私は海をだきしめていたい/坂口安吾=狐人的あらすじと感想「素敵なタイトル、しかしてその内容は…」

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狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

私は海をだきしめていたい-坂口安吾-イメージ

今回は『私は海をだきしめていたい/坂口安吾』です。

坂口安吾 さんの『私は海をだきしめていたい』は文字数7500字ほどの短編小説です。タイトルがなんか素敵だなあ、と感じてしまうのは僕だけ? しかしてその内容は……。

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

私はいつも神様の国へ行こうとしながら地獄の門を潜ってしまう人間だ。

私はずるいのだ。悪魔の裏側に神様を忘れず、神様の陰で悪魔と住んでいるのだから。

私は悪人です、と言うのは、私は善人ですと、言うことよりもずるい。

その男は自分が良く生きてはいないことを自覚している。しかしそれを止めることはできないし、止めようとも思っていない。覚悟を決めて、自分でも良くないと分かっている生き方をしているわけだが、そこに不安も感じている。

そんな男に安心を与えてくれるのが一人の女だった。女は自惚れが強い。頭が悪い。貞操観念がない。男はただ女の体だけを愛している。

女は元女郎だった。その生活のために不感症となった。快楽がないのに、遊ばずにいられない。男にはそれが理解できない。まるで水を抱きしめているような感覚。男はただ女の体だけを愛している。

男も一人の女に満足できる人間ではなかった。恋をする人間ではなかった。男と女にはたしかに同じ血が流れている。しかし男はそんな女の血を呪う。苛立ち、怒り、体を求めれば、女はそれを拒む。女の体がますます透明になっていく。

夜、女が、男の額に冷たいタオルをのせてくれることがある。そんな女の気まぐれに、男は満たされるときもあれば、悲しむときもあった。

みたされた心は、いつも、小さい。小さくて、悲しいのだ。

女が離れていかないのは、男が女の浮気を許しているから。また男ほど、女の体を深く愛する者がなかったから。快楽を知らない女の体に、喜びを感じる男は、魂の不完全であることを疑う。そこに単純な幸福を見出すことができない。性は孤独だった。ならばそこに幸福を探す必要はない。

幸福などというものは、人の心を真実なぐさめてくれるものではないからである。

男はあるとき女と温泉に出かける。海岸で裸足になってはしゃぐ女が、大きな波に呑まれてしまう幻覚を見る。男はその幻覚の中に、海という肉体を見て感動した。

私は海をだきしめていたい。

狐人的読書感想

さて、いかがでしたでしょうか。

いかがでしたでしょうか――とか言いつつも、上手いあらすじになっていないことを自覚せずにはいられないわけなのですが……、雰囲気だけでも伝わってくれたら良いのですが……。

うーむ、簡単にまとめると、不感症の女性を鏡として、心から人を愛することのできない男性が、その葛藤を自己分析している私小説、とでもなるのでしょうか。

……てか、これだけ書けば、あらすじは必要なかったかも?

ま、まあ、そのことは置いといて!(?)

なんだか素敵なタイトルです

私は海をだきしめていたい-坂口安吾-狐人的読書感想-イメージ-1

正直、僕にはちょっと難しく感じました。しっかり内容を理解できているのかどうか。ゆえに感想も、ちゃんと内容に沿ったものを書けるかどうか、というところではあるのですが。とにかく書いてみたいと思います。お付き合いいただけましたら幸いです。

はじめタイトルを見た段階では「なんだか素敵なフレーズだなあ」という印象を得ました。実際に中身を読んでみると、「素敵」という言葉とは裏腹な内容で、ちょっとした衝撃を受けました。

僕が坂口安吾 さんの小説を読むのはこれが三作品目なので、このような新鮮な驚きを味わえたのは嬉しい誤算でしたが、坂口安吾 さん好きの方々にとっては、坂口安吾 さんらしい作品といえるみたいですね。

(まあ読後のいまにして思えば、これまで読んだ二冊からも、とくに『悪妻論』から、充分にこの作風を予期できたはずだ、とは思うのですが)

新装版 限りなく透明に近いブルー (講談社文庫)

海や退廃的なイメージからでしょうか、村上龍 さんの『限りなく透明に近いブルー』を想起させられるところがありました。内容的に通じるものがあったのか、と訊かれてみると――正直あまりよく覚えておらず……、その観点からまた読み直しておきたい小説です。

