人間椅子/江戸川乱歩=狐人的な感想で衝撃のラストに残された謎を徹底解剖!

狐人的なあいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

人間椅子(イメージ)今回は『人間椅子/江戸川乱歩』です。

以前のブログ記事で、『D坂の殺人事件』を取り上げさせてもらったときも述べましたが、江戸川乱歩 さんは近年メディアミックスが盛んな作家さんですね(⇒ 小説読書感想『D坂の殺人事件 江戸川乱歩』超推理! 明智小五郎 鮮烈 デビュー!)。

[まとめ買い] 文豪ストレイドッグス(角川コミックス・エース)『文豪ストレイドッグス』や『TRICKSTER ―江戸川乱歩「少年探偵団」より―』といったテレビアニメが話題を集めていますが、江戸川乱歩 さんの時代が、再びじわじわキているように思うのは、はたして僕だけ?

 

パラフィリア~人間椅子奇譚~(1) (ビッグコミックススペシャル)そんな中でも『人間椅子』は、江戸川乱歩 さんの代表作といっても過言ではない作品。当然ながら人気もあってか、これをモチーフとした作品も多いようですね。

 

注.以下、書きたい内容の関係上、ネタバレを含みます。予めご了承ください。

狐人的なあらすじ

人気の女流作家である佳子は、外務省勤務の夫を見送ると、書斎の椅子に腰を下ろす。そうしてから真っ先にとりかかる仕事は、彼女宛てのファンレターに目を通すこと――その中に一束の原稿用紙があった。作家に自分の書いた小説を読んでほしいと望むこの手の便りはよくあること。そのほとんどが箸にも棒にもかからぬものとはいえ、とりあえず、タイトルだけでもと封を切ると、そこにはタイトルも署名もなく、突然「奥様」という呼びかけの言葉で始まっている。やっぱり手紙だったのかしらと、二行三行と読み進めるうち、佳子はその原稿から目が離せなくなってしまう――。

手紙の差出人は、しがない椅子職人、二目とは見られない醜男で、貧乏暮らし、人生に絶望するも、ひょんな思いつきから数ヶ月の間、悪魔のような生活を送っていたという。それは、注文品の立派な椅子の中に、人ひとりが入れるスペースをこしらえて、そこに潜んで生活すること。男の目論見はうまく運び、男が潜んだ椅子は、とある外国人向けホテルの一室に据えられる。

そこで男は人間椅子としての生活を送る。当初の目的は、人のいない時間に忍び出して盗みを働くこと。しかし、椅子として、いろいろな人を座らせているうちに――これまで縁のなかった女性の身体が、薄い椅子の皮一枚隔てて密接している……、それからは愛欲の想像の日々……。椅子の中の恋、陶酔的ですばらしき我が世界――。

しかし、男が誰にも気づかれず、耽溺の日々を送るうち、とある出来事が持ち上がる。それは、ホテルの経営権が別の会社に移譲され、外国人向け高級路線の方針が改められることに……。一般向けの旅館としてリスタートするホテルに、立派な椅子は不要――男の潜む椅子も競売に掛けられることが決定し、男は一度、人間椅子の生活に終止符を打とうと考えるも……。

男は椅子越しに接してきた外国の女性の身体に物足りなさを感じていた。それは、同じ日本人の女性でなければ、満たされることのない物足りなさなのでは……、男はもうしばらく人間椅子としての生活を続けてみる決心をする。

男の潜んだ椅子は、ある官僚の邸宅用に買い取られる。書斎に据えられたその椅子を愛用する夫人に、男は恋をしている。私の恋人、つまりその夫人こそが佳子のことだった……。

読み進める最中、不気味に思い始めた佳子は、書斎から居間に移動していた。そこですべて読み終えた佳子は、激しい悪寒に身を震わせている。そこに女中がやってきて、佳子に一通の封書を手渡す。そこに書かれている名宛を見て、佳子は衝撃を受ける。それは、つい今まで読んでいた手紙と、まったく同じ筆跡だったからだ。迷った挙句、佳子は封書を開封し、中身を読んでみると――。

