貨幣/太宰治=狐人の読書感想は「苦しいときほど人にやさしくなりたい」(百円紙幣萌え?)

シェアよろしくお願いいたします!

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

百円紙幣今回は『貨幣/太宰治』です。

太宰治 さんの『貨幣』は、文字数5800字ほどの短編小説です。擬人化貨幣(女性)が戦時日本人を切る! 現代日本人も他人事ではない? 未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

異国語においては、名詞にそれぞれ男女の性別あり。
然して、貨幣を女性名詞とす。

私は、七七八五一号の百円紙幣です。あなたの財布の中の百円紙幣をちょっと調べてみて下さいまし。

……百円紙幣である「私」の自己紹介から物語は始まる。なぜ「私」は「あなたの財布の中の百円紙幣をちょっと調べてみて下さいまし」と尋ねるのか――自分の居場所くらい分かりそうなものだが……。

疲れた子犬のビーグルそれが分からないほどに、「私」はくたくたのぼろぼろに疲れ果てている。大銀行の窓口から出て、若い大工、そのおかみさん、質屋、医学生……と、6年間、日本全国を旅するうちに、しわくちゃのみすぼらしい姿になってしまった。

百円紙幣である「私」は、人々の手から手へとを渡りながら、さまざまな物事を見てきた。

地獄絵図戦時の日本。「私」を手にする浅ましい人たち、「私」が手渡されるときのむごい会話、欲にまみれた目的――本来人は互いに助け合うもの、それなのに、罵り合い、騙し合い、押し倒し押し倒され……、誰も彼もが自分のことしか考えていない。それはまるで地獄絵図を見せられているかのような光景だった。

しかし、そんななかでも、「私」には忘れられない楽しい思い出があると言う。

それは空襲のあった夜のこと、「私」はとある陸軍大尉のポケットの中にねじ込まれていた。大尉は薄汚い小料理屋の二階で酒を飲んでいた。酒癖が悪く、お酌する女を「お前は狐だ」と言って口汚く罵っていた。果ては階下で泣き出す女の赤子にまで文句をつける始末……、女もとうとう堪忍袋の緒が切れて、大尉にこう言い返す。

「狐がどうしたっていうんだい。いやなら来なけれあいいじゃないか。いまの日本で、こうして酒を飲んで女にふざけているのは、お前たちだけだよ。お前の給料は、どこから出てるんだ。考えても見ろ。あたしたちの稼ぎの大半は、おかみに差し上げているんだ。おかみはその金をお前たちにやって、こうして料理屋で飲ませているんだ。馬鹿にするな。女だもの、子供だって出来るさ。いま乳呑児をかかえている女は、どんなにつらい思いをしているか、お前たちにはわかるまい。あたしたちの乳房からはもう、一滴の乳も出ないんだよ。からの乳房をピチャピチャ吸って、いや、もうこのごろは吸う力さえないんだ。ああ、そうだよ、狐の子だよ。あごがとがって、皺だらけの顔で一日中ヒイヒイ泣いているんだ。見せてあげましょうかね。それでも、あたしたちは我慢しているんだ。それをお前たちは、なんだい」

言いかけたとき、いよいよ空襲が始まる。大尉は酔いつぶれてふらふらで、まともに歩くこともできない。お酌の女は素早く階下の赤子をおぶり、大尉を抱き上げるように歩かせて逃げる。

人間の職業の中で最も下等な商売と蔑まれる彼女が、欲も虚栄もなく、ただ目の前の酔いどれ客を救おうとする姿に、「私」は心打たれる。

どうにか火の手を逃れ、力尽き、畑で居眠りをしているお酌の女に、目覚めた大尉は救われたのだと気づく。狼狽えてその場を離れようとする。しかしすぐに引き返してきて、「私」を含む6枚の百円紙幣を二つに折って、赤子の肌着に押し込んでから去る。

赤子のかさかさの痩せた肌に触れながら、「私」は仲間の紙幣に言う。

「こんないいところはほかにないわ。あたしたちは仕合せだわ。いつまでもここにいて、この赤ちゃんの背中をあたため、ふとらせてあげたいわ」

みんな黙って頷いた。

母と赤子

狐人的読書感想

いかがでしたでしょうか。

思わず、財布の中の百円紙幣をちょっと調べてみようとしてしまいそうになりましたが……、百円紙幣は持っていない(てか実物を見たことさえない)、てか僕の財布貨幣少ない!

