狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『ナポレオンと田虫/横光利一』です。
文字数9500字ほどの短編小説。
狐人的読書時間は約25分。
ナポレオンが田虫だったという説は実際にあります。
ナポレオンの破竹の快進撃、
ショートスリーパーの謎がそれで説明できます。
ナポレオンと田虫という題材の組み合わせは秀逸。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
ナポレオンといえばフランス帝国皇帝だ。田虫といえば菌によって皮膚に斑点ができ、かゆみがひどい皮膚感染症だ。
ナポレオンは田虫だった。
ナポレオンの征服の歴史は、イタリア遠征から始まったといえる。彼の目の前で一兵卒が弾丸に撃ち抜かれて倒れた。彼はその銃を拾い上げると、先陣を切って敵陣の中へ突入した。一大隊、一連隊が彼に続き、敵軍は総崩れとなった。ナポレオンの栄光はここから始まる。そして彼を生涯苦しめた田虫も、このときの一兵卒からうつされたものだった。
ナポレオンが勢力図を広げていくとともに、田虫もまた彼の腹の上で猛威を振るった。広がっていく腹の斑点は、彼が侵略していく領土の形に似ていた。田虫は夜になるとそのかゆみでナポレオンを苦しめた。翌日になると、彼は田虫に復讐するがごとく、果断に政務を執行した。
イタリア、スペイン、エジプト、オーストリア、デンマーク、スウェーデン――これらの国々をつぎつぎと平らげていったナポレオンは、ついにフランス皇帝の地位についた。そして彼の腹の田虫もまた、ますます深刻に根を張っていった。
ナポレオンは最初の妻ジョゼフィーヌと離婚し、オーストリアの皇女マリー=ルイーズと結婚する。これはジョゼフィーヌが不妊だったため、なんとしても帝位を実子に継承させたいと願った、ナポレオンの決断だったという。
マリー=ルイーズはハプスブルグ家、オーストリア神聖ローマ帝国の娘である。容姿、家柄、身分ともに申し分ない。ナポレオンは「余は腹と結婚したのだ」などと豪語していたが、実際には若く麗しいルイーズを深く愛した。
が、もともとは貧乏貴族の家に生まれ、年齢も四十一歳の坂にあり、醜い田虫の腹に毎夜悩まされ――ナポレオンはルイーズの高貴で若々しい肉体にコンプレックスを抱かざるを得なかった。そのコンプレックスの溝を埋め合わせるためにも、つぎはロシアを征服しなければならぬ……、そして彼の腹の田虫も、彼の幸運の揺らぎを嗅ぎつけたかのように蠢きはじめる……。
ある夜、ナポレオンは田虫の腹をかきむしっていた。その呻き声を聞きつけて、隣室からルイーズが心配そうにやってきた。ナポレオンはある衝動に駆られた。この高貴な娘の前に、我が醜い病態をさらしてやりたい。ルイーズはその醜悪さに身を引いた――。
寝台の揺れが収まると、ルイーズは大理石の床の上に投げ出された。彼女の青ざめた頬は涙で濡れていた。
翌日からナポレオンは、田虫の腹をルイーズに見せた失敗を取り戻そうとするように、ロシア遠征に着手した。こうして、総勢百十万余人の大軍が、没落へと進軍していくことになる。
狐人的読書感想
ナポレオンといえば、アレクサンドル・デュマさんの『ダルタニャン物語』や『モンテ・クリスト伯』などで、名前だけは結構出てきて、てか、そんなところからわざわざ引いてこなくても、歴史上の有名人ですよね。
とはいえ、僕もこの人物については詳しいことをそんなに知っているわけではなくて、読書などで名前を見るたびに、今度一冊ナポレオン関連の書籍を読んでみようか、などと思わされるのですが、なかなか実行に移せていません。
なので、ベタなところですが、『余の辞書に不可能の文字は無い』という名言とか、白い馬にまたがった『アルプス越えの絵画』(ベルナール峠からアルプスを越えるボナパルト)などを思い浮かべる程度の知識しか持ち合わせていません。
ただちょっと調べてみると、「ナポレオンは本当にお腹に田虫を患っていたのではなかろうか?」という説があります。
その由来もやはり絵画にあるようで、上の画像の絵のように、「ナポレオンが右手をお腹の位置で上着の中に差し込んでいる」、という構図の絵画が多く残されているからだとか。
