正坊とクロ/新美南吉=首輪をされたくはないし、リードで繋がれたくもない

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狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

正坊とクロ-新美南吉-イメージ

今回は『正坊とクロ/新美南吉』です。

新美南吉 さんの『正坊とクロ』は文字数4800字ほどの童話です。少年と黒熊の絆の物語に涙。経営難で存続不能となったサーカス団。いい人がいい経営者とは限らず。首輪をされたくはないし、リードで繋がれたくもない。団長(?)とクロの未来に幸あれ!

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

村々を興行こうぎょうして回るサーカスの一団があった。ある村で興行を行っていたとき、サーカス団の人気者、黒熊のクロが腹痛を起こして倒れてしまう。団長も団員たちも、なんとか薬を飲ませようと試みるも……、クロはどうしても口を開かない。ついに団長は、正坊しょうぼうを連れてくるよう、お千代ちよに指示を出す。

正坊は初日の公演で足をひねり、隣村の病院に入院していた。正坊はお千代をじつの姉のように慕い、お千代は正坊をじつの弟のように可愛がっていた。お千代の顔を見て喜ぶ正坊は、事情を聞くとすぐに退院することを決める。病院の許可を得たふたりは、急いでクロのもとへ。

生気を失ったクロを見るなり、正坊は歌い出す。「勇敢なる水兵」は、正坊とクロがステージに上がるときに流れる楽しい曲だった。正坊の歌声を聞いて、立ち上がるクロ。すかさず正坊が、薬を口に押し込むと、難なくそれを飲み込んだ。これを期に、ふたりの絆はさらに深まるのだった。

小さなサーカス団の内情は火の車だった。ある朝、目を覚ましてみると、団長とお千代と正坊を残して、団員たちはみな逃げ出していた。団長は、サーカス団を始末してできたお金を正坊とお千代に渡して、ふたりがメリヤス工場に住み込めるよう手配した。「団長さんはなんにもなくなって、どうするの」と尋ねる正坊に、団長は「なんにもなくって家を出たんだから、なんにもなくって家へかえるんだよ」と寂しそうに笑った。

町の動物園に飼われるようになったクロは、毎日力のない目で、青い空ばかり見上げていた。あの「勇敢なる水兵」の曲が聞きたいなあ、と思うような格好だった。檻の前には、毎日いろいろな子供たちが立った。その中に、正坊やお千代の姿がないだろうか……、探さずにはいられなかったクロ――そのとき、すぐ鼻の先で「クロ」と呼ぶ声が聞こえる。

クロが目を上げると、正坊は「勇敢なる水兵」の曲を歌った。急に体中に血が巡り出したかのように、勇ましく立ち上がったクロは、ウォーンウォーンと、喉を絞るような、嬉し泣きの叫びを上げた。正坊はビスケットをクロの口に入れてやり、何度も何度も鼻の上を撫でた。正坊の後ろには、涙ぐんだ目をしたお千代の姿があった。

狐人的読書感想

新美南吉 さんの童話は、心揺さぶられずにはいられない物語ばかりですが、今回は少年と黒熊の絆の物語ということで、ラストはお千代さんだけでなく、読者である僕も、涙なくして正坊とクロの姿を見られなかったわけなのですが、さて、いかがでしたでしょうか。

順番に、『正坊とクロ』を読んで思ったことを綴っていきたいと思います。最後までお付き合いいただけましたら幸いです。

(他の新美南吉 さんの心揺さぶられずにはいられない童話の読書感想はこちら)

いい人がいい経営者とは限らず…団長の未来に幸あれ

正坊とクロ-新美南吉-狐人的読書感想-イメージ-1

まず、僕がこの物語で一番感銘を受けたのは、正坊でもクロでもなくて、サーカス団の団長でした。

作中、じつはこの団長が、一番いい人で、一番かわいそうな人に、僕の目には映るのですが、どうでしょう?(もちろん、サーカスに利用された挙句、動物園に売られてしまったクロが、もっともかわいそうだ、と言われてしまえば、そのとおりではあるのですが)

クロが腹痛を起こしたとき、千代さんに正坊を呼びに行くよう指示した姿からはやさしさを、クロが正坊をくわえて、舞台上から逃げ出したハプニングに苦笑いしている姿には鷹揚さを、それぞれ感じました。

そしてなんといっても団の存続が困難となり、サーカスを始末してできたお金を、残された団員である正坊とお千代さんに渡す姿には、人情味溢れる経営者の姿勢が見られて、学ばされるところがあります(いい人がいい経営者になれるとは限らない、といった反面教師的な側面もありますが)。

これだけいい人なのだから、本来であれば団員すべてが一致団結して、傾いたサーカス団を立て直すといったサクセスストーリーであってほしかった、と栓なきことを考えてしまうのですが、そうはならなかったところに現実の厳しさをも感じさせるお話です。

てか、こんないい団長を見捨てて逃げるなんて、団員薄情過ぎない? とついつい思ってしまいますが、団員にも生活があるからしょうがないよね、とも思います。経営がうまくいかないのは経営者の責任であって、なのでそこに同情するのはちょっと違うのかもしれません。

とはいえ、おそらく団長は、そのこともきちんと自覚していた節があります。それが、正坊に今後のことを訊かれて言った言葉に、表れているように思いました。

「なんにもなくって家を出たんだから、なんにもなくって家へかえるんだよ」

どこか百田尚樹 さんの小説『海賊と呼ばれた男』の国岡鐡造を彷彿とさせる姿に見えたのは僕だけ?

