狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『女神/太宰治』です。
太宰治さんの『女神』は文字数7000字ほど。
狐人的読書時間は約16分。
我々は女神の子。我々は兄弟。さあキスしよう。
久しぶりに再会した友達がおかしい。
魔霊を使役し悪と戦う天責者。
髭を生やした男ばかりお札の肖像になる理由。
進化した人類社会とは。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
戦後まもなく、久しぶりに「私」を訪ねてきた細田氏が言う。
「あなたと私とは兄弟なのです」
教養があり、おしゃれだった細田氏の様子は、満州に疎開する前と随分変わっていた。ほとんど別人のようであった。
細田氏曰く。
細田氏と、「私」と、ある政界の大人物とは同じ母から生まれてきた子である。母とは細田氏の妻のこと。細田氏の妻はじつは女神で、太古の昔から日本の変遷を見守ってきた。女神は戦後日本の混乱ぶりを見るに耐えかね、これまでの沈黙を破り、三兄弟力を合わせて日本を救え、と細田氏に言った。百年前から男性衰微の時代に入り、他の男はダメだという。これからは女性の時代がやってくる。まずはインフレを止めねばならない。それには紙幣の肖像がよくない。紙幣の肖像は女性でなければならない。髭だらけのお爺さんなどもってのほかだ。これを是正するため、いまから長兄に会いにいきましょう。
「私」は、満州での苦労が細田氏を変えてしまったことを悟り、とにかく奥さんのところへ、細田氏を送り届けるのが最善だと考え、「最初に私をお母さんのところへ連れて行ってください」と申し出る。
電車に乗って細田氏のアパートに着くと、美しく、健康そうな、普通の女性が「私」たちを迎えてくれる。
細田氏が水汲みで席を外した瞬間、「私」は細田氏の変容について奥さんに訊ねる。しかし奥さんに動じる気配は微塵もなく、平静そのもの。最近夫の禁酒したことを話し出して、みかんなどでもてなそうとしてくる。部屋も小奇麗で、幸福な家庭の匂いさえする。この女は夫の発狂した事実に気づいていないのだろうか、と「私」は奇妙な思いを抱きながら細田宅を辞して飲んで帰る。
帰ってから、「私」の妻にこのことを話すと、「いろいろなことがあるのね」とたいして驚く顔もしない。
狂ったって、狂わなくたって、同じようなもの。借金してまで飲んだくれる誰かさんよりよほどいい。お母さんだ、女神だと、大事にされて。
そんなことを言う妻に、「お前も女神になりたいのか?」と「私」が訊ねると、妻は「悪くないわ」と笑った。
狐人的読書感想
女性は強し! 女性の時代がやってくる!
なんだか、現代と今後の社会情勢を思わされる内容でしたが、最近の読書はこういうことが多いです。
(100年以上前に予言されていた2035年のソロモンの時代)
女性の時代、少子高齢化、超ソロ社会――現代において感じられる情勢というものは、100年前にも感じられていたものだったのか、と思えば、どこか感慨深いものがあります(まあ最近は、アメリカ大統領選でのトランプさんの勝利を受けて、「女性の時代の終わり」がささやかれる向きも、一部見受けられるようなのですが)。
ともあれ、太宰治さんの『女神』は狐人的に「ちょっと気になったこと」の多い作品でもあったので、以下につらつら綴っていきたいと思います。
世界に30人の天責者は魔霊を使役し悪を滅す
まずは冒頭。
この小説の話に似た事件として『璽光尊』というワードが取り上げられているのですが。これは1947年(昭和22年)に石川県金沢市で発生した、璽宇という宗教団体の逮捕劇を指しているようです。
有名な元横綱や囲碁棋士が入信していたらしく、当時全国的な話題となっていたのだとか。
宗教といえば、宗教団体『幸福の科学』への出家、それを理由に芸能界引退を発表した人気女優清水富美加さん。横綱といえば、今年(2017年)横綱に昇進し、大相撲春場所千秋楽で負傷するも奇跡の逆転優勝をはたした稀勢の里さん。
――など結構タイムリーな話題が記憶に新しいところです。
さて昔の話に戻りまして『璽光尊』とは、宗教団体『璽宇』の教祖様の呼び名で、これは長岡良子さんという女性の方だったようです。ちょっと興味を引かれたのは、この教団の世界観で「人間四段階説」というものなのですが。
これは人間を四つのランクに分類したもので、上から「天責者」「地責者」「邪霊」「魔霊」と分けられています。世を正す役目を担う最高位の「天責者」は世界に30人、「天責者」を助ける「地責者」は世界に3000人、一般人である「邪霊」はその他大勢、諸悪の根源とされる「魔霊」は世界に3004匹いるとされていて、結構細かい設定がなされていておもしろいと思いました。
なんでも、宗教団体『璽宇』では「魔霊」を数匹飼い馴らしていて、これを使役し社会の害悪と戦っているのだとか。教団の組織体制も興味深く、『璽光尊』とは略称で、正式には「天璽照妙光良姫皇尊(あまつしるすてるたえひかりながひめのすめらみこと)」(長いわ!)というらしく、要するに自分を天皇だと主張していたらしく、これを中心にした疑似国家を形成していたそうです。布教活動を禁止していたという妙な自信を持っているところも、異質な感じがしました。
……なんだかラノベとかの創作向きな設定だなあ、とか、ちょっとおもしろく感じてしまったのは僕だけ?
