海の使者/泉鏡花=跪け愚民共!海の使者である私を敬うでゲソ?

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狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

海の使者-泉鏡花-イメージ

今回は『海の使者/泉鏡花』です。

文字数6500字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約20分。

海の使者といえばなんですか? イカ娘ですか。
違います。クラゲです。
クラゲは水族館の癒しスポット。
日本には海月の火の玉という妖怪がいます。
そういえば『海月姫』ドラマ化ですね。

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

秋の彼岸を過ぎた日、午後三時を回った頃、なにげなく、家の裏の小橋を、あしの茂った向こうへ渡りかけて、私は思わず足を止める。『きりきり、きりりりり』。いかにも優しい、しおらしい声で、鳥の鳴く音が聞こえたからだ。

ちょっと気をつけて聞いてみたが、もう鳴き止んだようで、ひっそりする。気を取り直して、私が再び足を踏み出すと、また『きりりりり』。

なんだろう? 虫ではない。たしかに鳥のように聞こえるのだが……千鳥かな? しかしここはイソでもなく、岩もなく、千鳥が止まりそうな澪標みおつくしもなく――仮にあったとしても、人がこんなに近寄れば、驚いて逃げないはずはないのだけれど。

水際の蘆に潜んでいるのだろうか? そちらを見ながら、注意してもう一歩、小橋ががたがたするのに、拍子を取るように『きりきりきり、きりりりり』。それを聞きながら、ぼんやりしているうちに、私は小橋を渡り終える。

橋は、丸木を削って三、四本並べただけのもの。板も橋杭はしぐいも朽ちている。とはいえ、どんなに朽ちたからといって、立ち木のほらではないのだから、鳥の棲むはずがない。

私は「どうも橋らしい」と見当をつける。もう一度、試しに渡り終えた橋のたもとを踏んでみると、『きりきりきり、きりりりりり…』、ひなうぐいすを踏みにじったような、痛々しいほどの可憐な声に、私は、はっと飛び退った。

たしかにいま乗ったところらしい。横木よこぎ橋板はしいたの間の暗がりを覗いたが、何も見えない。さらに覗くと真っ赤なかにがざわざわと動いた。私は「さては岡沙魚おかはぜが鳴くんだな」。

岡沙魚はおかに棲む沙魚はぜで、化物の一種らしい。岡沙魚なんているのか、たとえいたとして鳴くのか、と、なんだか疑わしいが、そのときはなんとなく、本当にいて鳴くような気がして、一人でおかしくなった。

橋の片端をトンと足で打つと、『キイ』と鳴る音に、『きりり』と続く。「音の正体は橋板のきしむ音だ、こいつを削れば琴の名器になるかもしれないな」と、私は結論付けて、散策の畦路あぜみちへ行った。

その蘆の中に窪地がある。いまは上げ潮のため、水を湛える池になっている。そしてここにもただ板を投げ置いただけの橋がある。私は先ほどの出来事を思い、この橋も唄うかもしれないぞ、などと板の半ばで立ち止まったが、何も聞こえてこない。夕暮れの静かな水の音が身に染みて、上げてくる潮を眺めながら、私はしばらくそこに佇む。

すると、水面すれすれのところに、むらむら動くものがある。それは海月くらげだった。人の顔が映った水面を悠々と泳いでいるかと思うと、なんだか憎い気がする。私が膝を折り、手を入れて捕まえようとすると、するりと腕を潜り抜けて、すましてまた泳ぐ。

私はむきになって、蘆を一本切り取って、それですくい上げるとつるりとかかったように見えたが、つるつるすべってもう何もなかった。海月が逃げたように思い、なんとなく勝った気がした。人間に恐れをなして逃げていくように思えた。

ところが海月は引き返してきて、黒い影ができて、水をさばく輪がどんどん大きくなっていく。それが動くにつれて、潮はしだいに増すようだ。水面が脈打ち、広がる。かさす潮が蘆を揺さぶる。池は底から浮き上がってくるように見えた。

橋の下は渦巻き乱れ、海月の身体がどんよりと光った。板が鳴り、足がぐらぐらしたので、私は慌てて飛びのいた。土に足をつけると水があった。

橋がだぶりと動いた。と思うと、海月はむくむく泳ぎ上がった。水は膨れ上がった。海月は、風のなまぐさに、空を飛んで人を襲うと聞いた――暴風雨あらしの沖には、海坊主うみぼうずにもばけるに違いない。