――という方がほとんどではないかと思うのですが、どうでしょうか? 財布の中に貨幣少ないのは僕だけかもしれませんが(そもそも調べてみようと思わない?)。

(ちなみに百円紙幣は、法的には現在でも使えるそうで、さらに高価買取してもらえるものもあるのだとか、調べてみて損はないかも?)

しかしながら、こう思わされてしまうほど、擬人化された百円紙幣「私」のキャラクターがいい! と思ったのは、きっと僕だけではないはず(きっと)。

実在の艦艇を擬人化して大ヒットした『艦隊これくしょん -艦これ-』や、刀や槍を擬人化した『刀剣乱舞』などのゲームを中心にして、文豪をイケメン化した漫画『文豪ストレイドッグス』など、近年は、萌え擬人化ブームが訪れて久しいわけですが、ひょっとすると太宰治 さんの『貨幣』を読んで、「擬人化って結構昔からあるんだなあ」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

[まとめ買い] 艦隊これくしょん -艦これ- アンソロジーコミック 横須賀鎮守府編(ファミ通クリアコミックス)[まとめ買い] 文豪ストレイドッグス(角川コミックス・エース)

 

 

 

 

かくいう僕も、最近までそのことをあまり意識していませんでした(思えば、夏目漱石 さんの『吾輩は猫である』など、有名な擬人化作品が昔からあったわけなのですが)。

僕の中で、太宰治 さんと夢野久作 さんは、擬人化小説の大家的な印象を持ち始めている今日この頃なのですが――興味のある方は、以下の作品もぜひ読んでいただきたいところです(なお以下のブログ記事の方では、擬人化の歴史は古代の壁画にまで遡る、といった話なんかもしているので、こちらもぜひ!)

きのこ会議/夢野久作=キノコ擬人化図鑑 アニメ化! きのこブーム再び?
小説読書感想『失敗園 太宰治』萌え擬人化! 可愛い野菜達の愚痴ツイート!
小説読書感想『懐中時計 夢野久作』1分で読…てかこのブログで読める!

さて、太宰治 さんの『貨幣』ですが、これは非常に分かりやすい小説だと思います。感動ポイントが明白ですよね。その部分を強調するように、百円紙幣の「私」が語ってくれているわけですから。

すなわち、戦時の苦しい日本、誰もが自分と、あるいは家族のことしか考えられず、互いに罵り合い、騙し合い、押し倒し押し倒されする地獄絵図のような世の中で、下賤な仕事と蔑まれながらも、懸命に生きようとしている小料理屋のお酌の女とその赤子――そして、そんな彼女が、つい今まで自分を罵倒していた酔いどれ大尉を、自分たちの命も危うい中助けようとする姿に、百円紙幣でなくとも、いや人間だからこそ、心打たれるのは当然のように思います。

ダンボ人の世の嫌な部分を見過ぎてしまったがために、厭世家ぎみの百円紙幣が語るからこそ、その感動も際立っているように感じました。

あらすじの最後に引用した百円紙幣の言葉がとてもいいですよね。人の世に絶望し疲れ果てていても、心の奥底にはやはり人の心を持っている証左なのだといえます(ただし、いつまでも赤ちゃんの背中にいては、赤ちゃんをふとらせてあげることはできないよ、といったツッコミも聞こえてきそうではありますが……)。

太宰治 さんの『貨幣』という小説は、1946年(昭和21年)2月1日に発行された『婦人朝日』で発表されました。

1946年といえば、第二次世界大戦終戦の翌年ということになります。そして太宰治 さんが自ら命を絶たれたのが、1948年(昭和23年)6月13日のことですから、『貨幣』を書かれてからおよそ2年後ということになります。

太宰治 さんは、この百円紙幣に自身を投影していたのではないかなあ、と感じた人は、きっと僕だけではないのではないでしょうか?

