あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『きのこ会議/夢野久作』です。
夢野久作 さんの『きのこ会議』は、無料の電子書籍Amazon Kindle版で4ページ、文字数1500字ほど。かわいいお話。そしてブラックユーモアに富んだお話。未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
あらすじ(てか短縮版?)
そんなわけで今年もきのこ会議の時期がやってまいりました。
「皆さん。この頃はだんだん寒くなりましたので、そろそろ私共は土の中へ引き込まねばならぬようになりました。今夜はお別れの宴会ですから、皆さんは何でも思う存分に演説をして下さい。私が書いて新聞に出しますから」
時間:夜
場所:きのこの山(? ……たけのこ派? どっちも美味しいですよね)
参加者:
(食用きのこ連)初茸、松茸、椎茸、木くらげ、白茸、鴈茸、ぬめり茸、霜降り茸、獅子茸、鼠茸、皮剥ぎ茸、米松露、麦松露……
(毒きのこ連)蠅取り茸、紅茸、草鞋茸、馬糞茸、狐の火ともし、狐の茶袋……
「皆さん、私は椎茸というものです。この頃人間は私を大変に重宝がって、わざわざ木を腐らして私共の畑を作ってくれますから、私共はだんだん大きな立派な子孫が殖えて行くばかりです。今にどんな茸でも人間が畠を作ってくれるようになって貰いたいと思います」
「皆さん、私共のつとめは、第一に傘をひろげて種子を撒き散らして子孫を殖やすこと、その次は人間に食べられることですが、人間は何故だか私共がまだ傘を開かないうちを喜んで持って行ってしまいます。そのくせ椎茸さんのような畠も作ってくれません。こんな風だと今に私共は種子を撒く事が出来ず、子孫を根絶やしにされねばなりません。人間は何故この理屈がわからないかと思うと、残念でたまりません」
一同、「そうだ、そうだ」と囃します。
「お前達は皆馬鹿だ。世の中の役に立つからそんなに取られてしまうのだ。役にさえ立たなければいじめられはしないのだ。自分の仲間だけ繁昌すればそれでいいではないか。俺達を見ろ。役に立つ処でなく世間の毒になるのだ。蠅でも何でも片っぱしから殺してしまう。えらい茸は人間さえも毎年毎年殺している位だ。だからすこしも世の中の御厄介にならずに、繁昌して行くのだ。お前達も早く人間の毒になるように勉強しろ」
一同、ざわざわ。なるほど、納得する様子の者も。
そのうち夜が明け、きのこ狩りの一家がやってきて、蠅取り茸(毒きのこ)の言うことが本当かどうか確かめてみることに……。
「もはやこんなに茸はあるまいと思っていたが、いろいろの茸がずいぶん沢山ある」
「あれ、お前のようにむやみに取っては駄目よ。こわさないように大切に取らなくては」
「小さな茸は残してお置きよ。かわいそうだから」
「ヤアあすこにも。ホラここにも」
「オイオイみんな気を付けろ。ここに毒茸が固まって生えているぞ。よくおぼえておけ。こんなのはみんな毒茸だ。取って食べたら死んでしまうぞ」
「さあ行こう」
「まあ、毒茸はみんな憎らしい恰好をしている事ねえ」
「ウン、僕が征伐してやろう」
…………。
(狐人的な)読書メモと感想
さていかがでしたでしょうか。
夢野久作 さんといえば、やはり『ドグラ・マグラ』といったような怪奇小説をイメージしてしまいますが、『きのこ会議』のようなかわいらしい、ちょっと意外と思えるような作品もあります。
・小説読書感想『懐中時計 夢野久作』1分で読…てかこのブログで読める!
・小説読書感想『森の神 夢野久作』ブログで全文が読める! 森の神ツンデレ説?
・小説読書感想『医者と病人 夢野久作』ブログでさらっと読める医療小説!
