卵/夢野久作=魂の恋という夢想の末に生まれ来たるもの。

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

卵-夢野久作-イメージ

今回は『卵/夢野久作』です。

文字4000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約11分。

男の子と女の子が一目惚れする。恥ずかしい。すなおになれない。だから夢の中で会う。そしたら女の子が現実で卵を産む。その卵を託された男の子。さて、どうする。空想の恋が生むリアル。

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

春、三太郎君の隣の家に、露子さんが引っ越してくる。二人は、互いの家から毎日のように顔を合わせるが、露子さんは冷ややかな態度で、お互いよそよそしく視線を外してしまう。

が、二人は互いに恋をしていた。三太郎君が露子さんの顔を初めて見た晩、三太郎君の魂は体から抜け出し、庭の黒い土の上で露子さんと忍び合った。

魂の逢瀬とでもいうべきそれは毎晩続き、三太郎君は初めそれをただの夢だと思っていたが、現実の露子さんの冷たい緊張した表情を見て、それがただの幻想ではなく、二人が共有する体験なのだと確信する。

二人は毎晩魂の逢瀬を重ねる。

夏が過ぎると露子さんはまた引っ越してしまい、三太郎君の前から姿を消す。三太郎様へ、露子より。二人の魂の密会場所だった黒い土の上に、赤ちゃんの顔ぐらいの卵を残して。

逢瀬は魂のものだったが、卵は現実のものだった。

三太郎君は毎夜卵を抱いて眠るようになるが、やがて卵の色は不気味に変化していき、中からは苦しそうな唸り声が聞こえるようになる。

ある夜、卵の中から「オトウサンオトウサン……」ともがいている声が聞こえてきて、三太郎君はハッと目を覚ます。怖くなった三太郎君は、卵を元の黒い土の上に戻そうとする。

しかし、三太郎君は庭下駄をはこうとしたときにバランスを崩し、沓脱石のあたりに卵を落としてしまう。卵は割れ、酸っぱい小便のにおいがする。

三太郎君は急いで寝床に戻りワナワナふるえ、やがてウトウトするが、ハッと目を覚まして、後始末をしなければ――沓脱石のところへ行くと、小春日和の朝日の中、そこには何の痕跡も残ってはいない。

近所の犬か猫が舐めてしまったのだろうか……。

三太郎君はホッとして朝食前の散歩に出かける。隣の家にはまた新しい人が引っ越してくるらしい。

狐人的読書感想

ある男の子の隣の家に女の子が引っ越してきて、お互いの家から毎日のように顔を合わせているのに、二人ともそっけない態度をとってしまいます。

でも、お互い初めて顔を見たときから惹かれ合っていて、そして毎晩見る不思議な夢の中では、二人は魂の逢瀬を楽しみました。

現実ではなかなかすなおになれず、相手に声もかけられない――幼い、初々しい恋物語かと思いきや、後半、まったく別の展開が待っています。

女の子がまた引っ越しで去ってしまい、魂の逢瀬を楽しんでいた現実の庭には、土に書かれた自分宛のメッセージと共に卵が一つ残されています。

その夜から男の子は卵を抱いて寝るようになりますが、やがて卵は不気味に変化していき、中から得体の知れない何かが生まれようとしていて――

男の子は怖くなって卵を手放そうとしますが、慌てて運んで落としてしまい、卵は割れてしまいます。

中からは酸っぱい小便のにおいがして、布団の中でワナワナふるえていたら、割れた卵は翌朝には何の痕跡もなく消えてしまっていたという……結局、ホラー小説だったんですかね、これ。

なんとなく好きなお話でした。

不思議な物語で、読む人によっていくつも解釈できそうですが、おおまかに二つの読み方が考えらえる気がします。

・三太郎君の妄想説

この小説に書かれていることはすべて三太郎君の妄想。

露子さんは実際に存在していたとして、三太郎君が一方的に露子さんを恋い慕っていて、その思いが魂の逢瀬という幻想を生んだとしたら、ちょっとストーカーっぽい別の怖さがある気がしますね。

あるいは露子さん自体存在せず、すべては三太郎君の作り話なのだとしたら、三太郎君には小説家の才能がある気がします。

いずれにせよ、物語が語り手の妄想という手法は、他の夢野作品にも通じるところがあって、狐人的には説得力を感じます。

・露子さん怪異説

露子さんが人外の何か、妖怪や魔物的な何かだとも考えられるでしょうね。

魂の逢瀬の印象からは、妖精や妖魔のイメージが湧いてきますが、そうなるとこの物語には、ファンタジックな怪異譚としての怖さや不思議さがかんじられます。

『二人がこうして現実の恋を恋し得ないで、魂だけで忍び合って満足をしているのは、決して恋を恐れているのではない。現実の恋から必然的に生まれる「ある結果」を恐れ合っているからだ……という事までも、透きとおるほどハッキリと三太郎君に理解されて来たのでした。』

この引用部分は、どこか現代の恋にも通じるところがありますよね。

現実の恋で傷つくくらいなら、空想の恋で満足していたほうがいいのではなかろうか、なんて誰しも考えることなのではないでしょうか。

現実の恋から必然的に生まれる「ある結果」とは、恋をすることで傷ついたりすることをいうのかなって気がしますが、三太郎君と露子さんの愛の結晶と思しき卵の存在を鑑みるに、あるいは恋の結果生まれてくる子どものことを指しているのかもしれません。

子どもが生まれてくるというのは少なからず不安を伴うことであるでしょうし、子どものために犠牲にしなければならないものあるわけであって、一概に喜ばしいことばかりでないというのは、わかるような気がします。

そんなこんなを全部ひっくるめて、現実の恋は「酸っぱい小便のにおい」がするものだということなんですかねぇ……。卵を捨てようとする三太郎君の態度には、男のエゴイズムが垣間見えるような気もします。

単純な幻想、ホラー、恋愛ではない、リアルな何かを感じられるような、今回の狐人的読書感想でした。

読書感想まとめ

魂の恋という夢想の末に生まれ来たるもの。

狐人的読書メモ

・甘い恋愛。魂の逢瀬。そうした男の空想の果てに、現実の卵がある。空想の恋しかできない男は、現実の卵を捨てようとする。エゴとロマンと。甘い空想の恋しかできない男は、現実の恋をしてはいけないのかもしれないと思った。

・『卵/夢野久作』の概要

1929年(昭和4年)『猟奇』にて初出。幻想とリアルが絶妙なバランスで描かれているように感じた。かなり好きな作品。

以上、『卵/夢野久作』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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