以前の読書感想でも、何度か述べてきましたが、人は、自分がつらいとき、苦しいときほど、他者にやさしくするということが難しくなります。

(以下、自分がつらいとき、苦しいときほど、人にやさしくできる人間になりたい! と思わされた小説)

小説読書感想『蜘蛛の糸 芥川龍之介』カンダタとスパイダーマンとスパイバー
小説読書感想『羅生門 芥川龍之介』テストに出るはエゴ!黒獣は出ない?
小説読書感想『カラフル』ラッキー・ソウル!転生もの?
小説読書感想『月の影 影の海』(十二国記)もっと早くに読んでいたら……

小料理屋のお酌の女は、僕にとっては人間の理想像を体現していて、太宰治 さんにとってもそうだったのかもしれないと、そう思いました。

じつはあらすじでは触れませんでしたが、「私」を手にした人々の一人、医学生は、瀬戸内海に身投げしています。そのときのことを「私」は、「その医学生に捨てられました」と語っています。ここにも自身の心情を投影しているのでは……、と思わされる部分があります。医学生(男)が亡くなり、百円紙幣の「私」(女性)が残された……実際の太宰治 さんの場合とは、ここが逆転している。この部分に、太宰治 さんの後悔、自責の念、あるいは「なんで俺だけ残して……」といったような思いが込められているのでは――と考えてしまうのは、深読みのしすぎでしょうか。

とかなんとか。

お金の使い方とか、人間としての在り方とかいったことを、考えさせられてしまった小説が、太宰治 さんの『貨幣』なのでした。

決して戦時下の日本に限った話ではなくて、現代の日本においても十分通用するお話! ぜひご一読あれ!

狐人的読書メモ

太宰治 さんの『貨幣』は、読んでいて難しい部分はありませんでした。なので今回メモは少なめ。

・『貨幣/太宰治』の概要。

1946年(昭和21年)2月1日に発行された『婦人朝日』で発表された短編小説。百円紙幣の目で、戦前、戦時の日本人を書いている。戦前と戦後にかけての時代背景を風刺的に、あるいは寓意的に描く。また戦前の価値観の崩壊、それに代わる戦後の新たな秩序への期待が込められている、ともいわれている。

・登場人物、医学生について

狐人的には、明らかに太宰治 さん自身をモチーフにしていると思われますが、そう解釈できる資料をネット上で見つけられず。『CiNii Articles』にらしき論文があるも、オープンアクセスではなかった。できれば継続調査したいところ。

・太宰治 さんの女性観?

私はこれまで、いろんな闇屋から闇屋へ渡り歩いて来ましたが、どうも女の闇屋のほうが、男の闇屋よりも私を二倍にも有効に使うようでございました。女の慾というものは、男の慾よりもさらに徹底してあさましく、すさまじいところがあるようでございます。

太宰治 さんの女性観の表れ? ――と思って読むとおもしろい。

・モチーフとしての「狐」

影絵のキツネの手をした少女どうでもいいことですが、太宰治 さんの『貨幣』には、「狐」の単語が出てきました。偶然、前回ブログ記事(⇒『運/芥川龍之介=狐人的感想は「答えのない問題」の狐人的回答(みなみけの夏奈がヒントをくれた?)』)の芥川龍之介 さんの『運』にも「狐」の単語が出ていて、他にも「狐」がモチーフとして登場する小説は多い――意外とモチーフにしやすい狐? と狐人的には思ったというだけの話。

以上、『貨幣/太宰治』の読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

(▼こちらもぜひぜひお願いします!▼)
【140字の小説クイズ!元ネタのタイトルな~んだ?】

トップページ

※オリジナル小説は、【狐人小説】へ。
※日々のつれづれは、【狐人日記】へ。
※ネット小説雑学等、【狐人雑学】へ。
※おすすめの小説の、【読書感想】へ。
※4択クイズ回答は、【4択回答】へ。

シェアよろしくお願いいたします!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です