狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『星/国木田独歩』です。
国木田独歩 さんの『星』は文字数2700字ほど、ロマンチックで素敵な短編小説。どうやら詩と小説の中間みたいな感じの作品。つい夜空を見上げてみたくなりますが、あなたのお住まいからは、きれいな星空が見えますか?
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
郊外の田舎に若い詩人が住んでいた。彼の家は小高い丘の麓にあった。その家には不釣り合いなほど広大な庭には、木々が自然のままに生い茂り、一本の小川が流れていた。春は梅桜、夏は緑、秋は紅葉、冬は松杉――詩人は朝夕と、この庭の景色を楽しんで暮らしていた。
ある年の冬の初め、詩人は老僕と一緒に落ち葉を掃き集めて、小川の岸の七か所に積んだ。そして一晩に一つずつ、落ち葉の山を燃やしていった。炎は小川の水に映り、煙は真っ直ぐ天へと昇り、杉の辺りの青煙はまるで霧のようだ。
天には恋人たちがいた。二人は夜ごと地上に降りては夜の散歩を楽しんだ。その晩は特に寒く、天の川にも霜が降りるほど――恋人たちは詩人の庭の煙を見つけて、たき火の炎で暖を取り、明け方まで語っては天へと帰る……、そんな夜が六日続き、最後の落ち葉の山が燃える七日目の晩、庭の主にお礼をしようと、恋人たちは眠る詩人のもとへ。
詩人の枕辺には、詩集『わが心高原にあり(我が心はハイランドにあり)』が開かれたまま置かれ、『いざさらば雪を戴く高峰』の一句に赤い線が引かれていた。乙女はこれを見て、詩人の気高き心に胸打たれ、涙を零した。詩人の耳に何事かを囁いて、優しく頬に口づけをして、恋人たちは天に帰っていった。
翌朝、目を覚ました詩人は、昨夜見た夢を思い起こす――夢に現れた乙女に誘われるまま丘を登れば、乙女は「恋を望むか、自由を願うか」と問うてくる。詩人は答える。「自由の血は恋、恋の翼は自由なれば、われその一を欠く事を願わず」乙女は微笑んで西の空を指さした。
家を出た詩人が一人丘を登って西の空を見やれば、二つの小さな星、その薄い光。東の空が金色に染まれば、星の光は消えて、連山の影、雪の淡。詩人の目に涙が溢れる。
詩人は歌う。連山の彼方を眺め、恋するように、憤るように。長い髪が風になびき、朝日に全身が輝き、青空の下に立つ。
その姿こそ自由。
狐人的読書感想
さて、いかがでしたでしょうか?
小説というよりは、散文詩的なテイストの強い作品ですが、素敵なお話ですよねえ。前回読んだ国木田独歩 さんの小説『初恋』も、とても素敵な初恋のお話でした。「月がとっても青いから」の夏目漱石 さんといい、文豪にはロマンチストが多いイメージが、僕の中で着々と定着しつつある今日この頃なのです。
(とても素敵なこちらの小説もどうぞ)
天の恋人たちが見えますか?
天の恋人たちについては、やはり「織姫と彦星」の「七夕伝説」を連想させられてしまいます。
しかしながら、七夕といえば7月7日……、作中の恋人たちが現れるのは冬の夜空なので、この恋人たちは、「七夕伝説」を下敷きにした国木田独歩 さんの創作、と考えるのが妥当なところでしょう。
実際問題、ベガ(織姫星)とアルタイル(彦星)は、冬の日本の夜空に見ることはできないみたいです。
冬の空気は透明度が高いので、星が一番きれいに見えることを思えば、この時季設定は秀逸――と、いえるのではないでしょうか? さすが文豪・国木田独歩 さん!
ところで、みなさんがお住いの場所からは、星がきれいに見えますか? 夜空を見上げること自体、近頃あまりしないように思いますが、いかがでしょうか?
作中の詩人が住んでいる場所は、「都に程近き田舎」とされているのですが、国木田独歩 さんということで、その場所を「武蔵野」と仮定するならば、現在の武蔵野はきれいに星が見られるのですかねえ……。
武蔵野には、埼玉県と東京都が含まれるらしく、東京と聞けば、やっぱり眠らぬ街のイメージが強く、夜でも人工の光が満ち満ちていて、星など見えない印象がありますが、調べてみると、武蔵野地方でも満天の星空が見えるスポットがあるようですね。
何事も思い込みだけで語ってはいけない(?)という余談でした。
我が心はハイランドにあり!
