狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『髪切虫/夢野久作』です。
文字数5000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約14分。
エジプト女王クレオパトラは
(何不自由ない暮らしものたりねー)
って思った。
そんで
「髪切虫に生まれ変わったら恋を探しに行こう!」
ってなった。
髪切虫は人間に捕まってとりま標本にされた。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
夜。桐畠の片隅の、太い枝の分かれ目に、一匹の髪切虫がしがみつき、悪魔気分でソロソロと、長い触角を動かしはじめる。
すると髪切虫の触角は、超宇宙的、超空間的の無限の波動(イーサーの霊動)を感じ取る。
それはナイル河底の冥府の法廷で、いまから二千年前に記録係のトートの神が読上げた、神秘的な詩だった。
それはエジプトの女王クレオパトラについて謳われたもので、クレオパトラは何不自由ない生活に、何かむなしさのようなものを感じており、寝所に迷い込んできた一匹の髪切虫をおもしろく思う。
そして、もしも生まれ変わるのならば髪切虫となり、恋を探し、卵をたくさん産んで、かわいい子供をウジャウジャまき散らし、世界中の女の髪を全部食べて、一人残らずクルクル坊主にしてしまわなければ――と愉快に空想を膨らませる。
イーサーの霊動を受けた髪切虫は感激にふるえ上がる。自分はエジプト女王クレオパトラの生まれ変わりなのか。それとも女王様の棺の中に秘め置かれた髪切虫か。しかしそんなことはどうでもいい。
髪切虫はさっそく恋を探して動きはじめる。が、恋とはいったいどんなものだろう? ふと、国道の向こうに神秘の光を見た。髪切虫は桃色の光に誘われるまま、一直線に飛んでいくのであった。
「あ、お父様……誘蛾燈に髪切虫が来ましたよ」
「ふむ。これは珍しい。三千年前のツタンカーメンの墓の中から出てきた実物のミイラに似ている……もうこの世界から絶滅している種類だと聞いているのに……とりま標本にしておこうか」
狐人的読書感想
宇宙という壮大なスケール、古代エジプトの神秘、ニュートンの万有引力からのアインシュタインの量子論を超越したイーサーの霊動というSFやオカルトチックな雰囲気の中、主人公はちっぽけな一匹の髪切虫です。
この髪切虫は自分をクレオパトラの生まれ変わりかも……と思い、前世では叶わなかった自由な生活をしようと、まずは恋を求めて飛び立ちますが、桃色の誘蛾灯に誘われ、人間に捕まり、標本にされてしまうという――
期待を裏切らない、夢野久作さん安定のこのオチがけっこう好きなんですが、どうでしょうね?(笑えない?)
エジプトの女王だったクレオパトラの苦悩――持つがゆえの渇望、不自由に感じられる現今の生へのむなしさ……言ってることはわかるのですが、実感はしにくいんですよね……持てる者の悩みって。
けっこう安易に「生まれ変わったら髪切虫になって、恋をして子供をたくさん産んで、世界中の女の髪を食べて、みんなクルクル坊主にしてやる!」なんて考えていますが、そんな簡単で愉快なものじゃないだろ、生きるって、なんて言ってやりたくなってしまいますね。
案の定、意気揚々恋を探しに飛び立っていった髪切虫は、人間に捕まって標本にされてしまいます。
これはブラックユーモアだといえるでしょうし、皮肉的な教訓を含んでいるようにも感じられるんですよね。
どんな人生であっても、一度きりの人生、楽しまなきゃ損なわけで、悲観して悠々自適な来世を夢見ても、決してそのとおりになるとは限らない――みたいな感じでしょうか?
身につまされる思いがします。
エジプトやクレオパトラ、あるいはツタンカーメン――髪切虫とどんな関連性があるのかが気になりました。
調べてみたのですが、髪切虫との関連性は見当たりません。
ただ、スカベラという甲虫(和名ではフンコロガシ)が、古代エジプトでは太陽神ケプリと同一視されていたらしく、再生や復活の象徴として崇められており、実際にクレオパトラやツタンカーメンの首飾りなどの装身具、そのモチーフとして使われていたようです。
これを夢野久作さんは髪切虫として描いているようですね。
髪切虫の長い触角はたしかに悪魔的で、どこか惹かれる見た目ではあります。「髪を切る虫」で髪切虫という名前の由来も、思えば考えたことすらなかったので、とても興味深く勉強になりました。
宇宙の霊波動を感じられるという点は、たしかにちょっとSF小説のモチーフに使えそうな気がします(いま具体的には何も思い浮かびませんが)。
「イーサーの霊動」にも興味を持ったのですが、調べてみてもこれがいったいなんなのか、まったくわかりませんでした。新興宗教とかでいろいろいわれていそうですけどね……夢野久作さんのオリジナル? 何かモチーフがあったのか? また気が向いたら調べてみたいと思います(あるいは知っている方いらっしゃればご教示ください)。
読書感想まとめ
どんな人生でも、たった一度きりの人生、楽しまなきゃ損!損!
狐人的読書メモ
髪切虫の触角は、あらゆる感覚を一つに集めた全生命そのものである。あまり詳しくは調べなかったのだけれども、『M.O.手術』的な凄さを感じた。
・『髪切虫/夢野久作』の概要
1936年(昭和11年)『ぷろふいる』にて初出。自然科学的な知と呪術性(一連の猟奇歌の拡大的世界)とがせめぎあう一篇とされているが、そのあたりはあまり感じられなかった。
以上、『髪切虫/夢野久作』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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