狐人的あいさつ
コンにちは。狐人 七十四夏木です。
読書していて、
「ちょっと気になったこと」
ありませんか?
そんな感じの狐人的な読書メモと感想を綴ります。
今回は『六羽の白鳥/グリム童話』です。
文字数7000字ほどの童話。
狐人的読書時間は約18分。
悪いお妃に六羽の白鳥に変えられた六王子。
末の姫は命をかけて兄たちを救う決意を固める。
しかし姫に与えられた試練とは、容易ならざるものだった。
完全懲悪ではない勧善懲悪、他。
未読の方はこの機会にぜひご一読ください。
狐人的あらすじ
ある国の王様が、大きな森で狩りをしていたが、獲物を追っているうちに迷ってしまった。すると魔女の老婆が現れて、自分の美しい一人娘と結婚するならば、森を出る道を教えてくれるという。王様は結婚の約束をして無事に森を出ることができたが、魔女の娘を一目見たとき、何か言い知れぬ不吉を感じたのだった。
王様は前に一度結婚をしていて、前妻との間に六人の王子と一人の姫があった。王様は七人の子供たちをとても大事にしていた。だから新たな妃の、冷淡な態度を見ると、子供たちを害されるのではと恐れて、森の奥の離城に住まわせた。そこまでの道は不思議な力で隠されていて、不思議な糸玉がいつも王様を導いた。
妃は王様の家来を買収してすべてを知った。不思議な糸玉を盗み出すと、白い絹の小さな肌着をつくり、それらに魔女から習っていた魔法をかけて、子供たちの住む森の奥の離城へ向かった。父がきてくれたのだと勘違いした王子たちは城を飛び出してきた。妃が王子らに魔法の肌着を投げかけると、彼らは六羽の白鳥に変わり、ばたばたと森の向こうへ飛んでいった。城を出なかった姫だけが、一人取り残されることとなった。
それから幾日かして、王様が森の奥の離城を訪れると、姫だけしかいないではないか。事情を聞いた王様は悲しみにくれて、姫だけでも守らねばと王城に連れ帰ろうとしたが、姫はもう一晩だけ離城にいたいと望んだ。このとき姫は兄たちを探す決意を固めていた。
一晩と一日、森の中を歩き回った姫は一軒の小屋を見つけて休んだ。そこには六つのベッドがあったのだが、姫は用心のためにベッドの下の硬い床で休んだ。日が沈むころ、六羽の白鳥が窓から飛び込んできた。六羽の白鳥は六人の王子に変わった。姫はベッドの下から這い出した。兄妹は再会を喜び合った。
ここは山賊の隠れ家だ、と兄たちは妹に言った。ぼくたちは毎晩十五分だけ人間の姿に戻れるのだけれど、それが過ぎればまた白鳥に変わってしまう。この魔法を解くには、誰かがハコベの花を集めて、ぼくたちのための六枚の肌着を縫わなければならない、そしてそれをなすための六年間は、話すことも笑うことも許されない――十五分が過ぎると、六羽の白鳥はまた窓から飛んでいってしまった。姫はどんなことがあっても、命をかけて兄たちを救おうと決心した。
以来姫は森の奥深く、一本の木の上にのぼって、そこでハコベの肌着を縫い続けていた。長い時間が過ぎて、ある日猟師たちが姫を見つけた。姫はこの国の王様のところへ連れていかれた。美しい姫にこの国の王様は惹かれた。いくら話しかけても姫は一言も話さなかったが、王様は姫との結婚を決めた。
王様には意地悪い母親がいて、姫のことをよく思っていなかった。三人の子供を産んだ姫が話せないのを幸いに、姑は生まれたばかりの子らを三度さらって、子供がいなくなったのは姫のせいだと王様に訴えた。まったく真に受けなかった王様も、さすがに三度目となれば裁判にかけるほかなく、姫は火あぶりの刑に処されることが決定した。
刑執行の日、それはあの日からちょうど六年目の日でもあった。姫は刑場に引き出された。姫がしっかりと抱きしめていた六枚の肌着のうち、六枚目の肌着は左の片袖が足りなかった。薪に火がつけられようとしたそのとき、突如六羽の白鳥が舞い降りてきた。妃が肌着を投げかけると、それに触れた瞬間、六羽の白鳥は立派な王子へと姿を変えた。ただ六番目の王子だけは左腕がなく、代わりに白鳥の翼を肩に生やしていた。それでも兄妹は抱き合って喜んだ。
