明けましておめでとうございます。
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
(「『狐人』の由来」と「初めまして」のご挨拶はこちら⇒狐人日記 その1 「皆もすなるブログといふものを…」&「『狐人』の由来」)
今回は小説読書感想『森の神 夢野久作』です。
夢野久作さんは、多くの筆名をお持ちの作家さんですが、今回の『森の神』は、香倶土三鳥(かぐつちみどり)さんのペンネームで発表された短編小説です。ちなみに、夢野久作さんの本名は、杉山泰道とおっしゃるそう(参考までに)。
ブログで全文が読める! というわけで、では早速、夢野久作さんの『森の神』をどうぞ。
『森の神 夢野久作』
森の神様が砂原を旅する人々のために木や竹を生やして、真青に茂りました。その真中に清い泉を湧かして渇いた人々に飲ましてやりました。すると大勢の人がやって来て木の下へ家を立て並べて森のまわりに柵をして、中へ休みに入る人からお金を取りました。水を飲む人からはその上に又お金を取りました。
森の神様はこんな意地の悪い人々を憎んで、森を枯らして泉を涸らしてしまいました。
旅人からお金を取った人々は大層困って「何という意地の悪い神様だろう」と、森の神様を怨みました。
森の神様は言いました。
「私はお前たちのためにこの森をこしらえたのではない。旅人のためにこしらえたのだ」
さて、いかがでしたでしょうか。
前にブログ記事(⇒小説読書感想『懐中時計 夢野久作』1分で読…てかこのブログで読める!)で紹介した夢野久作さんの小説『懐中時計』も、1分もかからず読めてしまう超短編小説でしたが、今回の『森の神』も負けず劣らず短かったですねえ……いえ、より正確に言うなら、『懐中時計』の方が100文字ほど短いのですが。
それでも『森の神』も全文で280文字程度。
そのなかに、寓意というか、何かしら感じる部分が含まれていて、不思議と心に残るようなお話だと思ったのは、僕だけでしょうか?
ブログ記事タイトルに、「小説読書感想」を謳っている以上は、何か感想らしきものを書きたいと思うので、しばらくお付き合いいただけましたら幸いです。
あらすじにする必要もないのでしょうが、一応まとめてみますと、やさしい森の神が、砂漠を旅する人間たちのために、泉の湧くオアシスを作ってあげましたが、やがてそのオアシスに移住する人々が現れて、町をつくり、そこで休憩する旅人からお金を取り、泉の水を売るようになります。それを見た森の神様は、町をつくり旅人からお金を取る移住者たちの行いを、意地の悪い行為だと思い、オアシスを潰してしまいました。今度はそれを見た移住者たちが、意地の悪い神様だと森の神を非難する……といった内容ですね。
ふむ。まとめてみても、原文からほとんど縮まりませんでした。必要なかったかも。読んでくださった方はすみません。
夢野久作さんの『森の神』は、森の神の立場に立って読むか、あるいは移住者の立場に立って読むか、はたまた旅人の立場に立って読むか、といった三通りの読み方ができる物語なのではないか、と僕は思いました。
それでは、一つずつ一緒に見ていきましょう。
・森の神
砂漠を旅する旅人たちのために、オアシスをつくってあげた森の神は、基本的にはやさしい良い神様なのだと思います。旅人たちのためにつくってあげたオアシスを、勝手に占領されて、無償で提供していた土地と水で商売をされたのでは、森の神が怒ってしまうのも当然のことだと頷けます。もしも移住者が法外な高値を要求して、オアシスを訪れる旅人たちから搾取していたのだとしたら、正義は森の神にあり! と言えそうですよね。
・移住者
さて、移住者の立場から見れば、彼らは人間として当たり前の経済活動を行っただけです。オアシスに町をつくれば、宿や食事などの心配がなくなって、旅人もよりゆっくりと休むことができます。まあ、宿や水などの値段は、砂漠の中のオアシスということで、観光地価格ではありませんが、若干お高めだったかもしれません。しかし、適正価格を逸脱してしまえば、訪れる旅人も減っていき、町も立ち行かなくなっていくはずです。もしも、町が適正に運営されていたのだとすれば、オアシスを潰した森の神の行為は、人間からすれば当然横暴と捉えられ、非難されても仕方がないように思えます。
・旅人
最後に旅人の立場ですが、この人たちがことをどう思うかが、もっとも重要だと言えます。無料で利用できたオアシスに、勝手に町をつくられて、お金を搾取されるようになったと感じていたなら、移住者の勝手な振る舞いは悪となり、森の神の行為が正義となります。しかし、オアシスに町ができ、より旅が楽になって、普通の旅人にもあるいは行商人のような旅人にも、利益があったのだとしたら、移住者の言い分にこそ正義があり、森の神の行いの方が悪となってしまいます。
まあ、森の神からしたら、もともと自分が与えたものを、自分の思いどおりに使われなかったからだ、と言って取り上げたとしても、それは当然のことだという主張もできるのかもしれませんが。「私のものをどうしようと私の勝手でしょ」ということですね。
