狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
住野よる さんの『君の膵臓をたべたい』は読みやすく、上手にまとまっていて、とてもいい物語です――とてもいい物語なのですが……。2016年(第13回)本屋大賞 第2位! ダ・ヴィンチBOOK OF THE YEAR 第2位! 読書メーター読みたい本ランキング 第1位! 2017年、実写映画公開予定! ……読むしかない! といった感じ(流行に踊らされがちなのは僕だけ?)。未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
主人公の「僕」は人間関係を避けて生きている。ある日病院で「共病文庫」なるものを拾う。持ち主はクラスメイトの山内桜良――そこには、彼女が膵臓の病気であること、余命が1年であること……、日々の記録が綴られていた。
桜良は家族以外にその事実を秘密にしている。「僕」は家族以外でそのことを知る唯一の人間になった。その日から、病気である境遇とは裏腹に、快活で奔放な桜良に振り回される日々が始まる。
彼女との会話、彼女との図書委員の仕事、彼女との食事、彼女との旅行、彼女との喧嘩、仲直り――そして彼女との、別れ。
『君の膵臓をたべたい』
互いが最後に贈り合った、その言葉の意味とは?
狐人的読書感想
さて、何から書き始めましょう。『君の膵臓をたべたい』のように、上手くまとめられるとよいのですが、はたして。
あいさつのところで述べましたとおり、『君の膵臓をたべたい』は読みやすく、上手にまとまっていて、とてもいい物語です。とてもいい物語なのですが、僕はなぜか感情移入できませんでした。最初は、僕のパーソナルを、主人公の「僕」に鑑みて、最後は泣いちゃうかもしれない、というような予感を抱いたのですが……。『君の膵臓をたべたい』のヒロイン山内桜良の結末のように、世の中そうそううまくはいかないよ、ってこと?
どうやらその辺りが今回の読書感想の中心となりそうです。お付き合いいただけましたら幸いです。
まず僕が、最初主人公の「僕」に感情移入できそうだ、と思った理由は、彼が僕と同じ「狐人」だと感じたからです。いきなり「狐人」とかいわれても……、獣人? ……ですよね(ああ、せっかく読んでくれている方の、去っていく音が聞こえてくるようですが、語らずにはいられない……)。
「狐人」は、僕が種族として(勝手に)名乗っていて、ひとつの言葉として確立したい概念です。もともとは「孤人」という単語の入力ミスから生まれた発想なのですが。「孤人」を、単純にいってしまえば「孤独な人」ということになりますが、「狐人」は、「孤独であることをとくに何とも思っていない人」と表現するのが、いまのところ一番しっくりくるような気がしています。
例として最近は、恋愛に積極的になれない「草食系」の発展型である「絶食系」を挙げています。「草食系」は現実の恋愛をしたいけど積極的にはなれない人を指し、「絶食系」は現実の恋愛そのものに興味がない人を指していいます。
人に興味があるかないか。そこに両者の違いがあります。
最近読んだ本では、第155回芥川賞を受賞された村田沙耶香さんの『コンビニ人間』の主人公、古倉恵子が、僕の考える「狐人」像に近いです。
『君の膵臓をたべたい』の主人公「僕」は、人間関係を避けて、小説の中に没入して生きています。こうした、『エヴァンゲリオン』の碇シンジくんに代表されるような、クールというか、ネガティブ系の人物が主役の物語というものは、いまや当たり前のようになっていて、昔の漫画やアニメの主流だった熱血系主人公から、時代の移り変わりとともに、徐々にシフトしてきた印象があります。
ネガティブ系の主人公に共感を抱く人が増えてきた背景には、現代、こうしたネガティブ系の人が増えてきているためだと、僕などは想像するわけなのですが。
『君の膵臓をたべたい』の主人公の「僕」が、小説の中に自分の居場所を見つけたように、漫画、アニメ、映画、ゲーム、音楽、インターネット……、現代にはさまざまな楽しいことが溢れていて、「人間関係の煩わしさを我慢してまで友達と遊ぶ必要なくない?」という考えにも、頷けるところがあるのではないでしょうか。とくにインターネットの普及は、人間関係の希薄化に拍車をかけているように思えます。例えば、ネット(SNSなど)だけの関係は、学校や会社と違って、くっつくのも切るのも簡単にできる印象がないでしょうか。
であれば、『君の膵臓をたべたい』の「僕」は、自分自身に通じるところを感じられて、現代人には感情移入がしやすいはず! というのが、僕が最初に抱いた印象でした。
ではなぜ感情移入できなかったのか?
読みやすいし、二人の会話はテンポがよくて、(僕としては)おもしろかったし、ところどころに挿入されるトリビアや、伏線、主人公の名前に関するギミックなども興味深くて惹かれました。
ではなぜ感情移入できなかったのか?
