狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『糸くり三人女/グリム童話』です。
文字数2000字ほどのグリム童話。
狐人的読書時間は約5分。
怠け者のヒロインが怠け者のまま幸せになっちゃう話。
ヒロインのいいところを探したくなります……顔?
あらすじ(?)のヒロインのキャラは想像です。
なんかごめんなさい。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
むかし、あるところに、糸つむぎをしない怠け者の、超絶美しい娘がいた。
つまり、わたしだ(なんか文句ある?)。
あるとき、お母さんがついにキレて、わたしのことをなぐりやがった。わたしはすぐに反撃に出た。
え? なぐり返したのかって、ふっ、そんな痛いこと、実の母親に向かって、できるわけないじゃない。
泣いてやったわ。通りまで聞こえるほどの可憐な大声で。
そしたら、馬車に乗った、通りすがりのお妃さまが家に入ってきて、お母さんに「なぜ娘を泣くほどなぐったの?」って、お聞きになった。
(まっずぅ………タイミング悪ぅ……てか、なんで王族の方って、そんなに暇してるの? 正義感に満ち溢れていらっしゃるの?)
と、わたしが思っていると、お母さんが、
「い、いえ、この子があまりにも糸つむぎが好きで、糸車から離れないものですから、つい……お恥ずかしい話ですが、うちはとても貧しくて、亜麻を買うお金もありませんから……」
(ちょっ、お母さん! どんなウソついてんのよ! てか、どこでみえはってんのよ! ありのままの――怠け者だけど超絶美しい――娘を誇りなさいよ!)
「まあ、すてきな娘さんですこと。わたくしは糸車の回る音を聴くほど、楽しいことはなくってよ。そうだわ! 娘さんを宮殿に連れていってあげましょう! わたくしは亜麻をいっぱい持ってますから、それをつむげばいいわ。三つの亜麻の部屋を全部つむぎ終えたら、わたくしの第一王子と結婚させてあげる。え? 持参金がない? 心配しないで。勤勉に勝る持参金なんてないんだから!」
「ぜひ! 連れていってやってください!」
(ちょっ! お母さん! 『ぜひ!』 じゃねーし!)
こうして、わたしはお妃さまの馬車に乗せられて、宮殿に連れていかれることになった(ドナドナド~ナド~ナ~……)。
――宮殿にて。
(……300歳までかかっても無理だわ)
大量の亜麻を目の前にして、わたしは三日間、ただ途方に暮れるしかなかった。
「あら? もう三日も経つのに、なにもつむいでないじゃない」
(まずいわね……)
「すみません、お妃さま。うちが恋しくて、どうしても指が動かなくて」
美しいわたしは、美しい涙を流す。
(この調子で、うまくうちに帰らせてもらえるように誘導して……)
「そうよね。急な話だったものね――」
(よし! このまま帰らせてもらえるように……)
「でも、はやくここに慣れて、明日からは仕事を始めなければなりませんよ」
「え!? で、でも、うちが恋しいな……みたいな……」
「なあに? わたくしの親切をむげになさるおつもり?」
「い、いえ……」
「そう、よかった。それじゃあ、明日から、仕事を始めてちょうだいね」
「はい……」(泣)
お妃さまが去ると、わたしは窓のところへ行く。
(もう、だめ……ここから……飛び降りて……逃亡するっきゃない!)
と、三人の女性がこちらにやってくるのが見えた。下唇の大きな女性、親指の大きな女性、足の大きな女性の、奇形の三人の女性だ。
「どうしたんだい? そんな逃亡しそうな顔をして」
(なっ! こやつ、エスパーか!?)
「じつは……」
わたしは三人の女性に事情を打ち明ける。
「もしも、おまえが私たちの奇形を恥ずかしがらず、私たちをおばさんと呼んで、おまえの結婚式に招待し、一緒のテーブルで食事をさせてくれると約束してくれるなら、手伝ってあげるよ」
マジで?
