狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
『こわがることをおぼえるために旅にでかけた男/グリム童話』
文字数8900字ほどの童話。
狐人的読書時間は約27分。
ドラクエの勇者を「容赦ねえ」と思ったことのある人、
このグリム童話も楽しめるかもしれません。
勇者に必要な資質は勇気じゃなく図太さ!
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
その若者は「まぬけで、何も覚えない」と父親に言われ続けてきた。父親はなんでも利口な兄に言いつけた。しかしそんな兄でも、夜道の使いは怖がって、「ぞっとする」と言って行きたがらない。若者は「ぞっとする」ことを覚えたいと思った。
父親が、そんな下の息子を嘆いていると、教会の番人がなんとかしようといって若者を引き取る。真夜中、番人は若者を起こして、教会の鐘を鳴らさせ、後ろから幽霊を装って驚かせようと企んだのだが――不審者だと勘違いした若者に階段から突き落とされてしまう。
ことの顛末を知った父親は、若者に50ターラーを渡して家を追い出した。こうして旅に出ることになった若者は、「ぞっとする」ことを覚えたいと呟きながら大きな街道を歩き出した。
道で出会った一人の男が、一本の木を指さして言った。「それなら、あの木の下で一晩過ごしてみろよ、きっとぞっとできるだろうぜ」。
木には七人の男が吊るされていた。若者は一晩そこで野宿した。翌朝男がやってきて若者に尋ねた。「あそこにいる連中は喋らない、だからぞっとすることを知るわけがないよ」、若者は答えた。
若者は、「ぞっとしたい、ぞっとしたい」と呟きながら、また街道を進んだ――。
今度は若者の泊った宿の主人がそれを聞きつけて、とある話を持ち出した。
なんでも、ここからそう遠くないところに、お化けの出る城があって、三夜、その城で番ができれば、王様がお姫様と結婚させてくれるという、ただし、その城から出てきた者はまだ誰もいない――。
翌朝、若者はさっそく王様のところへ行った。王様は若者を気に入って、何か三つ好きなものを持っていくがよい、と若者に言った。若者は火と旋盤とナイフ付きの細工台を用意してもらい、例の城へ向かった――。
第一夜、二匹の黒猫がやってきて「トランプしよう」と話しかけてきた。若者は「いいとも、だけどまずは手を見せてくれよ」と言って、二匹を細工台に固定した。「君たちの長い爪を見て、トランプをする気はなくなったよ」、若者は猫をナイフで……、するとたくさんの黒猫と黒犬が現れた。若者はナイフで果敢に立ち向かい、すべて蹴散らすとベッドへ……、ところが今度はそのベッドが、ドシンドシンと暴れ回る、若者は結局火の側の床で眠った。
第二夜は、亡者が現れて若者の椅子に座っていた。若者は亡者を押しのけて自分の席に座り直した。するとさらに多くの亡者たちが現れた。亡者たちは九本の足と二つのドクロを使ってボーリングを始めた。若者は「僕も入れてくれないか?」と申し込んだ。そして「その玉はちゃんと丸くないよ」と言って、旋盤を使ってドクロを丸い玉にした。若者は亡者たちと遊び、彼らが消えると横になった。
第三夜は、棺桶を担いだ六人の大男がやってきた。中には二、三日前に亡くなったばかりの、若者のいとこが納められていた。若者がその身体を温めてやると、いとこは復活して襲いかかってきた。若者はそれを返り討ちにして、再び棺の中へ戻した。六人の大男が棺を持って帰ってしまうと、今度はその男たちよりもっと大きな、長く白いあごひげを生やした老年の男がやってきた。対決して若者が勝つと、あごひげの男は金でいっぱいの三つの宝箱を差し出した。「一つは貧しいひとたちに、一つは王様に、一つはお前のものだ」と、男は若者に言った。
こうして若者はお姫様と結婚した。しかしいまだ「ぞっとする」ことを覚えてはいない。「ぞっとしたい、ぞっとしたい」と繰り返すばかりの若い王様に、お后様はとうとう怒り出した。するとひとりの侍女がこう申し出る。「私が王様を治してあげましょう」。侍女は手桶いっぱいの小魚を用意した。お后様は若い王様の眠っているときに、その小魚を王様の背中にドバっと入れた。
「わあ、なんだ! ぞっとした、ぞっとしたぞ! ああ、ぞっとするとはなんなのか、ようやくいまわかったよ」
狐人的読書感想
『こわがることをおぼえるために旅にでかけた男』――まったく聞き覚えのないタイトルでしたが、あまり有名なお話ではないという認識でいいんでしょうかねえ。
とはいえ、内容はとてもおもしろかったです。
恐れを知らない勇敢な若者が、冒険の旅に出てその勇気を示し、お姫様と結婚して王様になる流れなど、なんかRPGっぽいですよね。
わくわくです。
僕はやはりドラクエを思い浮かべたのですが、お化けの出る城の件、ビアンカと行ったレヌール城のお化け退治を思い出しますよね(ドラクエ5)、あれはドラクエファンなら誰しもいい思い出ですよね。
とかなんとか、ただし上は、主人公の若者をちょっといいふうに書き過ぎたかもしれません。
率直にいえば、恐れを知らぬクレイジーな若者の冒険譚ともいえそうで、何事にも動じない若者の姿には、こちらがぞっとさせられるところも多々ありました。
七人の男が首を吊っている木の下で、よく一晩も過ごせるよなあ、とか、お化けとはいえ容赦なくやっつける姿はかなり怖いですよね。まあ、ゲームの主人公もモンスターを容赦なくやっつけているので、その部分ではやはり通じるところがありますけれども。
勇敢というよりは図太いといった印象でしょうか。最近読んだ小説で「少女のように初心な女もいつかは図太い母となる」といった内容のものがあったのですが、母の図太さ、おばちゃんの図太さ、というのはたしかに最強で最恐という感じがしますよねえ。
