コンにちは。狐人 七十四夏木です。
(「『狐人』の由来」と「初めまして」のご挨拶はこちら⇒狐人日記 その1 「皆もすなるブログといふものを…」&「『狐人』の由来」)
今回は小説読書感想『ルンペルシュティルツヒェン グリム童話』です。
『ルンペルシュティルツヒェン』はグリム童話です……てか、「ルンペルシュティルツヒェン」て言いにくいですね。
わざとじゃなく、噛みまみた(西尾維新さんの小説『物語シリーズ』の八九寺真宵ふう)してしまいそう。「きゃりーぱみゅぱみゅ」さんとどっちが噛みそうな名前ですかねえ……。
ちなみに、世界にはギネスブックの正反対の本があります。その名も『ザ・ベスト・オブ・ザ・ワースト(世界最悪記録事典)』というのですが、この本には、世界で最も「舌を噛みそうな名前」というものが載っていて、それは以下の通りとなっています。
「チャーゴガゴグマンチャウガウガゴグチャウバナガンガンガマウ」
これはアメリカ合衆国、マサチューセッツ州はウエブスターにある湖の名前なのだそうです。先住民の言葉で、「俺がこっち岸で釣っているときは、お前はそっちの岸にいろ」という意味なのだとか。間違いなく、噛みまみた、してしまいますね。
(……「噛みまみた」を言いたいだけ?)
と、思われたそこのあなた、いいえ「噛みまみた」を言いたいだけではありません(言いたい気持ちもありますが)。
では、長々といったい何が言いたかったのかと訊かれてしまえば、ところで『ルンペルシュティルツヒェン』ってなんなの? ということなのです。
『ルンペルシュティルツヒェン』は、この童話に登場する小人の名前を指しています。
『ルンペルシュティルツヒェン』が名前と聞いて、荻原規子 さんのファンタジー小説『西の善き魔女』に登場するルーンの本名を思い浮かべた方がいらっしゃったら、なんだかとても仲良くなれそうです。
そんな『西の善き魔女』にも影響を与えている『ルンペルシュティルツヒェン』ですが、グリム童話としては有名なお話なのでしょうか? そのもの「ルンペルシュティルツヒェン」でググってみましたが検索結果は16200件でした(2017年1月5日現在)。それほど多くはないようです。
しかし、Amazon売れ筋ランキングでは無料の電子書籍Amazon Kindle版がドイツの小説・文芸ジャンルで33位(2017年1月5日現在)でした。決して低い順位ではないようにも思えます。
『ルンペルシュティルツヒェン』はAmazon Kindle版で7ページ、文字数4000字ほどの短編です。未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
ちょっと調べてみたところ、『西の善き魔女』以外にもこの『ルンペルシュティルツヒェン』の影響を受けている作品があるようです。
アメリカで放送されたテレビドラマ『ワンス・アポン・ア・タイム』をご存知でしょうか? 『ワンス・アポン・ア・タイム』は、今回このブログ記事で取り上げた『ルンペルシュティルツヒェン』の他、『ヘンゼルとグレーテル』や『白雪姫』、あの『アナと雪の女王』などなど様々なおとぎ話を題材にしたファンタジードラマです。
日本でもNHK BSプレミアムで放送され、2017年春からシーズン5が始まる予定。楽しみにしている方もいらっしゃるかもしれませんね。
あとは『グリム・アベンジャーズ』という映画に敵役として「ルンペルシュティルツヒェン」をモチーフとした魔術師が出できています。これはざっくり言うとグリム童話の、白雪姫、シンデレラ、眠れる森の美女、ラプンツェル、赤ずきんが戦うヒロインとなって世界を救うお話のようです。本家アベンジャーズ便乗もの? といった感じ。
映画といえばじつはさらに、『ルンペルシュティルツヒェン』には実写映画化の話があります。
タイトルは『Steelskin』。製作はなんと20世紀フォックス! 『ロード・オブ・ザ・リング』や『猿の惑星』シリーズで有名な俳優のアンディ・サーキス さんがプロデュース兼監督兼主演を務めるそうで、アンディ・サーキス さんといえば、『スター・ウォーズシリーズ』の待望の新章、エピソード7、『スター・ウォーズ フォースの覚醒』にも出演していますし、2016年にディズニーが実写映画を公開した『ジャングル・ブック』の、ワーナー・ブラザース版の監督です。
ディズニー版が大ヒットした影響か、ワーナー版の公開は2018年10月と延期されてしまいましたが、はたして……。
しかしそうなってくると、『ルンペルシュティルツヒェン』の公開は2018年よりもっと先ということになるのでしょうか――旬の話題を先取りするつもりでしたが、フライングし過ぎたかもしれませんね……。
『アリス・イン・ワンダーランド』以降、ハリウッドでは童話をアレンジした童話実写化映画がブームになっていますよね。
去年(2016年)は『スノーホワイト/氷の王国』が公開されて、今年(2017年)は『美女と野獣』が公開予定です。あの『ハリー・ポッターシリーズ』でハーマイオニー役でおなじみのエマ・ワトソン さんがベルを演じるとのことで、ハリポタファンとしては期待してしまうところ。
