牛人/中島敦=天が下す不気味な恐怖。牛人の行いは復讐か運命か。

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狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

牛人-中島敦-イメージ

今回は『牛人/中島敦』です。

中島敦 さんの『牛人』は文字数5200字ほどの短編小説です。かつて一夜をともにして忘れ果てていた女が生んだ牛人。彼の行いは「復讐」か「運命」か。狐人としては牛人に興味津々。ミノタウロス、牛頭丸と馬頭丸、スサノオノミコト? 牛人好き必読!

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

春秋時代の中国、。若かった頃の叔孫豹しゅくそんひょうは乱を避け、一時せいに亡命していたことがあった。その道中、一人の美しい女とねんごろとなり、一夜を共にして翌朝別れた。斉に落ち着いた叔孫は、別の女と結婚して二人の子をもうけ、この一夜のことを忘れ果てた。

ある夜のこと、叔孫は天井に圧し潰される夢を見た。それを助けてくれたのは、牛に似た一人の男だった。

数年後、再び魯で政変が起こり、叔孫は家族を斉に残して帰国した。そして大夫(貴族)となった叔孫は、斉に残した家族を呼び寄せようとするが、すでに妻は斉の大夫と通じていて、これに応じようとしなかった。二人の息子だけが父の下へ来た。

ある朝、忘れた女が息子を連れて叔孫を訪ねて来た。息子はあのときの叔孫の子だという。呼んでみて叔孫は驚いた。少年は夢中の牛男にそっくりだったのだ。思わず「牛!」と口に出した叔孫に、自分の名は「牛」だと答える少年――母子はすぐに引き取られ、少年はじゅ(小姓)の一人に加えられて、豎牛じゅぎゅうと呼ばれるようになった。

豎牛は小才の利く男で、叔孫に気に入られて家政の一切を取り仕切るようになった。目上の者には愛嬌のある笑顔を、仲間たちには怪奇な残忍さを感じさせる仏頂面を、無意識に使い分けることができた。叔孫は、豎牛を執事として無類の者と考えていたが、後継ぎにするつもりはなかった。

そのうち叔孫が病気になると、身の回りの世話などの一切が豎牛に任されるようになった。豎牛は、叔孫への取次ぎのすべてを仕切る立場になると、情報を操作して二人の息子が叔孫の不況を買うように仕向けて、ついには彼らを除くことに成功した。

叔孫もいよいよ豎牛を疑い始めるが、そのころには病気が重く、起き上がれなくなっていた。叔孫を見る豎牛の顔には、いつしか侮蔑と残忍さが浮かぶようになっていた。

豎牛は叔孫に食事をさせなくなった。叔孫は飢えと疲れの中でいつかと同じ夢を見た。天井が自分を圧し潰そうとしている。が、横に立つ牛男は、今度ばかりは助けてくれない。目を覚ますと、豎牛が冷酷な表情で叔孫を見下している。叔孫はおそれた。怒りは運命的な畏怖いふ感に圧倒されてしまった。

この三日後、叔孫豹は飢えのために亡くなった。

狐人的読書感想

狐人が『牛人』に共感する(※画はなんとなくイメージ)

ミノタウロスの皿 (小学館文庫―藤子・F・不二雄〈異色短編集〉)

さて、いかがでしたでしょうか。「牛人」と聞くと、「狐人」を(勝手に)名乗る僕としては、シンパシーを感じずにはいられないわけなのですが、これはきっと僕だけ(?)でしょう。

しかしながら、「牛人」から牛の頭を持った獣人を思い浮かべるのは、きっと僕だけではないのではないでしょうか?

仏教では、地獄にいる怪物で、名前もそのまま「牛頭ごず 」というのがいますよね。馬の頭を持つ「馬頭めず 」とセットで「牛頭馬頭ごずめず 」として語られることが多いですが(たしか『ぬらりひょんの孫』に「牛頭馬頭」をモチーフにしたキャラクター牛頭丸と馬頭丸がいましたね)。

一番有名なのはやはりギリシャ神話のミノタウロスでしょうか。これをモチーフにしたキャラクターは、ゲームなどを中心にごまんといますよね(……そういえば藤子・F・不二雄 さんの漫画『ミノタウロスの皿』も不気味さを感じさせる怖いお話でしたね)。

「牛人」は神とされているところもあって、中東のほうではモレクという神様がいます。「涙の国の君主」「母親の涙と子供達の血に塗れた魔王」とか呼ばれているのだと聞けば、なんだかワクワクしてしまうのは僕だけ? 日本では、スサノオノミコトが牛頭天王と呼ばれることもあるそうです。

永くなりましたが、今回はそんな『牛人』の読書感想を書いてみたいと思います。お付き合いいただけましたら幸いです。

中島敦 さんの『牛人』を読んで感じたのは、大きく二つのテーマがあるように思った、ということです。

それぞれ一言で表すならば、一つ目のテーマは「復讐」、二つ目のテーマは「運命」といった言葉に集約できるでしょうか。

以下、ひとつずつ見ていきたいと思います。

「復讐」のテーマについて(※画はなんとなくイメージ)

