八十八夜/太宰治=書きたいものを書いて売れる人が本当の小説家?

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

八十八夜-太宰治-イメージ

今回は『八十八夜/太宰治』です。

文字数14000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約35分。

笠井さんは作家である。ひどく貧乏である。純文学を追求したいと思いつつも、生活のために通俗小説を書いている。行き詰ってる。書きたいものを書いて売れる小説家は本当に奇跡だと思う。

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

作家の笠井さんは昔、反逆的な、新しい作風を持つ作家として喝采を受けたが、いまはダメになってしまった。最近は生活のために通俗小説を書いているが、それさえ行き詰っている。

一寸先は闇……すべてがいやになった笠井さんは、逃げるように旅に出る。去年、信州、上諏訪の温泉で親切にしてくれた女中さんに会いたくなる。

汽車に乗っても笠井さんの気は晴れない。乗り合わせた若者たちの会話を聞きながら、俗っぽく、貧しく、みじんも文学的な高尚さがない、いまの自分を思って陰鬱になる。

上諏訪の温泉であの女中さん、ゆきさんと再会し、酒を飲み、それなりに楽しい時間を過ごす。しかし翌朝、なんとなくいい雰囲気になった別の女中との情事をゆきさんに見られてしまう。

笠井さんは大声でわめき散らしたいような気持ちを抱え、また逃げるようにして宿を立つ。唐突に作品のことを思う。

まっすぐ帰宅した笠井さんにはお金が半分以上残っていた。つまりいい旅行だった。皮肉ではなく、笠井さんはいい作品を書くかもしれない。

狐人的読書感想

通俗小説といえば、たぶん現代でいうところのエンターテインメント小説的な位置づけになるのかとは思うのですが、いまの小説はほとんど娯楽性のあるものばかりだと感じられます。

太宰治さんなどの時代は、まだまだ通俗小説がウケ始めたばかりの頃のようで、文豪のみなさん、多かれ少なかれ、純文学から通俗小説へのシフトを余儀なくされていたようで、それぞれの作品を読んでいると、たまに笠井さんと同じ悩みを抱いていたんだろうな、という印象を受けるときがあります。

上で書いたように、現在は芸術性と娯楽性の線引きってなくなってきているような気がしていて、どんな小説にも芸術性があり、また娯楽性があり……どちらの要素が強いかという違いはあっても、明確に区別するのは難しいように思うんですよね。

なので、いまでは笠井さんのように、「通俗小説か純文学か?」的な悩みを持つ作家さんは少なくなっているのでしょうが、『ひどく貧乏である。』というところは、今も昔も変わらないんだろうなあ、などと想像してしまいます。

芥川龍之介さんの『漱石山房の冬』の中で、夏目漱石さんが芥川龍之介さんに贈ったアドバイスに以下のようなものがあります。

『文を売つて口をするのもい。しかし買ふ方は商売である。それを一々註文通り、引き受けてゐてはたまるものではない。貧の為ならばかくも、つつしむべきものは濫作である。』

また小説の神様、横光利一さんも『作家の生活』という随筆の中で「創作を作家の本業とすべきではない。創作を作家の副業とすべきだ」というようなことを言っていたのを思い出します。

こういうふうに見ていくと、笠井さんの悩みって、お金があれば解決するのかもしれないな、なんて思うのですが、大概のことはお金があれば解決する問題かもしれませんね。

お金があれば、笠井さんの目指す純文学を追求できるわけだし、てかそもそもお金があれば、書かなくてもよくなるんですかねえ……。

どうしても書きたいから書いて、それで食べていける一握りの奇跡の人たちが、小説家という人たちのなのだと、なぜか再認識した、今回の読書感想でした。

読書感想まとめ

書きたいものを書いて売れる人が本当の小説家?

狐人的読書メモ

・冒頭の『諦めよ、わが心、獣の眠りを眠れかし。(C・B)』の記述は、シャルル・ボードレールの『虚無の味』という詩の一節のようだ。

・『八十八夜/太宰治』の概要

1939年(昭和14年)8月、『新潮』にて初出。主人公笠井さんの苦悩は、著者である太宰治本人の苦悩だったのかもしれない。

以上、『八十八夜/太宰治』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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