとは『文学少女シリーズ』の短編集(4)。

桜の森の満開の下-坂口安吾-狐人的読書メモ-イメージ

ところで最近は家の中で楽しむ『エア花見』というものが流行っているらしい。このブログ記事もエア花見の一助に、……ならないかもしれないけれど、ひきこもりがちの僕は『桜の森の満開の下』でエア花見を楽しみたい。

・『桜の森の満開の下/坂口安吾』の概要

1947年(昭和22年)6月15日、雑誌『肉体』にて初出。凄い小説。おすすめ。おすすめ。おすすめ。

以上、『桜の森の満開の下/坂口安吾』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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