小説読書感想『悪妻論 坂口安吾』あなたは良妻?良夫?悪妻?悪夫?だけど…

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。
(「『狐人』の由来」と「初めまして」のご挨拶はこちら⇒狐人日記 その1 「皆もすなるブログといふものを…」&「『狐人』の由来」

今回は坂口安吾さんの『悪妻論』について書いてみようと思います。

うーむ……、『悪妻論』ですか……、『悪妻論』、『悪妻論』……、

「悪・妻・論(悪・即・斬)!」

……『るろうに剣心』の斎藤一風に言ってみましたが、このタイトルだけで、どう考えても僕には荷が勝ち過ぎる(だったらどうして『悪妻論』を選ぶ?)という話なのですが、読んでしまったからには何か書いてみようかな、といったわけなのです。

頑張ってみたいと思います。

『悪妻論』は、著者・坂口安吾さんの友人・平野謙さんが、両手を包帯でぐるぐる巻きにして現れた、というところから始まります。聞けば平野謙さんは、自分の奥さんに『肉がえぐられる深傷』を負わされてしまったのだそう。

平野謙さんは奥さんを叩いたことすらない沈着な性格――いったい何がどうしてこんなことになってしまったのか? 気になるところではありますが、そのことは、この『悪妻論』では一切語られません。『悪妻論』は、坂口安吾さんが、奥さんに深傷を負わされてしまったこの平野謙さんの様子を見て、「良き妻とは如何なるものか?」と、考えたことをつらつら述べていく、といった内容になっています。

しかしながら坂口安吾さん、奥さんに深傷を負わされてしまったこの平野謙さんを以下のように言い表しているのですが……、

『わが平野謙の如く、戦争をその残酷なる流血の故に呪い憎んでいても、その女房を戦争犯罪人などとは言わず惜しみなくホータイをまいて満足しているから、さすがに文学者、沈着深遠、深く物の実体を究め、かりそめにも世の型の如きもので省察をにぶらせることがない。偉大! かくあるべし。』

夫婦関係と戦争を結び付けて語るあたり、かなりの理屈屋という気がします。『ハンター×ハンター』のヒソカが考えたオーラ別性格分析で言えば、「操作系」になるんですかねえ。「特質系」という気もしますが――、完全なる余談でした。

ともあれ、奥さんに深傷を負わされてしまった平野謙さんですが、はたしてどんな様子だったのかといえば、上の引用の通り、なんと満足しているではありませんか! ……Mなんですかねえ、平野謙さんは。ドMなんですかねえ……ともかく、そんな友人の姿を見て、坂口安吾さんは『偉大! かくあるべし』と言っています。ドMとは言っていません(しつこし?)。

さて。坂口安吾さんは、『肉がえぐられる深傷』を負わされても、奥さんを咎めない優しい良夫として、平野謙さんを褒め称えているのかと思いきや、そうではありません。少々やりすぎの感はあれど、夫に反抗して見せた妻の態度に、平野謙さんが満足している、といった点を高く評価しているみたいです。

言い換えるなら、夫に逆らって見せた平野謙さんの奥さんを「良妻」だと言っています。普通なら、夫に深傷を負わせてしまうような奥さんは、「悪妻」と罵られてしまいそうなものですが……。

坂口安吾さん曰く、

『彼女らは、姑に仕え、子を育て、主として、男の親に孝に、わが子に忠に、亭主そのものへの愛情に就てはハレモノにさわるように遠慮深く教育訓練されている。』
『女大学の訓練を受けたモハンの女房が良妻であるか、そして、左様な良妻に対比して、日本的な悪妻の型や見本があるなら、私はむしろ悪妻の型の方を良妻也と断ずる。』

というわけです。

つまり日本の女性は、夫や姑や子供に対し従順に仕えるけれど、従順なだけの女性には魅力がない。魅力のない女性はたとえ「良妻」であっても「愛妻」とはなり得ず、なれば魅力的な「悪妻」の方をこそ「良妻」と言いたい。

