狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『白へび/グリム童話』です。
文字数3600字ほどのグリム童話。
狐人的読書時間は約12分。
白蛇を食べると動物の言葉を理解できるイリーガルな能力!
情けは人の為ならず、私が好きな人を変えてみせる、
という人生の教訓!
神が恐れた命の樹の実をあっさり食べる衝撃的結末!
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
昔、知恵のある王がいた。この王には奇妙な習慣があった。毎日夕食後一人になり、ある料理を食べるのだが、その中身は誰も知らない。
ある日料理を運ぶ家来が、好奇心を抑え切れずに皿のふたを持ち上げてみると、そこには一匹の白い蛇が、切り身となってのっていた。家来はその切り身を一切れ食べた。すると動物たちの言葉を理解する能力が身についた。
妃の指輪が失くなり、この家来に疑いがかかった。家来は明日までに疑いを晴らすよう王に命じられる。家来が困っていると、小川のアヒルが妃の指輪を飲み込んでしまったとおしゃべりしている。
家来はアヒルを捕まえて料理人のもとへ――指輪は無事に見つかり、王は疑いをかけた償いに、家来の望みを何でも叶えようと言う。家来は馬と金をもらい、世界を旅する許可を得る。
彼は池で三匹の魚が葦にからまっているのを助けた。魚はいつかお礼をすることを家来に約束する。
彼は道でアリの王の呟きを聞く。人間や馬はどうして私たちをよけて動けないんだ? 彼は馬を道のわきによけて進んだ。するとアリの王は「あなたを覚えていよう、情けは人の為ならず」と彼に向かって叫んだ。
彼は森で巣から追い出された三羽の仔ガラスに出会った。途方に暮れて泣いている仔ガラスたちに、彼は自分の馬をつぶして与えた。仔ガラスたちは「私たちはあなたを覚えているでしょう、情けは人の為ならず」と叫んだ。
やがて彼はある大きな町に辿り着き、王が娘の結婚相手を募集していることを知った。姫と結婚するには、王の課す試練をクリアせねばならず、まだ誰も成功しておらず、命を落とす者もあるという。しかし彼は姫の美しさに魅了され、さっそく求婚者として申し出る。
海に案内された彼は、投げ込まれた金の指輪を探してくるよう命じられた。すると三匹の魚がやってきて、その金の指輪を彼にわたす。
高慢な姫は身分違いの結婚が納得できず、十袋の粟粒を庭にばらまき、明日の日の出までにすべて拾い集めなければならないと、無理難題を彼にふっかける。するとアリの王が何千というアリを従えて、すべての粟粒を一夜のうちに集めてくれる。
姫はさらに、生命の樹からりんごをとってくるよう彼に命じる。彼は三つの王国をさまよったが生命の樹は見つからない。すると三羽のカラスが飛んできて、生命の樹のりんごを落としてくれた。
彼と姫が生命の樹のりんごを二つに分けて一緒に食べると、姫の心は彼への愛でいっぱいになり、二人はいつまでも幸せに暮らした。
狐人的読書感想
狐人的に最近は蛇にまつわる読書が続いています。今回の物語では、食べると動物の言葉を理解できるようになるという白蛇が、一種のアイテム的な存在として描かれていることに興味を覚えます。
蛇といえば、美女に化けて大洪水を起こす怪異だったり、あるいは脱皮する様子から生まれ変わりを連想させて、再生や不老不死の象徴だったりしますよね。
アダムとイブが知恵の木の実を食べたのも、蛇がイブを誘惑したからであって、本作でも「動物の言葉が理解できる能力=知恵」とし、「知恵の木の実=蛇」という同一視からの、白蛇のアイテム的設定なのかな、とか考えてみると、けっこうおもしろく感じられるのですよね。
でも、王様が毎日食べていたことから、白蛇を食べることで得られる能力は一時的なものなのかと思いきや、家来の彼は一切れ食べただけでずっとその能力を持ち続けているんですよね……王様がそのことを検証していなかったとは思えず、能力の持続時間に個人差があるのか……童話の設定を真剣に考えてしまいました。
ともあれ「動物の言葉が理解できる能力」を手に入れた家来の彼は、王様がくれる望みのものも宮廷での地位も捨てて旅に出るわけですが、これはいずれ能力を使って自分が一国の主になれるという自信と打算からだったのか、それとも無断で白蛇を食べたことがバレる前に逃げ出したのか……どう思います?
