白昼夢/江戸川乱歩=白昼夢を見ていたのは私か、男か、…僕か?

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

白昼夢-江戸川乱歩-イメージ

著作者: cs

今回は『白昼夢/江戸川乱歩』です。

江戸川乱歩 さんの『白昼夢』は文字数4000字ほど。乱歩初期短編中の怪奇小説。怪しげでノスタルジックな雰囲気。女房は可愛い蝋細工になった。進撃の巨人、お前も蝋人形にしてやろうか、水曜日のダウンタウン、信頼できない語り手など話題にしました。

あなたも『白昼夢』を見ませんか?

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

生暖かい風が吹く、晩春の蒸し暑い午後。

私が大通りを歩いていると、道端に人が集まって、何やら騒ぎが起こっている。近づいてみると、一人の男が熱心に弁じている。私は半円を描く群衆に混ざって、男の演説に耳を傾けた――。

俺は女房を愛していた……、あの女は浮気者だった……、俺は毎晩女房に頼んだ……、しかし女はごまかすばかり……、女は耳隠しがよく似合った……、この好もしい姿を永久に俺のものにしたいと思った……、用意していた千枚通しで……、俺は女房を五つにした……、樽に入れて水道を出しっぱなしにして……、3721日間冷やし続けた……、女房は可愛い蝋人形になった……、ハハハハハ……、これで女は本当に私のものになった……、キスしたいときにキスができて抱きたいときに抱ける……、隠し場所は警察にだって見つからない……、ほら見てごらん俺の店先に飾ってあるよ……。

群衆は皆、お決まりの作り話だといって笑っていた。男の目が私を見た。私はハッとして振り向いた。そこには一軒のドラッグストアがあった。そしてガラスの奥の人体模型――。

私は店内に入って確認した――それから、倒れそうになる身体をどうにかささえて店を出た。男に見つからないように群衆から離れた。

しかし、群衆と一緒になって、男の演説を笑いながら聞く警官の姿が、そこにあるではないか。私は、笑っている場合ではない――といって、無神経な警官に訴えようかと思ったが、それを実行するだけの気力がなかった。

あれは、白昼の悪夢であったか、それとも現実の出来事であったか。

狐人的読書感想

さて、いかがでしたでしょうか。

『白昼夢』は、江戸川乱歩 さんの初期短編中、怪奇小説(猟奇小説?)に分類できる作品だといえそうですね。

前回読んで読書感想を書いた江戸川乱歩 さん作品が、思わぬ形で読むこととなった「少年探偵団シリーズ」(少年向け小説)だったので、狐人的にギャップがすごかったです(そのたび江戸川乱歩 さんの作風の幅広さに驚かされてしまうのですが)。

(前回読書感想を書いた「少年探偵団シリーズ」はこちら)

(ちなみに「美少年探偵団シリーズ」の読書感想はこちら)

僕も「小品二篇」を比べてみる

 

[まとめ買い] 進撃の巨人

『白昼夢』は、「小品二篇」というタイトルで、『指環』という小説とセットで発表されたのですが、この『指環』の評価が思わしくなかったのに対して、『白昼夢』のほうは非常に高評価だったそうで、僕としては『指環』の評価は決して低くなかったので、その点の比較を楽しみにしていた作品でした。

(『白昼夢』より評価が低かった『指環』の読書感想はこちら)

で、比較してみてどうだったのか、といえば――僕は『指環』のほうが好きでしたねえ(ひねくれものだから?)。かといって『白昼夢』がよくなかったのかといえば、もちろんそんなこともなく、当時好評だったのも頷ける内容だと思いました。おそらく現代において読み比べてみても、『指環』よりは『白昼夢』を推す人のほうが多いような気がします。

まずは冒頭。どこか怪しげな雰囲気と、ノスタルジーを感じさせる古き日本の町並みが、幻想的に描かれていて、惹きつけられます。あらすじでは全部省いてしまったので、ここはぜひ本文を読んで、味わっていただきたいところです。

そんな独特な、生暖かい空気漂うなか、何が待ち受けているのか……、語り部「私」と一緒に歩いていくと、狂気じみた男が一人、熱弁を振るっているではありませんか。そしてその内容の、なんと猟奇的なこと……。

『白昼夢』が発表されたのは1925年(大正14年)。大正デモクラシーに代表されるように、自由な風潮がもてはやされて、西洋からさまざまな文化がもたらされ、人々の嗜好もより刺激的なものを求めるようになってきた時代です。そう振り返ってみると、『白昼夢』の作風は、この傾向に合致していて、当時好評を博したのも頷けます。

なんとなく、僕は現代の『進撃の巨人』ブームを思わされてしまいましたが、こういったグロテスクなものを求める人々の嗜好というのは、やはり今も昔も変わらないものなのだなあ、と改めて感じました。

お前も蝋人形にしてやろうか!

