小説読書感想『外科室 泉鏡花』哀純愛…こんな一目惚れしたことある?

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コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。
(「『狐人』の由来」と「初めまして」のご挨拶はこちら⇒狐人日記 その1 「皆もすなるブログといふものを…」&「『狐人』の由来」

今回の小説読書感想は『外科室 泉鏡花』について書いてみたいと思います。

ふむ。『外科室』は泉鏡花さんの代表作のようですね。1992年、吉永小百合さん主演で映画化もされている……では、すでに既読の方や話の内容をご存知の方が多いのでしょうか。僕は泉鏡花さんの作品を読むのは、これが初めてなのですが。

ほう。恋愛小説ですか。しかも純愛もの……実はほとんど読みません、恋愛小説。そんな僕に、はたしてまともなものが書けるのか……早速いつものように不安が否めないわけですが、今日も今日とて頑張ってみたいと思います。お付き合いいただけましたら、幸いです。

では。

あらすじというか要約というか解説というか、内容を、楽しい(?)雑談などを交えながらつらつらと。

泉鏡花さんの『外科室』は明治時代のお話です。明治時代といえば、江戸時代までの「士農工商」の身分制度が廃止され、「四民平等」が謳われた時代――とはいえ、「今日からみんな平等です」といきなり言われてみても、今まで厳然としてあった身分が急に均されるはずもなく、まだまだ身分といったものが色濃く残っていた時代でもあります。

舞台はタイトルからも一目瞭然、病院の『外科室』です。今まさに一つの手術が執り行われようとしている、そんなところ。患者はこの物語のヒロイン・「貴船伯爵夫人」です。「伯爵夫人」……つまりヒロインは人妻か。この辺り、萌えを感じる方はいらっしゃるでしょうか? 熟女好き芸人、的なノリの。すなわち、泉鏡花さんの『外科室』は、熟女好き狙いの小説!? コアな層を狙ってくるとは――やるな、泉鏡花さん(違う)!

語り部である画家の「私」は、この「貴船伯爵夫人」の手術に立ち会うことになります。というか――、

『実は好奇心のゆえに、しかれども予は予が画師えしたるを利器として、ともかくも口実を設けつつ、予と兄弟もただならざる医学士高峰をしいて、それの日東京府下のある病院において、かれとうを下すべき、貴船きふね伯爵夫人の手術をば予をして見せしむることを余儀なくしたり。』

ご覧の通り、この小説は「文語体」で書かれているので、多少読みにくくはあるのですが、上のこの冒頭文を現代風に簡単に訳すと、「実は好奇心に突き動かされ、しかしそうとも言えず、私は自分の画家という職掌を利用する形で、兄弟以上の関係である親友の高峰医師に無理を言って、貴船伯爵夫人の手術を見せざるを得ないよう仕向けた」と述べているのです。

相当強引な性格ですね「私」。どんな親友だよ。神話や物語の中で、お話を引っかき回すいたずら好きなキャラを「トリックスター」といったりするのですが、まさにこの「トリックスター」の素養を感じさせる「私」。語り部に相応しい存在と言えます(どうでしょう?)。

しかし、好奇心のゆえに手術を見せざるを得ないよう仕向けた、って。そんなに手術が見たいか、「私」。ただし、ここでいうところの「好奇心」が、はたして単純に手術を見たい、といった感情を抱いたものなのか。知的好奇心というか――、世界的ブームになった『進撃の巨人』や、2016年春に映画公開され話題となった、大泉洋さん・長澤まさみさん出演、『アイアムアヒーロー』然り、グロテスクなものに惹かれてしまう人間の性というのは、僕にも分かるような気がします。

しかしてしかし、ここでいう「好奇心」がこのように単純な感情の発露だったのか、という点は、一つ重要な考察ではないかと僕は思いました。なぜ「私」が、兄弟以上の関係である「高峰医師」が執刀する「貴船伯爵夫人」の手術に、その手術を見せざるを得ないよう仕向けるほどの「好奇心」をかきたてられたのか。「単純」な「好奇心」以上の何かがそこにはあるような気がしてきます。

