小説読書感想『桜の樹の下には 梶井基次郎』桜の美しさ、その影にあるもの

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コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。
(「『狐人』の由来」と「初めまして」のご挨拶はこちら⇒狐人日記 その1 「皆もすなるブログといふものを…」&「『狐人』の由来」

今回の小説読書感想は梶井基次郎さんの『桜の樹の下には』です。

「桜の樹の下には……」

このフレーズどこかで……、という方も多いかと思いますが、都市伝説として知られていますよね。テレビ東京の『やりすぎ都市伝説』という番組で、「Mr.都市伝説」関暁夫さんが取り上げたこともあるみたいです。

この都市伝説の元ネタには諸説あって、桜の花びらは元々白い色をしているもので、人の血を吸って鮮やかな桜色に染まる、とか、ちょっと怪談めいたものが有名でしょうか。梶井基次郎さんの『桜の樹の下には』も、そんな諸説のうちの有力な一つとなっています。

「そんなの知らない!」
「桜の樹の下にはいったい何が?」

という方は、ぜひ読んでみてください。

Kindle版で4ページ、文字数にして2000字ほど、5分で読める超短編――というか、答えは冒頭で分かってしまうので、実際数秒で事足りてしまうでしょう。

梶井基次郎さんの『桜の樹の下には』は、タイトルも秀逸ですが、冒頭の一文もまた心惹かれるすばらしさ。これまでにも何度か書いてきましたが、冒頭がすばらしい小説は、良い小説といえるのではないでしょうか(たとえばこちら⇒『小説読書感想『重力ピエロ』シビれる冒頭!春が二階から落ちてきた。』)。

『桜の樹の下には』というタイトルからの連想で、ふと思い浮かべたのは、坂口安吾さんの『桜の森の満開の下』です。とある山賊と、残酷で美しい女との、幻想的な怪奇小説。坂口安吾さんも、どこかしら梶井基次郎さんの「桜」に、影響を受けていたのかもしれませんね。

近年の小説では、太田紫織さんのミステリー小説『櫻子さんシリーズ』を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。骨を愛しすぎる標本士・櫻子さんの物語。こちらは、小説投稿サイト『エブリスタ』に掲載されたWEB小説から書籍化までされたものです(小説投稿サイト、WEB小説の雑学あります⇒【狐人雑学】)。アニメ化もしている人気作。僕は未読なのでぜひ読んでみたいと思います。

(小説から入ろうか、アニメから入ろうか……)

とか言ってないで、そろそろ本題に入ろうか。

ということで、最後までお付き合いいただけましたら、幸いです。

まずは梶井基次郎さんの『桜の樹の下には』という小説を要約してみます。

簡単に言ってしまうと、桜を見て不安になってしまうひねくれものが、その理由を想像して納得し、すっきりするお話(?)。

……要約し過ぎ? もう少し解説を加えてみますと。

『桜の樹の下には』は、語り手の「俺」が、聞き手の「お前」に語り聞かせる物語形式で話が進んでいきます。生命の息吹を感じさせる満開の桜というものは、人の心を楽しませるイメージが、一般的にはあるかと思いますが、逆に「俺」は桜を見ると、不安や憂鬱な気持ちになるのだといいます。「俺」が語るところによれば、桜の美しさには何か理由があるとのこと。そうして、「俺」は桜の樹の下に埋まっているものを想像します。「俺」は、それを想像することで不安や憂鬱が解消されて、ようやく心の均衡を取り戻すのです。

ひねくれものというか、陰気というか、神経質というか――、なんだか暗いやつだな「俺」、と思う一方で、じつはすんなりと「俺」の気持ちがわかってしまった僕は、ひょっとして……(言わずもがな)。

おそらくは、とある小説を読んでいることで、こうした生命現象に対して、人間が感じ得る美しさみたいなものに、デカダンスというか、一種懐疑的な見方が身についてしまったのだと自己分析するわけなのですが(僕がひねくれものであることの言い訳をしたいわけでは断じてない、と思いたい……)。

春、「桜の樹の下には」お花見する人々が溢れるわけです。なぜなら、満開の桜を眺めていると、人の心は楽しくなるから。生命現象――というと、かたい表現だったかもしれませんが、満開の桜に代表されるような、生命の息吹を感じられる景色というものは、やはり一般的には美しいと表現されてしかるべきものですよね。

しかし、僕の読んだその小説では、こうした命で溢れている地球が、本当に美しいといえるのだろうか、といったような疑問を呈していたのです。というか、地球は「醜い星」であると、ばっさり切り捨てていたのですが。