『ルンペルシュティルツヒェン』もいい映画になればいいのですが……(だからその話をするには時期が早過ぎる)。
とかなんとか言っていたら前置きがめちゃくちゃ長くなってしまいました。ここまでついてきてくれている方がはたしていらっしゃるでしょうか(いてくれたら本当にありがとうございます。早く内容を知りたかった方ごめんなさい)。
それではいよいよ本題に入っていきたいと思います。引き続きお付き合いいただけましたら幸いです。
まずは簡単なあらすじです(注.ネタバレあります)。
ひょんなことから、粉屋の親父が王様と話をする機会を得るのですが、この粉屋の親父が見栄っ張りなのかなんなのか、「うちの娘は藁を紡いで金にできます」といった大嘘をついてしまいます。
それを聞いた王様は、娘を連れて帰り、藁の積んである部屋に閉じ込め、「翌朝までに金を紡がねば、お前の命はない」と脅します。一人になると、娘は途方に暮れて泣き出してしまいます。
そこに小人が現れて、「金を紡いでやるから代わりに何かくれ」と言うわけです。娘は一日目は首飾りを、二日目は指輪を小人に渡して、難を逃れることができたのですが……。
三日目、王様は「今晩金を紡ぐことができれば、お前を妃にしてやろう」と言い出します。しかし娘には、もう小人に渡すものが何もありませんでした。そこで小人が提案します。「ではお前が妃になって最初に生まれた子供を私におくれ」と。切羽詰まった娘はその条件を呑んで妃となりました。
やがて妃には美しい子供が生まれます。子供をもらいに小人がやってきますが、妃の懇願を受けて哀れを催し、新たな条件を提案します。それは、三日間のうちに小人の名前を言い当てることができれば子供は諦める、というものでした。
妃は国中から名前を集めますが、小人の名前を言い当てることができません。三日目となる最終日、ある使いの者が偶然から小人の名前を突き止めます。
小人の名前は「ルンペルシュティルツヒェン」。
名前を言い当てることのできた妃は子供を取り返し、名前を言い当てられてしまった小人は自分を引き裂いてしまうのでした。
さていかがでしたでしょうか。
グリム童話がじつは残酷な話だというのはいまや有名な話ですよね。
『ルンペルシュティルツヒェン』のラストもそんなグリム童話の名に恥じない(?)残酷なものとなってしまいました。娘を助けようとしたばかりに、こんな末路を辿る羽目になってしまったのか、とか考えると、小人がちょっとかわいそうに思えてしまったのは、僕だけでしょうか?
小人が娘の子供を要求したのは、やり過ぎだったという見方もできますが、命を貰うとは言っていませんでしたし、娘の命と引き換えなら、等価交換とも言えそうです。
――等価交換なんていうと、やはり『鋼の錬金術師』を思い浮かべてしまいますが……そういえば、主人公エドワード・エルリックの父親ヴァン・ホーエンハイムの名前の由来は実在した錬金術師の「テオフラストゥス・フィリップス・アウレオールス・ボンバストゥス・フォン・ホーエンハイム」でしたね。「噛みまみた」ネタ再び、といった感じ(わざとじゃないよ?)。
『ルンペルシュティルツヒェン』のモチーフは「悪魔(鬼)の名前当て」といわれるもので、日本では『大工と鬼六』、イギリスでは『トム・ティット・トット』など世界中に類型のお話が存在しています。
イギリスにあるダラム大学の人類学者ジャミー・テヘラニ さんと、リスボン新大学の民俗学者サラ・グラカ・ダシルバ さんが、合同研究チームを組み、主に生物学で使用されていた技術を駆使して、印欧語族の物語275編を調べてみたところ、『ルンペルシュティルツヒェン』は『美女と野獣』とともに約4000年前から、『ジャックと豆の木』については5000年以上の昔から存在していた可能性があるという分析結果が得られたのだそう(2016年1月21日に『Yahoo!ニュース』の国際面にもピックアップされました)。
『ギルガメシュ叙事詩』(『Fate/stay night フェイト・ステイナイト』のギルガメッシュでおなじみ?)などが世界最古の文学作品として知られていますが、物語の起源について考えさせられるニュースですね(口承による民話を含め、はたしてオリジナルの物語とは何なのでしょうか?)。
『ルンペルシュティルツヒェン』は、ドイツ語では『Rumpelstilzchen』といい、「妖怪ガタゴト柱」みたいな意味になるそうです。「Rumpelstilz」はゴブリンの一種族らしく、これは柱を鳴らしたり、板を叩くといった悪戯をするような存在と考えられており、ゆえに「ポルターガイスト現象」を「ルンペルシュティルツキン現象」といったりもするのだとか。
……本題に入っても、雑学が止まらない! ――わけなのですが、「小説読書感想」を謳っている以上は、そろそろ感想みたいなものも綴らないと(時すでに遅しですが……)。
童話には、大抵なんらかの寓意が含まれているものですが、今回の『ルンペルシュティルツヒェン』の場合はどんな寓意が含まれているのでしょうか?