どうでしょう。この「好奇心」を深読みすることで、物語への期待度がグッと増したように感じませんか? もちろん、ただの深読みの可能性もあるわけなのですが。

ともあれ、冒頭だけで随分紙幅を食ってしまいました。話を進めていきましょう。

さて、手術を目前に控えた人妻ヒロイン(?)・「貴船伯爵夫人」は、手術を執り行うに際して麻酔の使用を拒みます。その理由を訊いてみますと、自分はとある秘密を心の中に抱えていて、麻酔で眠っているうちに、それをうわごとで言ってしまうのが怖いとのこと。周囲の説得も空しく、頑として聞き入れないわがまま人妻ヒロイン(!)。そのうちに、執刀医が「高峰医師」であることを確認すると、絶対に動かないから、このまま麻酔なしで手術を執り行うように、と言い放つ強気な人妻ヒロイン(しつこし?)。

麻酔なしの手術って……、僕からしたら考えられないことなのですが。しかしそれだけの理由が「貴船伯爵夫人」の抱える秘密には込められていそうな雰囲気は、ひしひしと伝わってきます。

そこで「高峰医師」が動く! 『看護婦、メスを』。このまま麻酔なしで「貴船伯爵夫人」の手術を執り行おうとする「高峰医師」。一同驚愕の面持ちで、その様子を見守ります。

少し震えながらも、「高峰医師」の指示通り、消毒したメスを手渡す看護師さん。

「高峰医師」のメスが、とうとう「貴船伯爵夫人」の胸を割きます。

「貴船伯爵夫人」は宣言通り、足の指一本動かしません。しかし手術の佳境、突然「貴船伯爵夫人」が、両手でもって、メスを執っている「高峰医師」の右腕に取りすがります。

『痛みますか』

と問う「高峰医師」。

『いいえ、あなただから、あなただから』

と意味深に答える「貴船伯爵夫人」。

そして――、

『でも、あなたは、あなたは、わたくしを知りますまい!』

「貴船伯爵夫人」は言うや否や、「高峰医師」が手にしたメスに片手を添えて、自らの胸を深く掻き切ってしまうのです。

『忘れません』

「高峰医師」は真っ青になって慄きながらも、「貴船伯爵夫人」にそう答えます。

『その声、その呼吸いき、その姿、その声、その呼吸、その姿。伯爵夫人はうれしげに、いとあどけなき微笑えみを含みて高峰の手より手をはなし、ばったり、枕に伏すとぞ見えし、くちびるの色変わりたり。』
『そのときの二人がさま、あたかも二人の身辺には、天なく、地なく、社会なく、全く人なきがごとくなりし。』

息を引き取る「貴船伯爵夫人」。

…………。

『外科室』は<上>・<下>の二部構成になっており、ここで<上>が終わります。

いかがでしょうか。

劇的展開、最高の引き、だと僕などは感じるわけなのですが。

<上>では、解決されないガジェットがいくつか残されてしまいましたね。

・私の抱いた「好奇心」の正体は?
・「貴船伯爵夫人」と「高峰医師」との関係性とは?

どこかミステリー的な雰囲気も漂ってきて、俄然<下>を読むのが楽しみになってきました。ワクワクが止まりません。

どうでしょうか?