桜の美というものを、よく「怪しい美しさ」なんて評することがありますが、僕が読んだとある小説というのは、半村良さんの『妖星伝』です。僕の周りでは読んでいる人いないのですが、どうでしょうか。一方こちらは知っている人の多い、奈須きのこさんの『Fate/stay night(フェイト・ステイナイト)』や『空の境界』を見て、伝奇小説に興味を持ち、おもしろい伝奇小説を検索して、出会った小説なのですが。

とかなんとか、僕が『妖星伝』と出会った経緯はともあれ、この小説の中では、地球外生命体、いわゆる宇宙人が登場するのですが、その宇宙人曰く、地球は他の星とは違っていて「醜い星」だというのです。その理由は、地球には生命が溢れているから。多種多様な生物から構成されている地球の生態系は、いわば生命のインフレ現象が起こっている状態で、ゆえに互いに互いを喰らい合わなければ生きていけない食物連鎖が生じていて、これは宇宙規模で観測するならば異常な事態だというのです。

弱者が喰われ、強者が喰らう、弱肉強食の世界。

人間はいまだ地球以外に生命体を見つけることができずにいるわけですが、もっと広義に捉えてみて、石や鉱物なども生命とみなすならば、地球のように命が溢れ返っている星はとても珍しく、ゆえにこの溢れ返った命がお互いに喰らい合わなければ生きられない地球の在り様は、まさに地獄のそれなのだと、その宇宙人は語ります。

読んでいて妙に納得させられてしまいました。満開の桜に代表されるような、美しい景色を見ていて、そんなふうに考えたことがなかったので、はっと気づかされる思いがしました。

大文豪ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテさんの戯曲「ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン」のなかで、ゲッツが「光が強ければ影もまた濃い」という台詞を言っています。

『桜の樹の下には』の「俺」は、この『妖星伝』を読まずして、美しい桜の下に隠された影を見抜きました。

さっきは、ひねくれものとか、陰気とか、神経質とか、なんだか暗いやつだな、とか言ってしまってごめんなさい。

改めまして、『桜の樹の下には』の「俺」は、ある意味素直に物事を捉えることのできる、感性の鋭い人だと思いました(謝ってみたり、言い直してみたりしても、時すでに遅し?)。

ゲーテさんではありませんが、物事には「光と影」があります。そう、冨樫義博さんの漫画『ハンター×ハンター』のゴンとキルアのように! アニメサブタイトル的にいえば、「ヒカリ×ト×カゲ」ですね(むりくり過ぎ?)!

『桜の樹の下には』の「俺」は、普通の人がただただ美しいと感じる桜(光)、その美を成り立たせている桜の樹の下に埋まっているもの(影)の存在を感じ取って、不安や憂鬱といった気持ちになり、その正体を暴くことによって、心の平穏を取り戻したのです。

「俺」という一人称に反して、感じやすく繊細な人で、先程も述べたように、こうした感性を持ち合わせているのはとても凄いな、と素直に感心させられてしまいました。「素直に」感心させられた僕もまた、ひねくねものではないということになりませんか?(なりませんか……)

それから、梶井基次郎さんの『桜の樹の下には』は、非常に優れた文学的表現を駆使して、とても巧みに組み立てられていると感じました。

まず、「俺」の桜の美しさに対して抱いた不安の象徴として、薄い安全剃刀の刃を用いています。

次に、「俺」が、数日前に不安の元凶である桜を見たときの経緯を語る場面では、薄羽かげろうという虫が出てきます。

このとき見た薄羽かげろうが、「俺」の不安の象徴たる薄い安全剃刀の刃(薄刃)の連想を生み、さらに薄羽かげろうという虫は、アリジゴクの成長したものなのです。地面の下に獲物を引きずり込んで捕食するアリジゴクは、地面の下の養分を吸って成長する桜をイメージすることができます。

・薄羽かげろう=薄い安全剃刀の刃(桜の美しさへの不安)
・アリジゴク=桜=「桜の樹の下には」(桜の美しさの正体)

といった感じにそれぞれ連想でき、さすが文豪・梶井基次郎さん! この構成力は卓越していると、「素直に」(しつこし?)驚かされてしまいました。もしもまだ未読の方がいらっしゃったら、ぜひ読んでみて、この驚きを味わってみてほしいところです。

さらに。

じつは、梶井基次郎さんの『桜の樹の下には』には、「削除された最終断章」というものがあります。この事実にどうしようもなく惹かれてしまうのは、はたして僕だけでしょうか? かなり強引なのですが、三浦建太郎さんの漫画『ベルセルク』にも、単行本からは削除され、未収録となったお話があって、それを知ったときには、とても興味をそそられてしまいました。

ともあれ、その「削除された最終断章」とは、以下の引用のとおりです。

――それにしても、俺が毎晩家へ帰つてゆくとき、暗のなかへ思ひ浮んで来る、剃刀の刃が、空を翔ぶ蝮のやうに、俺の頚動脈へかみついてくるのは何時だらう。これは洒落ではないのだが、その刃には、
Ever Ready (さあ、何時なりと)
と書いてあるのさ。

うーん、なんだか意味深に感じてしまうのは、僕だけ?