人類学の見地からすると、名前には一種の呪力のような、不思議な力が込められており、他者に名前を知られてしまうと、その力は失われてしまうという考え方があります。
『ルンペルシュティルツヒェン』のラストは明らかにこのことが表現されている結末でしたね。
あらすじにて、ある使いの者が偶然から小人の名前を突き止めたのだ、と書きましたが、この偶然というのは、使いの者が森の外れを通りかかったところ、もうほとんど子供を手に入れたも同然と考えたからなのか、小人が浮かれて小躍りしながら自分の名前を歌っているのを聞いただけです。
粉屋の親父の嘘も、娘が小人にした約束も、単純に口を滑らせたのだと解釈すれば、『ルンペルシュティルツヒェン』に含まれる教訓は、「口は災いの元」とでもなるのでしょうか。
確かに、会話の中で自分がした発言を、後から振り返ってみて後悔するといったようなことがよくあります。話すのが楽しくなって、テンションが上がると、ついつい言わなくていいようなことを言ってしまう、といった経験はないでしょうか? おしゃべりはなんとも楽しいものですが、できるだけ平常心を心がけたいと常々思っているのです――そんな僕からすると、そんな心がけを改めて見直すことができたということで、得るものの大きかった作品だといえます。
では今回の『ルンペルシュティルツヒェン』に含まれる(のではないかと思われる)裏の教訓にいってみましょう。
この作品、正直何が言いたいのかよくわからない、といった人も多いのではないかと思います。妃となった娘や金を手に入れた王様は、特に努力をしたり、善行を積んだりせずに、幸福を得た形となるわけで、納得のいく筋ではないですよね。それに引きかえ、娘を助けた小人一人が不幸になっています。理不尽と言わざるを得ません。
しかしながら、『ルンペルシュティルツヒェン』の登場人物を、全員ろくでないしだと考えると、どうでしょうか。
始めに「娘は藁から金を紡げる」という訳のわからない嘘をついた粉屋の親父、「金を紡がなければ命はない」と脅した王様、自分の命惜しさにまだ見ぬ子供を差し出した娘、娘を助ける代わりに子供を要求する小人――、誰もが何らかの罪を犯しているにもかかわらず、裁かれたのは小人だけ。
そう考えてみると、必ずしも正当に悪が裁かれない、勧善懲悪とはいかない現実世界のことを、教え諭しているようにも受け取れないでしょうか。
ろくでなしばかりの世の中だけど、罰せられるのはごく一部のみで、他は繁栄しているよ、みたいな……ちょっとひねくれたものの見方でしたでしょうか? (ろくでなし代表としてごめんなさい)
グリム童話で有名なグリム兄弟は、兄ヤーコプ・ルートヴィヒ・カール・グリム さん、弟ヴィルヘルム・カール・グリム さんと言いますが、『文豪ストレイドッグス』や『文豪とアルケミスト』には未登場でした(ちなみにグリム兄弟は3兄弟で、末弟にルートヴィッヒ・エミール・グリム さんがいます)。
調べてみたところ、『文豪ストレイドッグス』には『グレート・ギャツビー』の著者フランシス・スコット・キー・フィッツジェラルド さんや『赤毛のアン』を書いたルーシー・モード・モンゴメリ さんなど、海外の文豪も登場しているので、ひょっとしたらグリム兄弟も期待できる?
とかなんとか言ってみたりしつつ、以上、『ルンペルシュティルツヒェン グリム童話』の小説読書感想でした。
※
グリム童話もいいけど日本の童話もいい! ということで『北の賢治、南の南吉』の童話を紹介したブログ記事はこちら!
(今後も続々追加予定)
・小説読書感想『オツベルと象 宮沢賢治』のんのんびより…労働の闇…謎の■
・小説読書感想『あし 新美南吉』ブログで読もう!馬の感性に「しびれる」
・小説読書感想『飴だま 新美南吉』物語作りの構成力が学べる、心温まる童話
※
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
それでは今日はこの辺で。
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