僕なりに分析してみると、読んでいて、現実とファンタジーの線引きがうまくできなかったからかなあ……、とまず考えました。
『君の膵臓をたべたい』の土台は、いうまでもなく、現代の日本なわけなので、現実のお話だといえると思うのですが、膵臓を患っていても健常者とまったく同じように日常生活を送れる医療技術の存在は、間違いなくファンタジーで、しかしさほど非現実的といった感じではなく、ひょっとしたら将来的には可能になるかもしれない、と思わされるところがあって、見事に、違和感なく現実にファンタジーが融合していると思うのですが。
だからこそ、僕は、ヒロインの山内桜良の存在がファンタジックに際立っているように思ってしまって、このヒロインが現実的な世界観に、うまく溶け込めていないように感じ、そこに違和感を覚えてしまいました。
活発で、それなりにかわいくて、簡単に彼氏とかもできて、なのに余命いくばくもないような女子高生が、地味で目立たないクラスメイトに惹かれて、いろいろとちょっかいを出してくれる……。
要するに「実際こんな女子いる?」と思ってしまったのです(思ってしまったら負けなわけなのですが)。
おそらく、このような思いは、ほとんどの漫画や小説などに、いえることだとは思うのですが。
現代的なネガティブ系主人公の「僕」のパーソナリティやありえそうでありえない医療技術といった現実的な世界観と、ファンタジーなヒロインに違和感を覚えてしまった――設定が現実的なだけに、現実には存在しえないヒロインに共感できなかったのかなあ……、と。
だったら、ラノベとして、あるいはギャルゲーとして、こてこてのファンタジーとして読めばどうか――と想像してみるのですが……、それでも感情移入できたかなあ……、という思いがどこか残ります。
ヒロインの結末を客観的にとらえれば、間違いなく悲しいもののはずなのですが、結局それを悲しく思えなかった――たぶん、ラノベとして読んでいてもギャルゲーとして読んでいても、それは変わらなかったように思います。泣けるラノベもギャルゲーもたくさんあるのに……。
(なぜだろう?)
明るくて活発で悲壮感を感じさせないヒロインのキャラクターによるところも大きいのでしょうが、桜良を不幸だとは思えなかったからでしょうか? たしかに余命は限られていて、幸せだとはいえない境遇のヒロインですが、何不自由なく満たされた生活を送っている……、それはもちろん本人の努力によるところもあって、羨ましい、とか思ってしまうのはお門違いだとはわかっていても、そういうことを考えてしまう時点で、このヒロインに共感するのは不可能だったように思います。
家の経済力、家族、容姿、性格、学校、友人……、前述のとおり、全部が全部ただ与えられたわけではないのでしょうが、満たされた環境があってのヒロインの善性に、ひねくれものの僕は共感できなかったのかもしれません。
改めて考えてみると、不幸な境遇にあっても、善性を発揮できるような、聖人的主人公やヒロイン、あるいは不幸な境遇ゆえにダークサイドに堕ちてしまうような人間的な主人公やヒロインに共感したり感動する傾向が、僕(一般的?)にはあるような気がします。
どこまでも非現実的な聖人的キャラやどこまでも現実的な人間的キャラだからこそ感情移入できるというか(うまくいえずにすみません)。
前者は、最近のブログ記事でも書いた織田作之助 さんの『道なき道』の寿子、北方謙三 さんの小説『水滸伝』(北方水滸)の楊令、浅田次郎 さんの小説『蒼穹の昴』の春児、同じく浅田次郎 さんの『プリズンホテル』の美加、後者は、スターウォーズのダース・ベイダー(アナキン・スカイウォーカー)などが思い浮かびます(最近触れた作品だからかもしれません)。
・道なき道/織田作之助=狐人の感想はなぜか俺TUEEE系⇒MMORPG(まじめな教育的感想もあります)
・小説仲間におすすめ!『水滸伝』(北方水滸)歴史SLGのような小説
よろしければぜひ読んでみてください!
――もちろん『君の膵臓をたべたい』のことですが、ブログのほうもよろしければ(あざとし?)。
(とはいえ、桜良みたいな子にちょっかい出されたら、男子は好きになっちゃうんだろうなあ……、かくいう僕もいわずもがな?)
読書感想まとめ
結局、住野よる さんの『君の膵臓をたべたい』のように、上手くまとめることができませんでしたが、感情移入できなかった理由を、簡潔にいうならば、
「僕がひねくれものなせい!」
ということになってしまうでしょうか? いい物語だっただけに、素直に作品を楽しめなかったこんな僕の性格が疎ましい! あなたは『君の膵臓をたべたい』を読んでどのように感じるでしょうか? 感情移入できなかった人はひょっとして? (失礼しました)
――とか自己分析しつつ読んでみるのも別の意味でおもしろいかもしれません。
未読の方はぜひに!