この最終断章をなぜ削除したのか、その理由は明らかになっていないそうです。『ミロのヴィーナス』の欠けた両腕を思うように、欠けた部分を想像力で補うからこそ、その作品をより楽しむことができる、というのは、いつぞやのブログ記事(⇒小説読書感想『オツベルと象 宮沢賢治』のんのんびより…労働の闇…謎の■)でも書きましたが、梶井基次郎さんの『桜の樹の下には』にも当てはめることができるのではないでしょうか?

その理由は、最終断章をあえて削ることで、読む人の想像力をかきたて、より完成された作品として昇華するためなのでは、とか言ってみたりしなかったり。さすがの構成力! とか言ってみたりしなかったり。

(ここからはほぼほぼ余談となります)

しかしながら「桜」といえば、日本の象徴とされる花ですよね。「桜」の名前の由来はご存知でしょうか? 一説によれば、古事記や日本書記などで伝えられる日本神話、そこに登場する「木花開耶姫(このはなさくやびめ)」が語源ともいわれています。

サクラ……日本神話……、とくれば、岸本斉史さんの漫画『NARUTO -ナルト-』! と僕などは連想してしまうわけなのですが。まあ、『ナルト』に限らず、小説、漫画、映画――、いまやいろいろな作品で、桜は何らかのモチーフとして用いられていますよね。思い浮かべていくと切りがなさそうです。創作に欠かせない題材、といっても決して過言ではないでしょう。

また、桜といえば日本精神の象徴でもあります。武士道では、潔い様を「散り際」などといったりもします(参考までに、「武士道」についてはこちら⇒随筆読書感想『武士道の山 新渡戸稲造』必読のビジネス書・自己啓発本!)。

いまは2016年12月29日、今年も残りわずかとなってしまい、寒い季節に読んだからでしょうか、お花見の季節が待ち遠しいわけではありますが、これを読んだ人が、素直な気持ちでお花見を楽しめることを願わずにはいられません(……だったら――言わずもがな)。

今回のブログ記事の影(正体)。

件の『妖星伝』ですが、めちゃめちゃおもしろくて、めちゃくちゃおすすめなのですが、「永遠とわくれェなげェ…!!」(言い過ぎ――だけど祥伝社文庫むちゃくちゃ分厚い!)ので、おすすめしても、なかなか読んでもらえません。

知ってる人も僕の周りには全然いません。

全体的に荒唐無稽なお話なのですが、現代だからこそ感じ取れるリアリティがあって、ひょっとしたら、時代を先取りし過ぎているのではなかろうか――、すなわちフィンセント・ファン・ゴッホさんやウジェーヌ・アンリ・ポール・ゴーギャンさん、ハーマン・メルヴィルさん、日本で例えるならば宮沢賢治さんや樋口一葉さんのように、いまだ時代が追いついていないのでは(とはいえ、半村ブームというものがあったらしいので、これは言い過ぎ)と思わされるくらいにおもしろかったのですが――。

誰か読みませんか? 『妖星伝』

というわけで、<小説読書感想『桜の樹の下には 梶井基次郎』桜の美しさ、その影にあるもの>の「影(正体)」は、<おすすめ小説『妖星伝』「永遠とわくれェなげェ…!!」けど誰かよみませんか?>といった内容のブログ記事なのでした。

ちなみに、梶井基次郎さんは疑う余地のない文豪! というわけで、『文豪ストレイドッグス』にも『文豪とアルケミスト』にも登場しています(より詳しく? は⇒小説読書感想『檸檬 梶井基次郎』時計じかけの…爆弾じかけのレモン?)。興味のある方はぜひ読んでみてください(てか、僕も読まねば……)。

以上、『桜の樹の下には 梶井基次郎』の小説読書感想でした。

梶井基次郎さんの『桜の樹の下には』の影響を? 太田紫織さんのミステリー小説『櫻子さんシリーズ』第1巻

今回ブログ記事の「影」のテーマ! おすすめ小説・半村良さんの『妖星伝』

僕が伝奇小説に興味を持ったきっかけ、奈須きのこさん原作

・『Fate/stay night(フェイト・ステイナイト)』

・『空の境界』

今回のブログ記事にて取り上げた漫画

・冨樫義博さんの漫画『HUNTER×HUNTER』

・三浦建太郎さんの漫画『ベルセルク』

・岸本斉史さんの漫画『NARUTO -ナルト-』

疑う余地のない文豪! 梶井基次郎さんが登場する『文豪ストレイドッグス』

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

それでは今日はこの辺で。

(▼こちらもぜひぜひお願いします!▼)
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