これでもう話せるようになった姫は、王様にすべての事情を打ち明けた。意地悪い姑の罪もこれで明らかとなった。姑は姫の代わりにその場で火あぶりの柱に縛られることとなった。それから王様と姫と、それに六人の王子たちは、長く仲よく、幸せに暮らしたという。
狐人的読書感想
グリム童話といえばやはりどこかで、なんらかの機会に聞きかじったことのある物語が多いのですが(実写映画かディズニーアニメか?)、この『六羽の白鳥』は読んでみてもまったく覚えがありませんでした(みなさんはどうでしょうか?)。
狐人的には、物語のヒロインともいえる七人兄妹の末の姫が魅力的で、なかなか楽しめました。魔女とか魔法とか不思議な糸玉とか肌着だとか、ファンタジックなものがたくさん出てくるとそれだけでワクワクするのですよねえ(「不思議な糸玉」とかドラクエなどRPGのアイテムとして出てきてもおかしくなさそうですよね)。
ツッコミどころが非常に多いのが、グリム童話のひとつの特徴だと僕は思っているのですが(まあ、童話に真剣なツッコミを入れるのも大人げないなあ、というか、違うような気がしますが)、純粋に疑問を持って、あれこれと考えてみるのも情操教育や読解力を養うべく観点から、重要なことではないでしょうか?(後述することへのただの言い訳なのですが……)
なので今回は、それら疑問に思ったことをいくつか綴っておきたいと思います。
完全懲悪ではない勧善懲悪
あくどい姑が最後火あぶりの刑にかけられてしまうという――グリム童話ではもはやおなじみの残酷な結末ですが、しかしじつは諸悪の根源たる、姫の継母にあたる魔女の娘は何の罰も受けていいないんですよねえ……。
たしか『ラプンツェル』でも、ゴテル婆さんは何の罰も受けていませんでした。グリム童話が時代背景を反映しているというのはたしかにいえることだと思うのですが、だからこそなのでしょうか? この点は現代にも、現代だからこそ通じるところのように思ってしまいます。
世の中には人間を超越した運命的なような何かがあって、『六羽の白鳥』の魔女の娘も『ラプンツェル』のゴテル婆さんも、それを象徴している存在のように感じてしまいます。グリム童話では人(魔女)の姿でそれが描かれることが多いように思いますが、人智の及ばない運命的な災いをもたらすというあたり、自然災害なども彷彿とさせられてしまうのですよねえ……。運命というテーマからは、中島敦さんの作品(『牛人』や『盈虚』など)もイメージさせられてしまいます。
あるいは現実には完全な勧善懲悪など存在しないということも示唆されているのかもしれませんよね。ひとにあくどいと思われるようなことをして富や名声や地位を築いたひとが、必ずしも(だからこそ)罰せられるとはかぎらないし、そんなことをいってしまったら、客観的に悪いことをしない人間なんかひとりもいないわけで、やはり「善悪」の概念は人間が生み出したものに過ぎず、強いものが正義弱いものは悪、または多数派が正義で少数派が悪というのが一般的な善悪の定義のような気がして、結局正しい善悪など存在しないという結論に達してしまい、では完全な勧善懲悪も存在しないということになってしまうのですが、だからこそひとは物語の中に憧憬を抱いてそれを求めるのかなあ――といった何がいいたいのかわからない、まとまりのない文章になってしまいましたが。
ひょっとして「憎まれっ子世にはばかる」の一言で片付けられるのかなあ、という気もしましたが、これも完全な勧善懲悪など存在しないという、世の真理のひとつを表している言葉のように思えます(最近読んだ小説だと泉鏡花さんの『二た面』、または東野圭吾さんの『白夜行』、『幻夜』もそんな印象が残っているのですが、どうでしたっけ?)。