お札の肖像画に女性が使われにくい理由とは?
つぎに細田氏のとつとつと語るところの「インフレと紙幣の肖像」について。
実生活において物価の上昇を感じざるを得ない昨今、現代的な話題のように感じましたが。
物価は上がってるけど、それに見合うだけ給料上がってる?
――みたいな。
紙幣の肖像の話はちょっと意表を突かれた思いがしました。
これまで「なんでお札には肖像画が印刷されているのか?」考えたことがありませんでした。
思えば世界の多くのお札に肖像画印刷が採用されていて、このことを不思議に思っても不思議でないように思うのですが、当たり前のことに疑問を抱くことの難しさ、をいまさらながら痛感します。
ちなみに「なぜお札には肖像画が使われているのか?」といえば、それは「偽札を防止」するためだったのだそうです。
人間の顔識別能力というものは大したもので、顔つきや表情の僅かな違いもわかるので、これを利用して偽札を見抜こうというわけなのです。
印刷技術の発展した現代では、あまり意味をなしていないようにも感じますが、慣習化して現在まで続く――といった感じなのでしょうかねえ。
日本の紙幣には、必ずグロテスクな顔の鬚をはやした男の写真が載っているけれども、あれがインフレーションの原因だというのです。
ここはちょっと笑いました。
細田氏は、紙幣の肖像画には女性の笑顔などがいいと主張していますが、たしかに女性のほうが華やかな感じもするだろうし、結構いい着眼点なのでは、と思わず感心させられてしまいます。五千円札の樋口一葉さんみたいな。
じつはお札の肖像画に「グロテスクな顔の鬚をはやした男の写真」が使われるのには、前述した「偽札を防止する」意図があってのことなのだそうです。
髭や皺の多い男性の顔は、原画を彫るのが難しく、それが偽造を困難にする、というメリットがあって、逆に髭がなく皺の少ない女性の顔は、偽造を容易くするといったデメリットを生じさせるといいます。
まあ、そういわれてみれば……、という気がしないでもありませんが、どうでしょう?
進化した人類世界とは女性だけの世界である!
最後はタイトルでもある女神。
日本神話の天照大神、ギリシア神話のアテナ、ローマ神話のヴィーナス、ゲルマン神話のヴァルキリー、インド神話のパールヴァティー……、世界中の神話にはあらゆる女神がいますよね。いまやゲームキャラのモチーフなどとして、我々の生活に欠かせない(?)存在という気がしますが。
女神といえばいわずもがな女性ですが、太宰治さんの『女神』も、女神の名に象徴される、女性の強さやたくましさ、したたかさといったようなものを感じられる作品だと思いました。
女性は子供を産むことができるし、女性のほうが優れた生物なのでは? ――と僕は考えることがありますが、だけど女性も男性がいなければ子供を産めないのでは? ――と思ったそこのあなた(どなた?)、そうともいえない話があります。
染色体によって性別が決まり、「XXならば女性、XYならば男性」というのは学校でも教わる知識ですが、人類のY染色体は3億年前と比較してその数が大きく減少していて、このままだと500万年後には消滅してしまうという研究結果があります。
男性を形成するY染色体がなくなれば必然的に男性という性別も消滅する、というわけです。現に南アフリカのミツバチにはオス生体が存在せず、メスのみで生態を維持しているものがあるのだとか。
いまから500万年後、男性はみな滅び、女性だけの人類社会が訪れるのかもしれません。
ちょっとSFっぽいですが、女性だけの世界というものこそが、進化した新人類の世界なのかも、と想像してみると、かなり興味を引かれるお話でした。
読書感想まとめ
世界には、至高の位を持つ30人の天責者がいて、諸悪の根源たる3000匹あまりの魔霊と戦うために、数匹の魔霊を使役する。
お札の肖像画が男性なのは偽札偽造を防止するため。
進化した人類の世界とは女性だけの世界である。
狐人的読書メモ
500万年後、もしも一人だけ男性が生き残れば、究極のハーレムが完成する、とか考えてしまうのは僕だけ? (……ではなかった⇒)。
太宰治さんの短編小説がおもしろい今日この頃。
・『女神/太宰治』の概要
1947年(昭和22年)『日本小説』(5月号)にて初出。SF的な空想が楽しい(内容はとくにSF的ではない)。
以上、『女神/太宰治』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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