狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『百面相役者/江戸川乱歩』です。
文字数10000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約35分。
百面相役者の変装は本物と全く見分けがつかない。
それは彼が人肉の面を製造し、使っているからではないか……?
整形手術・特殊メイク・CG・VFX・SNOW――
現代の変装を連想!
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
昔の話だ。春先のある日曜日、小学教員をしていた僕は、中学時代の先輩Rを訪ねる。Rは新聞社の編集部に勤めており、怪奇的・猟奇的なものが好きだという、変わった男だ。
Rは「ぜひ君に見せたいものがある」と言い、僕たちは連れ立って××観音に向かう。××観音は東京の浅草のようなところで、境内にはいろいろな見世物小屋や劇場もある。Rはある劇場の看板を指さした。
新帰朝百面相役者××丈出演
探偵奇聞「怪美人」五幕
それは神出鬼没の怪美人が、警官その他の追跡者をまくため、目まぐるしく変装する探偵劇だった。男、女、老人、若者、貴族、市民――とにかく怪美人を演じる百面相役者の変装がじつに見事だ。
例えば老人になったときの顔のしわ。普通は絵具で書くので横から見ればすぐばけの皮が現れる。しかし百面相役者の顔には、本当の肉にちゃんとしわが刻まれている。
劇場を出るともう十時頃だった。僕がお礼を言って別れようとすると、Rは「まだ君に見せたいものがある」――僕は十一時時分にいったい何を……と訝りながらも、Rの家を再び訪れる。
Rが部屋で僕に見せてくれたのは、古い新聞記事のスクラップだった。そこには「またしても首泥棒」の見出しがある。
一年ほど前、あちこちの寺院で遺体盗難事件が相次いで発生した。目撃者の証言によれば、犯人は夜中に墓をあばき、納められた遺体の頭部を切断、いずこかに持ち去ったという。犯人は未だ捕まっていない。
さらにRは一枚の写真を僕に示す。裏には新聞記事に載っている被害者の老人と同じ名前が書かれており、写真をみると、そこには怪美人の芝居で見た百面相役者の変装の一つ――あの老人の顔が写っていた。
Rいわく、写真の老人はRの遠い親戚だという。あの百面相役者こそが首泥棒に違いない。きっとはじめは、民間療法でいうところの万病に効く脳髄の黒焼きが目的だったのが、脳髄以外の部分を有効活用できないかと考え、人肉の面をつくり、変装に使うことを思いつき、いまそれを実行しているのではなかろうか……。
新聞記者でもあるRは、必ず証拠を押さえてやると気炎を上げる。僕もその話に興奮し、二人はその晩深夜まで語り合って別れる。
それから2日後、僕がRを訪問し、例の「人肉の面」について尋ねると――Rは突然笑い出す。
あれは空想の話で、写真は新聞社で取材したときに撮らせてもらった、百面相役者自身の変装姿だよ――Rは僕にネタばらしをするのだった。
狐人的読書感想
百面相役者の正体をあばくため、R先輩は彼の住まいへ侵入する。しかし百面相役者に見つかり捕まってしまうR先輩――『僕』が最後に会ったR先輩は、R先輩の「人肉の面」をかぶった百面相役者だった。
――というオチを想像していたのですが、まさかのドッキリオチ。
さすがは江戸川乱歩さん。すっかり騙されてしまいました。
(しかしてしかし、上記の可能性も残しつつのリドル・ストーリーなんですかね? 百面相役者には声帯模写の技術はないみたいなので、その可能性は低そうですが)
本作『百面相役者』では「変装」ということが大きなテーマとなっています。変装といえば探偵の特技といったイメージはもう古いんですかねえ……なんとなく最近は聞かれないような気がします。
いまは「変装」というよりは「整形」なんですかね。
とくに女性は整形手術を受けることで、希望の顔を手に入れられる時代。コンプレックスだった容貌を変えることで、前向きな人生を歩めるようになったという――ポジティブな話がTVなどでもよく紹介されていたりして、整形に抵抗がある(これももはや古い考え?)、という印象は、以前よりだいぶ薄らいでいるのかもしれませんね。
映像技術でいえば「特殊メイク」がもう実物と見分けがつかないレベルに達していて、こちらのほうが「変装」というイメージには近いように思います。
ほかにもCGやVFXなどを「変装」というワードから連想しますが、最近は『SNOW』というアプリも流行っているらしく、「盛れる」とか「SNOW詐欺」とかいう言葉もSNSなどでよく目にします(インスタ映え!)。
つらつら書いてきましたが、いったい何が言いたかったのか、といえば、小説に「変装」を現代風に取り入れるのならば、どういったものがいいのかな、と考えてみた――というお話でした。
『SNOW』はうまいトリックさえ思いつければ、真新しさはあるかと考えるのですが、まあ問題はすごいトリックを思いつけるか、ということなんですよね……。
じっくり考えてみたいテーマです。
読書感想まとめ
「整形手術」「特殊メイク」「CG」「VFX」「SNOW」――「変装」というテーマをいかにして現代の小説に取り入れるかを考えてみておもしろかった。
狐人的読書メモ
「僕」は上の学校に進むために小学教員で稼いでいた。いまは大学まで行かせてもらえるのが当たり前になっているが、それを当たり前だと考えてしまう思考は見直したいと思った。
『この世界が何かこうドロドロした血みどろのもので、みたされている様な気がし出したものだ』
――R先輩も「僕」も怪奇的・猟奇的なものに強く惹かれている。最近でも『進撃の巨人』や『東京グール』といった漫画が流行っていたりもする。古代ローマのコロッセオしかり。昔から現代にいたるまで、人はグロテスクに惹かれる。創作においていかにそれを取り入れるのかが重要なように思えるのだが、人に受け入れられるレベルのバランスが難しく感じる今日この頃。
・『百面相役者/江戸川乱歩』の概要
1925年(大正14年)7月15日、25日『写真報知』にて初出。「変装」をテーマにしたミステリー。オチについてはリドル・ストーリーを思わせるが、おそらくはそのまま受け入れてよいのだと思われる。
以上、『百面相役者/江戸川乱歩』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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