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デーモン閣下が「お前も蝋人形にしてやろうか!」と言っていますが、本当にできるんですね、蝋人形に。冷水にさらし続けることによって、腐敗菌の繁殖が抑制されて、脂肪が変性した結果生成されるそうです。乾燥によって腐敗しなかったものがミイラなのだとか。はじめて知ったのですが、興味深いお話でした。江戸川乱歩 さんもこの話を聞いて『白昼夢』の着想を得たのだそうです。

作中、薬屋に人体模型が置いてある描写は、現代に生きる僕たちからしてみれば、「ドラッグストアで人体模型なんて見たことないけど……」といった感じですが、なんでも「有田ドラッグ」という日本最古のドラッグストアチェーンが、宣伝広告のために当時展示していたそうです。

ところで人体模型ってどこにあるのでしょうねえ……、学校の理科室にあるような気がする……、といったイメージですが、ちょっと調べてみたら、おもしろいお話を見つけました。

『水曜日のダウンタウン』でやっていたらしいのですが、「理科室に置いてある人体模型」について検証した結果、文科省が教材整備指針で購入を促している点、取材交渉した人体模型の業者すべてが取材NGだった点から、「……利権?」といった疑惑が浮上して、注目を集めたらしいのです。

たしかに授業で有効活用されているとは思い難いですよねえ……。そういえば他の教材も(いわずもがな)。最近、森友学園問題とかも騒がれていますけど、結局氷山の一角なんだろうなあ、みたいな、ついつい疑った見方をしてしまいます。

あと「耳隠し」というのは大正時代に流行った女性の髪型だそうです。文脈からイメージできるのかもしれませんが、一応。

白昼夢を見ていたのは私か、男か、……僕か?

白昼夢-江戸川乱歩-狐人的読書感想-イメージ

演説している男の罪の告白は、誰にも相手にされていないわけで、そこが不気味なところではありますが、タイトルに『白昼夢』とあるように、この物語自体が「夢」の可能性が示唆されていて、そこもまた謎めいています。

男の言っていることは事実であって、本当に周りの人たちが気づいていないだけなのか。それとも演説は妻を亡くしたショックでおかしくなってしまった男の口走る戯言なのか。だとすると、語り手たる「私」の見た人体模型はやはりただの人形で、それを人間と見間違えたのが「白昼夢」ということなのか。そうなると、精神的に問題があるのは、演説の男ばかりでなく「私」も、ということになりますが――。

などなど、考えても仕方のないこととはいえ、考えずにはいられないのは、ひょっとして僕だけ?

叙述トリックの一つに「信頼できない語り手」というものがあります。その名のとおり、信頼できない語り手に物語を語らせることで、読者を惑わせたりミスリードを誘ったりする手法ですが、『白昼夢』にもこの向きがあるように思います。この作品を「精神に問題のある語り手」の物語だと分類するならば、夢野久作 さんの『ドグラ・マグラ』や同じく江戸川乱歩 さんの『孤島の鬼』と同種の作品であるといえるかもしれません(いえないかもしれませんが)。

また以上のことから、真相がわからずじまい――となると、これはリドル・ストーリーの傾向があるようにも思われ、やはり真相をあれこれ考える楽しみがあるように感じました。

う~ん、白昼夢を見ていたのは「私」か、男か、……もしかして僕か?

(真相をあれこれ考えた読書感想はこちら)

読書感想まとめ

『白昼夢』は江戸川乱歩 さん初期短編中の怪奇小説。「少年探偵団」を読んだあとの僕としてはギャップの大きい作品でした。セットで発表された『指環』との比較。怪しい雰囲気とノスタルジックで幻想的な古き良き日本の町並み。人はグロテスクなものに惹かれてしまうものです(現代の『進撃の巨人』のような)。「お前も蝋人形にしてやろうか!」『水曜日のダウンタウン』の「理科室に置いてある人体模型」についての検証。叙述トリック『信頼できない語り手』。

狐人的読書メモ

「白」昼夢、ホワイトタイガー(「白」虎)はむりくりだったかなあ……、もう昨日ですが、3月14日はホワイトデーということで(やはりむりくりだったかなあ……)。

・『白昼夢/江戸川乱歩』の概要

1925年(大正14年)『新青年』初出。「小品二篇」というタイトルで『指環』とともに発表されて好評を得た作品。初期短編の怪奇小説。

・江戸川乱歩 さん作品の大まかな分類

<大正10年頃~昭和5年頃>

1.初期短編(探偵小説)

「二銭銅貨」「心理試験」「屋根裏の散歩者」「D坂の殺人事件」など。

2.初期短編(幻想・怪奇小説)

「押絵と旅する男」「人間椅子」「パノラマ島奇譚」など。

<昭和初期頃~昭和10年頃>

3.長編小説

「一寸法師」「黄金仮面」「黒蜥蜴」「大暗室」など。

<昭和10年頃~>

4.少年探偵小説

「怪人二十面相」「妖怪博士」「少年探偵団」「大金塊」など。

<戦後>

5.随筆・評論

以上、『白昼夢/江戸川乱歩』の読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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