それでは、いよいよ<下>に進んでいきたいと思います。

<下>では「私」の回想が語られます。

<上>の「貴船伯爵夫人」の手術の時より九年前、「高峰医師」がまだ医科大学の学生であった頃のこと。

「私」と「高峰」は小石川の植物園を散策していました。

園内を巡り、躑躅の丘へ上がろうとしていたとき、反対側から見物客の一行がやってきます。

その一行は、前後を御者に挟まれた、三人の貴族のご令嬢でした。

すれ違いざま、思わず後ろを振り返る高峰。

『見たか』と尋ねる「私」にただ頷くのみ。

二人はそのまま丘を上り、美しい躑躅を見ていると、傍らのベンチには商人風の若者たちが腰かけている。

聞こえてくる話の内容から察するに、どうやら先程行き違ったご令嬢一行の美しさを褒め称えている様子。

しばらくして、その場を離れた二人。

若者たちが遠くなった頃、「高峰」は感動した面持ちで、

『ああ、真の美の人を動かすことあのとおりさ、君はお手のものだ、勉強したまえ』

と一言。そのまま二人は植物園を後にします。

その後、九年間、「貴船伯爵夫人」の手術があるまで、「高峰」はそのときすれ違った女性について一言も、親友の「私」にさえ語ったことがありませんでした。年齢的にも地位的にも、結婚していておかしくない身の上であるにもかかわらず、「高峰医師」は結婚をしていません。しかも学生時代よりもその品行は一層謹厳であったのだと、「私」は続けて語ります。

そしてラスト――、

青山の墓地と谷中の墓地。
場所は違っても、「貴船伯爵夫人」と「高峰医師」は同じ日に前後して亡くなった(つまり「貴船伯爵夫人」が亡くなったのと同じ日、「高峰医師」もまた、その後を追うようにして、自ら命を絶ったことに)。

「私」は天下の宗教家たちに問いたい。
彼ら二人には罪悪があり、ゆえに天へと行くことはできないのだろうか、と。

終幕。

ふむ。

それでは、<上>で残されていた謎(?)を一つずつ紐解いてみましょう。

・私の抱いた「好奇心」の正体は?
「私」が「高峰医師」の執刀する「貴船伯爵夫人」の手術に並々ならぬ「好奇心」を抱いたのは、「高峰医師」が「貴船伯爵夫人」に抱く恋心を知っていたからだと読み取ってもいいのでしょうか? 筋的には可能な気もしますが、現実的に、「高峰医師」が一目惚れをし、かつその対象となった女性が「貴船伯爵夫人」であったことを知るのは、非常に難しいようにも思えます。名探偵か「私」! といった感じ。ただ、『外科室』は短編小説であるがゆえに、他にも語られるべきエピソードが多数存在するのでは――と思わされるところがあります。長編小説であってもおかしくない物語を、短編小説の中に凝縮し、あえて多くを語っていないからこそ、泉鏡花さんの『外科室』は素晴らしい作品になっているのだとも言えそうです。

また、記事冒頭で書いたように、時は明治時代、江戸時代の身分制度の名残が、今だ色濃く反映されていた時代。貴族の「貴船伯爵夫人」と一介の医学生であった「高峰」とでは、結ばれるのは難しかったと考えるに、社会小説的に受け取ることもできそうです。

・「貴船伯爵夫人」と「高峰医師」との関係性とは?
「貴船伯爵夫人」と「高峰医師」との関係性については、まさかのお互い一目惚れ。<上>のクライマックスで、二人が互いに恋心を抱いているような雰囲気を読み取れるわけですが、不倫関係というわけでなく、互いに運命的な一目惚れをして、九年もの長きに渡り思い続けていた純愛に、心揺さぶられるロマンチストと、そうでもないリアリストとに、感想が二分されそうな感じです。

実際どうなんでしょう。一目惚れしたことのある人ってどのくらいいるものなのでしょうね。ネット検索で調べてみると、「一目惚れしたことがある」は六割程で、「一目惚れしたことがない」は4割程。意外にも一目惚れ経験者が多いことに驚きました。女性と男性とでは、女性が5割弱、男性が7割程となっており、やはり女性リアリスト、男性ロマンチストな結果に。

