幼い頃の記憶/泉鏡花=ボーイ・ミーツ・ガール的運命論とACについて。

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

幼い頃の記憶-泉鏡花-イメージ

今回は『幼い頃の記憶/泉鏡花』です。

文字数2000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約8分。

少女との出会い……それは前世の記憶か、ただの夢か……
だけどいつか、たしかに会えるって、信じてる……
え、新海誠監督の『君の名は。』?
いいえ、泉鏡花先生の『幼い頃の記憶』です。

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

人の印象についての記憶は、子供のときのものほど鮮明だ。大人になるとなかなか記憶に留まらない。私にはいまでも忘れられない一人の女がいる。

私は五歳くらいのとき、母と一緒に乗った船上でその女を見た。十七歳くらいだと覚えているが、着物は派手な友禅縮緬ゆうぜんちりめん――その柄からして十二、三、あるいは十四、五だったのかもしれない。美人で、淋しい顔立ちの女だった。

船上では、人々がにぎやかに笑ったり話したりしているのに……その女だけが一人ものにされているように幼い私には見えた。

私はその女の前に行って立った。女が何か言ってくれるだろうと思った。が、女は何も言わなかった。私は泣き出してしまい、すぐに母の膝に帰った。

もしかすると、これは前世の記憶かもしれないし、幼い頃に見たただの夢なのかもしれない。だが現実に見た記憶のように、いまも私の中に残っている。

もしもこれが前世の記憶ならば、私と女はまたどこかで出会うような気がしている。十年後か、二十年後か、たしかに会えると信じている。

狐人的読書感想

妙にハッキリと残っている「幼い頃の記憶」、一人の美しい少女の姿、それはひょっとしたら前世の記憶で、輪廻の中でまたいつか出会えるかもしれない、いや、たしかに会えると信じてる――って、やっぱりロマンチストですねえ、泉鏡花さんは。

こうした「運命を感じさせる女性の幻影」みたいなモチーフは、泉鏡花さんの他作にもたびたび見られるように思います(『霰ふる』とか)。

「ボーイ・ミーツ・ガール」といえば、いまや小説、映画、漫画、アニメ、ゲーム、ラノベ……物語の典型的な形式のひとつとなっていますよね(最近ではやっぱり新海誠監督の『君の名は。』を思い浮かべてしまいますが)。

泉鏡花さんも「ボーイ・ミーツ・ガール」に強い憧れを抱いていたんですかねえ……、(あるいは本当に本作にあるような記憶をお持ちだったのかもしれません)興味深いところです。

ところで、「幼い頃の記憶」って、覚えていますか?

なんでも人間は4、5歳くらいから記憶があるのが普通だといわれているそうですが、まあ、ほとんど覚えていないというのが一般的で、しかしそれ以前の記憶からけっこうハッキリと覚えている人もいるのだそうです。

また反対に「幼い頃の記憶」をまったく覚えていないという人もいて、じつはこの「まったく」覚えていないというのは精神的な問題である場合もあるといいます。

それというのも、記憶の定着にはエンドルフィンという脳内物質が関係しているらしく、これは脳内麻薬と呼ばれるように、人に多幸感をもたらすものとして知られているからです。

すなわち、「幼い頃の記憶」がハッキリと残っている人は、その人の記憶力が優れている可能性もありますが、幸せで充足した幼少期を過ごしていたから、ということも一因として考えられるんだそうです。

逆にいうと、「幼い頃の記憶」をまったく覚えていない人は、幼少期にトラウマを抱えている人も少なくなくて、そのトラウマと一緒に「幼い頃の記憶」を封印してる場合があるんだとか。

大人になっても幼少期のトラウマを潜在的に抱えていて、人生にある種の「生きにくさ」みたいなものを感じている人を「アダルトチルドレン」(AC)とか呼んだりします。

正しいと思われることに疑いを持ったり、物事をやりとげることが難しかったり、本当のことを言えるときでも嘘をついてしまったり、自己批判が激しかったり、何事においても心から楽しめなかったり、自分のことを深刻に考え過ぎてしまったり、他者とどうしても密接な関係を築けなかったり、自分がコントロールできない物事に過剰反応してしまったり、承認欲求や褒められたい気持ちが強かったり、自分は人とは違うと思っていたり、過剰に責任感が強くなったり無責任になったり、無価値なものへの執着が捨てられなかったり、衝動的で一つのことに猪突猛進してしまったり――これらはアダルトチルドレンの特徴で、多くあてはまるとアダルトチルドレンである恐れがあるといいます。

ただし、アダルトチルドレンは病気ではなく、しかし人生を生きにくくしているものではあるので、カウンセリング、自己啓発、あるいは読書など、克服しようと努めるのも悪いことではありません――ということが『幼い頃の記憶』というワードから検索しているうちに知ることができて、とても勉強になりましたという、なんの話だよ!?

――な読書感想(?)でした。

読書感想まとめ

・「ボーイ・ミーツ・ガール」という運命論
・「幼い頃の記憶」にまつわる「アダルトチルドレン」という雑学

狐人的読書メモ

子供の頃の記憶のほうがより鮮明だという部分。子供は人生経験が少ないため、何事をも新鮮な気持ちで見ることができ、だから子供の頃に過ごした時間は大人になってから過ごす同じ長さの時間よりも長く感じられるという。

大人になると時間があっという間に過ぎてしまう、というのはこのことに起因しているらしい。

慣れや飽きを極力感じないように、いつも新鮮な体験を追い求めることが、充実して長く感じられる人生を生きるためのコツである、という、なんの話だよ!?(パート2)

・『幼い頃の記憶/泉鏡花』の概要。

1912年(明治45年)4月『新文壇 第7巻第2号』にて初出。『文豪怪談傑作選 泉鏡花集 黒壁』(ちくま文庫)収録。他作にも見られる「ボーイ・ミーツ・ガール」的運命論。泉鏡花のロマンチストぶりが垣間見られる作品。

以上、『幼い頃の記憶/泉鏡花』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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