狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『狸と与太郎/夢野久作』です。
文字500字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約1分。
なぜ危険生物やお化けは怖いのか。それは怖いと知っているから。知らなくても、知っている体験から、想像力で補うから。ホラー映画を見てしまうのは、恐怖と快楽をつかさどる脳の……
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
(今回は全文です)
『狸と与太郎/夢野久作』
与太郎は毎日隣村へ遊びに行って、まだ日の暮れぬうちに森を通って帰って来ました。
「あの森は狸がいていろいろのものに化けるから、日の暮れぬうちに帰らぬと怖ろしいぞ」
とお母さんが言いきかせているからです。
ある日、太郎はうっかり遊び過ごして真暗になって帰って来ました。森の中に入ると、忽ち一丈もある位の一つ目入道が出ました。
「ヤア。大きな伯父さんが出て来た。眼玉が一つしかないんだね。面白いなあ。僕と一緒にうちへ遊びに来ないかい」
と与太郎は言いました。一つ目入道は見ているうちにロクロ首になりました。
「ヤア。綺麗な首の長い姉さんになった。変だなあ。どうしてそんなに長くなるの。もっともっと長くして御覧」
と言いました。ロクロ首は今度は鬼の姿になりました。
「オヤ、鬼になった。お節句の人形によく似てる。可笑しいなあ。もっといろんなものになって御覧」
化け物は与太郎がちっとも怖がらないのでつまらなくなって、狸になってしまいました。それを見ると与太郎は真青になって、
「ワア狸が出たあ。化けると大変だ。助けてくれ」
と言いながら一所懸命逃げて行きました。
狐人的読書感想
落語みたいなオチがあって、おもしろいお話でした。これは「恐怖というものをよく表している」と思いました。すなわち、「知らないものは怖がれない」ということなのですが。
人は「未知のもの」を怖がることもありますが、未知のものに対する恐怖というのは、既知の恐怖対象と照らし合わせて怖がるわけで、そういう意味ではやはり既知のものを怖がっていると言えるわけです。
与太郎は、お母さんに「狸は化けるから怖ろしい」と教えられますが、「化けること」や「妖怪について」は無知であったため、「一つ目入道」や「ロクロ首」は怖れませんでしたが、しかし狸には恐怖して逃げ出してしまいます。
「恐怖は学習によって生じる」ということは、恐怖のメカニズムの一つとして言えるんだそうです。
たとえば、ラットにある音を聞かせて、その後、微弱な電気ショックという恐怖体験を与えると、ラットはその音によって電気ショックがくることを学習し、音に対してびびってしまう「すくみ反応」という恐怖反応を示すようになります。
人間は恐怖体験を、過去の体験や、その体験からくる想像力で補完できるので、未知の宇宙人とか幽霊とかを怖がることができるわけです。
「なぜ人は怖いと感じるんだろう?」というのは、誰しも一度は考えたことのある疑問だと思いますが、よく言われるのは「生存を脅かすもの、状況に対し、脳が発する危険信号」を恐怖として認知しているというお話です。
恐怖をつかさどる脳の部位は偏桃体というところで、偏桃体は楽しさや快楽をもつかさどるので、人間は恐怖したときに同時に発生する快楽、恐怖から脱した後に得られる安堵感を求めて、ホラー映画やジェットコースターなど恐がるための娯楽を求めるといいます。
恐怖、快楽ともに体験回数や想像力がひとによって異なるので、すなわち慣れによって怖がり方には個人差が生じる、という話は頷けるところです。
恐怖反応とか快楽反応って、他の動物にしたらただの事象に過ぎないけれど、人間はそこに物語を付与することで、ただの事象を恐怖や愛情といった物語にしてしまい――なんだかおもしろいというか不思議な感じがしたりします。
単純なお話ほど突き詰めてみると物事の本質や真理が描かれているように感じるのですが、これも僕の勝手な想像力による物語の付与に過ぎないんですかねぇ……、とか感じた、今回の狐人的読書感想でした。
読書感想まとめ
なぜ人は怖いと感じ、恐怖を求めるのか?
狐人的読書メモ
・「狸が化ける」という話は、中国の「九尾狐狸」から発生していて、九尾狐狸はもともと「狐」を表す語であったが、日本に渡り「狐」と「狸」に分離されて広まった。
・『狸と与太郎/夢野久作』の概要
1923年(大正12年)11月『九州日報』にて初出。九州日報シリーズ。初出時の署名は「香倶土三鳥」。落語的なオチがおもしろく、恐怖というものの本質が垣間見える。
以上、『狸と与太郎/夢野久作』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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