六の宮の姫君/芥川龍之介=引きこもりネトゲ、両親他界しホームレス。

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

六の宮の姫君-芥川龍之介-イメージ

今回は『六の宮の姫君/芥川龍之介』です。

文字数6000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約20分。

就活も婚活もしない……、
家に引きこもってネトゲばかり……、
両親が他界しついにはホームレス……、孤独……。

批判する?
でも人間は誰だって弱い。
あるがまま生き、あるがまま逝く。

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

平安時代、六の宮の姫君は父母に愛され、とくに不満もなく暮らしていた。姫君が大人びた美しさを備え始めた頃、父、そして母と立て続けに亡くなってしまい、頼れるものは乳母しかなく、姫君は途方に暮れた。

家は裕福なわけではなかったので、暮らしはたちまち苦しくなっていった。父母が生きていた頃と同じように、琴を弾いたり歌を詠んだりしていた姫君もそのことは感じていた。

乳母の勧めで、姫君はある貴族の男と夜ごと会うようになる。姫君は体を売るようでイヤだったが、人の宿命を思い、幼くして亡くなる子がいることを思えばまだ幸せなのかもしれないと、自分自身を納得させる。

しかし、男は父の赴任にともなって地方へ行かなければならなくなる。五年後には必ず戻ると言い残し、男は都を去っていく。恋しくはなくとも、頼みにしている男との別れ、姫君は悲しかった。

五年が過ぎても男は帰ってこなかった。当然、姫君の暮らしは困窮していた。乳母は新しい男を迎えるよう勧めたが、姫君はそれを受け入れようとはしなかった。私はもう何もいらない、この世もあの世も同じこと。その頃、男は遠い場所で、新しい妻と酒を酌み交わしていた。

男は、九年目に都へ戻ってきた。すぐに姫君を探して歩き回ったが、なかなか消息がつかめなかった。雨宿りした朱雀門の前にある西の曲殿きょくでんで、男は尼に介抱される病人らしきみすぼらしい女を見た。姫君だった。

姫君は男を見ると気絶した。朦朧とする意識の中で、姫君は宙に火の燃える車や金色こんじき蓮華れんげを見たとうわごとを言う。そばにいた乞食法師が念仏を唱えるよう勧めるが、姫君は「もう何も見えない、暗い中に風ばかり」と言ってこの世を去る。

何日かのちの月夜、姫君に念仏を勧めた法師がそこにいた。一人の侍がやってきて、「近頃この辺りで女の泣き声がするようだが」と法師に声をかけた。すると女の嘆きが聞こえてくる。

「あれは極楽も地獄も知らない、ふがいない女の魂、念仏を唱えてやりなさい」。月光に照らし出された法師の顔を見て、侍は両手を地についた。法師は世に知られた高名な僧だった。

狐人的読書感想

この読書でやっぱり思わされるのは、六の宮の姫君の生き方ってどうなの? ――という感じですかね、なんだかアバウトな感想ですが。

なんというか、正常な感情の働きが感じられないような場面もあり、ただただ流されるまま受け身に生きて、結果として哀れっぽい最期を迎えたように描かれていますが、しかし僕は一概に姫君の生き方を批判したり否定したりはできないように感じています。

父母が亡くなったとき、姫君は「悲しいというよりも、途方に暮れずにはいられなかった」といいます。

先天的に感情の起伏に乏しいところがあったのか、それとも父母の育て方に愛情に欠ける部分があったのか――いずれにせよ「親が亡くなったのを悲しまないなんて、とんでもない娘だ」と非難される向きもあるかもしれませんが、しかし生物というのは基本的に自己本位なもので、亡くなった者を悲しむよりも、今後の身の振り方のほうが気になってしまうのは自然なことのように思います。

少しうがった見方かもしれませんが、父母が亡くなって悲しいというのは、その人のためを思って悲しむというよりは、やはりその人を失った自分のためを思って悲しんでいるのであって、それは非難されるようなことでもない、というような気がします。

まあ、そういったことを表に出さないのが真っ当な人間の在り方といえばいえるのでしょうし、それができないのは甘やかされて育ったからだといえばそうなのですが、ではそうなってくると、甘やかして育てた親の責任というものも生じてくるわけで、だったらやっぱり一概に姫君を責めることはできないように思えるんですよね。

姫君の流されるままに生きていく在り方も、じつはたいていの人に当てはまることなのではなかろうか、などと考えてしまいます。

少なくとも僕は身につまされるような思いがしました。

やりたいこと、夢――そういったものを見つけて、一生懸命にがんばっている人からすれば、姫の受け身な生き方は憤りを覚えることさえあるのかもしれませんが、そうやって本当に一生懸命に生きている人ってどのくらいいるのか疑問に思います。

なんとなく高校に行って、大学に行って、選択可能な選択肢の中から適当な職業を選んで、まあそれなりにがんばって就職して、仕事に趣味に日々を過ごしている。

そんな人のほうが世間には多い気がするのは僕だけ?

