狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『貝の火/宮沢賢治』です。
文字数19000字ほどの童話。
狐人的読書時間は約36分。
王の力。他者の思考に干渉する特殊能力。
能力発動の際は能力者の片目に、
赤い鳥のような紋様が浮かび上がる。
能力を使用し続けるに従ってその力は増大し、
その力に負けてしまった場合――
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
ある日、野原の兎のホモイは、川で溺れるひばりの子供を助ける。後日、そのお礼として「貝の火」という美しい宝玉を贈られる。貝の火は一生持ち続けるのが困難な宝だというが、ホモイはそれを大切にしようと誓う。
その翌日から、馬やりす――野原の獣たちの、ホモイに対する態度が一変する。それはまるで、新しく選ばれた王を敬い、家臣のようにかしずく姿勢だ。いつも僕をいじめていた、あの狐までが……。ホモイはうれしくなる。
次の日、ホモイは母のいいつけで、鈴蘭の実を集めにでかける。しかし、偉くなった自分が、そんな仕事をするのはおかしい。ホモイはりすに命じていっぱいの鈴蘭の実を集める。両親はそれを知ってホモイをたしなめるが、貝の火の美しさを見るとそんなことは気にならなくなってしまう。
翌日、ホモイのもとに狐がやってきて、盗んできた天国の天ぷらをホモイに献上し、それを毎日持ってくることを約束する。ホモイの父はそのことをひどく叱るが、美しい貝の火を見ると黙ってしまい、ホモイも涙を忘れてしまう。
また次の日、やはり狐がやってきて、ホモイに天国の天ぷらを渡し、おもしろいことをしようと提案する。狐はホモイの見ている前で、モグラたちを虐げる。ホモイの父が慌ててやってきて、それをやめさせ、ホモイを叱る。そして、貝の火を見る。ホモイ一家は涙を忘れ、狐が盗んできた天国の天ぷらを味わう。
さらに翌日、狐が「動物園を作ろう」と提案し、ホモイはそれをおもしろがって許す。狐が、鳥たちをいれたガラス箱を見せると、さすがにホモイも箱を開いて鳥たちを逃がそうとする。が、狐に脅され、ホモイは家へ逃げ帰ってしまう。
夜中に目を覚まし、ホモイが貝の火をみると、それは鉛玉のようになっていた。ホモイが泣きながら狐の動物園の話をすると、父はホモイと母を連れて、決闘するため狐のところへ走り、逃げ出す狐からどうにかガラスの箱を奪い、鳥たちを解放する。
鳥たちを連れて家に帰り、貝の火を見ると……それはただの白い石となり、二つに割れてしまい、粉々に砕け、その破片がホモイの目に入り、ホモイは失明してしまう。鳥たちは一羽二羽と去っていき、最後に残ったふくろうが「たった六日だったな。ホッホ」、飛び去ってしまう。
母は泣き、父はじっと考え……やがてホモイに語りかける。
「泣くな。こんなことはどこにでもあるんだ。それがわかったお前は幸せなんだ。目はきっとよくなる。きっとお父さんがよくしてやるからな。さ、もう泣くな」
狐人的読書感想
貝の火とはギアス……いえ、権威の象徴ですね。すなわち『貝の火』とは「権威についての寓話」であると、解釈することができます。すばらしくおもしろい作品だと思いました。
権威とは、他人を服従させる力のことです。
あるとき、ひばりの子供を助けて、貝の火(権威)を手に入れた野兎のホモイは、野原の獣たちの王様みたいになります。
みんなが自分を褒めてくれたり、命令に従ってくれるのはうれしく、また弱者をいじめて優越感に浸るのは気持ちがよく、王様ホモイは奸臣狐に言われるがまま、横暴なふるまいをしてしまいます。
権威を持てばいろいろなひとが近寄ってきて、なかには悪巧みをする狐のような家来だっている――王やリーダーとなるひとには、正しくひとを見極めて、彼らをうまく導いていく資質が必要だと感じられます。
ホモイのお母さんとお父さんと――権威を持つひとの家族についても、思わされるところがあります。ホモイが過ちを犯すたび、お母さんは泣いてばかり、お父さんはホモイをたしなめたり叱ったりしますが、結局貝の火の美しさに目をくらまされてしまい、結果的にホモイを更生させることができませんでした。
権威を持つ人の家族、たとえば王様の親だったり妻だったり子供だったりは、ただそれだけでいい暮らしができて、おいしいものが食べられて――ただただ羨ましいばかりに思われますが、王様が過ちを犯そうとしているときにはそれを一番近くで諫める責任が、自然と生じてしまうものなんですよね。