王子ではなくて姫が残された理由
七人の兄妹のうち、やはり女の子がひとりだけ残されたところにも理由がありそうですよね。調べてみると、この童話が蒐集されたその時代その土地では、男性は徴兵されてしまうがために、娘が相続人として指名されることも多く、そんな時代背景が反映されているのだそうです。
そのため、父親は娘の行動や結婚にはかなり強く干渉していたらしく、姫が兄たちを探すために離城に一晩残りたいと、そんな父親に対する反発を示唆しているメタファーという見方もできるようで、これはなかなかに興味深い見解でした。
また、このことは一般的な末子相続の風習を表している、とする民俗学者の方もいらっしゃるようですね。現在の日本においては、やはり長子相続のイメージが強いような気もするのですが、日本神話にはかなり末子相続が見られるそうで、地方では江戸時代から昭和初期までは、長男次男は江戸に奉公に行かなければならなかったために、末子相続の傾向があったそうです。相撲部屋では現在でも末子相続が行われている例があるのだとか。
おもしろいなあ、と感じた分析でした。
読書感想まとめ
グリム童話は些細な疑問をけっこう本気で調べてみるとおもしろい。
狐人的読書メモ
その他、些細な疑問――兄妹の父親である王様と魔女の娘(妃)がどうなったのかは気になるところ。自分の母親を処刑した王様に葛藤はなかっただろうか?(ユングなどの心理学的に分析してみたらおもしろいかもしれない)。片腕だけ白鳥の翼のままになってしまった六番目の王子がどうなったのかという素朴な疑問。
・『六羽の白鳥/グリム童話』の概要
KHM 49。『七羽のからす』、『十二羽のマガモ』、『ユーディアと七人の兄弟』、『野の白鳥』、『十二人兄弟』、『鵞鳥白鳥』などとにかく類話が多い。
以上、『六羽の白鳥/グリム童話』の狐人的な読書メモと感想でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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コメント
私は1951年生まれの人間ですが、こどもの頃、テレビシリーズで「実写版」の「6羽の白鳥」を見た記憶があります。アメリカで作られたものだとおもいますが、画像がビデオだったので、今では残っていないのかもしれません。
末娘の王女が、火あぶりのため処刑場につれだされても、わきめも振らず必死に肌着を編み続ける姿に、ハラハラ・ドキドキしたのをおぼえています。
日本のアニメ版も見ましたが、やはり当時のアメリカの実写版のほうが何倍も素晴らしかった
いまはyoutubeの時代なので、そういった古いテレビ番組が見られないかなと、探していますが、私のリサーチでは無理なようです。
コメントありがとうございます。子どもの頃の記憶を大事にされていて素敵です。
興味を持ったので、少し調べてみました。昔アメリカのNBCで放映されていた『Shirley Temple’s Storybook (1958–1961)』の「Season 1 Episode 11 The Wild Swans」(1958年9月12日)かな? って思いました(違うかもですが)
(The Wild Swans―野の白鳥―は『白鳥の王子』とも呼ばれるアンデルセン童話の一つでグリム童話『六羽の白鳥』の類話のようです)
タイトルで検索するといくつか目ぼしい情報が出てきました。そのうち海外の動画配信サービスかと思しきものに見られそうなのがあったのですが、少なくともまずアカウント登録が必要みたいで、そこで断念しました(私感ではサイト自体に怪しいところはないのですが、海外サイトはちょっと敷居が高いです)