小説読書感想『博士の愛した数式』80分でリセットされる記憶

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まず、
序盤を読んで、
連想したのは、
西尾維新さん。

本作のテーマは、
数学とリセットされる記憶

すなわち、

『物語シリーズ』と『忘却探偵シリーズ』

数学マニアの老倉育と忘却探偵・掟上今日子。

ひょっとして、
西尾維新さんが、
なんらかの影響を受けているのでは……、
と考えてみると、
興味を引かれる小説仲間も多いのではないか、
と思うのです。

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。
(「『狐人』の由来」と「初めまして」のご挨拶はこちら⇒狐人日記 その1 「皆もすなるブログといふものを…」&「『狐人』の由来」

今回の小説読書感想は、
小川洋子さんの
『博士の愛した数式』
について書いてみたいと思うのです。

『博士の愛した数式』は、
2003年8月29日、
新潮社より刊行。

2004年2月1日、
第55回読売文学賞を受賞!

第1回(2004年)本屋大賞受賞!

2005年12月1日に発売された文庫本は、
発売後わずか2ヶ月で100万部を突破!

2006年1月には映画化もされました。

それでは、
あらすじなのです。

主人公・家政婦の「私」は、
ある春の日、
元大学教授の数学者、
年老いた「博士」の家に派遣される。

「博士」は交通事故で記憶力を失い、
80分ごとに記憶がリセットされてしまう。

特殊な記憶障害を抱え、
数学にしか興味を示さない、
「博士」とのコミュニケーションは困難を極めるものだった。

しかし、
10歳になる「私」の息子の存在をきっかけに、
ぎこちなかった関係に変化が訪れる。

「子供を独りぼっちにしておくなんて、いかなる場合にも許されん」
「明日からは、息子をここへ連れて来るんだ」

その翌日、
「博士」は温かな抱擁で「私」の息子を迎え、
「ルート」という呼び名をつける。

「私」と「ルート」と「博士」

穏やかで、
温かな日々が、
その日から始まる――

まず全体を通して感じた印象は、
とても静かな小説であるということ。

物語的盛り上がりや大きな感情の起伏、
といったものはほとんど感じられず、
3人の日々が淡々と語られます。

最近読んだ小説では、
同じく2016年第13回本屋大賞を受賞した、
宮下奈都さんの『羊と鋼の森』を思い起こしたのです。
(⇒小説仲間におすすめ! 『羊と鋼の森』2016年本屋大賞第1位!
(出版年の時系列を思えば、逆であるかもしれませんが……)

静かな物語。

しかしというべきなのか、
だからというべきなのか、
より伝わってくる感情というものがあります。

『博士の愛した数式』では、
母の思いというものがそれなのです。

「ルート」の母である「私」は、

ルートが博士に抱擁されるのを見て、
ルート以上にうれしかった。

「ルート」が誰かに優しくされている時は、
自分もそのそばにいたかった。

「ルート」が心配してもらえるのがうれしかった。

物語の随所に、
「私」の母としての思いが滲みだしているのです。

母というものは、
何をしていても、
子のことを第一に考えているし、
こういうふうに、
子に起こる出来事を我がことのように捉えるものなのかと、
何か新鮮な発見をしたような気持ちになりました。

