双生児/江戸川乱歩=双生児、ドッペルゲンガー、二重人格。肉親憎悪と同族嫌悪について。

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

双生児-江戸川乱歩-イメージ

今回は『双生児/江戸川乱歩』です。

文字数12000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約36分。

自分本位で双子の兄を亡き者にしてしまった弟の告白。
許せない犯罪ではありますが、
その心情には共感できる部分があります。

双生児、ドッペルゲンガー、二重人格。
肉親憎悪と同族嫌悪について。

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

ある死刑囚が教誨師きょうかいしにうちあけた話(副題)。

ある男の命を奪い、その男の金庫から金を盗んだ罪によって、死刑が確定した死刑囚。彼は告白する。自分の犯した罪はそればかりではないことを。もっと大きな罪を彼は犯したのだ。

その罪とは、自身の双子の兄を亡き者にしたこと。そしてその兄に成り代わって生きてきたこと。

弟と兄はまったく同じ姿でこの世に生を受けた。髪の毛の数さえ同じように思えたほどだった。が、生まれた順番がちょっとばかり違ったために、兄は家督かとく相続人として莫大な財産を受け継いだのに対し、弟の取り分は僅かばかり。さらに兄の結婚した相手は弟の恋人だった。兄は、金の無心ばかりする放蕩者の弟に、いよいよ愛想を尽かし始めていた。

しかし弟の語るに、それは犯罪の主要因ではなかったという。

兄が家督を継いだのはめぐりあわせによるものだし、結婚は財産や地位に目のくらんだ恋人の親が強いたもので、兄は相手が弟の恋人であることをまったく知らない様子だった。浪費については言い訳のしようもなく自分が悪い。

あくまでも根本動機は、彼らがよく似た双子に生まれたことだ、と男は話す。

弟は計画を立てた。一ヶ月かけて兄を観察し、その行動、微妙な仕草まで真似できるようになった。それから朝鮮へ出稼ぎに行くふりをして、真夜中こっそりと兄の住まう屋敷に戻り、灌木かんぼくの繁みに身を潜め、毎朝庭園を散歩する兄の背後から忍び寄り……、そして埋め立て予定の井戸へ――。

こうして弟は誰にも知られることなく兄に成り代わることに成功した。妻さえも夫の変わったことに気づかなかった。

それから一年間は何事もなく幸福な日々が続いた。しかし男の浪費癖は直らず、放蕩三昧の日々。ついに財産も底を尽き、借金は増える一方……。

男はかねてより考えていた第二の罪の実行を決心する。

第二の罪とは、日記帳についていた、いまは亡き兄の指紋を利用しての完全犯罪だった。指紋は双子でも異なる。もしも犯行現場から、ゴム伴でつけた亡き兄の指紋が検出されれば――それはいま兄となっている弟の自分とは別のものだ。ゆえに検挙されることさえないだろう。

その計画は実行に移され、男は刑事の要求に従い、気持ちよく指紋を取らせた。がしかし、後日男は逮捕された。

計画は完璧だった。だが、男の作ったゴム伴の指紋は、じつは自身のものであった。日記帳から採取した兄の指紋と思っていたものは、自身の指紋の凹凸の間に残っていた墨の跡だったのだ。それは写真のネガのような反転像なので、違って見えて当然だった(双子ゆえに指紋が似ているという事実と思い込みも作用した)。

兄と入れ代わって以来、鏡、洗面や入浴の水面、はては食事の味噌汁にさえ兄のやつれた顔が浮かんで見える。この苦しみに比べれば死刑など少しも怖くはない。だけどその前に、兄に許しを得なければならない。不安を取り除きたい。男は最期の願いとして、裁判官や妻にこのことを伝えてほしいと、教誨師きょうかいしに頼んだ。

狐人的読書感想

双生児-江戸川乱歩-狐人的読書感想-イメージ

双生児、いいですね。創作的な神秘性を感じます。

先日、泉鏡花さんの『星あかり』を紹介したばかりだからでしょうか。これも一種のドッペルゲンガー小説という気がしました。

弟は、ほとんど自分の欲望のために(本人は、根本動機は「双子であること」だとしていますが、こう思われても仕方がないように思う)、双子の兄を亡き者にし、罪の意識からその幽霊に怯えています。

具体的な描写としては、鏡、ショー・ウィンドウ、洗面や入浴の折りに見る水面、食事のときの味噌汁など、そこに映るやつれ顔した亡き兄が、自分を嫌な目で睨んでくる――これは鏡に映る自身の姿に、兄の影、幽霊を見ているのだと捉えることができそうですが、いわゆるひとつの(精神衰弱による幻覚、妄想としての)現実的な(疑似的な)ドッペルゲンガー体験といえるのではないでしょうか?

