狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『犬と笛/芥川龍之介』です。
文字数9000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約23分。
長い髪と女性的な顔の髪長彦。笛の天才。神に愛されしイケメン。
チートスキルを有した召喚獣を授かり、鬼神をあっさり倒し、
俺TUEEEEな展開のまま、姉姫と妹姫、どっちを選んだの?
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
昔、大和の国葛城山の麓に、髪長彦という若い木こりが住んでいた。女のようにやさしい顔立ちと長い髪を持っていた。髪長彦は笛が上手で、山の仕事の合間合間に、その音を楽しんでいた。笛を吹く彼の周りには山の動物たちが集まり、草はなびき、木はそよぐ。
山の神々もまたその笛の音を愛していた。あるとき、葛城山の足一つの神、手一つの神、目一つの神という兄弟神が、髪長彦のところへ現れて、いつもの笛のお礼がしたいと言い出す。髪長彦は「それなら犬をください」と望む。彼の無欲なところを気に入った三神は、それぞれ「嗅げ」という名の白犬、「飛べ」という名の黒犬、「噛め」という名の斑犬を、髪長彦に授ける。
髪長彦が三匹の犬を連れて葛城山の麓の道を歩いていると、二人の若い侍が馬に乗ってやってくる。二人は「鬼神にさらわれた飛鳥の大臣様の姫姉妹を救いに行くところだ」という。
二人の侍が行ってしまうと、髪長彦は「嗅げ。嗅げ!」と白犬に命じる。嗅げはたちまち姉姫の匂いを嗅ぎつけて、「わん、わん、姉姫様は生駒山の洞穴で食蜃人の虜になっています」と答える。髪長彦は嗅げと噛めを両脇に抱え、黒犬に乗ると「飛べ。飛べ!」、生駒山の洞穴へ飛んだ。
「噛め。噛め!」、斑犬が食蜃人を噛み倒し、髪長彦は姉姫の救出に成功する。「嗅げ。嗅げ!」、「飛べ。飛べ!」、「噛め。噛め!」――同じ要領で、笠置山の洞穴の土蜘蛛の虜になっていた妹姫も救い出す。
髪長彦は飛べに乗って、姫姉妹を飛鳥へ送る途中、二人の侍に行き合う。二人の侍は全ての話を聞き、手柄を横取りするため、髪長彦から笛と犬たちを奪い、姫姉妹を連れて去ってしまう。
あの笛がないと犬たちを呼び戻すことができない……髪長彦が悲しみに暮れていると、生駒山と笠置山からやさしい囁きが聞こえてくる。駒姫と、笠姫だった。この二女神は、それぞれ食蜃人と土蜘蛛に苦しめられていた。だから鬼神を倒してくれた髪長彦に恩返しをしにきてくれたのだ。
二女神は風となって飛んでいき、しばらくして戻ってくると、髪長彦に笛を与え、金の鎧、銀の兜などの立派な大将の装いを整えてくれる。髪長彦は笛を吹いて三匹の犬を呼び戻すと、飛べに乗って飛鳥へ飛ぶ。
大臣様の御館では二人の侍が、髪長彦から聞いた話を自分たちの手柄話として伝え、褒美を頂いているところだった。髪長彦は真実を訴えるが、証拠がない。そこで姉妹姫が父の大臣様に言う。「私たちを助けましたのは髪長彦です。その証拠に、私たちの金と銀の櫛を、あの方の長い髪にさしておきましたから」。髪長彦の頭には、金と銀の櫛がたしかに輝いていた。
こうして、髪長彦はたくさんの褒美を頂いた上、飛鳥の大臣様の御婿様になった。ただ、姉姫と妹姫と、どちらと結婚したのか、それがはっきりとは伝わっていない。
狐人的読書感想
姉姫と妹姫と、どちらと結婚したのか、気になります!