現代社会ではそれでも生きていくことができますが、平安時代はそうではなかったというのが一つ悲劇の要因だったかもしれません。

平安時代の女性、とくに中流下層貴族の女性たちにはお金を稼げるような仕事はなくて、少しでもいい男を頼みにして生きるしかなかったでしょう。

ならば、そのことを教えようとしなかった父母にやっぱり責任があるような気がするし、そんな時代に人間の弱さを顕著に抱えた姫君が生きねばならなかったのは同情の余地があるように思えます。

姫君の弱さは人間が誰でも持っている弱さで、もちろん姫君の場合には先天的にも後天的にもその弱さが顕著だったことは否めませんが、もしも自分が姫君と同じ時代に生まれ、同じ立場であったとしたら、生きるために一生懸命になれただろうか、と考えてみるに、自信をもって一生懸命になれたはずだ、とは言えないように思うのです。

流されるままに生きるというのは楽なんですよね、やっぱり。それでも生きられる現代という時代は昔に比べて当たり前にいい時代といえるのでしょう。

とはいえ、仕事でも趣味でも恋でも、人間が生きるにはどの時代でもやはり生きがいというものが必要で、それを見つけられなかった、あるいは見つけようとしなかった姫君は自業自得だと言われてしまっても仕方のないようには思いますが、自分と照らし合わせてみると、僕にはそうは言えないんですよね(たぶん、自信を持って「姫君は自業自得だ」と言える人は、いまとても一生懸命に生きている人なんだと思います)。

「私はもう何もいらない、この世もあの世も同じこと」といったあたりはなんとなく共感してしまうところでした。

ただ、ラストを見るに、著者である芥川龍之介さん自身は姫君の生き方を批判的に捉えていたのかなあ、などと感じます。

最後、法師の「あれは極楽も地獄も知らない、ふがいない女の魂」というセリフは、やはり痛烈なる批判という気がするんですよね。

あるいは世間一般の捉え方という意味なんですかねえ。

女の嘆き声にしても、生者の主観でしかありませんし、弱さを批判されても仕方のない姫君という気はしますが、しかし姫君自身はそのこと自体を嘆いてはいなかったような気がします。

何の努力もせずに何不自由のない暮らしができる他者のいることを思えば、自分の境遇を宿命と捉え、それを嘆いていたという気はしますが。

この世に未練を残してはいなかったのではないでしょうか?

姫君はとても弱い人間として生きて、とても弱い人間のまま亡くなって、それはただただそれだけのことのように感じられて、誰かが批判したり共感したりするような類のことではないのかもしれません。

――となると、ここまで長々書いてきたことも灰燼に帰すような思いがしますが、人はそれぞれに思い思いに生きて果てていくしかないというか、結局何が言いたいのかわからない感想になってしまいましたね……。

読書感想まとめ

六の宮の姫君の見せる弱さは、人間誰しもが持っている弱さだと感じました。それは人によって度合いの異なるものであるでしょうが、時代によってはとても生きにくい欠点となります。とはいえ、それを他人がその人のために批判したり共感したりするのは違っていて、結局は何事も自分のために行うのだと思います。人間はいまある自分でいまある自分を生きるしかない、ただそれだけのことが書かれているようにも感じられました。

狐人的読書メモ

僭越ながら、自分はがんばっていると感じるときがたまにはある。だけど、それは結果として現れてはこない。だったら、がんばっていないのと変わらない。がんばりが足りないのかもしれないが、がんばってるんだよと言いたくなるときがあって、だけど結果が出ていないのだからそんなことは言えない、生きるのがむなしくなることがある。

・『六の宮の姫君/芥川龍之介』の概要

1922年(大正11年)『表現』にて初出。『今昔物語集』を題材に書かれた最後の小説。すごくよかった。いろいろと考えさせられたが正しい考察ができたという気はしない。姫君の生き方を現代風に言うならば「就活もしない、婚活もしない、家に引きこもってネトゲばかりやっていたら、両親が他界しついにはホームレスとなり孤独……」といった感じ。他人事ではないように感じられる。

以上、『六の宮の姫君/芥川龍之介』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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