双子、ドッペルゲンガー、二重人格は創作のモチーフとして非常に興味深いです。そう思っているのは僕だけではなくて、今回の江戸川乱歩さん、先日の泉鏡花さん、芥川龍之介さん、などなど国内外問わずいろいろな文豪、有名作家さんがこれを題材にして作品を書いています(文豪を引き合いに出す不遜な自分)。

『双生児』の作中にも、スティーヴンソンさんの『ジキル博士とハイド氏』の名前が出てくるので、あるいは江戸川乱歩さんもこれに触発されて、いわゆる「一人二役」ものの着想を得たのかもしれませんね。

『双生児』中の犯行は、すべて弟の身勝手から生じているものなので、同情の余地は皆無なのですが、とはいえたしかに弟の主張するような、運命的なものを感じさせられるところはあります。簡単に言ってしまえば、弟の気持ちもわからなくはない、ということです。

生まれる順番がちょっと早いか遅いかの差で、家督という地位や財産、自分が貰えたかもしれなかったものが貰えなかったりしたら悔しい思いをするだろうし、自分が手に入れるはずだったかもしれないものを手に入れた兄を、嫉妬したり憎んだりする気持ちは僕にもあるように思いました(とはいえ家督も財産も兄も僕にはありませんが)。

正直、そういうことを思うたび、「なんで自分はこんなことを思ってしまうのだろう」と自己嫌悪に陥ります。誰かを妬んだり羨んだりせず、自分と他人を比較せずに、自分は自分だけのことをなして人生を歩めればどんなにかすばらしいだろうと思ってしまいます。しかし現実はなかなかそうはうまくはいかず……、自己嫌悪に陥ります。

つい先日読んだ『非凡なる凡人』(国木田独歩さんの短編小説)であるかつら正作しょうさく君のような人間になりたいものですが、なかなかそうはなれません。

そんなこともふまえて、そもそも双子に生まれなければそんな犯罪を思いつかなかったのだ、という言い分も、だからわかるように思いました。

人が道を踏み外してしまうとき、そこには本人の資質以外の(あるいはそれさえも含めて)運命的な何かが関与しているのかもしれません。なんだか運命論的な論調になってしまいましたが(とはいえ弟の行いは許されるべきものではない)、考えさせられる部分でした。

もうひとつ、僕が興味深いと思った記述に「肉親憎悪の感情」というのがあります。これもまた、弟が大罪を犯した言い訳のひとつなのですが。

小言がうるさいとか、他人だったら見て見ぬふりする癖や仕草が我慢できないとか、何か過ちを犯したときにどうしてもそれが許容できないだとか、……。

親や夫婦、兄弟姉妹――家族だからこそ許せないという感情は、思春期を経た(あるいは真っ最中の)ひとならばおおむね共感できるものなのではないでしょうか?

ちなみに、いま韓国のネット掲示板に『親人名辞典』という書き込みがあって、ここに書き込むのが最大の親不孝だということで話題になっているのだとか。

(例)
○○○(親の実名)
・ブス、デブ
・夫の稼いできた金で整形
・食事はできあいのもので料理をしない
・息子の学費は渋るくせに通販でものを買う金はある

――といった感じらしいです。

これも「肉親憎悪」のひとつのあらわれであるのかもしれません。とくに多くの書き込みが「自分を生んだ親だからしょーがない」的な自虐ネタの意味を含んでいる点に興味を覚えました。

「自虐」という点がひとつポイントのように思いました。

「肉親憎悪」は「同族嫌悪」に近い感情のように感じます。

似ているからこそ、そこに自分自身も持っていて、さらに受け入れがたい、認めたくない部分(影)を見てしまうと、通常よりも激しく嫌悪してしまうみたいな。仲間内でキャラがかぶってしまうひととは心から仲良くできないみたいな?

うまくいえていないかもしれませんが。

要するに(要せるのか?)、自分が嫌いだから(意識的に、あるいは無意識的に)、自分に似た人を嫌ってしまうということです。双子の場合、これがとくに顕著に出てもおかしくはないように思いました(一卵性の場合はお互いに「究極に似た人」なわけですしね)。

……実際どうなんでしょうね?

双子といえばいつも仲良しで、見ていて微笑ましいような印象を持ってしまいがちですが。案外本人たちは、そんな世間一般が持つイメージに辟易していたりするのかもしれません。ふと、ちょっと興味を持った部分でした。仲のいい双子の友達がいればぜひ訊いてみたいところですが(そんな友達は……、いわずもがな)。

最後に、同じ遺伝子を持つ一卵性双生児の場合でも、指紋は違うというのは知りませんでした(というか考えたことがなかった)。生物の形質には先天的な「遺伝子型」と後天的な「表現型」と呼ばれるものがあるらしく、指紋は表現型の形質となり、子宮内での位置や栄養を受け取るスピード、羊水の状態など、微妙なさまざまの変化で違いが生じるのだそうです。勉強になりました。

読書感想まとめ

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双生児が好きです。
いろいろな意味で。
変な意味じゃないです。

狐人的読書メモ

ドッペルゲンガー、二重人格で何かひとつ書ける気がする(『Kの昇天/梶井基次郎』)。

・『双生児/江戸川乱歩』の概要

1924年(大正13年)10月『新青年』にて初出。推理・ミステリー小説(ノンシリーズ)。1999年実写映画化されている(塚本晋也監督作品『双生児 -GEMINI-』)。

以上、『双生児/江戸川乱歩』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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