狐人的読書メモ
・『君の膵臓をたべたい/住野よる』の概要
『君の膵臓をたべたい』は小説投稿サイトの『小説家になろう』から発信された小説なのですね。小説投稿サイトについては少しばかり調べたことがあって、その影響力はいまや侮れないものとなっていて、驚かされるばかりです(小説投稿サイトについてはこちら⇒【狐人雑学】)。
住野よる さんは、もともと『君の膵臓をたべたい』を電撃小説大賞という新人賞に応募していたそうですが、一次選考にも通らなかったそう……、無冠の帝王との異名を持つ村上春樹 さんに代表されるように、いい小説が必ずしも賞で評価されるとは限らない……、ということを改めて思わされました。
上手にまとまった物語だとは何度もいいましたが、新人賞の選考後に作風を見直して書き直しているそうで、本を出せる作家さんの構成力というか、上手くまとまった小説が書ける能力にはいつも感心させられてしまいます。
じつは、『君の膵臓をたべたい』を読んで一番いいと思ったのは、やはりこのタイトル。気になるタイトルの小説は、ついつい手に取ってしまいがちなのは、きっと僕だけではないはずですよね?
・『君の膵臓をたべたい』のタイトルの意味
「僕は、本当は君になりたかった」
↓
『君の爪の垢を煎じて飲みたい』
↓
『君の膵臓をたべたい』
住野よる(2015)『君の膵臓をたべたい』双葉社,p.217,218
――猟奇的な話?、君の病気を治したい……、いろいろと想像できますが、上記引用のような憧れや愛情の込められた言葉でした。
・主人公「僕」について
「人間関係を数学の式みたいに考えてしまう」、暴力を振るわれた際の、加害者に対する冷静な観察眼やそこから影響を受けて、自我を再構築しているかのような描写は、横光利一 さんの『機械』の「私」をどこか彷彿とさせます。しかし、自分のことを「草舟」にたとえ、ヒロインからのアプローチに不承不承といった体で唯々諾々と従う様は、まったくの機械的な人間とも思えず――どこか新美南吉 さんの『ごんぎつね』が、人恋しさにいたずらしていた姿を思わされました。人間にまったく興味のない人間はいない? ……違和感というほどでもないのかもしれませんが――急に落ちたな「僕」といった印象あり。名前は志賀春樹。西尾維新 さんの小説『戯言シリーズ』の「いーちゃん」みたいに明かされないのかと思いきや、そこは明かしてくれたのですっきり。
参考までに
⇒機械/横光利一=狐人的感想「横光利一さんの機械は普通じゃない小説!」
⇒ごんぎつね/新美南吉=狐人の感想は「ごんとナルトと、鰻の命大事に!」(ネットで話題になった「ごん自業自得」説にも言及)
・二人が旅行した場所の推定
南、とんこつラーメン、学問の神様(牛の偶像、宝物殿、菖蒲池)、梅ヶ枝餅――などから福岡県太宰府市(太宰府天満宮)。
・同物同治(p.6)
体の調子の悪いところと同じところを食べるといい、という中国薬膳の考え方。例、膵臓が悪ければ、牛や豚の膵臓を食べる、みたいな。
・ファニーボーン(p.27)
肘、神経が皮膚から浅いところを走っているため、ぶつけるとビリビリしびれる。
・おみくじの「吉」(p.89)
『大吉>中吉>小吉>吉>半吉>末吉>末小吉>末凶>凶>小凶>半凶>大凶』
・『真実か挑戦』ゲーム(p,111)
実在する。主に欧米で楽しまれているゲーム。『Truth or Dare』。
・杉原千畝(p.118)
第二次世界大戦中、6000人の避難民(ユダヤ系)の命を救うため、外務省からの命令に違反して、大量のビザを発行した。「東洋のシンドラー」
・ミッフィーちゃんの口(p.140)
「×」に見えるミッフィーちゃんの口は、じつは上が鼻で、下が口らしい。……初めて知りました。
・『星の王子様/サン=テグジュペリ』(p.142)
『しくじり先生』でもオリラジの中田先生が紹介していた。未読なので読んでみたい小説。
・ちょっと気になったフレーズ
一日の価値は全部一緒なんだから、何をしたかの差なんかで私の今日の価値は変わらない。
住野よる(2015)『君の膵臓をたべたい』双葉社,p.13
彼女の見る道の色と、僕の見る道の色は本当なら違ってはいけないんだ。
住野よる(2015)『君の膵臓をたべたい』双葉社,p.16
偶然じゃない。運命なんかでもない。君が今までしてきた選択と、私が今までしてきた選択が、私達を会わせたの。私達は、自分の意思で出会ったんだよ。
住野よる(2015)『君の膵臓をたべたい』双葉社,p.170
人間は相手が自分にとって何者か分からないから、友情も恋愛も面白いんだよ
住野よる(2015)『君の膵臓をたべたい』双葉社,p.180
桜は咲くべき時を待ってるんだよ。
住野よる(2015)『君の膵臓をたべたい』双葉社,p.186
あんな父親からどうして僕のような子どもが生まれたのか、いつも不思議に思う。
住野よる(2015)『君の膵臓をたべたい』双葉社,p.210
母親なめんな
住野よる(2015)『君の膵臓をたべたい』双葉社,p.212
以上、『君の膵臓をたべたい/住野よる』の読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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