狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『罌粟の中/横光利一』です。
文字数14000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約48分。
ハンガリーだけは絶対行ったほうがいい!
美人が多く、日本人はめっちゃモテる、
罌粟の平原、ドナウ川、美しい街、
月の音楽、ダンス、よき人との出会い……
ハンガリーに行きたくなる小説です。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
波のように高低を描く平原、視線の先に続く堤の上に、溢れる真紅のヒナゲシの花、その合間に見えるダニューブ河(ドナウ川)――初夏のハンガリーの野、正午から三時間あまり、梶は汽車に乗ってウィーンからブダペストへ旅行にきた。
東京を発つとき友人が言っていたことを思い出す。ハンガリーだけは絶対に行ったほうがいい。あそこほど美人の多いところはない。しかも日本人のモテること、もう滅茶苦茶にモテる。
ホテルの部屋は豪華なものだった。汽車旅に疲れた梶が、夕食までひと眠りしようと思っていたとき、ふいにノックの音がして、一人の大学教授然とした紳士が入ってくる。
彼の差し出した名刺にはヨハンとあり、日本語の勉強のために通訳ガイドを務めたいと申し出る。梶はどの国でもガイドを必要としたことはなかったが、ヨハンの出現にハンガリーらしい愛情を感じ、ガイドを依頼する。
その日の夜から、ヨハンのガイドで梶のブダペスト観光が始まった。
五日間の滞在中、ヨハンのガイドはすばらしかった。案内してくれるレストランの料理はどこもおいしく、ブダペストの街の景色は美しかった。
とくに、ヨハンの心配りは一流のもので、二日目の夜、二人でソファーに座っていると、月の出とともに、ホテルの部屋の下の道から、ジプシーの奏でる音楽が聞こえてくる。ヨハンが手配していたのだ。
梶がダニューブの月出の情緒に浸っていると、ヨハンは「明日また参ります」と言ってサッと引き上げていった。
三日目に行った踊場は梶にとって一番の思い出となった。踊り子たちが鮮やかに踊る中、ヨハンが梶に「どの子が美しいか」と尋ねる。梶が一人の娘を選ぶと、ヨハンはその子を梶の席へと呼ぶ。
娘の名前はイレーネといい、ヨハンに促されて梶の頬にキスをすると、赤くなってうつむいてしまう。そんなところが梶には好印象だ。
ところがバンドのラッパ手が、しきりとこちらを気にしていることに、梶は気づく。どうやら彼はイレーネを愛しているらしい。彼がイレーネを口説く姿を眺めながら、梶はちょっとだけ寂しさを感じる。
もう一人選んだ子はアンナといった。アンナはとても積極的で「これからホテルへ連れて行って」と言われたのには驚いた。さらに、もどかしそうなアンナが「You are beautiful」と英語で囁いた一言。これまでの人生で言われたことのないその囁きは、梶の心にいつまでも残る。
最終日、ヨハンに支払うべきガイド料は意外に少なかった。梶は少ない財布の中身からできるだけのチップを渡そうとするが、ヨハンは「記念にこの国のお金を持って帰ってください」と受け取ろうとしない。
ヨハンは空港まで送ってくれた。別れはとてもつらかった。
飛行機の窓から下を見下ろしたとき、梶はイレーネとラッパ手のことを考えた。彼らの縁を結んだと思うと、なんだか楽しく感じられる。下に向かって帽子を振ると、いつのまにか自分がアンナに帽子を振っていることに気がつく。
大満足の旅行だった。
狐人的読書感想
すごくいいです、この小説。
ひきこもりがちの僕でも、思わず観光旅行に行ってみたくなります。
そんな旅行記です。
汽車から見えるハンガリーの野、ドナウ川、ブダペストの街、ホテル、音楽、レストラン、踊場――情景描写をあらすじではほとんどカットしているので、そこはぜひ本文のほうを読んでほしいところです。
ハンガリー、首都ブダペストの雰囲気がひしひしと伝わってきます(もちろん行ったことないので、この小説から感じられるブダペストの空気が、本当に本物と同じものなのかはわかりませんが……)。
旅行の醍醐味といえば、その地ならではのおいしい料理、きれいな景色、ショッピング――というのは想像しやすいように思うのですが、よい人との出会い、というのはなかなか思い浮かべがたく感じてしまうのは、僕だけ?
