狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『蟹のしょうばい/新美南吉』です。
文字数1000字ほどの童話。
狐人的読書時間は約2分。
床屋になったカニがタヌキのヘアカットに挑む! その結果、カニはみんな鋏を持つようになったんだけど、カニって何から進化したか、知ってる? 美容師はいつからいたか、知ってる?
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
(今回は全文です)
『蟹のしょうばい/新美南吉』
蟹がいろいろ考えたあげく、とこやをはじめました。蟹の考えとしてはおおできでありました。
ところで、蟹は、
「とこやというしょうばいは、たいへんひまなものだな。」
と思いました。と申しますのは、ひとりもお客さんがこないからであります。
そこで、蟹のとこやさんは、はさみをもって海っぱたにやっていきました。そこにはたこがひるねをしていました。
「もしもし、たこさん。」
と蟹はよびかけました。
たこはめをさまして、
「なんだ。」
といいました。
「とこやですが、ごようはありませんか。」
「よくごらんよ。わたしの頭に毛があるかどうか。」
蟹はたこの頭をよくみました。なるほど毛はひとすじもなく、つるんこでありました。いくら蟹がじょうずなとこやでも、毛のない頭をかることはできません。
蟹は、そこで、山へやっていきました。山にはたぬきがひるねをしていました。
「もしもし、たぬきさん。」
たぬきはめをさまして、
「なんだ。」
といいました。
「とこやですがごようはありませんか。」
たぬきは、いたずらがすきなけものですから、よくないことを考えました。
「よろしい、かってもらおう。ところで、ひとつやくそくしてくれなきゃいけない。というのは、わたしのあとで、わたしのお父さんの毛もかってもらいたいのさ。」
「へい、おやすいことです。」
そこで、蟹のうでをふるうときがきました。
ちょっきん、ちょっきん、ちょっきん。
ところが、蟹というものは、あまり大きなものではありません。蟹とくらべたら、たぬきはとんでもなく大きなものであります。その上たぬきというものは、からだじゅうが毛むくじゃらであります。ですから仕事はなかなかはかどりません。蟹は口から泡をふいていっしょうけんめいはさみをつかいました。そして三日かかって、やっとのこと仕事はおわりました。
「じゃ、やくそくだから、わたしのお父さんの毛もかってくれたまえ。」
「お父さんというのは、どのくらい大きなかたですか。」
「あの山くらいあるかね。」
蟹はめんくらいました。そんなに大きくては、とてもじぶんひとりでは、まにあわぬと思いました。
そこで蟹は、じぶんの子どもたちをみなとこやにしました。子どもばかりか、まごもひこも、うまれてくる蟹はみなとこやにしました。
それでわたくしたちが道ばたにみうける、ほんに小さな蟹でさえも、ちゃんとはさみをもっています。
狐人的読書感想
床屋を始めようと思ったカニ。お客のタヌキが大きかったため、一人で刈るのは大変でした。そこでカニの子孫たちは床屋になるべく、はさみを持って生まれてくるようになりました。
――という、かわいらしいお話です。
これは、カニのはさみにまつわる由来話、というふうにもいえそうですが、カニの進化を思わされる話でもあります。
カニのはさみは、もちろん髪を切るためのものではなくて、ものを食べるときに使うために進化した、人間の手や指のようなものなのだそうです。
最初カニははさみを持っておらず、突然変異的にはさみを持つ個体が現れ、その変異は親から子へと遺伝し、そしてその変異が生存に有利に働いた結果、自然選択的にはさみを持つカニが増えたのだ……と、この童話を捉えるならば、まさにダーウィンの進化論を連想してしまうのは、ひょっとして僕だけ?
これはかわいらしいだけの童話ではなくて、進化論を表している学術的で深いお話なのかもしれませんよね!(違う?)
じつは、カニはエビが進化したものなのだそうです。
最初はスピードを活かして逃げるばかりだったボタンエビのようなエビが、硬い防御力を有する殻をもった伊勢エビのようなエビに進化し、さらに防御力の高い殻を持ち、はさみという攻撃力をそなえたのがカニである、などといってみると、なんだかゲームのモンスターの進化みたいです。
さらに進化つながりで話を続けると、人間の2000万年後の進化した姿は、宇宙進出による無重力環境に適応するため、重心の位置が安定する球体になる、という一説があります。
球体に顔面のある星のカービィみたいな感じなのですが、そうなった場合でも、人間は見た目を気にする生き物だから、頭髪だけは残る、という点が非常に興味深かったんですよね。
さらに無理矢理話をつなげると、2000万年後の人間にも髪の毛があるのだとしたら、当然ながら床屋、美容師という職業も必要なわけで、童話の中のカニが床屋を始めたのは、けっこう先見の明ある選択だったかもしれません。
ちなみに、美容師の由来は、紀元前3000~4000年頃のエジプトで、ヘアカットの仕事が誕生したのが最初だといわれています。
日本では1100年頃の鎌倉時代に、髪の手入れをする仕事があったそうですが、男はちょんまげ、女は髪結い、という髪型が主流だった時代まで、ヘアカットについてはそれほど必要とされていなかったみたいです。なので、大正時代頃から、日本では美容師という職業が広まっていきました。
カニは何から進化した?
美容師はいつからいた?
そんな気になったことを無理矢理つなげて語った、今回の読書感想でした。
読書感想まとめ
カニは何から進化した?
美容師はいつからいた?
狐人的読書メモ
・北原白秋作詞の『あわて床屋』という童謡があり、本作の内容に似ている。床屋を開店したカニのお客さんになるのは、タヌキではなくてウサギになっている。ウサギが耳を切り落とされてしまう、ちょっとしたホラー展開が印象的。
・『蟹のしょうばい/新美南吉』の概要
1948年(昭和23年)『きつねの おつかい』(福地書店)にて初出。一見するとかわいらしいお話だが、カニの進化や美容師という職業の将来性について暗示しているようにも読めた(僕だけかもしれないけれど)。意外と奥の深い物語なのかもしれない(違うかもしれないけれど)。
以上、『蟹のしょうばい/新美南吉』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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