狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『幽霊/江戸川乱歩』です。
文字数12000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約33分。
実業家はある老人に恨みを買い、命を狙われていた。
老人の訃報を聞いてホッと息を吐く実業家……だが。
それから老人の幽霊に悩まされることに……。
明智小五郎、幽霊の正体見たり!
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
平田氏は一代で大きな富を築いた。それには随分罪なこともやった。平田氏に恨みを持つ者は多く、辻堂もそのうちの一人だった。辻堂は常に平田氏の命を狙っており、平田氏はそんな辻堂を最も恐れていた。
だから平田氏は、腹心の者から「辻堂が亡くなった」との報告を受けて、ホッと安堵の息を吐く。だが、あの老人が目的も果たさず亡くなるとは信じられなかった。
辻堂の葬式があってから四日目の朝、一通の手紙が平田氏のもとへ届いた。手紙は辻堂が出したもので、怨霊になって祟ってやるという内容だった。平田氏はその脅迫状を一笑に付すも一抹の不安は拭えない。
平穏な数カ月が経ったある日、十日前に開かれたある会社の創立祝賀会の写真が郵便で届く。その写真に辻堂らしき、もやのような顔が写っていて、平田氏はおののく。
それから一週間後、今度は電話がかかってきて、辻堂らしき不気味な笑い声が聞こえてきて、すぐに切れた。
それから数日後、平田氏は株主総会でのスピーチ中、聴衆である株主たちの一人に辻堂の顔を見て動揺する。スピーチを終えた平田氏はすぐさま大広間の出入り口周辺を探すが、辻堂の姿はどこにも見えなかった。
辻堂は生きているかもしれない。亡くなったふりをして、いまも自分の命を狙っているのかもしれない。もしそうならば、辻堂はいったいどうやって自分の行動を知ったのか? やはり幽霊なのか……。
平田氏は用心のため、腹心の者に辻堂の息子を見張らせていた。しかしあやしいところは一つもなかった。息子の名前で辻堂の戸籍謄本を郵送依頼したが、辻堂の名前の上にはたしかに十文字の朱線が引かれてあった。
平田氏は神経衰弱になり、心配した家族の勧めもあって、海岸近くの温泉旅館で療養することにした。
そんなある日、海岸を散歩していた平田氏は、蒼白い顔の辻堂に出会って逃げ出す。つまずいたところを一人の青年に助けられて一緒に旅館へ帰る。
青年は不思議な話術を持っていて、言葉巧みに平田氏が抱える事情をすべて話させてしまった。怨霊に怯えているなど恥ずかしくて誰にも話せないことだったのだが、平田氏は青年に不快を覚えることはなく、むしろ頼もしくさえ感じた。
青年も同じ旅館に泊まっているとのことで、十日ばかり平田氏のおもしろい話相手になっていた。そして今日も、青年は平田氏の部屋を訪れると、「もう幽霊はでませんよ」、笑いながら言うのだった。
青年は秘密な出来事や奇怪な事件を探し歩いており、青年が調べたところによれば辻堂は生きているのだという。
辻堂は亡くなったふりをして、平田氏の近所の郵便局の配達員になっていた。平田氏宛ての手紙は封を蒸気に当てて開封、チェックしたのち、元通りにして配達していた。これで平田氏の行動は筒抜けだった。
心霊写真も戸籍謄本もそれによって細工したものだった。戸籍謄本に十文字の朱線を加えるのはいかにも容易い。辻堂は非番の日に手紙で知り得た情報をもとに、平田氏の行き先へ先回りして幽霊を務めていたのだ。
実業家平田氏の交友録に、素人探偵明智小五郎の名前が書き加えられたのは、こうしたいきさつからだった。
狐人的読書感想
『幽霊』は明智小五郎ものでしたか。前知識がまったくなかったので、トリックより何よりそのことに一番驚いてしまいました。
『幽霊』でググってみると、同じく江戸川乱歩さんの『幽霊塔』がヒットして、これは宮崎駿監督が『ルパン三世 カリオストロの城』をつくるきっかけになった作品だそうですね。
「江戸川乱歩 著、宮崎駿 イラスト/岩波書店」の『幽霊塔』があるとのことで、ぜひとも読んでみたく思いました。
さて。
今回は『幽霊塔』ではなくて『幽霊』の読書感想なのですが、恨みを買った相手が亡くなってしまい、その幽霊に怯えるというのは、ひょっとしてマイナスプラシーボ落ちかと予想していたのですが、実際に生きていて復讐していたとのことで、ちょっと深読みし過ぎてしまいました。
(マイナスプラシーボは思い込みによる負の影響を指します。たとえば、体調が優れないと思ったら本当に体調が悪くなったり、呪われていると思い込んでいると不幸が起こったように感じたりします。ちなみに利き目のない薬を飲んで病気が治ったりするのはプラシーボです)
それだけに驚きがあって楽しめた読書でした。
心霊写真であったり幽霊であったり、昔から目撃証言があって、いまだにテレビなどで取り上げられて騒がれたりもしますが、科学技術の発達した現代においては「幽霊は脳が見せる錯覚」という見解が主流のようですね。
ポテトチップスにキリストの顔を見たとか、焼いたトーストに聖母マリアの顔を見たとか、よくいわれる話ですが、人間の目は3つの点があるとそこに人の顔を見出すような脳の働きがあって、これをシミュラクラ現象といいます。
心霊写真などはほとんど偽造か、あるいはシミュラクラ現象によるものだとされていますね。
マイナスプラシーボ。シミュラクラ。
幽霊なんていないんでしょ? とは思ってみても、やっぱり心のどこかでスピリチュアルなものを信じてしまいそうになるのが、人間の不思議かつおもしろいところだと感じています。
そんなところが作中の平田氏の心の動きにも表れていて、やはりおもしろいと感じたところでした。
とはいえオチは先述したように、亡くなったふりをした辻堂老人の犯行だったので、やっぱり「幽霊よりも生きている人間のほうが怖い」ということを思いましたが、どうでしょうね?(ここに僕は現実的な教訓を見ました)
明智小五郎はいつも心に残るセリフを言うので、以下にいくつか引用メモして、今回は終わりたいと思います。
他の犯罪の場合でもそうですが、相手をごまかす秘訣は、自分の感情を押し殺して、世間普通の人情とはまるで反対のやり方をすることです。人間という奴は兎角我身に引較べて人の心を推しはかるもので、その結果一度誤った判断を下すと仲々間違いに気がつかぬものですよ。
誰にしたって、御役所の書類といえば、もうめくら滅法に信用して了う癖がついていますから、一寸気がつきませんよ。
読書感想まとめ
幽霊よりも生きている人間のほうが怖い。
狐人的読書メモ
『幽霊』にはキーアイテムとして「戸籍謄本」が出てきたということで、その雑学。
戸籍の本籍地は住所がある場所であれば基本的にどこでも可能。
現在の戸籍制度はほとんどの場合、どちらかの籍に入るのではなく、結婚して新しい戸籍を作るので、厳密には結婚のことを「入籍」とはいわない。
戸籍謄本は本籍地を移すと離婚歴の記載されていないものを入手できる(ただし原本の戸籍謄本には離婚歴がしっかりと残っている)。
・『幽霊/江戸川乱歩』の概要
1925年(大正14年)5月『新青年』にて初出。明智小五郎もの。ちなみに『幽霊塔』はアリス・マリエル・ウィリアムソンの『灰色の女』を江戸川乱歩がリライトしたもの。
以上、『幽霊/江戸川乱歩』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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