こちらもぜひ読んでみてください。
さて『きのこ会議』は擬人化されたきのこたちが「きのこ会議」を開催するお話でした(そのまんま……)。
擬人化とは、動物や植物、あるいはものに人間の性質や特徴を与えて描く比喩表現の一つです。この歴史は意外と古いことが知られていて、当ブログでも以前、太宰治 さんの擬人化小説を取り上げたときに少し触れさせてもらいました(⇒小説読書感想『失敗園 太宰治』萌え擬人化! 可愛い野菜達の愚痴ツイート!)。
では、きのこ擬人化の歴史はどうなのかといえば、サハラ砂漠にタッシリ・ナジェールの壁画というものがあります。ここには最も古いもので紀元前1万年の壁画が残されていて、きのこと思しきモチーフの描かれた壁画もあるのだとか。
日本では、室町時代に『精進魚類物語』という『平家物語』をパロった擬人化作品があります。「精進」は「精進料理」の「精進」で、納豆や豆腐といった野菜類、魚類はそのまま魚や貝といった魚介類。これらが武士となって壮絶な合戦を繰り広げる物語で、ここに松茸(蔵人松茸ノ大朗熊野侍)や椎茸(椎ノ少将)も登場し、活躍しているそうです……、同人文化の先駈け?
さらに日本の文学作品では、夢野久作 さんの『きのこ会議』(1922年)以前に、泉鏡花 さんの『茸の舞姫』(1918年)があります。泉鏡花 さんの小説は、『外科室』についてブログ記事を書きましたが、『茸の舞姫』もぜひ読んでみたいと思いました(⇒小説読書感想『外科室 泉鏡花』哀純愛…こんな一目惚れしたことある?)。
こんな感じで、昔からきのこを愛する文化というものはあったんだなあ……、とか感慨深く思ったり。
いまやきのこを擬人化したキャラクターというのは当たり前になっていますよね。
スーパーキノコでスーパーマリオにパワーアップする『マリオシリーズ』――に登場するキノピオが近代きのこ擬人化の走り?
……そしてそんなキノピオの女の子バージョン、キノッペがきのこ萌え擬人化の発端なのか? (そんなキャラがいたとは……、この度初めて知りました)
しかし真面目な(?)話、現在の萌え擬人化ブームの火付け役となったのは、「IE(Internet Explorer)の中止ボタンがしいたけに見えて困る」といった発言から誕生した、しいたけちゃん、だとも言われるほど、きのこの萌え擬人化文化に対する貢献度は高いです。
(いやいや発端というなら『びんちょうタン』の方では? という意見もあります)
『おさわり探偵 なめこ栽培キット』から、なめこブームなんてのもありましたよね。
なめこブーム……、いまや下火となってしまった感は否めませんが――そんな現在、新たなきのこ擬人化ブーム到来の予感!?
それはブログ記事タイトルにもある『キノコ擬人化図鑑』です。
「oso的」とあるように著者はoso(おそ)さん。
『新版oso的キノコ擬人化図鑑』はその名の示すとおり、様々なキノコを美少女に擬人化したイラスト図鑑です。今年(2017年)アニメ化が決定しており、タイトルは『森の妖精 キノコの娘』!
さあ、きのこ擬人化ブームの新たな火付け役となるのか、そしてその流れで夢野久作 さんの『きのこ会議』ブームが訪れないか(訪れないか……)、今後の動向に注目です!
ちなみに上で取り上げた「キノコ擬人化図鑑」は「新版」とあるように、旧版60種128ページから新版100種216ページに大増量されています。解説やイラストに変更はなく、より見やすくなっており、値段は数百円しか変わらないので、お手元に置いておきたいと考えている方には、新版のほうがおすすめです。
(ん? 僕はoso さんの『新版oso的キノコ擬人化図鑑』ではなくて、夢野久作 さんの『きのこ会議』をおすすめしていたのでは……)
はてさて。
本題の『きのこ会議』の感想なのですが。
どこかかわいらしくも、結局は夢野久作 さんらしさ(?)の表れ、ブラックユーモア、ぴりりと皮肉が効いていて、とてもおもしろかったです。
オチは勧善懲悪というか、弱肉強食みたいな意味合い(教訓?)が含まれているんですかねえ……。
(え? 感想それだけ?)
シュールなユーモア小説好きには間違いなくおすすめできます。「『きのこ会議』ブーム」本当にこないかなあ……、とか言ってみたり。
漫画や小説、アニメや映画――頭をからっぽにして楽しみたい作品ってありますよね(主にギャグ系)。夢野久作 さんの『きのこ会議』もそんな作品の一つだといえるのではないでしょうか?
(とか言い訳などしつつ、いないとは思いますが、読書感想文の参考にここを訪れてくださった方が、もしもいらっしゃったら、ごめんなさい!)
以上、『きのこ会議/夢野久作』の読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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