動物たちに恩を売って歩いていたのも将来を見越してのことだったのかと思えば、なかなかの策士という印象を拭えないのは、やっぱりひねくれものの僕だけなのでしょうかね?
ところで、アリの王様と仔ガラスたちが叫んでいた「情けは人の為ならず」についてですが、どうしてもはじめに「情けをかけるのは結局その人の為にならない」という意味でとらえてしまい、まさか恩を仇で返すみたいなことを言っているんだろうか……、などと勘繰ってしまうのですが、この意味じつは誤用なんですよね。
正しくは「情けは人の為ばかりではなく、巡り巡って自分に返ってくるから、人には親切にしましょう」という意味なので、まさにそのとおりになっているといえます。
「情けは人の為ならず」はひとつこの物語の大きな教訓だといえるでしょう。
もうひとつ、家来の彼が高慢なお姫様を好きになっちゃうシーンです。お姫様の美しさばかりに目を奪われてしまう彼も彼ですが、身分が違うから結婚したくないというお姫様も、まあ気持ちはわからなくはないのですが、魅力的なキャラクターだとは言いがたいんですよね。
しかし最後には、お姫様は彼を愛するようになり、これを彼の献身の成果だととらえるのならば、とてもすてきな教訓のように思えました。
坂口安吾さんの『戦争と一人の女』で、遊び好きの女が男に「どうして私をよくしようとはしてくれないの?」みたいに訴えるところがあるのですが、「好きなひとをもっと好きになれるように私が変えてやる!」みたいなことって、普段なかなか考えないことなんじゃないかなと思えるんですよね。
売れない芸人の奥さんが「私が夫を支えて成功させてみせる!」みたいなことなんですかね……こういった気持ちもひとつ人生の教訓になるんじゃなかろうか、などという気がしました。
とはいえ、変えてやると思うような相手を好きになったり、好きになった相手の悪いところを変えてやるってなること自体が、少ないように思えますがはたして……。
最後は狐人的には衝撃的なオチでしたね。
まさか、神がアダムとイブがそれをすることを、二人を追放するほどに恐れていた、生命の樹の実を食べるという行為を、いともあっさりと彼とお姫様がしてしまうとは……。
まあ「寿命をまっとうした」とあるので、聖書の生命の樹の実とは別物だったのだとは推測できるのですが。
衝撃的を通りこして、笑劇的なオチでした、というのが今回の読書感想の苦笑劇的なオチです。
読書感想まとめ
・『白へび』という名のスキルアイテム。
・情けは人の為ならず。
・私が好きなひとを変えてみせる!
狐人的読書メモ
彼のやさしさにも人間のエゴが垣間見られて興味深い。たとえば、三羽の仔ガラスを助けるために旅の相棒であった馬をあっさりとつぶしてしまったり。アヒルも金の指輪を吐き出させるだけでよかったんじゃないの? という気がしてしまう。結局人間がやさしさを示せる相手には優先順位と限りがあり、それは優先されなかった者から見ればやさしさとはなりえず、やさしさとはただのエゴだと感じる。
芥川龍之介の『桃太郎』でもヤタガラスが桃の実を落とすトリックスター的な存在として描かれていた。本作『白へび』でも三羽のカラスが生命の木のりんごを主人公に落としている。カラスは何かをもたらす存在として、古今東西描かれているのだろうか?
・『白へび/グリム童話』の概要
KHM 17。RPG的な白蛇のスキルアイテム設定。情けは人の為ならず、好きなひとを変えてみせる、という教訓。衝撃的、笑劇的、苦笑劇的なオチ。
以上、『白へび/グリム童話』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
(▼こちらもぜひぜひお願いします!▼)
【140字の小説クイズ!元ネタのタイトルな~んだ?】
※オリジナル小説は、【狐人小説】へ。
※日々のつれづれは、【狐人日記】へ。
※ネット小説雑学等、【狐人雑学】へ。
※おすすめの小説の、【読書感想】へ。
※4択クイズ回答は、【4択回答】へ。
コメント