狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『魔術/芥川龍之介』です。
文字数8000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約21分。
ミスラ君はハリー・ポッターみたいな魔法を使うけど、それは魔術なんだって。魔法と魔術の違いは、科学技術で再現可能かどうかだって。夢のようなうまい話に欲を出さず、堅実に生きること。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
ある時雨降る夜、私は東京郊外の竹藪に囲まれた、小さな洋館を訪れる。知人のマティラム・ミスラ君に、魔術を見せてもらうためだ。ミスラ君はハッサン・カンという高名な魔術師から魔術を学んでいた。
テーブルを挟んで対座した私に、ミスラ君は葉巻を一本勧めてくれる。私は遠慮なく葉巻に火をつけると、魔術についてミスラ君に問う。
魔術は進歩した催眠術に過ぎない……。ミスラ君はそう言って、テーブルクロスの花模様に手を伸ばし、それをひょいとつまみ上げると、模様から本物の花を取り出して見せる。
また、ミスラ君がちょっとランプを置き直すと、それはひとりでに、独楽のようにぐるぐると回り出し、書棚のほうに手を伸ばして指を動かすと、本が蝙蝠のように飛んできて、テーブルの上に積み上がる……
私は驚き、ミスラ君に「ぜひ魔術を教えてほしい」と願う。そんな私にミスラ君は「欲のある人間に魔術は使えません。あなたは欲を捨てられますか?」と尋ねる――
ミスラ君に魔術を教わってから一ヶ月後、私は銀座のあるサロンで、暖炉の炭を金貨に変えるという魔術を友人たちに披露し、その金貨の所有権を賭けてカードゲームをすることになる。
私はカードゲームに勝てば金貨をもとの炭に戻すつもりでいたのだが、友人の一人が全財産を賭けると言い、その刹那、つい欲を出してしまう。
――ハッと気がつくと、私はまだミスラ君と向かい合って座っており、一ヶ月の出来事は、ほんの二、三分の間に見た夢であった。
「私の魔術を使おうと思ったら、まず欲を捨てなければなりません。あなたはそれだけの修業が出来ていないのです」
私は恥ずかしそうに頭を下げたまま、しばらく口もきけなかった。
狐人的読書感想
テーブルクロスの花模様をつまみ上げて、そこから本物の花を取り出してみせるというのは、なんだかちょっと手品っぽいですよね。
ひとりでに回り出すランプ、蝙蝠のように飛んでくる本――といったあたりは、『ハリー・ポッター』の魔法を連想してしまいます。
しかし、タイトルにもあるとおり、ミスラ君が使うのは「魔法」ではなくて「魔術」なんですよね。
「魔術」といえば、奈須きのこさんの『Fateシリーズ』や『空の境界』に出てくる魔術をイメージしてしまいます。
それによれば「魔法」と「魔術」には明確な違いがあって、それは「科学技術で再現可能かどうか」ということなんだそうです。
この理論でいうと、すなわち、ドラクエの「メラ」とかFFの「ファイア」とかは火炎放射器で再現できるから、魔法ではなくて魔術ということになりそうですね。
なので魔法とは、「タイムトラベルなどの科学技術で再現不可能なもの」を指すそうですが、「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」なんて言葉もありますし、そのうち魔法はみんな科学で再現可能となってしまう時代がやってくるのかなあ……とか、想像してみると、なんだか不思議な感じがしますが、どうなんでしょうね?
さて、本作は不思議な感じがする「魔術」について書かれた小説で、「欲を出してはいけないよ」という教訓が含まれているようです。
とはいえ、「欲」って、その一字だけを見てしまうと、なんだか「欲ばり」みたいなイメージで、よくない印象を受けますが、だけど欲って、決して悪いばかりのものではないはずですよね。
お金持ちになりたいとか出世したいとか、人間、欲があるからがんばれるということがいえそうですし、もっとうまくなりたいとか強くなりたいとか、音楽やスポーツやあらゆることについて、欲は向上心にも通じているのだと考えるからです。
この作品はどちらかといえば、「魔術のような都合のいいものはない」のだから「まじめに、堅実に、生きなければならない」といったようなことを伝えているように、狐人的には感じます。
ミスラ君も、「魔術は進歩した催眠術に過ぎない……」と、暗に魔術の存在を否定するようなことを言っていましたよね。
(ちなみに僕は、ミスラ君が「私」に勧めた葉巻があやしいと睨んでいます。何か、催眠作用や幻覚作用のある葉巻だったんじゃないですかねえ……)
実際、魔術や魔法のような儲け話があったりして、それで成功している人も中にはいるのでしょうが、たいていの場合、リスクが大きかったり(株とか仮想通貨とか)、詐欺だったりしますよね。
「堅実が一番!」だとは頭ではわかっているつもりですが、おいしそうな話を聞くとついつい飛びついてしまいたくなることが、現実にはあるように思います。
魔法や魔術のような話はあってくれたほうが、夢があっていいのですが、現実にそんな夢みたいな話はないのだと、いわれているような気がしました。
「私」のように夢から覚めたら、現実を見て生きようと、そんなふうに思った、今回の読書感想でした。
読書感想まとめ
魔術や魔術のような話はありえない。
夢から覚めたら、現実を見て生きよう!
狐人的読書メモ
・『マティラム・ミスラ君と云えば、もう皆さんの中にも、御存じの方が少くないかも知れません』――マティラム・ミスラ君は、『魔術』が発表される3年程前、谷崎潤一郎の書いた『ハッサン・カンの妖術』という小説に出てくる架空の登場人物。文豪が文豪の小説をオマージュしている点、興味深い。
・『魔術/芥川龍之介』の概要
1920年(大正9年)1月『赤い鳥』にて初出。児童向け文学作品。道徳教育的な内容。
以上、『魔術/芥川龍之介』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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