しかしてその内容は……

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不感症で浮気な女性と、心から人を愛せず、こちらも浮気性の男性――この男女の在り方は、現代的にはどうなのでしょうねえ……。ちょっと前に書いた読書感想で、貞操観念というものがもっとも厳しかったのは、日本人が敗戦によって、それまでの価値観を見失い、キリスト教的西洋の価値観が定着し出した終戦後だったらしい、という話をしましたが、これの裏を返せば、さらに昔には、貞操観念などないも同然だった(?)時代が続いていた、といえそうです。

(ちなみに貞操観念に触れた読書感想はこちら)

そう考えてみると、「大和撫子はもはや絶滅してしまった」と、一部では嘆かれている日本人の貞操観念の低下ですが、ただ先祖返りを起こしているだけ、というか、昔の時代に戻っただけ、とも捉えられてしまい、嘆くほどのことでもないのかなあ、と思わされてしまいそうなのですが、はたして……。

ちょっと話は逸れましたが、要するに、作中の登場人物である浮気な男と浮気な女――この在り方を肯定的に捉えるか、あるいは否定的に捉えるか、によって、感想も分かれてくるのかなあ、ということです。

すごくよく分かるという方もいれば、まったく理解できないという方もいらっしゃるのではないでしょうか?

ただ、この作品を客観的に眺めてみると、万人に共感できるポイントがあるように思います。

「魂の在処」「心の在処」「幸福の在処」

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それは「魂の在処」「心の在処」「幸福の在処」というようなものです。

正直に言うと、僕には男の言っていることが、結構すんなりと受け入れられるように思いました(それって、人として……、と思わなくもなかったのですが)。

たとえば、誰かを好きになったとして、その「好き」が、本当に心から人を愛しているということなのか、といったようなことを考えてみた経験はないでしょうか?

男女が人を好きになるという心の作用は、子孫繁栄のための本能に由来するものなのではないか。同様に親が子を思う愛なども、遺伝子に刻まれた機能のひとつに過ぎないのではないか。そもそも愛を生む人の心は、脳細胞を走る電気信号に過ぎないのではないか。幸福は、脳が生み出した快楽物質によってもたらされる身体的反応でしかないのではないか。

では、魂は、心は、幸福は――真には存在しないのでしょうか?

『私は海をだきしめていたい』は、男のエゴイズムと、それに翻弄されているような女の姿が描かれている小説ですが、男のエゴイズムの根源には、こうした、ある種の真理の追求みたいなものがあったように思うのです。

作中、男の態度は一貫して投げやりです。何とでも言うがいいや、どうにでもなれ、と言っています。不幸を知らず、幸福を知らず、人を愛することを知らず、人に愛されることを知らない。しかしそれは、単純に感情が欠落しているからだ、というわけでもなさそうです。

魂も心も幸福も、何も知らず、何も分からずとも――生きていくしかない。終始見られる男の男女関係を諦観した態度には、こうした人間の生き方の本質があるのではないかと感じました。

上手くないあらすじをあえて書いた言い訳

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魂の在処も心の在処も幸福の在処も分からないのに、それでも女を求めずにはいられず、その小ささがただただ悲しいと、男女関係を超えたところを見つめている物語なのではないか――と思った僕の読み方は、深読みのし過ぎでしょうか?

単純に、男の男女観が語られているだけと見るなら、キザっぽいエゴイストの独白としか捉えられない僕なのですが、はたして。

とはいえ、僕にとっての『私は海をだきしめていたい』は、そのタイトル同様に、心を打つフレーズが満載された小説でした。あらすじの引用はその一部です(じつはこれが言いたいがために上手くないあらすじを書いたのでした)。

内容を肯定できるかどうかはともかくとして、そうした言葉の数々を味わうためだけにでも、一読の価値ある小説だと思います。

ぜひに!

読書感想まとめ

私は海をだきしめていたい-坂口安吾-読書感想まとめ-イメージなんだか素敵なタイトル。しかしてその内容は、退廃的で、キザっぽいエゴイストの独白? と思いつつも、真理を追及しているようなもっともっと深いお話なのかもしれません。

狐人的読書メモ

坂口安吾 さんは狐人っぽい。まだ三冊目ですが、坂口安吾 さんの作品の傾向が見えてきたように思います……、とか言うのは、僕などにはまだまだ生意気なことでしょうか?

・『私は海をだきしめていたい/坂口安吾』の概要

1947年(昭和22年)、「文藝」にて初出。タイトルに集約されたような、ラストの情景描写がとても印象的な作品。

以上、『私は海をだきしめていたい/坂口安吾』の読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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