蜜柑/芥川龍之介=人を見た目だけで判断しない想像力を持ちたい!

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

蜜柑-芥川龍之介-イメージ

今回は『蜜柑/芥川龍之介』です。

文字数3500字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約9分。

私が汽車の中で出会った小娘は、下品な顔立ちで、不潔な服装をして、無作法で……私は不快さと腹立たしさを覚える。しかし空から降る鮮やかな蜜柑の色が、私の小娘に対する印象を一変させる。

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

ある雲った冬の日暮れのこと、憂鬱な気分を抱えながら、私が二等客車の隅に腰を下ろしていると、出発間際、十三、四の田舎娘が慌ただしく入ってきて、私の前の席に座る。

小娘は下品な顔立ちで、不潔な服装をしており、二等と三等の区別もわきまえておらず、私は不快さと腹立たしさを覚える。

出発からしばらくして、私がうつらうつらしていると、小娘は突然汽車の窓を開ける。煤を溶かした空気が車内にみなぎり、私はひどく咳き込む。

咳がおさまり、私が頭ごなしに小娘を叱りつけてやろうと思ったとき、窓の外、暮れ色のわびしい田舎町の風景の中に、頬の赤い三人の男の子が並んでいるのを見る。

子供たちは何かを一生懸命に叫んでいた。暖かな日の色に染まった蜜柑が、子供たちの上へばらばらと空からふってきた。

私は思わず息を呑んだ。

小娘は、おそらくこれから奉公先へ行くのだろう。そして、それを見送りにきた弟たちを労うため、いくつかの蜜柑を窓から投げてやったのだ。

暮れ色の町、子供たちの小鳥のような声、鮮やかな蜜柑の色――私の心には切ないほどこの光景が焼きつけられて、ほがらかな心持ちが湧き上がり、娘はさきほどまでとはまるで別人のように見えたのだった。

狐人的読書感想

汽車の窓から見る、陰鬱なプラットフォームから、鮮やかな暮れ色の田舎町の風景、蜜柑の色。

そんな場面転換と情景描写が印象に残る、とてもいい小説でした。

これは、憂鬱な気分の主人公である「私」が、汽車の中で、下品な顔立ちで不潔な服装をした無作法な田舎娘に出会い、不快で腹立たしい思いをするのですが、ふとしたできごとからその印象が180°変わり、その心情の変化と情景の変化が見事にマッチしたお話、というふうに感じます。

「見た目で人を判断しないで」とは言われますが、人間どうしても人の見た目、第一印象で、人を判断することはよくあることのように思います。

田舎娘の顔立ちや服装は、彼女が望んでしているものではありません。無作法な態度も、勘違いだったり知識が乏しかったり、あるいは教養を身につける環境にいなかったのであれば、致し方のないことだと感じられます。

とはいえ、物語にあるように、突然車窓を開けられて、煤の混ざった空気が入り、咳き込むようなことがあれば、多くの人は気分を害するでしょう。「私」のように一言文句を言ってやろうと考えるのは当たり前だという気がします。

しかし、つぎの瞬間、娘の弟たちが姉の見送りのために一生懸命声をあげて、手を振って、娘がそれに報いようと蜜柑を投げる姿を見て、「私」の娘に対する第一印象は一変しました。

きっと娘は奉公先へ赴こうとしていて、それを弟たちが見送りにきていて、娘は弟たちの労に報いようと蜜柑を投げた――なんとなく娘の苦労や人柄が想像できる場面ですよね。

この想像力こそが、とても大事なものなのではないかと、僕は思いました。

怖そうな見た目だったり、不潔そうな見た目だったりすると、やはりどこか近づくのを躊躇してしまうように思うのですが、その人は好きでそんな見た目をしているわけではなくて、実際に話をして見れば、優しかったり親切だったりするかもしれない――そういうふうに想像して、人と接するよう心がけることって、大切なのではなかろうか、なんて、単純に感じたんですよね。

もちろん、見た目どおりに恐かったり怪しい人も、世の中にはいるわけですから、あんまり無警戒に人に近づくのも、それはそれで問題かもしれませんが。

とりあえず、人を見た目だけで判断しない、想像力は持ちたいなと願う、今回の読書感想でした。

読書感想まとめ

人を見た目だけで判断しない想像力を持ちたい。

狐人的読書メモ

・とはいえ、「人を見た目で判断しないで、というのはワガママ」という意見を聞いて頷かされる思いもした。

・たとえば、髪の毛を染めていたり奇抜なファッションをしている人がいた場合、それはその人が好きでやっていることであって、自分の意志で選んでいるものに偏見を持たれたからといって、「見た目で判断しないで」というのはワガママだという。

・髪型や服装は自分で選べるのだから、もしも真面目に見られたいのならば、それ相応の恰好をすればいい、という意見はもっともだと思った。

・『蜜柑/芥川龍之介』の概要

1919年(大正8年)5月、『新潮』にて初出。初出時のタイトルは『私の出遇った事』。横須賀駅から乗った汽車の中で、実際に著者が体験したできごとを描いているらしい。当時著者は横須賀の海軍機関学校の教官として勤務、横須賀線列車を通勤に利用していた。

以上、『蜜柑/芥川龍之介』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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