木の祭り/新美南吉=優しい世界に不要な生き物は何だろう?

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

木の祭り-新美南吉-イメージ

今回は『木の祭り/新美南吉』です。

文字数1400字ほどの童話。
狐人的読書時間は約5分。

木と蝶と蛍だけの世界ってどんな世界? 木は花の蜜を蝶に与え、蝶は木のために祭りを開き、蛍は光で世界を彩る――幻想的でやさしい世界。人間はその世界にいてもいいのかなあ……

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

(今回は全文です)

『木の祭り/新美南吉』

木に白い美しい花がいっぱいさきました。木は自分のすがたがこんなに美しくなったので、うれしくてたまりません。けれどだれひとり、「美しいなあ」とほめてくれるものがないのでつまらないと思いました。木はめったに人のとおらない緑の野原のまんなかにぽつんと立っていたのであります。

やわらかな風が木のすぐそばをとおって流れていきました。その風に木の花のにおいがふんわりのっていきました。においは小川をわたって麦畑をこえて、がけっぷちをすべりおりて流れていきました。そしてとうとうちょうちょうがたくさんいるじゃがいも畑まで、流れてきました。

「おや」とじゃがいもの葉の上にとまっていた一ぴきのちょうがはなをうごかしていいました。「なんてよいにおいでしょう、ああうっとりしてしまう。」

「どこかで花がさいたのですね。」と、べつの葉にとまっていたちょうがいいました。「きっと原っぱのまんなかのあの木に花がさいたのですよ。」

それからつぎつぎと、じゃがいも畑にいたちょうちょうは風にのってきたこころよいにおいに気がついて、「おや」「おや」といったのでありました。

ちょうちょうは花のにおいがとてもすきでしたので、こんなによいにおいがしてくるのに、それをうっちゃっておくわけにはまいりません。そこでちょうちょうたちはみんなでそうだんをして、木のところへやっていくことにきめました。そして木のためにみんなでまつりをしてあげようということになりました。

そこではねにもようのあるいちばん大きなちょうちょうを先にして、白いのや黄色いのや、かれた木の葉みたいなのや、小さな小さなしじみみたいなのや、いろいろなちょうちょうがにおいの流れてくる方へひらひらと飛んでいきました。がけっぷちをのぼって麦畑をこえて、小川をわたって飛んでいきました。

ところが中でいちばん小さかったしじみちょうははねがあまりつよくなかったので、小川のふちで休まなければなりませんでした。しじみちょうが小川のふちの水草みずくさの葉にとまってやすんでいますと、となりの葉のうらにみたことのない虫が一ぴきうつらうつらしていることに気がつきました。

「あなたはだあれ。」としじみちょうがききました。

「ほたるです。」とその虫はをさまして答えました。

「原っぱのまんなかの木さんのところでおまつりがありますよ。あなたもいらっしゃい。」としじみちょうがさそいました。ほたるが、

「でも、わたしは夜の虫だから、みんなが仲間なかまにしてくれないでしょう。」といいました。しじみちょうは、

「そんなことはありません。」といって、いろいろにすすめて、とうとうほたるをつれていきました。

なんて楽しいおまつりでしょう。ちょうちょうたちは木のまわりを大きなぼたん雪のようにとびまわって、つかれると白い花にとまり、おいしいみつをおなかいっぱいごちそうになるのでありました。けれど光がうすくなって夕方になってしまいました。みんなは、

「もっと遊んでいたい。だけどもうじきまっくらになるから。」とためいきをつきました。するとほたるは小川のふちへとんでいって、自分の仲間なかまをどっさりつれてきました。一つ一つのほたるが一つ一つの花の中にとまりました。まるで小さいちょうちんが木にいっぱいともされたようなぐあいでした。そこでちょうちょうたちはたいへんよろこんで夜おそくまで遊びました。

狐人的読書感想

木と蝶と蛍と……、みんなで仲よくお祭りをして……、夜遅くまで遊んで……、その光景はとても幻想的で……、単純にいいなあ、やさしい世界だなあ、なんて思います。

子供向けのお話なのでしょうが、大人も癒される童話ですね。

しかしながら、これ、空想とはいえ、植物と虫だから成立する世界なのかなって、思っちゃいます。

食物連鎖。

木は花の蜜を虫たちに分け与え、虫はやがて自然と土に還って木の栄養になる――お互い命を奪い合わなくても成立する世界が本当にあるのかな、って思っちゃいますね。

所詮この世は弱肉強食。

人は野菜にしても肉にしても、結局はその命を全部頂かなくては生きてはいけず、それは他の多くの動物たちにも当てはまることです。

植物と虫だけが命をすべて奪わずに、互いに分け与えながら生きていけるのだとしたら、植物と虫だけの世界が理想のやさしい世界なのかなって、ふと感じました。

木のキャラクターが印象に残ります。

「美しいなあ」とほめてくれるものがないのでつまらないと思いました。

ナルシストか!

――って感じですが、たしかにほめてくれたり反応をくれる他者がいないと、世界はつまらないものかもしれません。

どんな生物も、どんなに一人で生きているつもりでも、結局みんな一人では生きられないのかな、って気がします。

花のいい匂いに誘われて、蝶が木のところへ集まる場面は、生物の相互作用ってよくできてるなあ、と改めて実感します。

花は匂いを出して虫を誘い、蜜を与える代わりに花粉を運んでもらうわけです。こういうのはギブアンドテイク、それでもやっぱりやさしい感じがしますね。

本当に植物と虫の世界が、人間の道徳的には理想の世界なのかもしれません。

人間も、他の生き物の命を奪わず、人工食料みたいな栄養源、食物を生み出すことができるようになれば、やさしい理想の世界を築くことができるんですかね?

やさしいばかりの世界が、いい世界だとは限らないのかもしれませんが……。

それでも人(狐人だけ?)はやさしい世界を夢見てしまうという、今回の狐人的読書感想でした。

読書感想まとめ

優しい世界に不要な生き物は何だろう?

狐人的読書メモ

・木と虫、蝶々と蛍――種や人種といった隔たりのない、みんなが仲よくできるやさしい世界、なぜこの世はそういうふうにできていないんだろう、命を奪い合わなくては生きていけないんだろう、この世こそまさに地獄だ……、ということを本当に疑問に思うことがある。

・とはいえ、不要な生き物がいるという時点で、そこは優しい世界ではないのかもしれない……。

・『木の祭り/新美南吉』の概要

1936年(昭和11年)『幼稚園と家庭 毎日のお話』(育英書院)にて初出。木と蝶々と蛍だけのやさしい世界。

以上、『木の祭り/新美南吉』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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