国木田独歩 さんは、ジャーナリストであり、小説家であり、詩人でもあり――ということで、西洋の詩から多大なる影響を受けています。
以前に読書感想を書いた『春の鳥』では、ウィリアム・ワーズワース さんの詩『童なりけり(There was a boy)』がモチーフとされていました。
(国木田独歩 さんの『春の鳥』の読書感想はこちら)
今回の『星』でも、『わが心高原にあり(我が心はハイランドにあり:My Herart’s in the Highland)』というスコットランドの詩人・ロバート・バーンズ さんの詩が出てきています。
ロバート・バーンズ さんは、『蛍の光』や『故郷の空』の原典を書いた詩人として、日本では有名なのだとか(不勉強ながら僕はこの度初めて知りました)。
『我が心はハイランドにあり』は、ボブ・ディラン さんもモチーフとしていて、『ハイランズ(Highlands)』という曲を作っているらしく、その影響力がうかがえるわけなのですが(ちなみに、僕はボブ・ディラン さん、名前しか聞いたことがありませんでしたが、なのに話題に挙げてしまってごめんなさい)。
ロバート・バーンズ さんの詩のほうもちょっと読んでみましたが、厳しい環境を思わせる描写、しかしそれでも故郷の自然を愛する強い想いが伝わってくる詩で、さまざまなアーティストに影響を与えている事実にも納得の、良い詩です(下に訳付きで全文を掲載しています)。
国木田独歩 さんも「自然主義文学」の先駆者とされる方なので、ロバート・バーンズ さんの郷土愛に感銘を受けたのも頷けます。
国木田独歩 さん作品の全体を通していえることではありますが、『星』もやはり郷愁漂う情景描写が美しい作品です。今回のあらすじでも、それを感じてもらえるように工夫して書いたつもりですが、ぜひ本文を読んで味わってほしいところです。
読書感想まとめ
ロマンチックで素敵な物語。作中に登場する詩『わが心高原にあり(我が心はハイランドにあり:My Herart’s in the Highland)』に注目しました。
狐人的読書メモ
……今回、感想、ほとんど、書いていない!?
(解説として読んでいただけたら幸いですが、はたして解説にもなっているだろうか?)
・『星/国木田独歩』の概要
1901年(明治34年)、発表。作品集『武蔵野』に収録。小説と詩の中間的な物語。
・『My Herart’s in the Highland/ロバート・バーンズ』
(全文掲載)
Farewell to the Highlands, farewell to the North,
The birth-place of Valour, the country of Worth;
Wherever I wander, wherever I rove,
The hills of the Highlands for ever I love.My heart’s in the Highlands, my heart is not here,
My heart’s in the Highlands, a-chasing the deer;
Chasing the wild-deer, and following the roe,
My heart’s in the Highlands, wherever I go.Farewell to the mountains, high-cover’d with snow,
Farewell to the straths and green vallies below;
Farewell to the forests and wild-hanging woods,
Farewell to the torrents and loud-pouring floods.My heart’s in the Highlands, my heart is not here,
My heart’s in the Highlands, a-chasing the deer;
Chasing the wild-deer, and following the roe,
My heart’s in the Highlands, wherever I go.
・『わが心高原にあり(我が心はハイランドにあり)/翻訳』
さらばハイランド、さらば北の国、
勇者の生まれし土地、賢者の国よ、
私が迷おうと、どこへ行こうとも、
ハイランドの山を私は永遠に愛す。
我が心はハイランドにあり、我が心はここにはない、
我が心はハイランドにあり、いまも鹿を追っている、
野生の鹿を追い続けながら、子鹿を求め続けながら、
我が心はハイランドにあり、私がどこへ行こうとも。
いざさらば雪を戴く高峰よ、
いざさらば峡谷、緑の谷よ、
いざさらば森と茂る木々よ、
いざさらば急流、轟く淵よ。
我が心はハイランドにあり、我が心はここにはない、
我が心はハイランドにあり、いまも鹿を追っている、
野生の鹿を追い続けながら、子鹿を求め続けながら、
我が心はハイランドにあり、私がどこへ行こうとも。
以上、『星/国木田独歩』の読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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