うーん……。

言いたいことは分からなくもない、という気がします。これはとても現代的な考え方だと言えるのではないでしょうか? それを証拠に現代では、夫の言うことにただただ黙って従順に従う妻、といったような夫婦の形態は少なくなっていますよね。どうでしょう? 奥さんは? あるいはお母さんはどうですか? さらに、現代の男性は、どういった女性をパートナーとして求めているのでしょうね。完璧な妻を演じられる女性なのか、あるいは自分というものをはっきりと主張する女性なのか――、考えさせられてしまいました。

ともあれ、坂口安吾さんはなかなか先進的な物の見方をする人だったようですね。さすが文豪と呼ばれる人は違います。

現代人の視点からすると、ここまではさほど意見が分かれずに、すんなり受け入れられる論調なのではないかな、と僕は感じました。(特に男性と女性で)ちょっと意見が分かれそうだと思ったのは、ここからでした。

『遊ぶことの好きな女は、魅力があるにきまってる。多情淫奔ではいささか迷惑するけれども、迷惑、不安、懊悩、大いに苦しめられても、それでも良妻よりはいい。』
『人はなんでも平和を愛せばいいと思うなら大間違い、平和、平静、平安、私は然し、そんなものは好きではない。不安、苦しみ、悲しみ、そういうものの方が私は好きだ。』
『夫婦は愛し合うと共に憎み合うのが当然であり、かかる憎しみを怖れてはならぬ。』
『魅力のない女は、これはもう、決定的に悪妻なのである』

これらは妻の浮気を肯定しているようにも受け取れますよね。つまり、夫・妻の区別なく、浮気は大目に見るべきか否か、といった男女間の永遠のテーマに切り込んでいるように思えます。

たぶん多くは、「浮気されるのは絶対イヤ!」となるのではないでしょうか。じゃあ「浮気するのは?」と聞いた場合はどうなのだろうなあ、という気もします。「浮気はしてもされるのはイヤ」という人もいれば、「浮気は絶対しないからされるのも絶対イヤ」という人もいるでしょうか。

どちらにしても、坂口安吾さんが言うように、一生変わらず愛し合い続けられる男女は稀なように思えます。相次ぐ熟年離婚、みたいな。男性はロマンチスト・女性はリアリストなんてことも言われますよね。結婚と恋愛は別だ、と考えているのは、確かに女性が多いようにも思えます。結婚してもアイドルの追っかけをやっていたり、イケメンカフェに通っていたり。そんな女性たちからすると、アイドルやイケメンが恋愛の対象であって、夫は生活の基盤だから、という感じなのでしょうか。夫からすると、それって浮気とどっちがイヤなんだろうな、という疑問も湧いてきますが……。

あるいは「お互い自由にやろうよ」といった関係の男女も中にはいるんですかねえ……狐人的にはそれが当たり前な未来があっても不思議じゃないように思っています。

たとえば、ボノボという類人猿は、男女や夫婦の別なく、性的なコミュニケーションによって緊張やストレスを緩和し、平和的な社会を築いています。一時期いろいろな作品で取り上げられていたので、今や結構有名な話ですかね。ぱっと思い浮かぶのは、貴志祐介さんの『新世界より』ですが。人間には嫉妬といった感情があるわけで、ボノボのようにうまくはいかないかもしれませんが、こうした作品に触れてみると、あながちあり得ない話でもないのかなあ、とか思わされてしまいます。浮気肯定派の世界はもうすぐそこまで来ている! みたいな。

ただし現実の世界、実際の今の日本では、浮気するしない以前の問題が浮上してきているようですね。

2016年9月15日に発表された、国立社会保障・人口問題研究所の行った「第15回出生動向基本調査」の結果によれば、「彼氏のいない女性の割合はおよそ60%」、「彼女がいない男性の割合はおよそ70%」となっているそう。恋愛を代替する楽しい物事というのが、現代には溢れていますから、この結果も納得できます。漫画・アニメ・ゲームが発展している日本では尚のことそう、といった感じ。そういった意味では、同じSF作品でも、現実の物理的な接触、対人関係が希薄化した世界を描いた京極夏彦さんの『ルー=ガルー』的な世界に近づいていると言えるのかもしれませんね。

