狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『オンチ/夢野久作』です。
文字数22000字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約57分。
会計部の西村が事務員ふうの男に黒い棒で殴られて亡くなった。三人の工員が遠目に一部始終を見ていたが、助けに走ろうとはしなかった。なぜ? 復讐するには悪になる覚悟が要る。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
星浦製鉄所の裏手にあるテニスコートで、会計部の西村が事務員ふうの男に黒い棒で殴られて亡くなった。奪われたカバンには工員たちの給料が入っていた。
大男で怪力の又野、リスのような小男の戸塚、鼈甲縁の眼鏡をかけた三好――この三人が遠目に事の一部始終を見ていた。しかし三人はすぐ助けに走ろうとはしなかった。
この時期現場のテニスコートでは、職工たちが起業祭に向けて演劇の練習をしていたのだ。だからその日、事件を目撃した三人はそれが演劇の練習だと思い込んでしまった。
犯人は見つからず、一ヶ月経つと事件は迷宮入りする。
戸塚があやしい。三好が又野に言う。戸塚は事件以来急によそよそしくなった。そしてインテリの中野と親しくしているようだ。自分には犯人の目星がついている。一緒にきてくれるか?
その夜、溶鉱炉の橋の上に戸塚と中野が立っていた。
犯人はあなただ。だけど手に入れた金の四分の一でももらえるならば、このことは黙っているつもりだ。戸塚が中野に言った。中野は戸塚に分け前を半分やると言う。そして金の隠し場所であるテニス倉庫のカギを渡そうとして――中野は戸塚の足を払った。戸塚はドロドロの鋼鉄の火の池に落ちた。
そこへ隠れていた又野が飛び出し、中野を羽交い絞めにした。犯人を捕まえた、これで自分のカン違いから助けることができなかった、西村さんのカタキが討てる――そんな又野を、後ろから黒い影が力いっぱい突き飛ばした。又野は中野を掴んだまま、真っ逆さまに落ちていった。
翌早朝、三好は左脇に金を抱えて星浦駅に現れた。テニスコートであれば演劇の練習と思い誰もあやしまないと中野に入れ知恵し、金の隠し場所を探らせるため戸塚に犯人を教え――すべてを仕組んだのは三好だった。
三好は一番の汽車に乗るため、待合室に入った。が、ギョッとして立ち止まることになる。そこには全身を包帯に巻かれ、左足がギプスで象の足みたいになっている大男がいた。
又野だった。あのとき又野は、左足が橋の腐食した鉄板の穴にはまったため、宙吊りの状態となり、左足骨折と全身大やけどを負うも一命は取り留めていたのだ。
又野は三好を羽交い絞めにした。三好が命乞いをするのも構わずグッと力を入れて締め付けた。しばらくすると動かなくなった三好が待合室の床にドサリと落ちた。
駆けつけてきた巡査に又野は言った。やっと腹が癒えました、逮捕してください。
狐人的読書感想
ミステリー小説としていいんですかね、二転三転する容疑者と真犯人、溶鉱炉という対決場所の舞台設定など、学ぶべきところの多い作品でした。
ただ、謎解きが明確になされていないような気がするんですよねえ……、ストーリーの流れからだいたいの真相は掴めたように思うのですが、あらすじに書いた部分でもひょっとしたら微妙に違うところがあるような気がします。
ぜひ実際に読んだ人の意見を伺いたいところです。
主要登場人物のうち又野さん(西村さんは被害者なので除外)だけがいい人で、戸塚さん、中野さん、三好さんは程度の差こそあれ、みな悪人だったといえるでしょうね。
ただし、いい人の又野さんも最後には真犯人の三好に復讐し、警察に逮捕される悪人となってしまいます。
僕は世の中には正当な復讐というものがあるのだと思っています。だから、小説、マンガ、アニメ、ゲーム、ドラマ、映画――なんでもいいのですが、復讐のはてに主人公が幸せを勝ち取るようなストーリーを見ると、単純にスカッとするというか、気持ちが晴れる気分になります。
しかし、復讐する主人公が幸せな結末を迎える物語というのは、反対のものと比べると少ないように思えるのです。
復讐しても失ったものが必ず戻ってくるわけじゃありません、むしろ戻らないことのほうが多いのです、復讐はむなしいだけだといいますが、だけど復讐しないではいられない状況というものがあります。
復讐の対象となる悪人が、家庭ではいい夫やお父さんだったりして、残された家族が復讐鬼になる、みたいなストーリーラインもよく見かけますよね。
復讐は復讐を呼び、それは際限なく連鎖していく――誰かが耐えなければなりませんが、誰が誰に復讐を耐えてくれと言えるのでしょうか?
――などと考えていくと、言うまでもなく難しい問題ですよねえ、復讐って。
少なくとも復讐をする者は、自分も復讐されることを覚悟して復讐しなければならず、本作の又野さんも、最後には自ら警察に逮捕してくれと言っているところを鑑みるに、そのことは充分承知していたようにも思えます。
現実問題として、復讐には法的裁きが待っているわけで、だけども法が絶対に悪をさばいてくれるわけでもなく、理不尽なことばっかりあるのが現実世界だという気がします。
復讐をはたすより、復讐よりも大事な何かを見つけられれば、それが一番幸せなのだと思うのですが、そう簡単にはいかないのが世の中というものなのではないでしょうか。
そもそも復讐というものが生まれない世界であってくれれば……、などと願わずにはいられませんが、それは現実的に不可能ですよね。
……このまま延々と書いていけそうですが、絶対に答えが出ないことはわかっているので、この辺りにしておきたいと思います。
タイトルの『オンチ』とは又野さんのあだ名です。
オンチといえば音痴、すなわち音程が外れてうまく歌を歌えない人を指す言葉ではありますが、オンチには運動音痴や方向音痴など、「あることに関して感覚が鈍い人」という意味もあり、どうやらこちらのほうが本作には当てはまるようです。
ところで、あなたはオンチ?
――というのが今回のオンチ(オチ)。
(ダジャレって……)
読書感想まとめ
二転三転する容疑者と劇的な舞台設定。
謎解きは明確になすべきかなさざるべきか?
復讐についてつれづれと。
狐人的読書メモ
ちなみに、オンチには恩地という漢字も当てはまる。幕府または大名家が家臣に褒美として与えていた土地のことをいう。
・『オンチ/夢野久作』の概要
初出不明。『夢野久作全集10』(筑摩書房、1992年)収録。ミステリー。
以上、『オンチ/夢野久作』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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