先程の手紙は投稿小説だった。

…………。

いかがでしたでしょうか。

江戸川乱歩 さんの『人間椅子』は、文字数16000字ほどの短編小説です。衝撃のラストには大きな謎が残されている? 未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的な読書感想

人間椅子になった男……、も、もしかして「狐人」なのでは? と思ったのはきっと僕だけでしょう。「仲間」と書いてしまうと、僕の人格を疑われてしまいそうな発言ですが……。

ダンボ僕の名乗っている「狐人」(種族)は、「孤人」の誤記から誕生した造語なのですが(狐の獣人を表す語としてすでに存在していたわけですが)、「孤人」は文字通り、現代社会において「孤独な人」を示す言葉です。
(一応、詳しく知りたい方はこちら ⇒ 狐人日記 その1 「皆もすなるブログといふものを…」&「『狐人』の由来」

現代社会ではこの「孤人」が増加しているように思えるのです。

たとえば、「草食系」から発展した「絶食系」という言葉をご存知でしょうか? 「絶食系」は、恋愛をしたいけど積極的になれない「草食系」に対し、まったく恋愛を求めていない人々を指していいます。
(「絶食系」に触れたブログ記事はこちら ⇒ 随筆読書感想『チャンス 太宰治』太宰治の恋愛論! 肉食叱咤! 絶食激励!

その他、孤独死といえば独居老人のイメージが強いように思いますが、じつは40代、50代の独身者のほうが多いのです。こういった人たちも「孤人」といえるのではないでしょうか。

そしてやはり、「孤人」から連想されるものといえば「ひきこもり」(僕だけ?)。そして、「ひきこもり」といえば「ネトゲ(ネットゲーム、オンラインゲーム)(僕だけ?)。ネトゲ用語には「ボトラー」というものがあります。これは、ゲームにはまり過ぎて、パソコンの前から離れられず、ペットボトルの中に用を足してしまおう、という人や行いそのものを指す言葉です。

なんだか用語の説明が多くなってしまいましたが、ようやくたどり着きました。男が椅子に細工するシーンには以下の引用のような記述があります。

ある用途の為めに大きなゴムの袋を備えつけたり

……これって、まさに現代でいうところの「ボトラー」対策ですよね。

ここから、

「ボトラー」=「ネトゲ」=「ひきこもり」=「孤人」=「狐人」

の式が完成したのでした。

ただし、人間椅子の男は、はじめは盗み目的だったにもかかわらず、それはだんだんと愛欲にシフトしていって、最後には佳子に恋をしてラブレターを出しているので(結局は小説だよ、というオチなのですが)、かなり歪んだ(これぞパラフィリア?)愛情の持ち主ではありますが、少なくとも「絶食系」ではなさそうですよね。どちらかといえば「肉食系」です。

そういった観点から見れば、「孤人」ではないわけで、では「狐人」でもないわけで、すなわち僕の仲間ではない! ……しかしそうなってくると「人間椅子」と「狐人」と、はたしてどちらがまともなのかと考えてしまうと……(言わずもがな)。

ま、まあ、孤独を感じることくらい、「狐人」でなくても、誰でもあることですよね? とか言ってみたり。

(こんな狐人的な感想でいいのだろうか……)

狐人的な読書メモ

考えるキツネ

photo by Rob Lee

ブログ記事タイトルにもあるとおり、江戸川乱歩 さんの『人間椅子』で、やはり一番印象的なのはラスト(オチ)の部分ですよね。素直に読めば、どこか爽快さを感じさせる終わり方ですが、誰もが「でもひょっとして本当は……」と思わずにはいられない、ミステリアスな結び方でもあって――いろいろと考察せずにいられないのは、僕だけ?

