コンにちは。狐人 七十四夏木です。
(「『狐人』の由来」と「初めまして」のご挨拶はこちら⇒狐人日記 その1 「皆もすなるブログといふものを…」&「『狐人』の由来」)
今回は小説読書感想『失敗園 太宰治』です。
無料の電子書籍・Amazon Kindle版で6ページ、文字数では2600字ほどの短編小説です。とにかく短いので、夏休み・冬休みの読書感想文にもおすすめ! 未読の方は、よろしければぜひご一読ください。
※ちなみに『失敗園』のわかりにくい言葉の意味
・陋屋
……狭くてみすぼらしい家
・仏人ルナアル氏
……20世紀フランスの小説家ジュール・ルナール、代表作『にんじん』
それでは超簡単なあらすじをどうぞ。
奥さんが庭に作った家庭菜園が大失敗! 失敗園! 無秩序に植えられた植物(主に野菜)たちが擬人化! 彼らの愚痴ツイートが止まらない!
簡単過ぎ? はたして内容が伝わっているでしょうか……。
擬人化とは、人間ではないものに人間の性質や特徴を与えて描く比喩方法の一つですよね。最近夏目漱石さんを話題に絡めることが多いからでしょうか(⇒小説読書感想『鼻 芥川龍之介』世界に一つだけの鼻? 内供とウソップの鼻?)、擬人化と聞いた僕は、真っ先に『吾輩は猫である』を、思い浮かべてしまったわけなのですが――、古くは古代ギリシャの時代から、擬人化の技法は用いられていたそうです。
ちなみにこれまでに紹介した擬人化されたものが登場する短編小説。
小説読書感想『懐中時計 夢野久作』1分で読…てかこのブログで読める!
近年の日本は「萌え擬人化」ブームといっても過言ではありませんよね。
やはり2013年から運営が開始された『艦隊これくしょん ―艦これ―』が擬人化ブームの火付け役といえるでしょうか。
『文豪ストレイドッグス』や『文豪とアルケミスト』など、実在の文豪をイケメンに擬人化した作品が人気となった、所謂「文豪ブーム」もこの流れをくんでいるに相違ありません。
(これが言いたかっただけ)
お、他にも『文豪男子コレクション』といった書籍も発売されているのですねえ――ゲーム攻略本のキャラ紹介みたいでおもしろそうです(ゲーム攻略本を隅から隅まで読むのが好きなのは僕だけでしょうか?)。文豪作品を読むきっかけにぴったり。僕もぜひチェックしてみたいと思いました。
……さて。そろそろ真面目に(?)太宰治さんの『失敗園』の内容に取り組みたいと思います。最後までお付き合いいただけましたら幸いです。
なぜなら『失敗園』は、太宰治がこの小説を書かれた時期を思うに、作中の「主人」は太宰治さん自身を、「愚妻」は太宰治さんの2番目の妻である津島美知子さんを、モデルにして(あるいはそのまま?)、書かれた小説だと読み取ることができるからです。
太宰治さんの『失敗園』が発表されたのは1940年(昭和15)年。その前年、太宰治さんは美知子さんとお見合い結婚をして、東京府北多摩郡三鷹村下連雀(現在の東京都三鷹市)に新居を構えたばかりでした。ちなみに三鷹市は、武者小路実篤さんや山本有三さんなど多くの作家が住んだ街として知られています。
擬人化された植物たちの愚痴の中に、太宰治さんの本音や、夫婦関係がチラリしているのかと想像すると、ニヤリとせずにはいられません。
妻・美知子さんは、太宰治さんの小説に登場することも多いですが(「春の盗賊」・「十二月八日」・「親友交歓」・「女神」など)、その人物像については詳細には描かれていません。ちょっと調べてみたところ、この津島美知子さんの描かれた本に『回想の太宰治』というものがあって、この中で美知子さんは、「人間太宰治と結婚したんじゃなくて、芸術家と結婚した」とか、「彼の文学のためならあらゆる犠牲を惜しまないつもり」とかいったようなことを述べているそうで、内助の功というか、一人の妻の在り方というか、学ぶところの多そうな人物のようです。ちなみに1997年(平成9年)2月に85歳で亡くなられた美知子さんの遺産額は約9億4000万円だったとか……文豪の印税恐るべし!
