焦点を合せる/夢野久作=二転三転する怒涛のバイオレンス・スパイ小説!

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

焦点を合せる-夢野久作-イメージ

今回は『焦点フォーカスを合せる/夢野久作』です。

文字数22000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約50分。

怒涛のバイオレンス・スパイ小説! 前半、張り巡らされた伏線。後半、二転三転する怒涛の展開。荷物船の機関長と大学留学生青年の対決は、思いもよらぬかたちで決着することになる。

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

荷物船・海牛丸の機関長は、九州大学の留学生・李発リーファを自分の船室に招く。上海を出航する前、知り合いのワンから彼のことを頼まれたのだ。

李は学資を稼ぐために麻雀牌の密輸入を企てており、王の紹介で海牛丸に乗ったのだった。近頃麻雀賭博は日本内地でも流行りはじめ、本場上物の麻雀牌は高値で売れるのだという。

機関長は李に自分の船室を提供した。そして、麻雀の入ったトランクは室内に置いて鍵をしめておけば安心だといい、機関室の見物を勧めて自ら案内する。

そこで機関長は自分がどのようにして機関長になったのかを語る。

満点試験のこと。商船に乗っていた頃、ドイツ巡洋艦エムデンから逃げきった話。その際、神経衰弱にかかりピストルを振り回した海軍将校上がりの乗客を、機関室のボイラーにブチ込んだこと……。

やがて機関長の部下が機関室にやってきて、李のトランクの中身の麻雀牌に宝石が隠されていたことを報告する。

李は、白系ロシア人の頭領・ホルワット将軍から共産軍へ寝返ったサイ・メイ・ロンという人物であり、機関長は王からの報告でそのことを知っていたのだという。

サイ・メイ・ロンは現在、GPU(ゲー・ペー・ウー、ロシア・ソ連の秘密警察)の一員として、最近上海で国際スパイ兼、排日団体の首領として売り出し中の青紅チンオン嬢の部下に扮し、Rの四号と呼ばれるスパイとなっていた。

機関長は、自分が日本軍の参謀将校(スパイ)であることを李にほのめかした。

すると、李は女であることを明かし、じつは自分はRの四号であると同時に反日派首領の青紅その人であり、しかし実際にはGPUを裏切って日本に情報を売りつける意図を持っているのだと話す。

機関長はそれを聞いて安心し、本当の自分はコスモポリタン(日本の参謀本部の無電一本でどこへでも行く金儲けのエゴイスト)なのだと打ち明ける。

が、女がこれで助かったとほっとする暇もなく、機関長はじつは自分はGPUの海上本部の船長であると告げる。

女は慌てて真実を喋る。

女の真の正体は、GPUを裏切ったかたちで蒋介石しょうかいせきの密書を東京の大使館に届ける任務を帯びた、やはりGPUの女スパイだった。トランクの麻雀牌に隠されていた宝石はフェイクであり、密書は万年筆の鞘に塗り込んであった。

機関長はそれを聞いて高笑いする。

機関長の真の正体は、ただの密輸入品目的の海賊だったのだ。

蒋介石の密書なら、売る相手によっては大変な金になる。

機関長は最後に王は自分の変装だったことを明かし、手下に女をボイラーに放り込むように命じて、声をあげて笑うのだった。

狐人的読書感想

なんだかすごくややこしい話でした。要するに『狐と狸の化かし合い』――頭脳戦だったのだと思います。

序盤から中盤にかけていろいろな伏線が張られていたり、美青年・李の正体がじつは女性だったり、後半、機関長と女スパイの二転三転する変身合戦やバイオレンスな雰囲気など、楽しめる要素が満載です。

ただ、ソ連の秘密警察(GPU)とかって――戦時の情勢とかに詳しくないと、本当には楽しめない小説かもしれません(僕はそういうことはさっぱりなので、単純にスパイ小説的に楽しみました)。

あるいは『脱アイデンティティー』というものがテーマとして挙げられているという読み方があって、興味深く思いました。

機関長(海賊)も女スパイも、同じように本来の自分(アイデンティティー)を捨てているように見受けられるのですが、女スパイは結局は国のために働いているという確固たるアイデンティティーを持っていて、だから国家すら持たない海賊に勝てなかったのだ、というふうに読めるのだそうです。

なんだか『失うものがない人と守るべきものがある人、本当はどちらが強いの?』というテーゼをふと思いました。

実際、失うものがない人と守るべきものがある人のどちらが強いかって、時とか場合とかによって違うんでしょうね。

漫画なんかだと明らかに守るべきものがある人が強い印象を持ちますが、考え方は人それぞれなんだろうなぁって感じがします。

この作品は単純なようであって深おもしろいと思った、今回の狐人的読書感想でした。

読書感想まとめ

二転三転する怒涛のバイオレンス・スパイ小説!

狐人的読書メモ

・麻雀牌の輸入がなぜ密輸入になるのか、疑問に思って調べてみたが、象牙の使われている麻雀牌がワシントン条約でダメなのだと知って納得した。

・『焦点を合せる/夢野久作』の概要

1932年(昭和7年)4月、『文学時代』にて初出。『焦点を合せる(フォーカスをあわせる)』。独白体形式。バイオレンス、スパイ要素あり。

以上、『焦点を合せる/夢野久作』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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