と、そんなこんなで、そろそろまとめに入りますと。

・「従順で完璧な妻を演じられる女性」と、「自分の個性をはっきりと主張できる女性」は、どちらが悪妻でどちらが良妻なのか?
・浮気をする女性は、悪妻なのか良妻なのか? すなわち浮気は認められて然るべきなのか?

といったようなことを考えさせられた小説が、坂口安吾さんの『悪妻論』でした。

『悪妻に一般的な型などあるべきものではなく、否、男女関係のすべてに於て型はない。』

じつは冒頭、坂口安吾さんはこのように述べています。先に答えを提示してくれているあたり、さすが文豪! ですね。男女関係のすべてに於て型はない……きっとこれが、僕が考えさせられた問の答えとなるのでしょう。男女間の問題は、答えのない問ということで、きれいにまとめることができたでしょうか(問題の先送りとも言いますが……)。付け加えるならば、ここの話だけで言うと、坂口安吾さんに『偉大! かくあるべし』と言わしめた平野謙さんは、間違いなく良夫なのでは、と思いました。

今回の蛇足。

平野謙さんが自分の奥さんに深傷を負わされてしまった原因をどうしても知りたくて、いろいろネット検索で調べてみたのですが、結局わからずじまいでした。ご存知の方がいらっしゃったら、教えていただけると嬉しいです。

今回の記事タイトルは、「だけど……」のあとは「願わくは賢母・賢父たれ!」と続きます。『悪妻論』は夫婦について語っていましたが、子供にとっての母親は? やはり両親は仲良くあってほしいものです。浮気肯定派の方も、思春期のお子さんを持つ方は、充分注意しましょう、といった意味なのでした。僕などに言われるまでもないかもしれませんが。失礼しました。そういえば、小さい子供だと、浮気の何が悪いのか理解できない、という例をこの前テレビで見ました。とある芸能人のひとの話で、小学生の長男に、やはり一応ということで、両親が離婚する理由を父親が話すと、「他の女の人と仲良くすることの何が悪いの?」と返されてしまったとか。学校で、みんな仲良くしましょうね、と教えられているのだから、当然ですよねと笑ってました。これはホントの蛇足ですね。重ねて失礼いたしました。

さて。

最近恒例の『文豪ストレイドッグス』に絡めてみよう! のコーナー(?)ですが、坂口安吾さん、坂口安吾さん……(検索中……検索中……)、いました! ふむふむ。内務省異能特務課参事官補佐……なんか凄そうですね、エリートなのでしょうか。確か、前回(⇒小説読書感想『檸檬 梶井基次郎』時計じかけの…爆弾じかけのレモン?)の梶井基次郎さんはマフィアでしたね、敵対関係なのでしょうか? 丸眼鏡、スーツ、三重スパイなんですかあ、異能力は『堕落論』! おしかった! 『悪妻論』はピンポイント過ぎましたか。能力の詳細は不明とのことで、明かされる日が楽しみですね。やはりイケメン。丸眼鏡のせいか、ちょっとだけ本人の雰囲気が感じられます。

『文豪とアルケミスト』の方は今後登場予定とのこと。どんなイケメンとして登場するか、こちらも楽しみです。

以上、『悪妻論 坂口安吾』の小説読書感想でした。

アニメ『文豪ストレイドッグス』とのコラボ文庫。なんか物憂げですね。コレクションしたくなります。

件の『新世界より』はこちら。


漫画版もあります。

件の『ルー=ガルー』はこちら。



坂口安吾さんが登場する『文豪ストレイドッグス』はこちら。


最後までお付き合いいただきありがとうございました。

それでは今日はこの辺で。

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