歴史を鑑みるに、暴君とともに処刑されてしまった家族の例は多くあって、その事実だけを見ればかわいそうに感じられるのですが、しかし王族には王族たるべき責任があり、それは望むと望まざるとにかかわらず、自然と発生してしまう――権威を持つ人の周りの人たちは、そのことを自覚して行動しなければならないわけですが、誰からも教えられずにそれを知るのは困難なことに思えます。
帝王学? 『貝の火』は、王族の教科書にしたいような童話だと、ふと思いました。
権威というのはかたちのないものですよね。はじめは野兎のホモイのように、ひばりの子供を助けるような、すごくてよい行いが、人々の心に作用して、そうした尊敬や賞賛の気持ちが、権威という影響力を生み出します。
その権威を私利私欲のためばかりに用いず、人々のために使い、長く維持していくのは難しいのだと、この作品の中でも表されていて、現実の王制の衰退の歴史を思えば、そのことはまさに事実として実感できるところですが、しかし長く残り続けている権威というものもあって、そういう長い権威というのは、神聖不可侵のものだと錯覚してしまいがちになりますが、それでも滅びない権威というものは、きっと存在し得ないのではないかろうか、という気持ちに、この作品の最後を読むとさせられてしまうのです。
「泣くな。こんなことはどこにもあるのだ。それをよくわかったお前は、いちばんさいわいなのだ。目はきっとまたよくなる。お父さんがよくしてやるから。な。泣くな」
ホモイのお父さんの言葉がそのことを思わせるんですよね。
貝の火(権威)は美しく、それを手に入れる権力者は必ずしもそれを望んでいたわけではなく、いずれにせよ、それを持ち続けることは難しく、使い方を間違えばその者は身を滅ぼし、そしてそのようなことはこれまでにありふれてきたできごとなのでしょうね。
とはいえ、いつの時代にも貝の火は存在し、それを巧みに利用して、滅びることのない者も、なかにはいるような気がします。
権力者の方には、ぜひとも人々のために貝の火を使ってもらいたいところですが、それがなかなかに難しく、そんな権威が長く残り続ける現実がある、ということも、また思わされずにはいられない作品でした。
とても興味深くおもしろい寓話でした。
読書感想まとめ
『貝の火』はギアスにあらず、「権威についての寓話」です。
狐人的読書メモ
・『「大丈夫さ、 大丈夫さ」と言いながら、その子の顔を見ますと、ホモイはぎょっとしてあぶなく手をはなしそうになりました。それは顔じゅうしわだらけで、くちばしが大きくて、おまけにどこかとかげに似ているのです。』――ホモイが川でおぼれるひばりの子供を助けるシーン。他生物に対する生理的嫌悪を感じつつも、ホモイは決してその手を離さず……どのような生き物に対しても、その生命を尊重すべきであるということが、描かれているように感じた。
・人間はなんで圧倒的力量差のある他生物に生理的嫌悪感を抱くんだろうと疑問に思う。なんでゴキブリが嫌いなんだろう? みたいな。調べてみると、かつてゴキブリは1mほどもある巨大生物で、人間はその捕食対象だった、みたいな説がある(テラフォーマーズか!?)。人間のゴキブリ嫌いは本能的な嫌悪感、なのかもしれない。
・突然に権威を持つと、周りの人の見る目ががらりと変わってしまう。望むと望まざるとにかかわらず自然発生する王族の責任。――なんとなく十二国記シリーズを思い出した。
・モグラが日光に弱いというのは迷信らしい。だけどモグラは大食家で、十二時間以上食べないとダメなのだとか。四時間起きて、四時間眠る生活サイクルも興味深い。なんかモグラに興味を持った。
・『今日もよいお天気です。けれども実をとられた鈴蘭は、もう前のようにしゃりんしゃりんと葉を鳴らしませんでした。』――何ものも必要以上に獲り過ぎてはいけない。宮沢賢治らしい教訓。
・天国の天ぷら=角パン。角パンって何? ってなった。黄色いふわふわのやつ? てか、食パンのこと?
・『貝の火/宮沢賢治』の概要
1934年(賢治没の翌年)に出版されたが、1922年11月に、花巻農学校の教員時代の授業中に朗読され、生徒たちに深い感銘を与えた作品だという。賢治はこの作品を「因果律の中で慢心を持った者が転落する」というモチーフで描いた。貝の火は蛋白石(オパール)で、権威や名声のもろさの象徴として用いられている。
以上、『貝の火/宮沢賢治』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
(▼こちらもぜひぜひお願いします!▼)
【140字の小説クイズ!元ネタのタイトルな~んだ?】
※オリジナル小説は、【狐人小説】へ。
※日々のつれづれは、【狐人日記】へ。
※ネット小説雑学等、【狐人雑学】へ。
※おすすめの小説の、【読書感想】へ。
※4択クイズ回答は、【4択回答】へ。
コメント