『海賊と呼ばれた男』の鐡造が、店員たちを思う姿は、店員たちの奮起をもたらし、一致団結してさまざまな苦難を乗り越えることができて、とても感動したのですが、なぜか童話の『正坊とクロ』のほうに、真の現実を見てしまうのです。

昔のサーカス団ということで、どこかゲマインシャフト(情愛で結ばれた社会)的な社会をイメージしたのですが、結果ゲゼルシャフト(利益社会)だったというお話でした(そして、団長の未来に幸あれ! と言いたいお話でした)。

首輪をされたくはないし、リードで繋がれたくもない

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動物と人間の絆を思わされるとき、どうしても考えずにはいられないことがあります。それは、両者の間には絶対に超えられない一線がある、といったことです。

『正坊とクロ』では、少年と黒熊の友情を感じられるエピソードが描かれています。それは、正坊が薬を飲ませてクロを救う姿であり、賊に扮した団長が怒るのを見て、本気で怒っているのだと勘違いしたクロが、正坊をくわえて公演中の舞台上から逃げ出す姿に表れています。

しかし、そこに動物と人間の友情を見るのは、あくまで人間側の主観でしかなく、もしもその直後、黒熊が少年を襲ったとしても、それは他の動物を狩らずにはいられない正しい熊の在り方であって、その行為を黒熊が別段嘆くふうでも悲しむふうでなくても、熊を責めることはできないでしょう。

少し話が逸れるかもしれませんが、人間は犬や猫といった動物をペットとして飼っています。愛らしい犬や猫の姿には、可愛らしさを感じて、癒されてしまうのですが、首輪をされて、リードで繋がれながら、人と一緒に散歩をしている姿を見ると、言いようのない気持ちになるときがあります。

こんなふうに語るのはおかしいかもしれませんが、僕は首輪をされたくはないし、リードで繋がれて散歩したくはありません。しかしそれは、僕が、隷属しない自由を知っていて、自然界に生きることの大変さを知らないからだ、ともいえます。

ペットのほとんどは、ペットとなるべく生まれ、人間の庇護なくしては難しかったであろう繁栄を享受している――たしかに、人間の社会でも、一生嫌な勉強や仕事をしながら、うまくいかない人間関係に悩みながら、将来の不安を抱えながら、ずっと生きていかなければならないことを思えば、誰かが毎日食事を与えてくれて、何の心配も不安もなく生きていけるのなら、首輪やリードで繋がれることくらいなんでもないんじゃないか、と思わなくもありません。

なので、サーカスの黒熊が、動物園に飼われる黒熊が、必ずしも不幸なのかと訊かれてしまえば、答えに窮するところもあります。それだって、結局は人間の主観の話なのですから。

――といったようなことを、考えてしまうのです、といったお話でした(そして、うまくまとまらず、といったお話でした)。

ハッピーエンドで終わらせたい、と思うのは僕のエゴ

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『正坊とクロ』のエンディング、正坊とクロ――再会できてよかった……、と一見するとハッピーエンドのようにも思われるのですが、前項で書いたこともあってか、その後を想像してみるに、一概にそれだけとも言えないところがあります。

おそらくクロは、残りの生涯を動物園の檻の中で過ごすことになるのでしょうし……。正坊とお千代さんは、定休日のたび、クロに会うため動物園に通うこともできるのでしょうが、入園料を考えると……、頻繁に訪れるのは難しいように思います。

正坊が成長し、新サーカス団を結成して、クロを迎えに来る――といった後談を想像してみるのですが、クロは年を取った黒熊なので、実現性を考えると……。

しかし、なんとかしてハッピーエンドに終わらせたい!

ということで、正坊の歌う「勇敢なる水兵」の曲に合わせて芸をするクロの姿を、偶然目にした動物園のお偉いさんが、動物園のショーとしてクロに芸をさせることを条件に、正坊が動物園へ自由に出入りすることを許してくれて――といったものを想像して、無理矢理ハッピーエンドらしく自分の中で補完しようとしてみたのですが、どうでしょうねえ……。

結局、サーカスに利用され、動物園の檻の中で生涯を終えねばならないクロが、はたして幸せといえるのかどうか……、しかしてしかし、クロは正坊にとてもよくなついているわけで……。

この、ハッピーエンドで終わらせたい、と思うのも、所詮は僕のエゴでしかないのですが、少なくとも、どんな動物でも、家族、友人、恋人……、好きな誰かと一緒にいられることが、ひとつの幸せなのではないでしょうか。

どんな状況に置かれても、好きな誰かと一緒にいられたら、それだけで幸せなのかもしれません――といったお話でした(きれいにまとめたつもりで、矛盾を孕んだ終わり方――といったお話でした)。

読書感想まとめ

少年と黒熊の絆の物語に涙。しかしエンディングはなんとなく切ないお話。なんとかハッピーエンドで終わらせたい、と思うのは僕のエゴ。作中で一番感銘を受けたのは団長。いい人がいい経営者とは限らず、どこか現実を見せつけられるお話。動物と人間の間には絶対に超えられない一線があると思う。

狐人的読書メモ

[まとめ買い] ダレン・シャン(小学館ファンタジー文庫)

少年とサーカス団からの連想で、『ダレン・シャン』を思い出した。児童向けとは思えない重々しい内容だったが、おもしろかった……、と思う。内容があまり残っていないので、また読みたい。

・『正坊とクロ/新美南吉』の概要

1931年(昭和6年)8月、『赤い鳥』にて初出。新美南吉 さんが18歳のときの作品。

・メリヤス工場

平編み(メリヤス編み)で編んだニット製品を生産する工場。

以上、『正坊とクロ/新美南吉』の読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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