そんな意味では、読者が恐がることを覚えるための話でもあるように思い、二重の意味でこのタイトルは秀逸なものだと感じます。
勇者に必要なのは勇気ではなく図太さなのかもしれないなあ、と、ファンタジーな勇者の資質について、現実的な考察をしてしまいましたが、はたして。
さて、現実的といえば、童話にはどこか現実的なものも多いのですよねえ。とくにグリム童話などは口承を蒐集したものなので、当時の風習や時代背景が色濃く反映されているものがほとんど、それは現代人が読んでみても色あせないところがあって、むしろ現代だからこそ思わされるところの大きいものもあります。
若者は二人兄弟の出来の悪い弟で、兄はとても出来がよく、父親はいつも兄ばかりを目にかけている、というイメージは、現代でも一般的なもののように思えます(なんとな~く『NARUTO -ナルト-』のサスケとイタチを彷彿とさせます、イタチは弟に優しかったですが……)。
そんな兄にも怖がりだという欠点があって、弟がそこに着目してしまうあたりに、兄弟に対する関心のような感情がうかがえるように思うのですよね。一見すると感情がない人間にも見受けられる弟も、決して無感情というわけではないんだろうなあ、などと思わされたところでした。
教会の番人については、ちょっとかわいそうにも思えましたが、自業自得という思いが強いです。たとえ善意からの行為であったとしても、それが相手には伝わらないこともあって、逆に自分が損をすることだってある、というところはいかにも現実っぽい教訓のような気がして、勉強になりました。
相手のためを思ってした行いは、こちらが期待するような結果や反応が得られないとがっかりすることもあるのですが、それは自分自身のエゴなんだから、がっかりしたり相手を嫌いになったりするのは違うんだよなあ、みたいな。
で、結局この件が決定打となって、若者は父親から家を追い出されてしまうわけですが、若者に50ターラーのお金をくれたのはせめてもの親心だと見るべきでしょうか。
若者もほとんど自分に非のないことで家を追い出されてしまうのは、なんだかかわいそうにも思いましたが、子はいずれは親元を離れなければならないわけで、そうなれば当然の流れという気もします。
最近は、ひきこもりなどで親に依存してしまったり、友達親子など親離れ、子離れできないケースも見られるようですが、まあ、むずかしいですよねえ、親には子を養う責任があり、子は親に甘えたい気持ちがあります。
50ターラーは親の責任を示したものだったのかなあ、などと思えば、どこか納得できるところもありますね。独り立ちのための資金援助を受けられただけでも、若者は幸せだったのかもしれません。
ちなみにターラーは、ヨーロッパで16世紀から数百年間使用されてきた大型の銀貨だそうです。現在でもアメリカのドル(ダラー)などの通貨名にその名残があるのだとか。
グリム兄弟が活躍していた頃にあったであろう、ドイツのクロ―ネンターラーの純銀量は25.7g、このブログを書いている現在銀1gは60円ほどなので、50ターラーは77100円くらいですか。
まあ、当時と現代とでは物価などの価値基準も違うでしょうし、額の多い少ないでもないのですが、気になったので書いておきます。
最後のオチの部分もとてもおもしろく感じました。
「ぞっとする」(精神的に怖がる)ことを知らない若者でしたが、ぬめぬめする小魚を背中に入れられれば背筋が「ぞっとする」(肉体的に反応する)ということでしょうか?
怖がることを覚えたわけではありませんでしたが、落語やトンチのようなオチで秀逸だと思いました。
ただ、原文だとまた違った意味がこのオチには含まれているのだそうです。
小魚はドイツ語で「Gründling(グルンドリング)」というのですが、これを英語にすると「Gudgeon(ガッジョン:和名・タイリクスナモグリ)」となり、「だまされやすい人、まぬけ」といった意味があります。
すなわち小魚は「だまされやすい群衆」の比喩で、だまされやすい群衆が近くで騒ぎ立てるのには、さすがの勇敢な若者(王様、指導者)もぞっとする、といったブラックジョーク的な意味合いになるのだとか。
そんなこんなで、とにかくおもしろかったので、狐人的にはもっと知られてしかるべきグリム童話だと思いました。
――とはいえ、僕が知らないだけで有名なお話だったらごめんなさい、というのが今回の読書感想のオチ(グリム童話のオチには程遠いオチというオチ)。
読書感想まとめ
とくにドラクエ好きにおすすめしたいです。
もっと世に知られてしかるべきグリム童話。
狐人的読書メモ
『鎌になりたきゃ早いうちに曲がらなくてはいけない』というフレーズが印象に残った。『鉄は熱いうちに打て』ということ?
知恵がなければ恐怖は生まれず、恐怖は知恵から生まれる、ゆえに恐怖は知恵で克服できるが、しかしそもそも知恵がなければそ恐怖は……(エンドレス思考ワルツ)。
・『こわがることをおぼえるために旅にでかけた男/グリム童話』の概要
KHM 4。ロープレみたいだった。ドラクエみたいだった。おもしろかった。それほど知られたグリム童話ではないような気がする。もっと知られてしかるべきグリム童話だという気がする。
以上、『こわがることをおぼえるために旅にでかけた男/グリム童話』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
(▼こちらもぜひぜひお願いします!▼)
【140字の小説クイズ!元ネタのタイトルな~んだ?】
※オリジナル小説は、【狐人小説】へ。
※日々のつれづれは、【狐人日記】へ。
※ネット小説雑学等、【狐人雑学】へ。
※おすすめの小説の、【読書感想】へ。
※4択クイズ回答は、【4択回答】へ。
コメント