ヨハンに会えた梶はまさにラッキーでしたが、実際の旅行ではどうなんでしょうね? ガイドの人や現地の人がやさしく親切にしてくれる、みたいなことが普通にあるんでしょうか?
よい人たちとの出会いというのは、やはり旅の一つの醍醐味、人生の醍醐味でもある、という感じがします。
出会いといえば、ヨハンのほかにも印象的な人物が、二人の踊り子ですね。
イレーネとアンナ。
二人とも魅力的な女の子でしたが、梶の友達が言っていた「あそこほど美人の多いところはない。しかも日本人のモテること、もう滅茶苦茶にモテる」ってホントなんですかね?
(ひょっとして梶がイケメンなだけなのでは?)
かなり気になってしまったので調べてみると「日本人を彼氏にしたいハンガリーの女の子はけっこういる」という話を見つけました。
ただし、日本人の見た目や性格に惹かれている、というよりは、日本というイメージに強い憧れがあるだけのようです(なんでも日本映画なんかの影響なのだとか)。
(なので日本人男性はハンガリーの女の子にモテた場合は要注意!)
そもそもハンガリーは親日国で、男女問わず、ハンガリー人は日本人に好意的なのだといいます。
じつは、ハンガリー人と日本人とは祖先が一緒で、西へ行ったのがハンガリー人、東へ行ったのが日本人――みたいな話が広く伝わっているんだとか。
(なので日本人女性がハンガリーの男の子にモテた場合も要注意!)
ハンガリーでは、名前の書き方が「名字+名前」だったり、ハンガリー語と日本語では意味と音が似ている単語があったり――ハンガリーと日本には共通点が多く、実際に日本語を話せる人も首都ブダペストには多いといいます。
だから、作中で梶がヨハンに出会ったのも、あながち現実味のない話ではないようなんですよね。
ひょっとしたら、これは横光利一さんの実際の体験が書かれている小説なのかと思えば、俄然リアルな旅行記として読めるわけで、本当にハンガリーという国、ブダペストの街、ハンガリーの人々に興味が湧いてきます。
そんなこんなで、ひきこもりがちの僕でも、ハンガリーに行ってみたくなるような、今回の読書感想でした。
読書感想まとめ
ハンガリーに行ってみたくなる読書!
狐人的読書メモ
・冒頭、梶は「ヒナゲシとドナウ川のあるハンガリーの野を見られただけで、ここにきたかいがあった」というような感想を持っている。それを見られただけで、旅行したかいがあった、というようなものは確かにあるという気がした。
・ダニューブの漣、ジプシーの音楽の描写が印象に残っている(最近『蜜蜂と遠雷』を読んだからかも)。
・ハンガリーの名前の由来がモンゴルの音の転化(モンゴロワ→フォンゴロワ→ファンガラワ→ハンガリヤ)からきているという話が出てくるが、どうやらそれは違うらしい。7世紀テュルク系のオノグル (Onogur) という語(十本の矢-十部族-の意)からの転化が正しいそう。
・ちなみに首都ブダペストの名前の由来はかつての西岸のブダとオーブダ、東岸のペストが合併したから。
・『世界の内容はどこも変らず損得の理念に左右されている』という一文が印象に残っている。
・ドナウ川にかかる橋(くさり橋?)の袂にある舌のない獅子の寓話が興味深かった。みんなが「この獅子には舌がない」といって笑うと、その彫刻家は自ら命を絶ったという。些細な手落ちやカン違い、そこから生まれる恥の気持ち、それはときに人を破滅的なまでに絶望させるほどの感情となる。作中でも、この寓話が梶の行動と気持ちにうまく絡められているのが印象的だった。
・『罌粟の中/横光利一』の概要
1944年(昭和19年)『改造』にて初出。観光旅行先での知らない土地や街の景色、音楽、踊り、グルメ、人々との出会い、ハンガリーに観光旅行に行きたくなる短編小説。ハンガリーには美人が多く、しかも日本人は滅茶苦茶にモテる!……らしい。すごくいい小説だった。
以上、『罌粟の中/横光利一』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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