モンテ・クリスト伯爵 (ジェッツコミックス)

まずは「復讐」。

これは読み取りやすい部分でもあり、どこか釈然としない解釈だと感じる方もいらっしゃるかもしれません。

それは、豎牛の目的が想像しやすい点が読みやすく、しかしその動機がはっきりとは記述されていない点が釈然としない、といったことになるのではないでしょうか。

豎牛の目的が「叔孫家の乗っ取り」にあるのは明らかなように思えるのですが、その動機については最後まで直截的に語られていません。想像するに、亡命途中の叔孫が一夜をともにして、それきり忘れ果ててしまった豎牛の母の、あるいはともに忘れられていた豎牛自身の復讐だった――とするのは容易なように思います。

その一夜に、二人の男女の間にどのような睦言が交わされていたのか、これもまた想像してみるしかないのですが……、「いずれ迎えに来る。そのときには結婚しよう」みたいな、結構調子のいいことを言っていたのかもしれませんよねえ。

……であれば、別の女と結婚して、忘れられてしまった豎牛の母の怨みやいかほどのものか……、これは想像するに難くないような気がします。ひょっとして、叔孫の非道な行いについて、豎牛の母は豎牛に毎夜のごとく語り聞かせていたのかもしれません。

そうなれば、叔孫を見下す豎牛の冷酷な表情の意味も深まって、ただ単純に自分の出世欲のためだけに「叔孫家の乗っ取り」を企てた、とするよりも、物語としてもドラマチックなように思えるのですが、いかがでしょうか。

復讐の物語には、どこか人の心を惹きつけるものがありますよね。僕はかなり好きなジャンルです。

(復讐の物語の読書感想はこちら)

「運命」のテーマについて(※画はなんとなくイメージ)

[まとめ買い] キングダム

 

続いて「運命」ですが。

このことは、叔孫の見る夢に、如実に顕れているように思えるのですが、いかがでしょうか。

見えるはずはないのに、天井の上を真黒な天が盤石ばんじゃくの重さで押しつけているのが、はっきり判る。

上の引用のように、叔孫は下降してくる天井に、「天」の存在をはっきりと感じています。「天」は、「天命」ともいうように、そのもの「運命」を示す語です。ここから、叔孫が無意識のうちに、運命を恐れていたように読み取れます。

さらに前項で、豎牛の動機が明確に書かれていない、といったお話をしましたが、それはこの「運命」を強調する意図があったように思うのですが、どうでしょう?

つまり「復讐」というテーマから釈然としない部分は、この「運命」を表すためにあえて描かれていない、という読み方になります。

復讐劇を強調するならば、豎牛の動機をはっきりさせて、叔孫にそれをしっかりと悟らせたほうが、より映えるように思えるのですが、『牛人』ではそれがなされていません。

そして叔孫は最後まで、事の顛末の原因に思いを馳せることはなく、運命的な畏怖に圧倒されたまま亡くなってしまいます。

豎牛が「運命」を体現した存在ならば、前述のことから「運命」の不可知性と残酷さが示されている存在のように思い、ここからはやはり中国的な運命、すなわち「天」を感じることができるように思いました。

「復讐」も、因果応報と捉えるならば、それは一種の運命だということができるのかもしれませんが、上記のような中国的な「天」とは、ちょっと違ったもののように感じます。そういった意味では、どちらも同じ意味ではありますが、「運命」は「天命」としたほうが、より適切だったかもしれませんねえ……。

読書感想まとめ

ともあれ、『牛人』の根底にあるテーマが「運命(天)」で、これを「復讐」の物語として読むと、僕としてはより楽しむことができる、といったところが、今回の読書感想のまとめとなるでしょうか。そこはかとない不気味な怖さを感じられる小説です。

狐人的読書メモ

原典の『左伝』と比較してみるとより楽しめます。たとえば、『左伝』のほうには叔孫が生まれたときの占いの結果が挿入されています。これは叔孫の人生をそのまま言い当てていて、「運命」を強調するならば採用してしかるべき挿話のように思えるのですが、『牛人』では採用されていません。また、『左伝』では豎牛の「叔孫家の乗っ取り」が強調されているような記述がみられて、『牛人』でこれが省かれているのも興味深いです。『牛人』にしかない記述や叔孫の二回目の夢の話と照らしていろいろ考えてみると、また違った読み方ができそうです。

・『牛人/中島敦』の概要

1942年(昭和17年)『政界往来』にて発表。『盈虚』と併せて『古俗』と総題され出版された。執筆年代については不明。中国の歴史書『春秋左氏伝』をもとに執筆された短編小説。

以上、『牛人/中島敦』の読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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