とはいえ、いい終わり方ですね。外伝が読みたくなります(そんなものはありませんが)。しかし、謎を残したまま終わったほうが完成している物語、ってありますよね……この作品も、余韻が残るこの締め方でよかったのだと感じます。
女のようにやさしい顔立ち、長い髪を持つ髪長彦は、まさに主人公として存在すべく、生まれてきたような人物ですよね。まあ、たいていの物語ではそうなのですが、やっぱ主人公って、特別な人間なんだよなあ、とか思わされてしまいます。
笛という音楽の才能に恵まれ、誠実で無欲な髪長彦は、山の神々に愛されて、三匹の犬や女神の助力を授けられ、ほとんど何の苦もなく幸せになるという――なんか、最近の「俺TUEEEE系」のマンガやラノベを彷彿とさせて、現代だからこそより共感を得られる作品になっているかもしれません。
主人公は厳しい修行に励み、仲間たちとの出会いや別れを経て、苦難を乗り越え、幸せを勝ち取ってこそ、人の心をふるわせて、共感を呼ぶんだ! という思いがありますが、近年では初めから最強の能力を持っていて、まあ、それなりの苦難はあるのですが、割とあっさり勝ってしまうような、そんな主人公が多く目にとまります。
だけど、そんな話がすごくおもしろかったりするのが、自分でも不思議なんですよね。一説によると、課金で初めから簡単に強くなれるソシャゲなどの影響や、あまり苦労を知らずに育った若者世代の世相を反映している、などいわれていますが、納得できるところとできないところがあったりして、やっぱり不思議な感じがします。
(……そういえば、この小説、キャラとかアイテムとかストーリー展開だとか、なんだかRPGみたいですよね。白犬の探索スキル「嗅ぐ」! 黒犬の飛行スキル「飛ぶ」! 斑犬の攻撃スキル「噛む」! みたいな?)
なので、この物語を単純におもしろかった! で、済ませてしまいそうになっている自分は、あまり苦労を知らずに育った世代に入ってしまうのか? などと考えてしまうのですが、どうなんでしょうね?
この物語おもしろいよね? って、聞きたいだけだったのに、なんだかえらく遠回りな言い方をしてしまいましたが、この物語おもしろいよね?
単純に読んでおもしろかった、それだけでいいようにも思うのですが、しかし、あえてこの作品に教訓やテーマといったものを見出すならば、
①一芸に秀でるべし!
②誠実と無欲を貴ぶべし!
③大事なことは自慢すべからず!
――といった感じでしょうか?(違うか?)
一つ目の「一芸に秀でるべし!」は、優れた芸術家やスポーツ選手にパトロンがつくようなイメージを持ちます。髪長彦を笛の音楽家、山の神々をパトロンと見立てての連想ですが、パトロンを得られるほどの才能を示すのは、先天的(天才)であっても後天的(努力)であっても、難しく感じられてしまいますね。
二つ目の「誠実と無欲を貴ぶべし!」は、たしかにそういった人物は、周りの助力を得やすいように感じてしまいます。しかし、実際に誠実さと無欲さだけで、人から与えられるばかりで、幸せになれるケースは少ないようにも思えてきます。誰もが自分が幸せになるのに一生懸命で、やはりどんなにいい人であったとしても、その人のためのことは二の次になってしまうのは、自然なことのように考えるからです。やはり、①のような何らかの才能とセットで、効力を発揮する教えだと、とらえるべきかもしれませんね。
三つ目の「大事なことは自慢すべからず!」は、髪長彦がついつい調子に乗っちゃって、二人の侍に自慢話をして、それを利用されてしまったところからの連想です。宝くじの1等が当たって、周りに話したらおこぼれにあずかろうとする輩がいっぱい寄ってきた……みたいな? なんでいいことなのに黙っているのか、常々疑問に思っていたのですが、たしかにそういう弊害もあるんですよねえ……なんか学ばされたような気になりました。
「俺TUEEEE系」の物語として読んでおもしろく、またいろいろな教訓が含まれた寓話として読んでおもしろい――すなわち、この物語おもしろいよね? って、聞きたくなるような、今回の読書でした。
読書感想まとめ
俺TUEEEEなイケメン髪長彦が、神々の力を宿すチートな三犬を駆使し、鬼神を退治して姫姉妹を助け、結局どっちと結婚したの?
今回の教訓は「一芸に秀でるべし!」「誠実と無欲を貴ぶべし!」「大事なことは自慢すべからず!」の三本です(たぶん)。
狐人的読書メモ
・動物も音楽にいろいろな反応を見せるらしい。なかでも犬はほとんど人間と同じ反応を見せるというのは興味深いと感じた。
・同様に植物に音楽を聴かせたり、毎日話しかけたりするとよく育つ、みたいな話があるけれど、そもそも植物には聴覚がないので、これは科学的にありえないことらしい。しかしそういった人間の行動や思いが、無意識のうちに植物への世話に反映されて、間接的な効果はあるのだとか、興味深い。
・嗅げ(白犬)はどうやって姫姉妹の匂いを知ったんだろう? てか、いきなり流暢にしゃべり出したのには吹いた(笛ではない)。
・『犬と笛/芥川龍之介』の概要
1919年(大正8年)『赤い鳥』にて初出。芥川龍之介の児童文学、冒険色の色濃い作品。つらい修行、仲間との悲しい別れ、苛烈な苦難の克服――そんなものは一切ないが、「俺TUEEEE系」が流行る現代だからこそ、より共感される作品ではなかろうか? 若者世代におすすめしたい。
以上、『犬と笛/芥川龍之介』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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