狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『一夜/夏目漱石』です。
夏目漱石 さんの『一夜』は文字数7800字ほどの短編小説です。
とにかく意味不明。
当時も「一読して何のことか分らず……」などと批評されています。
しかもそれは著者自身も認めるところなのです。
そしてその認め方がじつにおもしろい!
簡単にいえば『メタフィクション』の手法が用いられていて、夏目漱石 さんがほぼ同時期に執筆された『あの有名小説』の中で、そのことが言及されているのですが、わかる方(あるいは知っている方)はいらっしゃるでしょうか? (偶然にも本日、2月22日は「にゃんにゃんにゃん」で『猫の日』です)
意味不明な小説と聞けば、『現代文学』を思い浮かべて、敬遠される方もいらっしゃるかもしれませんが、「わけがわからないけれど最後まで読まされてしまう小説」というものが僕にはあります。
そして夏目漱石 さんの『一夜』もそんな小説の一つです。
今回は、『あの有名小説』と『あの現代文学』について綴るつもりなので、気になる方は、最後までお付き合いいただけましたら幸いです。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
八畳の座敷に3人の人物が会して話をしている。髯のある人と、髯のない人と、涼しき眼の女の3人だ。
美くしき多くの人の、美くしき多くの夢を……、夢の話をしているのか……、描けども成らず……、いや、絵の話をしているようでもあり……、画家ならば絵にもしましょ……、しかし、言うことのいちいちに節があって、連句の遊びをして、詩を吟じ合っているふうでもある……。
やんだばかりの五月雨がまた降り出した。3人の話題はそのことに移る。ククー、と鳥が鳴けば、ほととぎすかと、今度はそちらに話題が移る。また夢の話に戻るのか、と思いきや、蚊遣り火が消えて、話題はそちらへ……。
蚊遣り火をつけ直して、ようやく夢の話を再開すると、今度は天井から白金の糸を引いて、一匹の蜘蛛が蓮の葉に下りる。蜘蛛も夢の話を聞きにきたのか……、そうだ夢に絵を活かす話だった……。外からベルの音がして、話はまたまた中断する。……誰も入ってくる気配はない。どうやら隣だったようだ。
夢に絵を活かす話が再開される。今度は二匹の蟻が這い出してくる。一匹は女の膝をよじ登る。女は白い指で軽く払う。落とされた拍子に、蟻と蟻が合流する。二匹の蟻は古伊万里の皿を端まで同行して、右と左に分かれた。三人の目は期せずして二匹の蟻に向けられる。
会話は蟻のこと、それから、東隣から聞こえてくる合奏のことへ。あまりうまくはないようだ。「蜜を含んで針を吹く」とは3人のうちの一人の評。
そして再び、絵と夢の話。髯のある人は画家なのか……、涼しき眼の女をモデルに絵を描こうとしているのか……、髯のない人はいったい……。
夜もだいぶ更けてきた。では寝ましょうか。
夢の話は途中で流れ、3人は思い思いに床に入る。
狐人的読書感想
さて、いかがでしたでしょうか。
このあらすじで、「とにかく意味不明」といったわけが、その雰囲気だけでも、伝わってくれたらよいのですが……。
メタな結末は解説であるということを解説してみる
なぜ三人が落ち合った? それは知らぬ。三人はいかなる身分と素性と性格を有する? それも分らぬ。三人の言語動作を通じて一貫した事件が発展せぬ? 人生を書いたので小説をかいたのでないから仕方がない。なぜ三人とも一時に寝た? 三人とも一時に眠くなったからである。
上記の引用が、『一夜』という小説の結末となります。
この結末を含む、3人が眠りについてからの文章は、この作品の解説をしているような趣があります。つまり意味不明である(意味はない)ということを解説しているわけです。
この結末を「やはり本文中にこの作品の解説を入れている」と捉えるならば、これもメタの手法といえそうですが、しかし余計なものを加えて、作品自体の完成度を低下させている印象も受けます。
では、なぜ夏目漱石 さんが、このような解説を結末に書き加えたのかを考えてみると、やはり、この小説の意味不明っぷりが斬新過ぎて、当時の人々の理解を得られないであろうことを、夏目漱石 さんが予期していたからであって「読者を納得させるための理由づけをした」というのが、妥当なところではないでしょうか?
小説、とくに現代文学や、漫画、アニメ、ゲーム、映画などなど、たくさんの作品があって、ある種の不条理さ、のようなものを感じさせる作品に出会う機会も多い現代人からしてみると、『一夜』くらいの意味不明っぷりは、許容の範囲内かもしれませんが、当時としては前衛的な試みの小説だったのではないでしょうか。
吾輩にも意味不明であるということを解説してみる
さらに――
せんだっても私の友人で送籍と云う男が一夜という短篇をかきましたが、誰が読んでも朦朧として取り留めがつかないので、当人に逢って篤と主意のあるところを糺して見たのですが、当人もそんな事は知らないよと云って取り合わないのです。
――と、冒頭でも触れたように、夏目漱石 さん自身が、自ら著した『あの有名小説』の中で書いています。すでにお気づきの方(あるいはご存知の方も)もいらっしゃるかもしれませんが、これは『吾輩は猫である』の第六章にある一文です。「送籍=漱石」のもじりであることは、誰が見ても一目瞭然でしょう。
このブログ記事の冒頭(狐人的あいさつ)でも述べたとおり、これも『メタフィクション』(メタ)の手法です。メタフィクションは、前項で述べた『一夜』の解説部分のような自己言及的発言や、『吾輩は猫である』の例のように、ある小説の中で別の小説の批評を行ったり、また小説の登場人物として、作者自身や実在する人物、あるいは別の小説の登場人物を登場(クロスオーバー)させる技法です。
これはとてもおもしろい手法だと、狐人的には思っています。好きな作品や知っている作品が出てくると、思わず「にやり」としてしまいますが、いかがでしょうか?