太宰治さんといえば、やはり『人間失格』や退廃的な生き様から、暗い、ネガティブといった印象が一般的かもしれませんが、明るく、ユーモアに溢れた作品も多いです(たとえばこちらはいかがでしょうか⇒随筆読書感想『チャンス 太宰治』太宰治の恋愛論! 肉食叱咤! 絶食激励!)。
『失敗園』も、どこか可愛らしい野菜たちの、ユーモラスな愚痴がすごく楽しい小説。短くて、台本形式の小説(わからない方はこちら⇒小説サイトでWeb小説を書こう!小説雑学⑨台本形式の小説)なので、とても読みやすかったです。超簡単なあらすじで「愚痴ツイート」という表現を使いましたが、まるで『Twitter』を眺めているような感覚で楽しめるでしょう(きっと)。
では僕が気に入った愚痴ツイートをいくつか引用してみます。
・@とうもろこしさんのツイート
「葉ばかり伸びるものだから、私を揶揄なさっているのよ。ここの主人は、いい加減よ。私、ここの奥さんに気の毒なの。それや真剣に私の世話をして下さるのだけれども、私は背丈ばかり伸びて、一向にふとらないのだもの。トマトさんだけは、どうやら、実を結んだようね。」
太宰治さんの自己評価と、そんな自分と結婚した奥さんへの同情(?)の気持ちが、垣間見られるつぶやきですね。「失敗園」唯一の成功作であるトマトさんとの掛け合いもおもしろいです。
・@クルミの苗さんのツイート
「僕は、孤独なんだ。大器晩成の自信があるんだ。早く毛虫に這いのぼられる程の身分になりたい。どれ、きょうも高邁の瞑想にふけるか。僕がどんなに高貴な生まれであるか、誰も知らない。」
@クルミの苗 わかってますね。「高飛車キャラ」は「ツンデレキャラ」同様、萌え要素の定番です。
・@ネムの苗さんのツイート
「クルミのチビは、何を言っているのかしら。不平家なんだわ、きっと。不良少年かも知れない。いまに私が花咲けば、さだめし、いやらしい事を言って来るに相違ない。用心しましょう。あれ、私のお尻をくすぐっているのは誰? 隣りのチビだわ。」
(……クルミの苗さんは「高飛車キャラ」じゃなくて「むっつりスケベ」でした)
ちなみに花を咲かせたネムの苗さん。
ふむ、言うだけあって確かに綺麗ですね。
・@だいこんさんのツイート
「地盤がいけないのですね。石ころだらけで、私はこの白い脚を伸ばす事が出来ませぬ。なんだか、毛むくじゃらの脚になりました。ごぼうの振りをしていましょう。私は、素直に、あきらめているの。」
@だいこん あきらめたらそこで試合終了ですよ…?
・@へちまさんのツイート
「この棚を作る時に、ここの主人と細君とは夫婦喧嘩をしたんだからね。細君にせがまれたらしく、ばかな主人は、もっともらしい顔をして、この棚を作ったのだが、いや、どうにも不器用なので、細君が笑いだしたら、主人の汗だくで怒って曰くさ、……[以下略]」
太宰さんとこの夫婦関係を想像してニヤリとしてしまいます。
・@花の咲かぬ矢車草さんのツイート
「是生滅法。盛者必衰。いっそ、化けて出ようか知ら。」
@花の咲かぬ矢車草 花は開きませんでしたが、悟りを開きましたね。
ちなみに花の咲いた矢車草さん。
ふむ、ぜひ花も開いてほしいところ。
いかがでしたでしょうか。他にも、にんじん、棉の苗、薔薇、ねぎ――など個性豊かで愉快な面々が登場します。友達になりたいような、お気に入りの植物が見つかるはずです。
まだ未読という方、ぜひご一読あれ!
以上、『失敗園 太宰治』の小説読書感想でした。
※
今回のブログ記事で台詞を使わせていただいた漫画
・「あきらめたらそこで試合終了ですよ…?」(井上雄彦さんの『SLAM DUNK(スラムダンク)』)
※
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
それでは今日はこの辺で。
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