一条の詭弁/横光利一=熟年離婚した方が幸せになれる!という詭弁。

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狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

一条の詭弁-横光利一-イメージ

今回は『一条の詭弁/横光利一』です。

文字数1000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約3分。

夫婦生活十年。夫は妻に飽き飽きしてて「飽きてるから飽きられない!」とかわけわからんこと言っちゃうくらい。だけど安易に熟年離婚して後悔するケースも。夫婦の大切さに気づくといいね?

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

(今回は全文です)

『一条の詭弁/横光利一』

その夫婦はもう十年も一緒に棲んで来た。良人は生活に窶れ果てた醜い細君の容子を眺める度に顔が曇つた。

「いやだいやだ。もう倦き倦きした。あーあ。」

欠伸ばかりが梅雨時のやうにいつも続いた。ヒステリカルな争ひが時々茶碗の悲鳴と一緒に起つた。

或る日、良人の欠伸はその頂点に達した。彼は涙が浮んで来た。

「下(くだ)らない。下(くだ)らない。下(くだ)らないツ! 何ぜこんな生活が続くのだツ!」

彼は癇癪まぎれに拳を振つて立ち上つた。と、急に演説をするやうに出鱈目なことを叫び出した。

「これほども古く、かくも飽き飽きする程長らく共に棲んだが故に、飽きたと云ふ功績に対してさへも、放れることが不可能だと云ふことは、」

ここまで来ると、

「おやツ!」と思つた。

何か素敵なことを饒舌つたやうな感じがした。何と自分が云つたのか? 彼はもう一度同じことを繰り返へして云つてみた。

「これ程も古く、かくも飽き飽きする程長らく共に棲んだが故に、飽きたと云ふ功績に対してさへも放れることが不可能だ。」

「成る程、」と彼は思つた。微笑が彼の唇から浮んで来た。

「うまい!」と彼は思つた。

すると、急にその閃めいた詭弁を自身でうまいツと思つた量に匹敵して、彼はその詭弁から詭弁としての実感を感じ出した。

それから、彼は出逢ふ人毎にその詭弁を得意になつて話し出した。恰もそれが人生の大いなる教訓であるかのやうに。勿論、人々は彼の詭弁に感歎した。

「うまい。」

「うまい。」

「うまい。」

彼は有頂天になり出した。益々その詭弁が猛烈に口をついた。さうして、彼は終にそれが一つの大きな嘘の詭弁だと実感されたときには、早やあれほども人々に吹聴し、あれほども感歎させ得た過去の自身の得意さの総量に対してさへも、今はその詭弁を詭弁として押し通して行くことが出来なかつた。そこで、初めて彼の詭弁は一条の真理となつて光り出した。つまり云ひ換へるならば、彼ら夫婦は二人とも永久に幸福であつたと云ふ結果に落ちていつた。

今は二人の頭には白い毛がしきりと競ひながら生えてゐる。老齢と云ふ醜い肌が、丁度人生の床の間で渋つてゐる二本の貴重な柱のやうに。

狐人的読書感想

『これ程も古く、かくも飽き飽きする程長らく共に棲んだが故に、飽きたと云ふ功績に対してさへも放れることが不可能だ。』

これがタイトルの「一条の詭弁」なわけなのですが、……う~ん、いまいち意味がわかりません。

夫婦が一緒に住んで十年、夫は妻に飽きてしまい、飽きているから飽きないということができないということ?

なんだか当たり前のことをもっともらしく言っているだけな気がしますが、しかしその着想は、たしかに哲学っぽい感じがして、それが「何か素敵なこと」であるのかもしれませんね(所詮は詭弁ですかね?)。

僕に一つだけ言えるのは、「こんな夫は妻から熟年離婚されちゃうんじゃなかろうか?」ということなのですが、どう思います?

長い間一緒にいれば、お互い不満なんかも溜まってくるのでしょうが、それはまさにお互いさまで、言い出したらおしまいだ、という気がしてしまいます。

それとも、そういうことを言い合えるのが、本当のいい夫婦なんですかねえ……、互いに言いたいことも言い合えず、我慢に我慢を重ねた結果が熟年離婚……、なんて結末は、それはそれでなんだかな、って感じがします。

昨今は「熟年離婚ブーム」なんて言われ始めて久しいですが、「いやな相手から離れられて、悠々自適な日々、離婚してほんとによかった」みたいな、成功談ばかりを聞くように思いますが、じつは熟年離婚して後悔しているケースも相当多いそうです。

その原因となるのが「貧困」で、「年金などの財産分与があるからなんとかなるでしょ!」ってな感じで安易に離婚してしまうと、「年金分割は婚姻期間分だけ」だから案外もらえる額が少なかったりして、とくに専業主婦だった方はいい仕事もなかなか見つからず……、再婚なんて夢のまた夢……、「こんなことなら我慢して夫と一緒にいればよかった」なんて話もあるのだとか。

だから、どんなに相手のことが「いやだ、いやだ」と思っていても、それをお互いに言い合えて、毎日のようにケンカして、だけど――

『今は二人の頭には白い毛がしきりと競ひながら生えてゐる。老齢と云ふ醜い肌が、丁度人生の床の間で渋つてゐる二本の貴重な柱のやうに。』

結局一緒にいることが一番幸せなんだって、気がついて添い遂げることができたなら、それがいい夫婦ってことなのかなあ、みたいな……

……え? そんなことはきれいごとの詭弁に過ぎない?

そんな今回の読書感想でした。

読書感想まとめ

熟年離婚について思いました。

狐人的読書メモ

・なので熟年離婚を考えている方に、クールダウンして冷静に見つめ直してもらうためにも、おすすめしたい作品。

・奥さん目線でも読んでみたい作品。あれだけ言われて我慢していたのなら、すばらしい奥さんだと思うよ、実際。

・安易な熟年離婚はよくないみたいな論調になってしまったけれども、熟年離婚してても無理ないと思ったよ、ほんとに。

・『一条の詭弁/横光利一』の概要

1925年(大正14年)『文藝時代』にて初出。これについて言及されているものがネット上にはほとんど見当たらなかった。ちなみに詭弁とは「一見正しそうに思えてじつは間違っている論理」のこと。詭弁という語の意味を知って読み直してみると、たしかに……、と思える凄い小説――なのかもしれない。

以上、『一条の詭弁/横光利一』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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