僕の中で、メタを巧みに用いている作家さんに、西尾維新 さんがいます。
(西尾維新 さんの読書感想はこちら)
- ⇒屋根裏の美少年/西尾維新=美少年探偵団らしい美しい事件と美しい解決!
- ⇒押絵と旅する美少年/西尾維新=狐人的感想「江戸川乱歩さんの読書感想ブログとリンクさせていきたい!」
- ⇒掟上今日子の旅行記/西尾維新=探偵vs.怪盗! エッフェル塔に隠された真実!
意味不明だからこそおもしろい作品を紹介してみる
夏目漱石 さんは、『一夜』の結末で、「この作品に意味はない」ということを明言されているわけではありますが、我々は何らかの作品に触れたとき、その作品に内包される意味について考えずにはいられず、それが、小説、漫画、アニメ、ゲーム、映画――あらゆる作品の楽しみ方の一つでもありますよね。
意味不明ということで、僕が読後に思い浮かべた作品が2つありました。
一つは、もちろん(?)『エヴァンゲリオン』です。
これを見たときに受けた当時の衝撃(といってもじつはさほど前の話ではないのですが)、意味不明っぷりは、僕の頭ではまさに理解不能でした。調べてみると、興味深いテーマや設定がたくさんあって、おもしろいんですよねえ……、新劇場版の完結編がいまだ公開日未定となっていて、テレビアニメ放送から20年を経た現在でも話題を集めているのは本当に凄いです。
(上の漫画版はいろいろな意味でアニメ版とはまた違ったおもしろさがあっておすすめです)
もう一つは、村上春樹 さんの小説です。
長編小説はすべて読んでいますが、意味のわかった試しがありません。あと2日(2017年2月24日)で最新作『騎士団長殺し』が発売されますねえ……、楽しみです。
夏目漱石 さんの『一夜』、『エヴァンゲリオン』、村上春樹 さんの小説に共通していえるのは、意味不明ということと、意味不明なのになぜかおもしろくて、先まで読まされて(見させられて)しまう、ということです。いずれの作品にも「わけがわからないけど惹きつけられる魅力」があります。
『一夜』は読んでいて、ワンカットの映画を見ているような印象を受けます。つぎつぎと移りゆく、カメラが捉える背景とともに、登場人物たちの会話も移り変わっていく映像が、鮮明にイメージできるように思いました(ただし、言い回しの古さや、誰が何を言って、何が起こっているのか、読みづらく、わかりにくく、一読では理解できないかもしれません。リズムはいいとおもうのですが)。
小説を読んで、意味を探すおもしろさはありますが、単純にその作品の雰囲気や風景を楽しむのも、大切ですよね(ブログで読書感想を書いていると、意味の探求に夢中になってしまい、ついついそのことを忘れがちになります)。
(とくに童話はそうですね。僕はいろいろ考えてしまうのですが)
- ⇒祭の晩/宮沢賢治=狐人的感想はお祭りとUMA(UMR?)について思うこと
- ⇒手袋を買いに/新美南吉=狐人的感想「3つの解釈で最大の謎を解説!」
- ⇒白雪姫/グリム童話=原作(初版)を読んだ狐人的あらすじと感想と衝撃の真実ランキング!
読書感想まとめ
夏目漱石 さんは、『一夜』の結末で、『一夜』の意味不明っぷり(意味はないということ)を解説しています。その理由は「当時の読者の読解力では、現代文学を思わせる、この作品の『意味不明』っぷりを納得できない」のでは――と、夏目漱石 さんが考えたからではないかと、解説してみました。
夏目漱石 さんが『一夜』の『意味不明』っぷりを認めている『あの有名小説』とは、『吾輩は猫である』のことである。
『意味不明』といえば、僕の中では『エヴァンゲリオン』と村上春樹 さんの小説(もちろん良い意味で!)。
意味を探さず作品を楽しむのも大事!
狐人的読書メモ
意味不明、意味不明と繰り返し述べるも、自分自身が意味不明なものを書いている自覚があるので、ひとのことばかりはいえません、ということに最後になって気づきました(そもそも意見すること自体不遜だという意見もありますし……)。
(自作小説のこと。短編です。お時間がありましたらこちらもお願いします)
・『一夜/夏目漱石』の概要
1906年(明治39年)5月、初出。意味のわからなさと自作を解説しているかのごときメタが印象的。
以上、『一夜/夏目漱石』の読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
(▼こちらもぜひぜひお願いします!▼)
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