「ナポレオンの右手の謎」とでもいうべきこの謎は、未だ解明されていないそうですが、その諸説の中の一つが皮膚病(田虫)だったから、というもので、お腹をかいているうちにそのポーズが癖になってしまったのでは、といいます。
そしてこの説をモチーフに書かれた小説が、横光利一さんの『ナポレオンと田虫』ということで、僕にはかなりおもしろかったです。
生意気なようですが、「ナポレオンと田虫」という組み合わせは、とてもいいアイデアだと感じました。
ナポレオンの栄光の裏には田虫がありました。
田虫の斑点模様がナポレオンの勢力図に酷似しており、両者は連動しているように拡大を続けていきます。
このことは、とうてい「偶然」という言葉では受け入れられず、まるで田虫がナポレオンを操っているかのような印象を受けました。
夜、ナポレオンは田虫のかゆみのために眠れず、しかしその復讐に燃えるかのごとく、つぎつぎと周辺国を征服していきます。
このあたりは「ナポレオンがショートスリーパーだった」という説とも合致していておもしろいですよね(こちらもナポレオン田虫説同様に真偽のほどは定かではありませんが)。
ちょっと余談になりますが、「ショートスリーパーってうらやましいなあ」って思ったことありませんか?
いえ、僕が思っているのですが。
睡眠時間が6時間未満でも支障なく日常生活を送れる人たちをショートスリーパーといい、ナポレオンやエジソン、レオナルド・ダ・ビンチ、現代だと明石家さんまさんなどがショートスリーパーとして有名なのだそうです。
調べてみると、ショートスリーパーになるための方法というものがありました。
①起きる時間は変えずに寝る時間を少しずつ遅くする
②食事・運動・睡眠環境など睡眠の質を上げる
③昼食後に軽い睡眠をとる
ちょっとやってみたくなりました。
さて、余談が過ぎましたが。
この小説ではナポレオンの「平民コンプレックス」みたいなものが描かれています。それはおもに新しい妻・マリー=ルイーズに対して抱いている感情なのですが、劣等感ゆえに自分に欠けたものを補うように、何かを熱心に行うというのはわかるような気がします。
劣等感ゆえにいろいろとがんばって成功した、という話も想像しやすいように思います。
本作のナポレオンの場合、その劣等感はロシア遠征に向いてしまうわけですが、思えば戦争というものは、国家のような全体的な意思によってではなくて、あくまでも個人の思いから発生するものなのかな、というところは歴史を鑑みて考えることがあります。
自分のことのためにたくさんの人が亡くなったり、傷ついたり、悲しんだりするのだと思えば、自分の抱く劣等感などは我慢できるようにも思うのですが、しかしもし自分がなんでも自由にできる力を持っていたとしたら、と考えてしまうと、自信を持ってそう言い切れないところもあります。
持たない者だから言えること、持つ者だから言えること、というのがたしかにあって、いずれにせよそれは自分本位なだけのエゴでしかないんだよなあ、ということを思います。
最近のニュースで、アメリカの格差がますます広がっていて、富裕層は自分たちの払った社会保障費が、貧困層に回るのを不満に思っていて、ついには富裕層だけで独立した町を作ってしまい、残された貧困層の町はダウンタウン化している、みたいなことをやっていました。
持っていても、持っていなくても、人のことを考えるのはむずかしいと感じました。
読書感想まとめ
じつは前々からナポレオンとショートスリーパーには興味を持っていたという読書感想。
狐人的読書メモ
人間は基本的には自分本位に生きるしかないのだが、人のことをまったく考えなければ自分自身もこの社会で生きにくくなってしまう、このバランスのむずかしさ。
・『ナポレオンと田虫/横光利一』の概要
1926年(大正15年)、『文藝時代』にて初出。ナポレオンと田虫という題材の組み合わせは秀逸。
以上、『ナポレオンと田虫/横光利一』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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