小説読書感想『走れメロス 太宰治』走れメロス…いや走ってメロス!

コンにちは。狐人コジン 七十四夏木ナナトシナツキです。
(「『狐人』の由来」と「初めまして」のご挨拶はこちら⇒狐人日記 その1 「皆もすなるブログといふものを…」&「『狐人』の由来」

今回は言わずと知れた太宰 治さんの名作小説、
『走れメロス』
について書いてみたいと思います。

まず、『走れメロス』と言えば、『友情』を描いた小説としてあまりにも有名ですよね。それゆえ読書感想を書く場合には、やはり『友情』を主眼に置いて書くことになるでしょう。

以下、簡単なあらすじを。

『邪智暴虐の王』として人々に恐れられるディオニスの噂を聞きつけた、素朴な羊飼いのメロス。王を弑するため、短剣を懐に王城へと赴くも、あえなく捕らえられてしまう。生意気な口を利く反逆者メロスを処刑しようとする王。しかしメロスは、妹の結婚式を挙げてやるため、処刑を猶予してもらえるように懇願する。竹馬の友・セリヌンティウスを人質として差し出すことで、処刑まで三日間の猶予を得たメロスは、自分が戻らなければ身代わりとなってしまう友のため走り続ける……。

以上、簡単なあらすじでした。

以前の記事にも書きましたが、
(⇒小説読書感想『重力ピエロ』シビれる冒頭!春が二階から落ちてきた。
冒頭の一文が素晴らしい小説は、素晴らしい小説ですよね。

『国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。』
川端康成さんの『雪国』しかり。

『春が二階から落ちてきた。』
伊坂幸太郎さんの『重力ピエロ』しかり。

『メロスは激怒した。』
『走れメロス』のこの冒頭は、日本で最も有名な小説の冒頭文と言っても過言ではないのではないでしょうか。

つまり、『走れメロス』は素晴らしい小説であると、僕は言いたいのです。
万人が一読に値する、文句なしにおすすめできる小説です。

それではそろそろ、『走れメロス』を読んだ僕の読書感想などつらつらと。

あらすじを読んだだけでも分かるように、メロスは正義感の強い男です。正義感の強過ぎる男です。

死を覚悟してまで、『邪智暴虐の王』とまで恐れられる王様に、諫言を呈しに行く人間はまずいないでしょう。100パーセントただではすみません。

しかし『邪知暴虐の王』って……、意味としては、「悪知恵がとてもよく働き、乱暴な行為によって民人を苦しめること」のようですが――この王様、過去にいったい何があったのでしょうか……。以下に王様の発言を一部引用しますと、

『おまえには、わしの孤独がわからぬ。』
『疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。人の心は、あてにならない。人間は、もともと私慾のかたまりさ。信じては、ならぬ。』

第一弾となる実写映画のスピンオフ、映画『ローグ・ワン/スターウォーズ・ストーリー』(原題:Rogue One: A Star Wars Story)の公開が2016年12月16日(金)と目前に迫っているからなのでしょうか、なぜかあえてスターウォーズでたとえるならば、ダース・ベイダーの過去であるところのアナキン・スカイウォーカーに一体何があったのかが気になったように、『邪智暴虐の王』ディオニスの過去を描いたサイドストーリーがとても気になるところ――とかなんとか余談でした。

とにかく、

この王様に諫言するメロスの持つ正義感は、「異常なまでの正義感」と言えます。

間違いなく勇者です! 勇者メロスです!

(王様、勇者――とくれば、これはもうRPG小説、ロープレ小説なのでは……)

とか思ってしまうと、RPG好きの僕としては、ワクワクせずにはいられない小説――『走れメロス』といった感じ。

ただ……、

その勇者メロスが、王様に処刑を言い渡されたとき、妹の結婚式を挙げてやりたいがため、処刑まで三日間の猶予期間を得るために、親友のセリヌンティウスを人質に差し出します。

勇者メロスは王様に言います。

『私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人を絞め殺して下さい。たのむ、そうして下さい。』

ここで僕はある違和感を覚えました。

(真の勇者がそんなこと言う? しかも王様から強制されたのならともかく、そんな提案を自ら申し出る?)

という疑問を持たざるを得ないわけですが、しかしそうしないとお話にならないわけで……。

親友と妹なら、やはり妹を取る! 勇者メロス改めシスコンメロス!

ということで、ラノベの主人公的キャラとして受け入れ、ここは先に進んでいきましょう。

冒頭でも述べましたが、『走れメロス』と言えば『友情』の話。

少年漫画のセオリーである『勝利』・『友情』・『努力』の『友情』ですね。

(シスコンメロスのせいで)人質となった親友セリヌンティウスの命を救うため、シスコン……いえ、勇者メロスが己の死をいとわずに走り続ける。

そんなところに友情を見出して感動するわけなのですが、『走れメロス』のなかで、実は一番友情を感じられる場面は、メロスに人質として差し出された親友セリヌンティウスが、王城へと召し出される短いシーンではないでしょうか。

勇者メロスに、勝手に人質として差し出されたにもかかわらず、セリヌンティウスは文句一つ言わずにそれを受け入れます。無言で首肯き、メロスをひしと抱きしめます。

素晴らしい友達です。

そんな友達を人質として置いていこうとしているメロスのことはさておき。こんなセリヌンティウスが友だからこそ、その友情に報いるための、その後のメロスの行動が、友情物語として引き立てられます。

