比叡/横光利一=甘えたい、甘えてほしい、甘えてはいけない。

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狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

比叡-横光利一-イメージ

今回は『比叡/横光利一』です。

文字数10000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約30分。

父の十三回忌、定雄一家は京都へ。

親に甘えたい親も甘えてほしい、
親に甘えてはいけない親も甘やかすばかりではいけない。

最澄と空海の仏教の違い。

心地よい疲労感の中でひとは悟りを開く。

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

定雄一家は父の十三回忌のため京都へ行くことになった。定雄はこの機会に、妻の千枝子と今年小学校に上がる長男の清に、自分が幼年期を過ごした土地を見せておこうと思った。

法事がすんで次の日は子供を姉に預けて、定雄は夫婦水入らずで大阪と奈良、それに見残した京都の名所を回った。そして比叡登りの日には、長男の清も連れて行った。

ケーブルカーで山に登り、頂上までは徒歩で目指した。途中道を間違えたりしたが、まだ雪をかぶっている山々の峰は美しかった。定雄は途中駕籠を使うか否かで千枝子と意見が食い違った。結局千枝子の意見に従って歩いて行くことになった。

定雄は、伝教大師でんぎょうだいし(天台宗、最澄さいちょう)が比叡山に延暦寺を建てて、弘法大師こうぼうだいし(真言宗、空海くうかい)の高野山金剛峯寺に対立したのは、伝教の負けであるとふと思った。これでは京に近すぎる。

駕籠かきはいなくなったが、清の足つきをみていた婆さんがまだついてきていた。子供を安くおぶりましょう、という婆さんに、千枝子は足腰の強い子ですからと言って断る。長くひとりっ子だった清は、こんなときにはたいてい母親の味方をするに決まっている。

定雄は伝教の孤独を思った。衆生しゅじょう済度の念願も、このあたりのさびしさの中では、一般人の雑念と大して変わらなかったのではなかろうか。しかし比叡山から見る琵琶湖の景色は雄大だった。そして今度は、伝教の満足が急にわかったような気がした。自分の満足は、ただ何も考えない放心の境に入ることだが、それを容易にできない自分を感じた。

道中、定雄はうぐいすの声を真似まねる竹笛を買ってひとつを自分、ふたつを清に持たせた。ホーホケキョ、ホーホケキョ。父子は竹笛を鳴きかわせて遊んだ。「まるで子供を二人つれて来たみたいだわ」

下りのケーブルカーが出るまで少し時間があったので、定雄は展望場のベンチに休んだ。心地よい疲労感の中で、定雄の心ははじめて空虚になった。

下りのケーブルカーの中で、清は窓にしがみついたまま、まだ笛を吹き続けていた。

狐人的読書感想

比叡-横光利一-狐人的読書感想-イメージ

芥川龍之介さんの『点鬼簿』、泉鏡花さんの『夫人利生記』、そして今回横光利一さんの『比叡』ということで、最近「お墓参りもの」が続いています(だからそんなジャンルはあるのだろうか?)。

以前『琵琶湖』の読書感想で、横光利一さんは小学校時代を滋賀県の琵琶湖近くで過ごしていて、これをひとつの原風景として心の中にしまっていたようです。

本作の主人公である定雄と、やはり通じている部分があります(定雄は横光利一さんの分身といっても過言ではないでしょう、きっと)。それだけに、情景描写がとてもリアルに感じられました。

「誰も見たことのない風景を見せるのが作家のひとつの才能である」とはいいますが、見たものを文章でリアルに描写するということも、ひとつ作家の才能であるように思いました(さすが小説の神様、ですね)。

定雄は父の十三回忌のために、一家そろって京都へ行くことになるわけですが、法事、お墓参り、それからお葬式というものについては、ちょっと思うところがあるのですよねえ(前にも書いている気がしますが)。

とくにお葬式は、遺族の方が悲しんでいる壁ひとつ隔てて、お寿司やビールを食べたり飲んだりしながら歓談している……、このギャップにどうしても違和感を感じてしまうのです。

亡くなられた方や遺族の方からしてみれば、お別れにきてくれたことがありがたく、できればいい気分でお見送りして帰ってほしい、という気持ちがあるのかもしれませんが、遺族の方の悲しみが伝染してしまうからなのでしょうか、どうにもこのギャップが受け入れられないような気がしてしまいます。

十三回忌ともなれば、遺族の悲しみもずいぶんと癒えている頃だといえるでしょうが、定雄が寒さのあまり、『長い経の早くちぢまることばかりを願ってやまなかった』というところが印象に残りました。

とはいえ「なんと不謹慎な!」とか非難的な意味で印象に残ったわけではありません。以下に引用する一文に感銘を受けたからです。

しかし、もしこれが父の回忌ではなくって他人のだったら、こんな願いも起さずにいるだろうと思うと、いつまでも甘えかかることの出来るのは、やはり父だと、生前の父の姿があらためて頭に描き出されて来るのだった。

お父さんのことが好きだったんだろうなあ――と定雄の気持ちが伝わってきました。

いい大人が甘えている、とか言われてしまうとそうかもしれませんが、人間いくつになってもやはり親には甘えたいものなのではないでしょうか? 親だって、子供にはいつまでも甘えられるような存在でありたいと、思ってくれているのではないでしょうか?