自作の小説:<egg>を書いているときに、アンドロギュノスというものについて触れたことがあります。アンドロギュノスはプラトンの著作『饗宴』の中で、喜劇詩人のアリストパネスによって語られる、古代最初の人間のことなのですが。古代最初の人間であるこのアンドロギュノスは、二つの頭と四本の手を持っていて、ちょうど現在の人間を背中合わせにくっつけた形をしていたといいます。ギリシャ神話に由来されるこのアンドロギュノスは、非常に強い力を持っていたがゆえに、神をも恐れぬ不遜な輩だったそうで、叛乱を企てては神々を困らせていました。そこで大神ゼウスは、アンドロギュノスのからだを真っ二つに両断し、以来、二つに裂かれた人間は、分かれた半身を求め合って恋をするのだそうです。

長々と書いて何が言いたかったのかと聞かれれば、一目惚れというのは、このアンドロギュノスの半身を見つけたような感覚、なのかなあ、とふと思いついたというお話でした。無駄話でした。すみません。

だけど、この前テレビを見ていて、自分の選んだパートナーが、本当に運命の相手なのかどうかは、結局最後まで分からないのではないかというお話をしていました。これから長い時間をかけて、選んだパートナーを運命の相手にしていくのだという話を聞いていて、なるほど、そういう考え方も素敵だなあ、と思った次第なのでした。こちらも余談ですが(読書感想と銘打ちながら、余談でない部分が少な過ぎる気がそこはかとなくしてきました……記事タイトル「小説読書感想」再考すべき?)。

ともあれ、恋愛小説というものをほどんど読まないので、泉鏡花さんの『外科室』のような純愛ものの作品が、一種パターンのように現代でもウケるものなのかどうかについては意見できませんが、いろいろと考えさせられるところがあって、僕はとても楽しめました。思えば前回記事(⇒小説読書感想『悪妻論 坂口安吾』あなたは良妻?良夫?悪妻?悪夫?だけど…)も男女関係について考えさせられた作品でした。偶然ですが、いいコンボ決めた、ってな感じです。

泉鏡花さんの『外科室』、未読の方はぜひご一読あれ。

以上、『外科室 泉鏡花』の小説読書感想でした。

今回の超蛇足。

『雪の寒紅梅、血汐ちしおは胸よりつと流れて、さと白衣びゃくえを染むるとともに、夫人の顔はもとのごとく、いと蒼白あおじろくなりける』

思いつけなかった発想だったので、なるほどなあと、唸らされたのですが、これって、そっちの方面にも読み取れるものなのでしょうか……あまり素養がないもので、判断に窮するというのが正直なところ。純愛小説、社会小説、そして……。純度100%のプラトニックな恋愛小説かと思いきや、読者にある種のエロティシズムまでをも感じさせてしまおうとは――泉鏡花さんの『外科室』奥深し!

さて。

それでは今回の『文豪ストレイドッグス』に絡めて雑談してみようのコーナー(?)ですが、泉鏡花さんは登場しているのか……(検索中……検索中……)いました泉鏡花さん! ふむふむ。小柄な和服の無表情な美少女、14歳……『エヴァンゲリオン』の綾波レイ的なクールビューティーさんなんですかねえ……実在の泉鏡花さんは……男性!? 恥ずかしながら、知りませんでした。名前的に女性なのかと……有川浩さんを男性だと思っていたあの日の勘違い再び。35人を……なんか怖いキャラなんですかね。悪役ではなく利用されていただけのようですが。『文豪ストレイドッグス』のヒロインと思ってみてもいいんでしょうか? 年齢的に人妻ヒロインではなそうですね(笑)(笑えない?)。さておき、異能力は『夜叉白雪』! 実際の泉鏡花さんの著作『夜叉ヶ池』からきているそうです。今度ぜひ読んでみます。

ちなみに、『文豪とアルケミスト』の泉鏡花さんは……ふむ、こちらも着物姿ですね。一見女性のようにも見えますが、恐らくは男性でしょう。中性的な美青年ですね。

記事内で述べた『外科室』の「私」のように、『好奇心』をそそられる作品たちです。



泉鏡花さんが登場する『文豪ストレイドッグス』はこちら。


最後までお付き合いいただきありがとうございました。

それでは今日はこの辺で。

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