逢魔おうまヶ時を、あわただしく引き返して、もと来た小橋に乗ると――『きりりりり』。この橋はやや高いので、船に乗った心地で安心して振り返ると、袂まで潮がきていて、海月はひたひたと詰め寄せた。が、さすがにそこで留まった。

泡は呼吸をするような仇光あだびかりで、さらに水を押し上げそうな気勢が感じられる。向こうに見える玄武寺げんむじの頂に、月影がさっとさした。――

狐人的読書感想

『跪け愚民共! 海の使者である私を敬うでゲソ!』

『海の使者』で検索したら、『侵略!イカ娘』(マンガ、アニメ)がヒットして、ちょっと笑ってしまいました。

イカ娘もイカの化物、怪異と捉えていいんですかね? 泉鏡花さんの『海の使者』はクラゲの怪異のお話でした。

田越川などの名称から、舞台はおそらく逗子だと思われます。玄武寺は、随筆の『逗子より』にも、実在するお寺の名前と並んで出てくるので、実在するお寺(あるいは実在したお寺)と考えてよさそうです。

あし(イネ科ヨシ属の多年草)が群生していることや、潮が上がってきてクラゲがくることからして、川の下流域に「私」は住んでいるようです。

情景描写からは田舎の雰囲気が感じられますが、まあ、現代からしてみれば、当時の風景はぜんぶ田舎に見えて当たり前かもしれません。

そんな当時としては日常だった風景の中に、幻想や怪異の気配を感じ取り、小説として書き出すことができるというのは、いつも、ものすごい才能を感じさせられるところです。

とはいえ、日本神話(日本書紀)では『豊葦原とよあしはらの国』と日本のことを表しているので、蘆(葦)は幻想とは親和性が高いオブジェクトなのかもしれませんねえ……、泉鏡花さんの想像のバックボーンに興味を覚えました。

さらに、本文中の描写で気になったのが『一来法師いちらいほうし』という名称でした。

ひざを割ってと手を突ッ込む、と水がさらさらとかいなからんで、一来法師いちらいほうし、さしつらりで、ついと退いた、影もたまらず。腕を伸ばしても届かぬ向こうで、くるりと廻るふうして、澄ましてまた泳ぐ。

クラゲを捕まえてやろうとやっきになる「私」とクラゲが戯れている(?)ところの描写なのですが、どうやらクラゲのすばしっこさを表現しているもののようです。

一来法師は『平家物語』に登場している人物(寺法師)で、身軽な動きで大活躍した人とのことでした。寺法師とは武蔵坊弁慶に代表される武装した僧兵のことです。

(1180年、以仁王の乱。以仁王と源頼政は平氏討伐のため挙兵するも、形勢不利のため宇治平等院へ退却。攻め寄せてきた平家軍と、宇治橋の上での攻防戦となる。その際の源氏側の先陣が浄妙明秀じょうみょうめいしゅうという人、二番手だったのがくだんの一来法師で、明秀に疲れの色が見えるや、その肩を踊り越えて前に出て奮戦した)

あまり関係ありませんが、2018年1月から東村アキコさん原作のマンガ『海月姫』がテレビドラマ化されるそうです。

クラゲといえば、のんびりした雰囲気があって、水族館で見てるだけなら癒しの生物といった感じですが、そういえば、クラゲの怪異というのは今回が初耳のように僕は思いました。

(調べてみると、「海月の火の玉」または「くらげ火」という妖怪が、鬼火の一種として日本には古くから伝わっていて、おそらくこれがモチーフのようです)

泉鏡花さんのクラゲの怪異譚、よろしければぜひに。

読書感想まとめ

海の使者とは、イカ娘にあらず、海月の火の玉のことのようです。

狐人的読書メモ

『侵略!イカ娘』は著者が伊豆へ旅行した際に「海産物を擬人化する」という着想を得たところから生まれたらしい。『海の使者』もあるいは逗子で着想を得たのだろうか。場所や風景が喚起するイメージというものはたしかにあって、大切にしなければいけないのかもしれない。

・『海の使者/泉鏡花』の概要

1909年(明治42年)、『文章世界』にて初出。海月の怪異譚。

以上、『海の使者/泉鏡花』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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