「お願いします!!!」
――数日後。
「まあ! すばらしいわ! さっそく王子との結婚式を開きましょう!」
「あの、わたしの三人のおばさんを、ご招待してもよろしいでしょうか? とてもお世話になっている方々で、できれば一緒のテーブルにしていただきたいのですが……」
わたしは三人のおばさんに言われたとおり、お妃さまにお願いした(お話の愚かな娘なら、ここで約束をないがしろにしてしまうところだけれども、わたしは違う。わたしは怠け者だけれど、愚か者じゃないわ。一生懸命働いたひとには、それなりの報酬があって、当然だものね)。
「あら、そんなこと。もちろんかまいませんわ」
「こんなに働き者の妻がもらえるなんて、ぼくはなんて幸せ者なんだ!」
(……とはいえ、まずいわね……わたしは働き者じゃなくて、怠け者なのだけれども……いざとなれば、やはり逃亡……)
――結婚式当日。
「ようこそ、おばさんたち」
わたしが三人のおばさんを出迎えると、
「ああ! なんてことだ!」
王子さまが驚きの声を上げた。
「あなた、どうしてそんなに下唇が大きいのですか?」
「糸をつむぐとき糸を舐めるからよ」
「あなた、どうしてそんなに親指が大きいのですか?」
「糸をつむぐとき糸をよるからよ」
「あなた、どうしてそんなに足が大きいのですか?」
「糸をつむぐとき糸車を踏むからよ」
「……これから先、ぼくの美しい花嫁に、糸車をさわらせるわけにはいかないな」
むかし、あるところに、糸つむぎをしない怠け者の、超絶美しい娘がいた。
つまり、わたしだ(なんか文句ある?)。
狐人的読書感想
娘に対して(てか僕に対してか)、文句大ありだよ! って、声が聞こえてきそうな気がしますが……(幻聴? あらすじがあらすじではなくなってしまいました……こんなこともあるのが「狐人的あらすじ」である、という言い訳をしつつ、こんなこともある)。
主人公の娘は怠け者という、明らかに美質とはいえない性質を持ちつつも、しかしながら最後には幸せになるという――ちょっとめずらしいタイプのお話のように思いましたが、どうなんでしょうね?(グリム童話っぽくはありますが)
やっぱり「人は見た目が100パーセント」か! などと叫びたくなってしまいますが、どうなんでしょうね?
三人のおばさんをモイラ(クロートー、ラケシス、アトロポス――ギリシア神話における運命の三女神)みたいに捉えるならば、娘は姫となるべくして生まれてきた存在だったのだとも思えてきて、運命論的な物語だったようにも感じられます。
とはいえ、怠け者の娘に、美しさ以外の美点がなかったのかといえば、決してそんなこともないような気がします。
実際のグリム童話では、短いこともあって、娘のキャラクターはあまり描かれていないのですが、それでも「すなおな子」なんだろうなあ、という印象は受けました(それがなぜナルシストキャラに……謎です)。
すなおだから「仕事したくない」と、はっきり態度に表すことができる、とか考えると、はたしてすなおなことは美点なのか? ――と、疑問を持ってしまいそうですが、しかし、三人の奇形のおばさんを、恥ずかしがることなく結婚式に招待したのは、差別や偏見を持たない心、ひとつの美質だと感じます。
僕も見習いたいところです。
思えば、怠け者だからこそ、自分が働かなくてもいいように、頭を働かせることができて、人を上手く使えるのかもしれませんね。
そう考えてみると、怠け者って、社長とか経営者とか、リーダーに向いているのかな、って気もしてきて、案外怠け者ということは、欠点ばかりでもないように思えてきてしまいます。
とかなんとか言いながらも、じつは娘が三人のおばさんを快く結婚式に招いたのは、奇形のおばさんたちとなかよくしているところをお妃さまや王子様にアピールして、結婚を解消させようという魂胆があったのではなかろうか、などという、うがった見方をしてしまう、ひねくれ者の僕がいます。
王子さまも「じゃあ美しい花嫁に、糸車をさわらせるわけにはいかないな」って、やっぱ「人は見た目が100パーセント」か! と叫びたくなってしまいます。
僕の理想の王子様像としては、そこは労働者の手(唇、足)の尊さをこそ、主張してほしかったところですが――まあ、それがリアルな人間像である、という気もしています(結局顔か……)。
主人公の娘のキャラづけなど、二次創作意欲をそそられる、とてもおもしろいグリム童話でした。
読書感想まとめ
怠け者は美質か? 素直さは悪質か?
狐人的読書メモ
プリキュア? 何かの魔法少女ものの変身シーンで、ステッキから糸上のものが出てきて、変身するところがあるらしい。『糸くり三人女』の「糸くり(日常)→魔女(魔法的なものの助け)→お姫様(日常からの脱却)」という展開が、ひとの抱く変身願望に通じているという連想がたしかにできる。興味深く思った。
・『糸くり三人女/グリム童話』の概要
KHM 14。怠け者のヒロインが怠け者のまま幸せになるという、ちょっとめずらしく感じられる話。運命論的作品? 魔女の呪いによって、ヒロインが怠け者になってしまった、という設定の類話も存在するらしい。ほとんど描かれていなくても、ヒロインのキャラが容易に想像できる点、非常におもしろいと思った。
以上、『糸くり三人女/グリム童話』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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