ただ、一度与えてしまったら、与え続けなければならない責任が生じるものだ、という主張が、人間側からも可能でしょう。捨てられている動物に、気紛れで餌をやってはいけないよ、みたいな。最後まで面倒を見られないのであれば、一時的な感情で施しをするのは偽善である、みたいな。それでも「やらない善よりやる偽善だ!」といった意見もあるのでしょうが。ここもやはり施しの対象となる者の気持ち次第、といったところでしょうか。
ちなみに、「やらない善よりやる偽善だ!」という台詞からは、荒川弘さんの漫画『鋼の錬金術師』のヒロイン、ウィンリィ・ロックベルのお父さんであるところのユーリ・ロックベルの発言が思い出されるわけなのですが――元ネタはテレビドラマとか2ちゃんねるとかマザー・テレサとかあるようですね。
話しを夢野久作さんの『森の神』に戻しましょう。
森の神と人間と、それぞれの立場から、この物語の寓意を考えてみると、
・森の神が人間(移住者)のエゴイズム(利己主義)を戒めたお話
・人間が森の神のエゴイズム(自分勝手)を戒めたお話
といった感じになりますでしょうか。
夢野久作さんの『森の神』では、これを判断する要素(移住者の振舞いの詳細や旅人の心情)がおそらく意図的に描かれていないため、森の神の視点と人間側の視点で、複数の寓意が読み取れる、すばらしい短編小説に仕上がっているのではないかと僕は思いました。
他にも、経済活動を理解できなかった森の神と、人間との価値観や観念、あるいは存在自体の相違といったものを表しているのかもしれません。
夢野久作さんの『森の神』は、少ない情報からでも、想像力を喚起させることで、多様な読み方をさせる優れた短編小説だと感じました。
思えば、最近ブログ記事で紹介した短編小説は、このような作品が多いですね。
・小説読書感想『オツベルと象 宮沢賢治』のんのんびより…労働の闇…謎の■
・小説読書感想『桜の樹の下には 梶井基次郎』桜の美しさ、その影にあるもの
これらも、今回の夢野久作さんの『森の神』とはまた違った意味で、想像力を刺激される短編小説です。じつは、これらについては、ある程度の知識がないと、想像力を喚起させられる読み方までたどり着けないかもしれないので、僕のブログ記事もぜひ参考に読んでいただけたら嬉しいです(さり気ない――いや、がっつり宣伝でした)。
(ここからほとんど余談です)
ところで、オアシスの町といえば、何を思い浮かべますか?
観光地としてのオアシス都市といえば、中国の吐魯番(トルファン)やチュニジアのトズールなどが有名なのでしょうか。ペルーのワカチナというところが人気急上昇となっていますが――写真を見ると確かに絶景、まさに絵に描いたようなオアシス、サンドボードやサンドバギーといったサンドスポーツも楽しめるらしく、楽しそうですね。
しかしてしかし。オアシスの町といえば、僕などはRPGを思い浮かべてしまいます。特にドラクエのイメージが強いです。確かドラクエ3にオアシスありましたよね。DQH(ドラゴンクエストヒーローズ)にもそのまま「オアシスの町」があるようです。
ん。おお、タイムリーなゲームの話題をいま見つけてしまいました。2017年に発売予定のニンテンドー3DS用アクションアドベンチャーRPG「Ever Oasis(仮称)」は、まさに砂漠とオアシスを舞台にしたゲームだとか。『聖剣伝説シリーズ』を手掛けた方(石井浩一さん)が率いるグレッゾというメーカーが開発しているそうで、『聖剣伝説』と聞くと思わず食指が動いてしまいます。狐人的に注目しておきたいところ。
しかし、ちょっと話しを戻しまして、オアシスを潰されて困るのは、きっと旅人も移住者も同じだと考えると――、森の神、お世辞にも心の広い神様とは言えそうにもありませんね。
最後の台詞にしても、
『私はお前たちのためにこの森をこしらえたのではない』
を
『わっ、私はお前たちのためにこの森をこしらえたわけじゃないんだからねっ!』
と言い換えてみると、森の神、ツンデレ美少女なのでは……とか想像してしまい、また別の意味でもこの小説を楽しめそうな気がするのは、はたして僕だけなのでしょうか?
というわけで今回のオチ。
神様だけに女王様型? とか、新説(?)・「森の神ツンデレ説」を唱えてみましたが、いかがでしょうか(いかがでしょうかと言われましても――ですよね)。
ツンデレで思い出したのですが、西尾維新さんの小説『化物語』のヒロイン・戦場ヶ原ひたぎの好きな小説家が、確か夢野久作さんでしたね。ツンデレというか、ツンドラヒロインでしたか。
『文豪ストレイドッグス』の夢野久作さんは可愛い感じのショタ系男の子でしたね……ツンデレ、ではないですよね?
超余談でした。
そんなこんな(?)で、以上、『森の神 夢野久作』の小説読書感想でした。
※
今回のブログ記事に関連付けた漫画
・荒川弘さんの漫画『鋼の錬金術師』
今回のブログ記事に関連付けたゲーム
・『ドラゴンクエストヒーローズ 闇竜と世界樹の城』
・『ドラゴンクエストヒーローズII 双子の王と予言の終わり』
今回のブログ記事に関連付けた小説
・西尾維新さんの小説『化物語』
可愛らしいショタな夢野久作さんが登場する『文豪ストレイドッグス』
※
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
本年もよろしくお願いいたします。
それでは今日はこの辺で。
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