そして、
「博士」の人生については、
どうしても思いを馳せずにはいられません。

記憶が80分しか持続できない「博士」は、
失われてしまう記憶を補うために、
身体のあちこちにメモをくっつけています。

その奇異な姿は、
周りの人々を遠ざけてしまうのです。

公園の砂場で泣いている女の子に、
優しく声をかけたとしても、
それを見つけた女の子の母親は、
冷たく「博士」の手を振りほどき、
あっという間に走り去ります。

<僕の記憶は80分しかもたない>

毎朝目を覚まし、
服を着るときに、
自分が書いたメモによって、
自分の抱える障害を告げられる。

ついさきほどまで見ていた夢は、
昨夜の夢ではなくて、
遠い昔の自分が記憶できる、
最後の夜に見た夢なのだと、
気づかされる。

昨日の自分は死者と同じ、
もう二度と取り戻せない。

毎日毎日、
受け続けている、
残酷な宣告に打ちひしがれる。

記憶がリセットされるたび、
「博士」は周りの状況に適応できず、
子供のように苛立ったり、
憤ったりします。

しかし、
その姿さえ、
ただただ哀しく映るのです。

『博士の愛した数式』は、
静かで温かく哀しい物語だと、
感じさせられたのです。

「ルート」はとてもいい子です。

普通なら気味悪がってもおかしくはない、
「博士」の風貌や言動にもまるで動じず、
彼の示す愛情と抱える障害を受け入れて、
自然とそれに応えることができます。

自分がもしも「博士」のような人に接したとき、
「ルート」のように触れ合うことができるだろうか、
と考えると、
あまり自信はもてません。

偏見なく人と接することのできる、
「ルート」のような心の在り方を、
常に心掛けたいと、
読了後には思うのですが、
その思いが継続できるかどうか、
それを持ち続けることの難しさを思い知らされます。

その気持ちを忘れかけたときに、
また『博士の愛した数式』を、
読み返したいと思いました。

難解な数学の問題の正解を得たとき、
「博士」が得るものは、
喜びや解放ではなく、
静けさなのだという描写。

大人の「私」が思い至らなかったことを、
子供の「ルート」が指摘する描写。

『博士の愛した数式』には、
卓越した想像力を感じられる場面が随所にあります。

これらを描ける著者・小川洋子の想像力には、
ただただ圧倒されてしまいました。

冒頭でも述べたとおり、
『博士の愛した数式』の主要テーマは、
数学。

素数・友愛数・完全数――

「私」の心情描写などに、
数学や数式が効果的に用いられています。

数学の苦手な僕には、
とてもマネできない手法なのです。

たとえば、
「博士」が「私」に、
0について語るシーンは、
とても抒情的ですばらしい描写だと感じました。

e^(πi) + 1 = 0

あるシーンで、
「博士」が示すオイラーの公式には、
いったいどのような意味が込められていたのか。

「私」と同じように、
読者もその意味を考えさせられてしまいます。

『博士の愛した数式』の、
もうひとつの大きなテーマとして、
野球が挙げられます。

これについても、
「博士」と「私」と「ルート」を結ぶ、
重要なギミックになっています。

調べたところによると、
なんでも著者の小川洋子さんは、
大のタイガースファンなのだとか。

好きなればこそ、
自作のなかにその事柄を効果的に取り入れられる。

当たり前のことなのかもしれませんが、
だからこそ、
普段あまり意識しないことのように、
僕には思われ、
書き手として学ばされた部分でした。

僕は、
数学にも野球にも、
あまり興味がないのですが、
『博士の愛した数式』を読んで、
ほんの少しですが、
興味のようなものを覚えた感覚があります。

読者がまったく興味をもっていない事柄について、
興味を抱かせることができる、
これについても、
すばらしい小説のもつ、
ひとつの魅力だと思い、
素直に感心させられたのです。

こんなにおもしろい小説のテーマなのだから、
ちょっと見てみようか、
という気にさせられる、
小説や物語のもつ力というものを実感させられました。

以下、
印象に残ったセリフや描写のあったページ、
狐人的備忘録として記しておくのです。

P.10,11,22,46,47,50,60,63,64,70,74,78,84,89,102,106,114,116,126,153,160,171,176,178,184,186,189,194,196,197,203,215,240,261,263,297,348 (単行本)

なつやすみ。

読みやすい! 文庫本で291ページ!

抒情的な物語で、
登場人物も少なく、
感情移入しやすい。

ゆえに自分やその周囲と照らし合わせながら、
読書感想文の書きやすい一冊なのです。

なつやすみの宿題に読書感想文がある学生のみなさん。

『博士の愛した数式』

ぜひ読んでみてください!

小説家になろう・エブリスタ・カクヨム・アルファポリスなど、
ネット小説投稿サイトで小説を書く仲間たち、
小説を読む小説仲間たちもぜひ!

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

それでは今日はこの辺で。

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