そんなわけで、ここでは『人間椅子』のラストについて、ちょっと考察してみたいと思います。

『人間椅子』のラストについては、大きく分けて二つの解釈ができるかと思います。

1.一通目の手紙は、二通目の手紙が示すとおり、やはり投稿小説だった。
2.じつは、二通目の手紙は嘘で、一通目の手紙が真実だった。

1の解釈に説明はいりませんよね。
ただ素直に読めば、そのまんま1のとおりとなるからです。

問題は2の解釈。
たとえば、一度は告白したものの、やっぱり怖くなって、後付けで手紙を出した可能性はあるのでしょうか? なんかメールで告白したものの、やっぱり怖くなってしまい、「今の嘘だから!」とか「友達が勝手に送信しちゃって」とか言い訳する中高生みたいですが。それでなくとも、最初の手紙が与える恐怖感をあおる役割として、嘘の二通目というのは効果的なように思います。

そして――。

この2の解釈を読み解く第三の解釈として以下のようなものがあります。

3.手紙の差出人は、じつは佳子の夫だった!

その理由を列記すると、

・ファンあるいは一般人が、有名作家に書いた手紙にしては、二通目の手紙の文体が、幾分不遜というか、自信に溢れ過ぎている。
・また、「奥様」という呼称は、ラストで二通目の手紙を持ってくる女中の、佳子に対する呼称「奥様」と一致する。ただの偶然だろうか?
・一通目の手紙を投稿小説とするには、実際椅子が「Y市の古道具屋」で購入されたこと、それを佳子が愛用していること、「書斎の窓の撫子なでしこ鉢植はちうえ」など、邸宅の内部の人間でなければ書くことのできない描写がある。
・そして、その書斎は夫との共用でもある。

……いかがでしょうか。

実際に読んでもらえると分かるかと思いますが、確かに、疑わしい記述が散見されるように思えるのです。

さらに、もしも一通目の手紙が真実で、人間椅子の男が夫だったとしたら、その目的は何だったのでしょうか? それを読み解くヒントになるのでは……、と思える冒頭を以下に引用します。

佳子よしこは、毎朝、夫の登庁とうちょうを見送ってしまうと、それはいつも十時を過ぎるのだが、やっと自分のからだになって、洋館の方の、夫と共用の書斎へ、とじこもるのが例になっていた。そこで、彼女は今、K雑誌のこの夏の増大号にのせる為の、長い創作にとりかかっているのだった。

美しい閨秀けいしゅう作家としての彼女は、ごろでは、外務省書記官である夫君の影を薄く思わせる程も、有名になっていた。彼女の所へは、毎日の様に未知の崇拝者達からの手紙が、幾通となくやって来た。

「やっと自分のからだになって」と「夫君の影を薄く思わせる程も……」の部分がなんだか思わせぶりな気がしてしまいます。

佳子と夫の夫婦仲はどうだったのでしょうか? もしかして、有名作家となった佳子は、夫に対する愛情が薄らいでいたのでは?

地位や名声を得て、人ががらりと変わってしまうということは、よく聞く話ですよね。人間椅子の男が示した愛情は、異常なものではありますが、熱烈な求愛行動には違いありません。夫は、自分の愛を示すために、こうした仕掛けを目論んだのでは? ――そう思えば、女中がやってきて、二通目の手紙を佳子に渡すタイミングもドンピシャですよね……まさか、夫の指示があったのでは……。

とかなんとか考えさせられてしまったのですが、実際のところは知りようもありませんよねえ(ここまであおっておいての無責任発言。すみません)――気味悪がって断念してしまいましたが、せめて佳子が椅子の中身を確かめてくれていれば……、名探偵・佳子、な展開もおもしろいと思うのですが。『人間椅子』は怪奇小説(ホラー)であって、探偵小説(推理小説、ミステリー)ではないので、しようがないことなのですが。

ところで、最近読んだ探偵小説!
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とはいえ、いろいろと想像して楽しめるのも、江戸川乱歩 さんの『人間椅子』の魅力の一つといえるのではないでしょうか。ネタバレはしてしまいましたが、衝撃のラストに残された謎を考えてみるためにも、一読の価値ありかと。そうして読んでくれる人がいたなら、望外の喜びなのです。

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以上、『人間椅子/江戸川乱歩』の読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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