セリヌンティウスが示すこの友情こそが、最も尊い友情であると、僕は思いました。

こうしてメロスは村に帰ります。そんなこんなで妹の結婚式も無事に挙げてやることができます。そして、セリヌンティウスが身代わりとなって処刑されてしまうタイムリミットの日に、寝坊をしてしまうというおっちょこちょいをかましつつも(だ、大丈夫なのか勇者メロス……)、急ぎ王城へと戻るため、ひたすら走り続けるメロス。

途中、山賊に遭遇したり、氾濫した川を泳ぐことになったり……と、様々な試練を乗り越えて親友を救おうと頑張ります。

ここで、ちょっとおもしろいな、と思った話をひとつ。

今回の記事を書くにあたっていろいろと調べていたところ、
『実はメロスは走ってなかったのでは?』
という驚きの疑問を呈して行われた研究があることを知りました。

どうやらそれは中学生の自由研究らしく、『一般財団法人 理数教育研究所』というところが開催している『算数・数学の自由研究』作品コンクールに入賞した研究結果『メロスの全力を検証』というものなのだそうです。

中学生の発想というところに僕はさらに驚いたわけなのですが。

この研究では、『走れメロス』の文章表現からメロスの走った距離とそれを走破した時間を推測し、平均時速を計算しています。

この研究によると、往路は時速3.9キロ。復路の、恐らくメロスが作中で一番必死になって走ったラストスパートの時速は5.3キロになるそうです。

……歩いとるがなメロス。走ってないがなメロス!

これは実におもしろいと思いました。興味のある方は『走れメロス 走ってなかった』などで検索してみてください。

さて。

セリヌンティウスが今にも磔にされようとしている刑場に駆けつけたメロスは、どうにかこうにか友を救うことができました。

しかし……、

メロスは道中、疲労のあまり倒れ込み、セリヌンティウスを見捨てようとする弱い心に囚われていました。そのことをセリヌンティウスに告白し、自分を殴れと言い募るメロス。そんなメロスの思いを汲んで、刑場いっぱいに鳴り響くほど音高くメロスの右頬を殴るセリヌンティウス。そんなセリヌンティウスも、メロスを待つ間たった一度だけ、メロスを疑ったことを明かし、私を殴れ、とメロスに言います。それを受けて、腕に唸りをつけてセリヌンティウスの頬を殴ったメロス。

熱い! 熱過ぎる!

まさに少年漫画的展開。

そして少年漫画的な展開はこれに留まらず。『邪智暴虐の王』ディオニスもやはり人の子だったということでしょうか、そんな二人の友情に感動し、メロスの処刑を取り止めて、『おまえらの仲間の一人にしてほしい。』と勇者メロスに頼みます。

これをドラクエ風に表現し直すなら、

なんと 邪智暴虐の王ディオニスが かんどうし
なかまに なりたそうに こちらをみている!
なかまに してあげますか? はい/いいえ

といったところでしょうか。
これぞ『走れメロス』がRPG小説、ロープレ小説であることの証左(?)!

昨日の敵は今日の友!
まさに少年漫画的展開と言えるでしょう。

ここからいよいよラストです。

どっと群衆の間に、歓声が起り、ひとりの少女が、緋のマントをメロスに捧げます。まごつくメロス。そこに親友が一言。

『メロス、君は、まっぱだかじゃないか。早くそのマントを着るがいい。この可愛い娘さんは、メロスの裸体を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。』

勇者は、ひどく赤面した。

メロスと少女のロマンスを予感させるエンディング。

さすが太宰 治先生。最高の引きです。

『走れメロス Ⅱ ~今度こそ走れメロス~』をプレイしたくなる、もとい読みたくなるのは僕だけなのでしょうか?

ここからは、ちょっとした雑学的なお話を少し。

『走れメロス』の最後には、
『(古伝説と、シルレルの詩から。)』
という一文があります。

これによって『走れメロス』が、
『古伝説=ギリシア神話』
『シルレル=ドイツのフリードリヒ・フォン・シラーによる詩』
といった二つのモチーフから着想を得て創作された事実が明示されています。

さらに、

太宰 治さんの友人である檀 一雄さんの著書『小説 太宰 治』によれば、『走れメロス』の下敷きとなっているのではないかと檀さんが考えるエピソードがあるそうです。

以下がそのエピソードの概要です。

熱海の旅館に入り浸りとなって帰らない太宰先生を心配した奥さんが、
太宰先生の友人である檀さんに「様子を見て来て欲しい」と依頼する。檀さんは熱海に太宰先生を訪う。それを歓迎した太宰先生は檀さんを引き止めて飲み歩き、お金を使い果たしてしまう。宿代と飲み代のつけが溜まってしまい、窮状に陥ってしまった太宰先生は、檀さんを宿賃の身代わりとして残し、東京の友人宅へ借金を頼みに行くもいっこうに返ってこない。しびれを切らした檀さんが、太宰先生の下に駆けつけると……太宰先生はなかなか借金の申し入れを切り出すことができず、呑気に将棋などを指している。当然、それを見た檀さんは激怒した――。

この裏話も非常におもしろいと思いました。

雑学……というか余談でした。こういう話を知っていると、より味わい深く作品を楽しめるような気になってしまうのは、はたして僕だけなのでしょうか。

以上が、『走れメロス』を読んだ僕の感想です。

もし未読の方がいらっしゃったら、ぜひ読んでほしい小説です。短くて読みやすいので、普段小説を読まない方にもおすすめです。

最近は小学上級から中学生の読書感想文用にラノベ的装丁のものがあるみたいです。

原作を読みたくなるおすすめの短編集です。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

それでは今日はこの辺で。

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