狂人は笑う/夢野久作=狂人を狂人と笑う奴が狂人かもしれない恐怖。

狐人的あいさつ

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。

読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?

そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。

狂人は笑う-夢野久作-イメージ

今回は『狂人は笑う/夢野久作』です。

文字数14000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約37分。

「青ネクタイ」「崑崙茶」の二編からなる短編小説。
失恋が原因で狂人となった女、卒業論文が原因で狂人となった男、
それぞれの独白。
あなたは狂人を狂人だと本当に断言できますか?

未読の方はこの機会にぜひご一読ください。

狐人的あらすじ

・青ネクタイ

失恋が原因で狂人となった女が語る。女は女学校を出ると、土蔵の二階の牢屋に閉じ込められた。裸なのは、失恋を儚んで首をくくろうとするからだが、女にその覚えはない。

父は生まれる前に亡くなり、母は女を産んですぐに失踪したらしい。女は叔父おじに引き取られ、乳母ばあやに育てられた。牢屋の中で、乳母のくれた人形だけが友達だった。

ある夕方、人形のお腹が鼠に食い破られて、中から新聞の切れ端が出てくる。そこにはつぎのようなことが書かれていた。

彼女が発狂し、叔父の家の倉庫の二階に監禁されたのは、強欲な叔父が、彼女の母親の財産を横領するためだった。叔父は彼女の母親を排除し、また彼女自身を狂人に仕立てることで相続不能者にしようとした。彼女を愛する青ネクタイ氏がこの真相を暴露し、巨万の富を相続する彼女と結婚することになり、叔父は法によって裁かれて――(おそらくは新聞小説か何か、あるいはすべて妄想か?)

彼女はその晩土蔵を抜け出し、母屋の押入れに隠れ、叔父が眠ると刀を取って、叔父を滅多切りにした。彼女はすぐ警察に取り押さえられ、精神病院へ収容された。現在は、院長先生を青ネクタイ氏と思い込んでいるらしく、いつか結婚できる日を心待ちにしている。

ホホホホホホ……狂人は笑う。

崑崙茶こんろんちゃ

卒業論文が原因で狂人となった男が語る。すぐ横のベッドに寝ている中国人の留学生のせいで、男は不眠症になってしまった。中国人の留学生は、茶精という白い粉を男の鎮静剤にこっそりと混ぜている。

男によれば、茶精は崑崙茶のがらから精製するものらしい。崑崙茶は中国四千年の歴史が生んだ享楽手段の一つだ。中国の大富豪たちはそのお茶を求め、物々しい行列をなして崑崙山脈へと赴く。

茶摘ちゃつみ男が猿を使って険しい崖から新芽を摘み、茶博士がうやうやしく茶を煎れる。崑崙茶にはとてつもない中毒性と酩酊感があり、それを求めて散財し、身を持ち崩す者が後を絶たないという。

男は話を聞いてくれていた看護婦長に言われるまま、目を閉じて十数える。看護婦長は飛去来術ひきょらいじゅつを使うという。

イー、アル、サン、スー、ウー、リュー、チー、パー、チュー、シー……男が目を開けると、婦長の姿はなく、中国人の留学生もおらず、そこはベッド一つきりの狭い部屋だった。

看護婦長さんの魔法はすごいなあ……これで安心して眠れる……それにしても驚いた……中国という国は本当におもしろい国だ……

アッハッハッハ……狂人は笑う。

狐人的読書感想

狂人は笑う。まさにタイトルそのままの内容でした。

二人の男女の狂人、それぞれの妄想話、「青ネクタイ」と「崑崙茶こんろんちゃ」の二編からなる短編小説でしたが、僕はどちらかといえば「青ネクタイ」のほうが好みでした。

みなさんはどうでしょうかね?

狂人の妄想話、あるいは子供の空想話に触れたとき、いつも思うのは「ひょっとして、このひとたちの言っていることのほうが、本当なのではなかろうか?」ということなんですよね。

僕たちは自分で見て、聞いて、触れて、感じたものしか基本的には信じられないわけなのですが、この世には、通常の人間の感覚では見えない光、聞こえない音なんていうのもたしかにあって、しかしそういうものの存在を、ほかのひとから指摘されると、無条件に否定したくなってしまいます。

だけど、そのひとたちには自分に見えないものが見えていて、聞こえないものがたしかに聞こえているのかもしれず、よく子供とかが「おかあさん、そこに誰かいるよ……」みたいな話を聞くと、ゾッとする怖さを感じるのですが、どうでしょうね?

本作についても、狂人という『信頼できない語り手』の物語が、じつはすべて真実だったと想像してみると……よりゾッとするような怖さを感じるのは、はたして僕だけ?

まあ、本作はミステリーではなさそうなので、叙述トリックとしての『信頼できない語り手』が使われているわけではないのでしょうが、ホラーの演出としても使えるんだなあ、と、なんだか勉強したような気分になりました。

創作のガジェットとして「崑崙茶」にも興味を覚えました。まあ、ヤバい薬みたいなものですよね、崑崙茶。興味を覚えたとか言ったら、ヤバい奴だと思われてしまうかもしれませんが……。

ともあれ崑崙茶は、大富豪がそれを求めて散財し、身を持ち崩すほどお金のかかるお茶ですが、調べてみると、

大紅袍だいこうほう:約1395万円/100g
蟲糞茶ちゅうふんちゃ:約100万円/100g
熊猫茶ぱんだちゃ:約60万円/100g
鉄観音てっかんのん:約3.7万円/100g

中国にはビックリするくらい高いお茶があるんですね……本当に驚きました。

コピ・ルアクなど、一杯何千円もするコーヒーがあるのは知っていましたが、それよりもずっと高いお茶があるとは知りませんでした。

こちらはヤバいお茶ではないようなので(ある意味ヤバいお茶ですが)、興味のある方はぜひ……?

(『しんり、しずみ、星斗と相語り、地形と相抱擁あいほうようしてむところを知らず。』となるのか、ぜひ知りたいところですが、おそらく僕には一生飲む機会は訪れないでしょう)

崑崙茶がとれるという崑崙山脈は、『封神演義』の主要な舞台の一つになっていますよね。『封神演義』といえば、いま新しいアニメもやっていますよね(2018年1月より)。

……最後に、ただ封神演義と言いたいだけのお話でした。

読書感想まとめ

狂人はじつは狂人ではなくて、狂人を狂人だと笑う自分がじつは狂人なのかもしれない、と思って読んでみると、また違った怖さが感じられる作品でした。

ホラーの演出としての『信頼できない語り手』と、創作のガジェットとしての「崑崙茶」が興味深かったです。

狐人的読書メモ

・我々が感じている世界は、ひとによって全然違うものであるかもしれず、自分の基準だけでひとの世界を否定してはいけないのかもしれないと、ふと思った(そのことで他人に迷惑をかけていない場合)。

・『狂人は笑う/夢野久作』の概要

1932年(昭和7年)『文学時代』にて初出。一人称、独白体形式。「青ネクタイ」「崑崙茶」の二編。失恋が原因で狂人となった女、卒業論文が原因で狂人となった男、それぞれが語る妄想(?)物語。

以上、『狂人は笑う/夢野久作』の狐人的な読書メモと感想でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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