狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『星の劇場/織田作之助』です。
文字数400字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約1分。
プラネタリウムでいびきをかいて寝ている人がいる。
あなたならどう思いますか?
1分で読めるユーモアと素敵なものの考え方。
『プラネタリウム』じゃなくて
『星の劇場』というタイトルがロマンチックです。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
(すごく短いのでぜひ全文をどうぞ)
『星の劇場/織田作之助』
「歩哨に立って大陸の夜空を仰いでいるとゆくりなくも四ッ橋のプラネタリュウムを想いだした……」と戦地の友人から便りがあったので、周章てて四ッ橋畔の電気科学館へ行き六階の劇場ではじめてプラネタリュウムを見た。
感激した。陶酔した。実に良かった、という外よりはない。既にして場内アナウンスの少女の声が、美しく神秘的である。それが終ると、場内にはにわかに黄昏の色が忍び込んで、鮮かな美しさだ。天井に映された太陽が西へ傾き、落ちると、大阪の夜の空が浮び出て来る。降るような星空だ。月が出て動く。星もいつか動く。と見る間に南極の空が浮びあがって、星の世界一周が始まったのだ。
などとこんな説明で、その浪慢的な美しさは表現できぬ。われを忘れて仰いでいると、あろうことか、いびきの音がきこえて来た。団体見学の学生が居眠っているのだった。たぶん今は真夜中だと感ちがいしたのだろう。それほど、プラネタリュウムが映しだす夜のリアリティは真に迫っていたのである。
狐人的読書感想
ふふふ……、と思わず笑ってしまいましたが(ただし万人が笑えるところなのかは謎です。ひとと違うところで笑ってしまうようなところが僕にはあるらしい)。
――プラネタリウムで寝ている人のいびきがうるさい。だけど、きっとそれは、いまが真夜中だと勘違いしてしまったのだろう。それほどまでにプラネタリウムの映し出す夜空はリアルですばらしかった。
こういう考え方のできる人はとても素敵な人だと思いました。
そして、プラネタリウムで……、となるからこそ、この状況と考え方が結びつくのだとも感じました。
これがもし、静かで美しい映画をやってる映画館であったなら、ただの迷惑行為としてしか捉えられないような気がします(もちろん多くの人にとってはそこがプラネタリウムであっても迷惑行為としか捉えられないのではないかとは思いますが)。
ひきこもりがちな僕は、当然のこと映画館に行くこともないのですが、どんな迷惑行為やマナー違反があるのか、ちょっと気になったので調べてみました。
「おしゃべり」、「椅子を蹴られる」、「子供の泣き声」、「飲食の音」、「前の人がじゃまでスクリーンが見えない」、「上映中のケータイチェック」、「ケータイの着信音」、「隣の人の口臭、体臭、飲食臭」、「イチャイチャカップル」。
たとえば映画館に赤ちゃん連れで入るお母さんがいるとのことですが、でもお母さんにも息抜きは必要だと考えれば、なかなか強くは言いにくいかもしれませんね。とはいえ、お金を払っている以上は場の空気を含めて映画を楽しみたい、最低限のマナーは守ってほしい、というのはもっともな意見です。
集団でひとつの場を共有するときの難しさ、みたいなものを思わされてしまうのですが、しかし映画館側も決して無策というわけではなくて、赤ちゃんと一緒に入れる「ママズクラブシアター」というものもあるらしく、その人の置かれた立場や状況によって利用できる場を分けるというのは、便利でいいことのように思えるのですが、人々を隔てる「線」や「壁」というものを意識させられてしまい、狐人的には「それはいいことだ」とは一概には言い切れないところもあります(とはいえ、人と人の間に適度な「線」や「壁」や「距離」は必要でしょう。ヤマアラシのジレンマ)。
「椅子を蹴る」行為については上映前に注意が入るそうですね。それだけ多いということなのでしょうか? なぜ椅子を蹴るのか、わかりませんが(目の前に椅子があるから? カリギュラ効果?)。
あとは「飲食の持ち込み」ですか。臭いとか音とか気になるかもしれませんね。コンビニなどで買ったポップコーンは袋の音がうるさいと、たしかにそうかもしれません。映画館で売っている飲食物はやはりちょっとお高いらしく、なので外で買って持ち込みをするということみたいですが、映画館で映画を見ると決めたのならある程度お金のことは気にするなよ、という意見もわかるような気がしました。
…………。
てか、『星の劇場』(プラネタリウム)じゃなくて、映画館の話になってしまいましたが。
『星の劇場』からは「ひとつのものごとを表すのにも多様な表現方法がある」というようなことを学んだ気がします。プラネタリウムの美しさ(浪漫的な美しさ)を写実的な文章で表現するのではなく、それを見た人の反応を描くことで間接的に(しかしより共感しやすく)描くことができます。しかもそれが「観客のいびきの音」という「美しさのイメージからはかけ離れたものごと」から美しさを表現してしまうというのは凄いです。しかもユーモアがある。
たった400字ほどの文章ですが、たしかな文才を感じられる(生意気なものいいでしょうか?)小説だと思いました。ツイッター小説のような短すぎる文章は、小説として認められない向きもあるようなのですが、人の心をつかむ短くとも真に優れた小説はあるのではないか? そんなことを思いました。
ほかに織田作之助さんのプラネタリウムを題材にした作品に『わが町』という小説があるらしく、織田作之助さんがプラネタリウムというものに、ひとかたならぬ関心を持っていたことがうかがえます。
狐人的にもやはりプラネタリウムや星空は、いい小説のガジェットになると思いました(『星/国木田独歩』、『星の銀貨/グリム童話』)。
それから最後になってしまいましたが『星の劇場』というタイトルがいいです。『プラネタリウム』と言うよりもどこかロマンチックな感じを受けます。日本語のよさが表れているタイトルだと思いました。
読書感想まとめ
多様な捉え方(考え方)をすることで人はやさしくなれる。
多様な文章表現でものごとをうまく表す。
日本語の持ち味を活かしたタイトル。
狐人的読書メモ
人の多い空間は苦手です。
(だけど最近は家庭で楽しめる本格的な『星の劇場』があるみたいですね。しかも比較的手頃なお値段です。ちょっと欲しくなりましたが……)
・『星の劇場/織田作之助』の概要
1976年(昭和51年)発行、『定本織田作之助全集 第六巻』(文泉堂出版)に収録される短編小説。1分で読めるユーモアと素敵なものの考え方。
以上、『星の劇場/織田作之助』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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