ビルディング/夢野久作=想像力が生み出す恐怖って怖いけど…。

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

ビルディング-夢野久作-イメージ

今回は『ビルディング/夢野久作』です。

文字数1000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約3分。

巨大な四角いビルディング。月の出る深夜。私が宿直室のベッドで眠りかけている。隣室から私と同じ寝息が聞こえてくる…。いないはずの誰かがそこにいるかもしれない恐怖。

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

(今回は全文です)

『ビルディング/夢野久作』

巨大な四角いビルディングである。

窓という窓が残らずピッタリと閉め切ってあって、へやという室が全然、暗黒を封じている。

その黒い、巨大な、四角い暗黒の一角に、黄色い、細い弦月が引っかかって、ジリ、ジリ、と沈みかかっている時刻である。

私はその暗黒の中心に在る宿直室のベッドの上に長くなって、隣室と境目の壁に頭を向けたまま、タッタ一人でスヤスヤと眠りかけている。

私は疲れている。考える力もないくらいむたがっている。

私の意識はグングンとゼロの方向に近づきつつある。無限の時空の中に無窮の抛物線を描いて落下しつつある。

その時に壁一重ひとえ向うの室からスヤスヤという寝息が聞こえて来た。私の寝息にピッタリと調子を合せた、私ソックリの寝息の音が……静かに……しずかに……。

……壁一重向うの室にモウ一人の私が寝ているのだ。私の頭の方に頭を向けて、私の寝姿を鏡に映したように正反対の方向に足を伸ばしつつ、スヤスヤと睡りかけているのだ。

……その壁の向うの私も疲れている。考える力もないくらいむたがっている。そうしてその意識がグングンと零の方向に近付きつつある。無限の時空の中に、無窮の抛物線を描いて……グングンと……。

私はガバと跳ね起きた。眼がパッチリと醒めた。隣の室がのぞいてみたくなった。

しかし私は闇暗くらやみの中で半身を起したまま躊躇ちゅうちょした。もし隣の室を覗いた時に、私と同じ私がスヤスヤと寝ていたとしたら、それはドンナに恐ろしい事だろう……とはいえ又、万に一つ隣の室に誰も居なかったとしたら、その恐ろしさが何層倍するだろう……と……。

私はそう思い思い何秒か……もしくは何分間か、眼の前の闇暗くらやみの核心をジーッと凝視していた。凝視していた……。

……と……そのうちに或る突然な決心が私に襲いかかった。その決心に蹴飛ばされたように私は、素跣足すはだしのまま寝台を飛び降りた。宿直室を飛び出して、隣の室に通ずる、暗黒の廊下を突進した。

……するとその途中で何かしら真黒い、人間のようなものと真正面から衝突したように思うと、二つの身体からだがドターンと人造石の床の上にたおれた。そのままウームと気絶してしまった。

巨大な深夜のビルディング全体が……アハ……アハ……アハ……と笑う声をハッキリと耳にしながら……。

狐人的読書感想

想像力が生み出す恐怖っていうんですかね。こういうのって実際に経験してみないことにはなかなか伝えづらい気がしてしまいます。

僕も一つあるんですよね、こういう話。

夜寝ていて、ふと目を覚ますと身体がまったく動かせない、いわゆる金縛り状態なんですけれど、足元に誰かがいる気配を感じるのです。

仰向けに寝ていて、首も動かせないから、本当にそこに誰かがいるのかわからないんですけれど、たしかにそこに誰かいて、僕のことをじっと見ている気がするんですよね……。

声を出して確かめたいんですけれど声は出せないし、本当に怖くなってくるんですよね……。

目だけは開け閉めできたんですが、目を開けていても薄暗い天井しか見えなくて意味ないし怖いし、目を閉じていたらいつのまにかまた眠ってて、まあ当然ながら朝目を覚ましても誰も部屋にはいなかったわけですが、あれは怖かったですね。

金縛り自体は、激しい運動のあととか、身体が疲れて眠っているのに脳が目覚めてしまった状態なんだそうです。

そういう不自然な状態が不安となってありもしない幻想を抱かせたということになるのでしょうが、口ではなかなか伝えづらい恐怖がありましたね、あれは。

あのとき感じた気配がドッペルゲンガーだったのかどうか、ちょっと気になってきた今回の狐人的読書感想でした。

読書感想まとめ

想像力が生み出す恐怖って怖いけど…。

狐人的読書メモ

・まあ本当の人間だった場合が一番怖い気がしますが……(何も盗まれていなかったから空き巣だとしたら目的が不明だし、家族だとしても同じくだし……寝ぼけてたとか?)。想像力が生み出す恐怖。

・そういえば『眼前の恐怖も想像力の生みなす恐怖ほど恐ろしくはない』ってシェイクスピアも言ってたような。

・想像力が生み出す恐怖って怖いんだけれど、それをなかなか口で伝えるのは難しく感じてしまうのは、僕の表現力の乏しさゆえなのだろうか……(という今回のオチ)。

・『ビルディング/夢野久作』の概要

1932年(昭和7年)『探偵クラブ』にて初出。たぶんドッペルゲンガー小説……?

以上、『ビルディング/夢野久作』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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