――とか考えてしまう僕は甘えすぎ?

親に甘えてばかりじゃやっぱりダメだし、親も甘やかせてばかりじゃやっぱりダメなんだよなあ、といったようなことを思わされた部分でした。

それから、比叡山の山登りの最中に定雄が思いを馳せた、伝教大師でんぎょうだいし(天台宗、最澄さいちょう)と弘法大師こうぼうだいし(真言宗、空海くうかい)の仏教の違い、みたいなところはちょっとわからなかったので、調べてみました。

定雄が語るに、最澄さんは「小乗的」で空海さんは「大乗的」だというのですが、仏教には「小乗仏教」と「大乗仏教」という分類があるそうです(ちなみに「小乗仏教」は「大乗仏教」サイドが用いる差別的な意味が含まれる語のようで、本来は「上座部仏教」というそうです)。

簡単に言ってしますと、「小乗仏教」は修行をすることで修行者が悟りを開く仏教で、「大乗仏教」は修行者が仏教の教えを広く伝えることでそれを信じるひとたちも悟りの境地に達せられるという仏教です。

悟りを開くことを極楽浄土へ行くための手段として捉えるならば、「厳しい修行をしなくても極楽へ行ける」、修行をせずに楽して極楽へ行ける、とか言い換えてしまうと少し語弊があるかもしれませんが、人間は楽をしたがる生き物――大乗仏教のほうが一般ウケするだろうなあ、ということがわかります。

比叡山に延暦寺を建ててそこにこもって修行に励んだ最澄さんよりも、高野山に金剛峯寺を建ててもひとびとに教えを広めるためあちらこちらと歩き回った空海さんのほうが偉大だった、みたいなことを定雄はいっているわけですね。

空海さんは土木工事や学校設立などにも尽力したらしく、そのあたりもひとびとに受け入れられた大きな要因だったそうです。やっぱり楽ができて、現世的な利益があるからこそひとがついてくるのか、とか捉えてしまうと、精神性を重んじるイメージのある宗教にとってはなんとも皮肉なお話のようにも思いましたが、人間まずは生きていて、ゆとりがあってこその精神修養なのだと思えば、これが現実、当然の帰結だという気がしました。

駕籠に乗るか否かで夫婦の意見が分かれてしまい、山登りの疲労もあって、ちょっと一家の空気が悪くなっているように感じられるシーンがありました。疲れた子供を安くおぶりましょうと言って近づいてきたお婆さんに、お母さんが断るならばと「僕、歩く」と言った清の姿、長くひとりっ子だった清はいつも母親の味方をするに決まっているという部分――なんとなく、どこの家庭にも見られるシーンのような気がして、印象に残りました。子供のけなげさには感動させられることが多いです。

ホーホケキョ、ホーホケキョ。父子がうぐいすの竹笛を鳴きかわせて、母は「まるで子供を二人つれて来たみたいだわ」とこぼします。その前に家族の空気が悪くなっていただけに、ほっこりさせられたシーンでした。

清にとってはこのことが、きっと父母とのいい思い出となって、大人になっても心に残るような、原風景になるのではないかなあ、と思いました。

下りのケーブルカーを待つ時間、心地よい疲労感の中で、定雄の心ははじめて空虚になります。

人間何もしないでいるといやなことや余計なことばかりを考えてしまうもの、運動したり何かに一生懸命に取り組んで、そのあとに訪れる心地よい疲労感こそが、ひとつの悟りなのかもしれませんね。

読書感想まとめ

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比叡山、琵琶湖のリアルな風景と、のちに子供の原風景となるであろう、一家族のほのぼのとした情景が楽しめる小説です。

狐人的読書メモ

ホーホケキョ、ホーホケキョ。……比叡と聞いて飛影を思い浮かべるのはきっと僕だけではない(はず)。

・『比叡/横光利一』の概要

1935年(昭和10年)『文藝春秋』にて初出。お墓参りもの? 親には甘えたいし親も甘えてほしいし、だけど親に甘えてはいけないし親も甘やかすばかりではきっといけない。最澄と空海の仏教の違い。心地よい疲労感の中でこそひとは悟りを開くということ。

以上、『比叡/横光利一』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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